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    @wtiaiiaio

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    ワールドトリガーの作品置場です。完成したものはpixivにも掲載します。
    ワの幽白パロは7月中に完成させたいです。

    閲覧、絵文字等々ありがとうございます。とても励みになります。
    忙しかったり忙しくなかったりするので浮上したりしなかったりしますが元気です。花粉にめげず頑張りましょう~よろしくお願いします~。

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    購買の話その9。 春巻きパンを取ったどーする水上、購買店員が語るカゲ、購買で掛け合い漫才する天羽&海。【がっつりモブ店員視点の章あり。店員からみたカゲの性格・購買の歴史など】

    ※『影浦くんの友達』と『とつげき!一高購買部』は読み飛ばしても大丈夫な作りになっています。

    次回は漆間さんと水上がいっぱいしゃべります。よろしくお願いします~。

    ##小説
    #水上、王子、ポカリ、海、天羽、モブ店員、カゲ

    六月のパン食い競争 その9棚から春巻き(影浦くんの友達)(とつげき!一高購買部)棚から春巻き なじみの購買、にぎわう生徒たち、窓からのぞく見なれた裏庭──いつもと同じ昼休み、なんてことない日だと思っていた。いま、この瞬間までは。

     水上は購買陳列棚の前で立ち尽くしていた。上から2段目の一番右端のプレートには、丸っこい文字で「春巻きパン」と書いてある。いつもと変わらぬ風景だ。ただ一つ違うのは、ここ1カ月間欲してやまなかった物が、目の前にあるということだ。黄金色に光り輝くそれが、5つも、ある。そもそも春巻きパンは、ふだん2つしか在庫を置いていないのである。それがどういうわけだか5つもあるではないか。

    (まままま、まさか、分、身……!? ──んなわけないやろ)

     突拍子がないわりに弱すぎるボケに、セルフツッコミをする。一人漫才をすることで平常心を保とうとしているのだ。水上とて18歳、まだまだ青い高校生である。突然ふってわいた幸運を、目の前の現実を、すぐに受け入れることができない。

    「邪魔んなってるぞ、他のやつらの」

     ほおを引っ張る水上を呼び戻したのは、荒船隊のスナイパーだった。

    「あって良かったな、春巻きパン。買うんだろ?」
    「……せやな」

     店員の説明によれば、パンの在庫を増やしてほしいという声が、先週立て続けによせられたのだという。
     そう、いつだって店を動かすのは消費者の熱意なのだ。ただ一言、うまいからもっと置いてくれと頼めばよかったのだ。思えば、同期に食レポを披露したことは多々あれど、店の人間に自らの情熱を伝えたことは一度もなかった。なぜこんな簡単なことに気づかなかったのかと、水上は少々後悔する。
     それにしても、いったい誰が春巻きパンの追加を頼んだのか。購買はあいにく盛況で、ゆっくりと話を聞く時間はなさそうだった。



     3年B組の前を通ると、教室から王子に声をかけられた。こちらまでやってきた彼の手には、見覚えのあるクロワッサンが握られている。

    「王子、それ……」
    「ああこれ? この前ひさしぶりに食べたら恋しくなっちゃって。弁当はおかずだけにしてもらって、主食は購買で買うことにしたんだ」
    「はあ」

     間の抜けた声を出す友人の手元を見やり、王子もまた春巻きパンの存在に気づく。

    「みずかみんぐもお目当てのものが買えたんだね。よかったよかった」
    「急に増えてたぞ、数が」
    「へえ、そうなんだ」

     穂刈にほほえんでみせた王子に、水上は問う。

    「へえって、王子が頼んでくれたんとちゃうん? 春巻きパン増やしてくれーって」
    「いや? ぼくが置くように頼んだのはクロワッサンだけだよ」

     悪びれもせずに手元の好物を見やる王子に、そうだコイツはこういうやつだった、と水上は思う。

    「そういやおまえ、帰る直前になって急に店もどってオッチャンとなんかしゃべってたもんなあ。あん時に頼んだっちゅーわけか。へええ~。ふうう~ん。ほおお~」

    「まあ、たしかにあの時、春巻きパンを増やすよう頼むっていう選択肢もぼくの中にはあったよ。それは認める。……でも、本当に欲しいものは自分の力で手に入れたいって、ぼくは思うから」

     きみもそうなのかなって。いつもの表情で返され、水上は毒気を抜かれる。
     水上にとって春巻きパンとは、本音をいえばどんな手を使ってでも──すなわち、後輩におつかいを頼んだり漆間を牽制けんせいしてでも食べたい物であって、王子の言葉は正直的外れだった。しかし一切の企みなく、「友人のためを思って自分の欲しい物だけ頼みました宣言」をされてしまっては、もう何も言うことはなかった。


    (影浦くんの友達) 三門市立第一高等学校の購買部は、三門市と蓮乃辺市の境にあるパン屋『ベーカリーはすのべ』によって運営されている。店主が本店、その一人娘が購買で、それぞれ店番をになっていた。
     11時30分、娘は驚いていた。なにせ先週、4人もの生徒から春巻きパンの在庫を増やすよう求められたのだ。購買を始めて数年たつが、こんなことは初めてだった。換気のために開け放った窓からは、第一高校の裏庭が見える。まだ授業中で無人のそこを眺めながら娘は思う。いや、正確には5人だったか──。


