原稿62.
ガラス扉の中は広めのエントランスホールになっている。古びた外見の割には、美しい大理石の床が光っていた。コンシェルジュ用のカウンターには、小さな銀色のベルが置かれている。どうやら、昼間はコンシェルジュが在中する程度には、高級な部類のアパルトマンなのだろう。
「前の部屋は追い出されたんだ。ちょっと煩い客があったもんでな」
周囲をキョロキョロと無遠慮に見回すジョルノへと、言い訳じみた言葉が降ってきた。そう言えば、少し前に麻薬の売人から自宅への襲撃があったと聞いたような気がした。
エントランスを突っ切ると、男は正面にあるエレベーターで五階のボタンを押した。クラッシックな木のエレベーターは、古めかしさの割には小さな作動音でゆっくりと上がっていった。
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