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    wtiaiiaio

    @wtiaiiaio

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    ワールドトリガーの作品置場です。完成したものはpixivにも掲載します。
    ワの幽白パロは7月中に完成させたいです。

    閲覧、絵文字等々ありがとうございます。とても励みになります。
    忙しかったり忙しくなかったりするので浮上したりしなかったりしますが元気です。花粉にめげず頑張りましょう~よろしくお願いします~。

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    購買の話その5。後輩をこき使ってるとうわさされる水上、誘導尋問する王子、誘導尋問される水上。水上の過去・漆間の扱いなど捏造多数。ちょっとしんみり。水上敏志を芸人だと思い込んでる人間が書いている。【25巻までの情報で書いています】
    よろしくお願いします~。

    ##小説
    #水上、王子

    六月のパン食い競争 その5自業自得図書室にて自業自得 なんというか、これはさすがに、ばちが当たったのかもしれない──。

     水上にとって神様といえば、幼き頃はプレゼントをねだる口実だった。あるいは八百万やおよろずの神。そこら中ありとあらゆる所にいるけれど、決してその姿は見えない、おとぎ話的存在。最近では、「腹痛の時の一時的なり所」ぐらいの認識であった。そんな彼がばち当たりなどと考えているのだから異常事態だ。
     隠岐におつかいを頼んで早1週間。水上が廊下を歩いていると、どこからともなく視線が刺さる。最初は気のせいかと思ったが、今しがた聞こえてしまったのだ。

    「水上くんって、後輩パシってるらしいよ……」

     つまるところ、後輩の影響力を甘くみていた。口ではああ言ったものの、

    「第一高校のみんな~、おれいま水上先輩にパシられてま~す」

     なんて、隠岐が言うわけがなかった。ただ途中で会った王子や北添に、「水上先輩におつかい頼まれましてん」と逐一説明しただけだ。体育終わりの彼がたまったま汗だくでなんとなく息も荒かったために、その様子を目撃した一般生徒が「隠岐くんかわいそう」と勘違いするのも無理はなかった。ボーダー・関西弁・人当たりがいい・おでん好き──4拍子そろった隠岐は、学内では有名人だった。

     隠岐より早くおつかい業を始めた南沢も、購買や廊下で顔見知りに出くわすたびに「水上先輩に頼まれたんだ!!」と大声で宣伝してまわっていた。

     水上は2人に先払いで多めの金を渡していた。だが事情を知らない者からすれば、パンを受けとるだけ受けとって金を渡さないヤバいやつと映る。後輩のボケに軽く頭をはたいた。これも、うわさの上では暴力をふるったことになっていた。「後輩におごらせている」「手を出している」などというあらぬうわさは、その内容のキャッチーさから、またたく間に校内に広まっていったのだった。

     さらにツイていないことには、先ほど影浦を怒らせてしまった。いつものように春巻きパンへの愛を語っていると、「これでも食っとけ」と弁当の春巻きを差し出された。水上は力説した。春巻きパンと春巻きは全然違う、それはメロンパンとメロンを比べるようなもので、全くの別物なのだと。しあげに、「も~、分かってねーなあカゲ☆」とウインクしながら仁礼のモノマネを披露した。教室をつまみ出された。
     そんなわけで、100%自業自得のうわさ話を背に浴びながら、水上はとぼとぼと廊下を歩いている。

    「うーん。結構自信あったんやけど……そんなに似てへんかった?」

     1人反省会の末、ポーズが悪かったのかもしれないと思い至る。ほおに裏ピースをそえたり、両こぶしをかわいくアゴにあててみたりした。ああでもないこうでもないとダメだししては、次々と仁礼っぽいポーズをとっていく。芸の道は一日にして成らず、水上は復習の鬼なのだ。
     問題はこれが公衆の面前で──階段のおどり場に座りこんで行われているということだ。異様な光景を目撃した者はみな「見てはいけないものを見てしまった……」と青ざめるが、当人はこれっぽっちも気づかない。その時、勇者が現れた。

    「楽しそうだね、みずかみんぐ」

     こんな呼び方をするやつは世界に1人しかいない。顔を上げれば王子が立っていた。影浦を怒らせたと正直に打ち明けたところ大笑いされた。「行く場所がないならおいでよ」と誘われるままに、ブロッコリーは図書室へと出荷されたのであった。


    図書室にて「みずかみんぐ、本を借りる予定はあるかい?」
    「いや、今日はええわ」
    「じゃあ明かりは1つでいいね」

     パチッ。王子が入ってすぐの所にある照明スイッチを押せば、入り口と受付テーブルをつなぐ通路が照らされた。
     スイッチ脇の壁にはA4ポスターが張られている。蛍光イエローのギザギザしたフキダシが、紙面いっぱいに広がっており印象的だ。中央には1円玉サイズの文字が密集し、『節電しよう!』とひかえめに訴えている。パソコン初心者が作ったと思われるそのアンバランスさに、水上はこっそりほほえんだ。