     先週末、購買の後片付けをしているところに影浦くんがやってきたのだ。

     ──たまにしか来れなくてわりいな。親が弁当持ってけってうるせーからよ、あんまし購買に寄れねーんだ。

     必要もないのにそうわびるのは、彼の昔からのくせだった。影浦くんと出会ったのは、初めて三門市の商工会に参加した時だった。以来、商店街の集まりや『かげうら』で何度も顔を合わせている。もちろん、彼が『はすのべ』にやってきてくれることもあった。

     人混みが苦手らしい彼は『はすのべ』が空いている時間帯にフラッと現れて、会計時に決まって無沙汰をわびてくる。「放課後遊ぶときは店に顔を出してからにしろ」と親父が口うるさいから一度家に戻るのだが、そうすると外出する気がなくなるだとか。明らかに人手が足りているのにやたら店番をさせられるだとか。家族へのちょっとした不満と愛情が混ざったせりふで、たまにしかパンを買いに来れない理由を説明してくれるのだ。
     それは実家でまれる中で、自然と身についた処世術なのだろう。毎度毎度スルスルとわび文句をつむぐその姿は、いたって自然で達者だった。良く言えばサラリーマンみたいで大人っぽく、悪く言えばちょっぴりおじさんくさい。
     けれど本当の影浦くんは、脱いだ学ランを肩にかけ、空いた手でスマホ決済を使いこなす新世代の若者で、そのギャップを内心ほほえましく思っていたのはここだけの話だ。
     いつの間にか詫びの枕詞が「放課後はいろいろと忙しくてよ」に変わったけれど、まあ高校生なのだ、文字どおりいろいろと忙しいのだろう。



     どうやら影浦くんには春巻きパン好きの友達がいるらしい。近頃はパンが売り切れ続きで、ひどくやかましいのだとぼやいていた。いかにも迷惑そうな雰囲気をかもし出してはいたが、他の4人と同じく、本音では春巻きパンを増やしてほしかったのかもしれない。あけっぴろげな彼にしては珍しく、じかに要望を伝えてくることはなかったけれど。
     個人経営のパン屋でパンの在庫を、それも数個だけ増やすというのは言うほど簡単なことではないのだ。数が増えれば材料費や梱包代がかさむし、作る手間も当然かかる。作ったぶんだけ売れればハッピーエンドだけれど、世の中そううまくはいかない。購買はその性質上、パンが余るリスクも高い。生徒の中にはその日の気分でコンビニ派だったり購買派だったりとコロコロ派閥を変える子がおり、パンの需要を読みきれないことも多いのだ。日々家業を手伝う影浦くんはその辺を理解しているからこそ、春巻きパンについて自分の意思を表明しなかったのだと思う。

     実のところ、春巻きパンは私の発案で作った商品だった。うちの商品の中では値が張るほうで、当初は売れ残ることも多かった。パンを包む皮が割れないよう、おそるおそる梱包作業を進める私に「店でだけ売るようにしたらどうだ」と父が提案してきたこともあった。
     でも私はゆずらなかった。ほぼ毎日、春巻きパンを買うお客さまがいたからだ。たった1人のためだけにと言えば大げさだけど、そういう熱烈なお客さまを大事にすることが商売の真髄しんずいなんじゃないかな。私の反論を聞いた父は、無言で春巻きパンを番重ばんじゅうに──パンを運ぶためのコンテナに詰め始めた。

     そんなわけで、週の半分は1個残りの春巻きパンを昼のおともにして、あなたの良さがわかってくれる人がまた現れるといいねなんて思いながら、パンを売り続けていた。
     そんな折、急に春巻きパンの売れ行きが良くなった。最初のうちは、小柄な男の子がよく買ってってくれてるなあ……なんて思っていたけれど、最近では毎回違う子が買っていく。驚くことに、開店して真っ先に売り切れることも多いのだ。そして先週、ついに在庫を増やしてほしいというリクエストを複数受けた。本当に急に、人気のパンになってしまったのだ。感激したといっても過言ではないくらい、うれしかった。

     6月はじめの"例の事件"以来、あのオレンジ髪の子がずっと気になっていた。春巻きパンについた最初のファンで、売り切れと分かるやいなや、明らかにガッカリした様子を見せる彼のことが。これだけパンを置けば、ゆっくり来店することの多いあの子にもきっとパンが届くはず。また彼の笑顔が見られるといいな。

     ……うん? もしかして、影浦くんの友達ってあの子のことかな?