    「昼休みなのに誰もおらんのやな」

     開けたばかりの図書室に人がいないのは、当然といえば当然だ。だが、どの学校にも熱心な読書家はいるもので。委員よりさきに到着して開室を待つ常連たちのすがたが、本校でもよく見られる。もっともそれは、通常時であればの話だが──。

    「最近はもっぱら開店休業さ。みんな委員会活動でいそがしいみたいだ」
    「あー……5月はいろいろあったからなあ」

     水上は無言で大机からイスを拝借し、受付カウンターの前に移動させた。王子もまた無言でカーテンを開ける。図書室は完全な静寂につつまれた。2人はいま、同じ人物を思い浮かべている。

     鳩原未来。彼女が隊務規定違反でボーダーをクビになったと知ったのは、先月上旬のことだ。彼女はそんなことをする人ではないだとか、遠征メンバーから外されショックを受けたのだろうとか、そういう諸々の感情や推測をぬきにしても不可思議な点がある。
     彼女が"転校"した直後、全隊員を対象にさりげない聞きとり調査が行われたのだ。彼女は違反者とはいえすでに組織を辞めた人間だ。過去の素行調査をいまさら行う必要があるのだろうか。時折、校内で風間・二宮・忍田らのすがたも目撃された。加えて二宮隊のB級降格、一定期間の活動自粛もあった。
     学校でも目に見えて変化があった。5月中の教師陣のそわそわした様子、どことなく疲弊した顔は記憶に新しい。さらには、放課後おこなわれるはずだった委員会が軒並みつぶれたのだ。表向きは不審者が出たことになっていたが、市のホームページをさかのぼってもそれらしい情報は見当たらない。彼女の件と無関係には思えなかった。
     単なる違反以上の何かがあるのではないか──これが、彼女を知る隊員たちの共通認識であった。同時に本件の異常性をかんがみて、むやみに詮索しないという不文律もまた、存在しているのだった。

     学校行事の穴埋めは異例のかたちで行われた。6月いっぱい昼休みを延長し、5月分の委員会を開催しようというのだ。通常ありえない措置だがあいにく本校はボーダー提携校。対応力が尋常ではなく、時間割をいじるくらいはなんてことないのだった。
     王子は空っぽのブックトラックと壁のあいだを通ってカウンターに入ると、水上のはす向かいにある自席に座った。

    「きみも忙しくしてるんだろ? 来月頭には生徒会選挙がある」
    「よく聞いてくれたわ王子~! め・ちゃ・く・ちゃ・忙しい!!」

     水上は選挙管理委員である。選管の任期は4月から7月と短い。年間通してだらだら招集されるよりは、短期間集中して仕事をした方が楽。そんな軽い気持ちでえらんだのが間違いだった。ふたを開けてみれば、6月に入ってからというもの毎日のように招集されている。おかげで春巻きパンを食べられない日々が続いているのだと、水上はため息をついた。

    「ははあ。それでオッキーやカイくんにパンを買うよう頼んだわけだ」
    「……まあな」

     急な話題の転換に緊張が走る。おつかいの件は、王子に話したことがなかったはずだ。

    「大変だね、昼もゆっくり食べられないとなると。そっかそっか、きみも疲れがたまってたんだね──ぼくにシフトを代わってくれって頼むくらいには」
    「……」
    「ウルティマと何があったんだい?」
    「なんで急に漆間の話になんねん?」
    「質問に質問で返す、か……。『後ろめたいことがあります』って言ってるようなものだと、ぼくは思うね」

     ──だろう? と続けたこの男には、どうあがいても敵わない。

    「前回、前々回と防衛任務のシフトを変わっただろう? その前は"例の指揮"を変わってくれって頼まれた。3日間の共通点といえば、ウルティマも参加してたってことなんだよね。だから、彼と何かあったのかなって」

     漆間隊は1人部隊のため、任務では他のチームが指揮をとることも多い。とはいえ、協調性にとぼしい彼が指示に従うことは滅多にないのだが。
     漆間がB級に昇格してからというもの、"誰が指揮をとるか問題"は常に忍田をなやませた。本人の実力がそれなりにあるため、B級下位と組ませると毎回けんかになる。諏訪は意外と協調性を重視しているし、柿崎・来馬・東・那須らに頼むのははばかられる。弓場や香取にまかせた場合、失うものが大きすぎる。荒船はいつの間にかスナイパーに転向し、特殊部隊だからと一抜けした。A級はもとより漆間を引き受けたがらない。
     最終的に残ったのが、個人的に漆間を面白がっている王子、ネイバー殲滅せんめつ第一で多少の問題には目をつむるスタンスの三輪、戦闘中のアドリブに強い水上の3人だった。防衛任務の際は、おもに彼らの間で漆間の押しつけ合いが行われている。

     とはいえ、水上は任務を休んだわけではない。特別編成チームで漆間と顔をあわせたくなくて、本来王子が入る予定だった日と交換してもらっただけだ。漆間の指揮を"ゆずった"際も、きちんと任務には参加している。だが不調でもないのに3連続で交代というのはなかなかイレギュラーな出来事で、王子に不審を抱かせるには十分だった。

    「まあ確証はなかったけどね。カマをかけたらきみがボロを出してくれたから」

     そのいたずらっぽい目からは、逃さないという意思が伝わってくる。
     ああ、降参降参。本物の探偵がここにおったか──水上は腹をくくった。



    「っ……ふ、ふふ……」
    「王子、笑うんならちゃんと笑ってくれたほうがマシや」

     金的事件が大層ツボにハマったらしい。水上に許しを得た王子は、せきを切ったように笑い出した。「くふふ」だの「あはは」だの、体を大きくひねりながらこまめに笑い方を変えていく。
     黒歴史を白状させられ、あげくのはてには大笑い。自然、水上の中に面白くない気持ちがめばえた。だが自分が逆の立場だったらやはり大笑いしたに違いなく、今日のところは、目の前の図書委員が落ちつくのを静かに見守ることにする。

    「ハア……笑った笑った」

     ここが飲食禁止で良かったよとつぶやき、王子は目尻をぬぐう。ぬれた指先をハンカチで抑えると、にわかにハッとした表情を浮かべ、ゆっくりと顔を上げた。

    「きみ、午後の天気はどう思う? 今朝の予報だと14時から雨だったけど」
    「スマホで調べた方が正確やでー」
    「放課後はずせない用事があるんだ。頼むよ、水上博士」

     数百グラムの折りたたみ傘とて、小学生的には重たい荷物だ。梅雨時も可能なかぎり身軽でいたい、そんな思いが10年前の水上少年を天気の研究に没頭にさせた。
     毎朝予報を確認しては、メディアごと・サイトごとの的中率をわりだす。テレビのお天気コーナーや新聞のコラムをながめては、知識を吸収する日々をおくった。といっても、ツバメの飛び方やアリの活動具合で雨が予測できるだとか、低い雲は雨の前兆だとか、その程度のことだが。じきに雨の匂いもわかるようになった。
     人よりほんのちょっとアナログ予報が得意なだけ。水上自身そう認識していたが、その"ほんのちょっと"が三門の友人らには刺さるらしい。ことあるごとに予報をせがまれ、ついには博士などという立派な称号もたまわった。まんざらではなかった。

    「しゃーないな」

     高くつくで~とのたまいながら、水上は窓際へ向かう。雨の兆候をしめす雲は出ていないし、空色もまあ、くもってはいるが降らなさそうだ。窓から顔をだし地面を観察してみても、アリの群れは確認できない。知識がどうとかでなくもはや勘だが、今日の予報はハズレだろうと思った。

    「まあ降らないんちゃう? 知らんけど」
    「きみがそう言うってことは安心だね」

     思った以上に買われているらしい。日ごろ効率を重視しがちな水上だが、こうしてお天気占いに興じるのもわるくはない──そう、心から思う。

     顔を上げると中庭に見知った顔ぶれがいた。同級生のオペ4人組だ。国近はいち早く水上の存在を確認すると、前をあるく加賀美の肩をつついた。加賀美はふり返るなり、両手をLの字に変形させツインスナイプをかましてきた。水上はすかさずしゃがみ込み、窓際の小さな本棚に身をかくす。そうっと頭を出して外の様子をうかがえば、加賀美の意識はもうこちらに向いていないらしい。ネイバー……ではなく大型怪獣を演じる国近と交戦中だった。一連のやり取りをみた今と人見が、顔を見合わせ笑った。去り際に手をふってきた4人に、水上も手をふり返す。

     彼女らの進行方向にはピロティがあり、通路わきの真っ赤な自動販売機が存在感をはなっている。側面には嵐山隊のスナイパーがでかでかとプリントされており、こちらに向かってウインクをしている。なんともいえない気持ちになったが、いまはそんなことはどうでもいい。そのかたわらに、地べたもお構いなしにあぐらをかく小柄な男を発見した。やはりというかなんというか、漆間だった。イヤホンをつけ、何やら紙とにらめっこするその様を見つめていると、にわかに遠くで声がする。

     ──学校の子たちとも仲ようせなあかんで、敏志。

     その声をきっかけに、水上の中を記憶の切れ端がかけめぐる。
     将棋に熱中したこと、将棋以外に興味がわかなかったこと。同級生がわずらわしかったこと、彼らと距離をとっていたこと。学校の帰り道うつくしい夕焼けを見たこと、将棋仲間にその光景を説明しようとしたこと。時間が立ち過ぎてうまく伝えられなかったこと、話した後にそれでという顔をされたこと。自分の将来を案じた兄が、叱ってくれたこと──。
     昔のことで細かくは思い出せない。歯がゆく感じる一方で、思い出せないままでいいという気持ちがたしかに存在している。10秒にも満たない思い出のかけらたちが、水上から一切の動きを奪った。


    「……みずかみんぐ?」

     素っ頓狂なあだ名が水上を現実に引き戻す。

    「ああ、わるいわるい。……なんの話やったっけ?」
    「シフトを代わったお礼に、きみがごちそうしてくれるって話さ」
    「絶対ちゃうやろ」

     とはいえ、借りはどこかで返さねばなるまい。こうして水上は、まんまとおごらされるハメになったのであった。

     ──はずせない用事って、このことかい!
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