     そんなことを考えていると、本日最初のお客さまがやってきた。1人は金髪で明るげな男の子、もう1人は落ち着いた雰囲気の、逆毛で小柄な男の子だ──。


    (とつげき!一高購買部) 己の背中をぐいぐい押しこむ級友に、天羽は苦言をていした。

    「南沢、人の話聞いてる……? オレいまから帰るとこなんだけど」
    「そーなの? 天羽きょう防衛任務だったっけ?」
    「違うけど」
    「じゃあなんで帰んの? まだ授業のこってんじゃん!」

     とは言うものの、南沢の心は完全に目の前のパンに奪われてるらしい。こちらの返事も待たずにショーケースの前を行ったりきたりしている。

    「そんでー? なんで天羽は帰るんだっけ?」

     陳列棚にクギづけのまま問いかけてきた南沢に、この話まだ続いてたんだ……と思いつつ、正直に答えてやる。

    「普通にサボりたいから帰るんだよ。そういう南沢だってなんでここにいるの。まだ授業中」
    「え~。だって自習んなっちゃったし、教室いてもいなくても変わんないっしょ!」

     くしくも全く同じ理由でサボる決意をした天羽と、購買にかけつけた南沢である。南沢はふいに立ち止まると、

    「あれ? 春巻きパンだって。こんなの置いてたっけー?」

     その上半身は大きく横にかたむいており、全身でクエスチョンマークを表しているかのようだ。南沢の背を見つめながら天羽は思う。彼が以前、おつかいがどうだとか早く買わなきゃだとか騒いでたのは、このパンのことではなかったか、と。

     南沢の毎日は"楽しい"で満ちあふれている。きょうは文化祭でバンドを組もうと誘われテンションが爆上がりだし、週末にはオキニのアーティストの新曲発売もひかえている。個人ランク戦の勝率も上々で、先日ついにマスターランクの称号を手に入れたばかりだ。順風満帆、向かうとこ敵なし状態なのである。
     そんなわけで、2週間前におつかいを頼まれたけれど一度もお目にかかれなかったパンの名前なんて、すっかり記憶の彼方にベイルアウトしていたのだった。

    「このパンとっても人気でね。最近数を増やしたばかりなの」

     店員は、ずらっと並ぶ春巻きパンを愛おしげに見つめながら語り始めた。
     小柄な長髪、関西弁の泣きボクロ、背筋がシャンとした侍のような男の子。そして、上にも横にも大きい頼りがいがありそうな優しげな男の子。春巻きパンを増やすよう求めてきた者たちの特徴を聞き、天羽は全員がボーダー隊員であると気づいた。
     自隊の先輩が春巻きパンの増産に貢献したことに、南沢はサッパリ気づいていないらしい。独り言なんだか店員への問いかけなのかわからない声量で、「へえ~、そんなに人気なんだあ。どんな味なんだろ!?」と口にした。
     元気はつらつな若者に、店員は丁寧に春巻きパンのプレゼンをしてみせた。南沢は「へえ~」「ふ~ん」「ほお~」と相づちをうちながらも、瞳をキラッキラに輝かせて話に聞き入った。ひとしきり説明を聞き終えた彼は、胸の前で腕をくみたっぷり10秒考えると、力強くうなずいた。


    「よっし決めた! 青椒肉絲チンジャオロースパンくださいっ」

    ((──なんでだよ!?))

     天羽と店員は顔を見合わせ確信した。自分たちはいま、同じ想いを抱いているに違いない。

    「南沢、いま完全に春巻きパン買う流れだったと思うんだけど……」
    「えっ、そうなの!? だっておれピーマンの肉詰め好きだから! このパンめちゃくちゃおいしそーじゃん!!」

     ピーマンの肉詰めと青椒肉絲チンジャオロースをひとくくりにしないでほしい。そう言えるほど、天羽はグルメな男ではなかった。鼻歌まじりにパンを購入する南沢をなんとも言えない表情で見つめながら、「じゃあオレが春巻きパン買います」と天羽。ポケットの中の小銭をかき集めていると、ふいに南沢のどでかい声が耳を直撃する。

    「あっ!!!!!」
    「……何?」
    「おれ歴史の教科書忘れちった! 天羽、貸してくんない!?」
    「同じクラスで貸せるわけないでしょ……オレも教科書使うから」
    「そっかあ、天羽も教科書使うのか~」
    「オレをなんだと思ってるの南沢は」

     なにせ相手は南沢である、自分が座敷わらしだと思われている可能性はゼロではない。自分がヒトであると、仲間であると認識されるためには、もう少しマジメに授業に出た方がいいのかもしれない。改めるつもりもないのに自らの素行不良を顧みていると、南沢の口から仰天発言が飛び出した。

    「じゃあ宇井チャンに教科書借りよっかな!?」
    「だからおんなじクラスだって」

     柿崎隊のオペレーター宇井真登華もまた、2人のクラスメートである。店員がこっそり笑っていることにも気づかず、彼らは購買を後にした。

    「ねね、ブラックトリガーってどんな感じ? どーゆーふうに戦うの!?」
    「ブラックトリガーの情報はあんまりしゃべらないよう言われてるから」
    「そっか~」

     同じクラスになったその日から2万回は繰り返されているであろう会話を今日もして、2人は教室へと向かう。そもそも自分がサボるつもりだったことを天羽が思い出したのは、チャイムとともに教師が入室してきた時だった。
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