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    ワールドトリガーの作品置場です。完成したものはpixivにも掲載します。
    ワの幽白パロは7月中に完成させたいです。

    閲覧、絵文字等々ありがとうございます。とても励みになります。
    忙しかったり忙しくなかったりするので浮上したりしなかったりしますが元気です。花粉にめげず頑張りましょう~よろしくお願いします~。

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    購買の話その6。王子・当真・水上のパン屋紀行。和気あいあいな3人。宿題に取り組む当真に奇跡が起きる──? またまたしんみり。ボーダーと弁当と家族関係・水上の過去などやっぱり捏造多数。王子→当真の呼び方も捏造しています。

    次回は3-Cに謝罪する水上と漆間関係を書く予定です。よろしくお願いします~。

    ##小説
    #水上、王子、当真

    六月のパン食い競争 その6店の名は(当真の宿題できるかな?)謝罪店の名は「獲物がかからないなら、こちらから狩りに行こうじゃないか」

     放課後、王子の発案で購買運営元のパン屋へおもむくことになった。学校で春巻きパンが買えないなら店まで行って買えばいい。そういうことである。
     宿題を教わりたいという当真を昇降口で拾い、自転車をこぐこと20分。飲食店街から続く道を一本曲がった先に、その店はある。
     点在するアイボリーの家々に混じってたたずむ、薄茶色の二階建て。店舗兼住宅と思われるそれは、どちらかといえば一般住宅に似たデザインだ。入り口横には『焼きたて』ののぼり旗が立っており、手前の小さなブラックボードにはパンとコーヒーの絵が描いてある。

     それにしても、商売をするにはいささか主張が乏しいのではないか。要は地味、それが商いの町で育った水上の感想だった。だが、周囲の建物と調和した淡いレンガの壁を見つめていると、昼に見た女性店員のおだやかな笑顔を思い出す。これはこれであの人らしい店やなと、水上は考え直した。
     1階と2階の境界からは浅緑のテント屋根が突き出している。店の名は、『ベーカリーはすのべ』。

    「はすのべ……蓮乃辺ってたしか、三門の隣町やんな?」

     某テーマパークを思わせる店名と立地の不一致に、水上は疑問を投げかけた。脳内の市街図と照らし合わせれば、ここはギリギリ三門に含まれるはずだ。そばにある電柱のプレートを見ても、やはりそこには三門市の名が刻まれている。
     
    「3年前に移転したんだ、蓮乃辺市から」
    「あー、そういうこと……」

     水上は即座に理解した。移転には、おそらく大規模侵攻が関係しているのだろう。しかし三門に越したとはどういうことなのか。この街を離れる者はいても、その逆は珍しい。それこそボーダー関係者でもなければ──考える間もなく当真が口を開く。

    「なるほどな~。カゲんちと同じ移転組ってわけか」
    「だね」

     そういえば、そんな話があったような──。王子の同意を受けて、水上の意識も『お好み焼かげうら』に向かう。『かげうら』は去年の夏に、東三門から現在の場所に移転した。水上が影浦と親しくなったのは同じクラスになった今春からで、当時は夏休みだったこともあり、移転の事実のみを風のうさわで知ったのだ。だから今の今までその事実は水上の中からすっぽり抜け落ちていた。このかん『かげうら』には何度も足を運んでいたが、引っ越しの理由について深く考えたことはなかった。

     名店に歴史あり。三門には、『かげうら』や『はすのべ』のような店が他にもたくさんあるのかもしれない。あるいは、あったのかもしれない。かつて三門にあっただろう老舗の現在いまに、静かに思いをめぐらせた。



     木目調のガラス扉を開けると、ドアベルの涼しい音色が3人を迎えいれた。古今東西、パン屋というのはどこも同じ香りがすると水上は思う。ここも例外ではなく、店いっぱいに広がるあまい小麦の誘惑に心がはずむ。淡いクリーム色のトレーや値札の丸っこい文字には見覚えがあって、ここは確かにあの購買と同じ店なのだという実感がわいた。
     店内には学生や親子連れ、スーツ姿の女性らがいた。女性が出て数分もたたないうちに次の客がやってくる。「わりと人気の店」とは王子の評だ。

     残念ながら春巻きパンはここでも売り切れだった。とはいえ、お目当ての品がないからといって何も買わないわけにもいかない。金欠の学生ならいざしらず、日々防衛任務をこなす水上の懐はそれなりに潤っている。季節限定という言葉に惹かれイチジクのパンを買った。会計の際、春巻きパンは「わりと人気のパン」なのだと店主が教えてくれた。それを聞いた水上は、なぜか誇らしげな気持ちになった。

     パンを抱えて外に出ようとする2人を王子が引き止める。カウンター横の扉を開けば、奥にはイートインスペースが広がっていた。

    「お? 店ん中で食べられるなんて珍しいじゃねーの」

     店内で飲食できるパン屋というのは、この辺では駅前のチェーン店くらいしかない。

    「人が集まれる場所をつくりたいらしいんだ。駄菓子屋みたいな店を目指してるって」
    「そういうのええなあ。ちょうど机もあってお勉強もできそうやし……なっ当真?」

     水上に意地のわるい笑みを向けられた当真は、けれど余裕を崩さない。

    「へーへー分かってるって。でもよ、先に腹ごしらえくらいしたっていいだろ? 水上センセー」

     当真はすぐそこのソファーにどかっと腰を下ろし、「ここでいいだろ?」と形式的に問うた。答えなんて聞かなくてもわかる。別に承諾を得る必要もないのだが、こういう些細なやり取りが案外大事だったりするのだ。歓談場所へのこだわりもソファーへの執着も特にない2人は、「相変わらず判断が早いね」「食べれんならどこでも~」と返し、対面にある木製のイスを引いた。



     イチジクパンを半分ほど食べた水上が、にわかに口を開いた。

    「……うまい。生地が噛みごたえある感じやけど、ほどよく甘いからどんどん食べれるわ。多分これイチジクをドライフルーツにしてんねんけど、生で食べた時よりだいぶ酸味が強いわ。大人な味で、背伸びしたい俺らの年頃にはぴったりやな……。たまに大きめに切ったチーズが絡んでくるのもたまらん。これはスーパーのパンコーナーではお目にかかれんやろな……まちのパン屋の強みを感じるわ」

    「なんだなんだ、急~に食レポしだしたぞ」

     突然饒舌じょうぜつに語りだした友人に当真は面食らう。影浦の前でレビューを繰り返すうちに、水上はもはや『はすのべ』のパンを食べると感想を言う体になっていた。

    「これは意外な特技だね。みずかみんぐは将来いい営業マンになりそうだ」

     よく分かんねえ状況だが、まっ流しておくか。当真は焼きそばパンにかじりついた。

    「しっかしよ~、パンに焼きそばを挟もうって最初に思ったヤツはすげえよなあ。洋食と中華、でいいのか? 元は別の料理だもんな」
    「お客さんの発案でできたらしいよ。パンと焼きそばをお店で売ってたら、挟んでほしいって頼まれたとか」
    「へえ。なんでも知ってんだな~、王子は」
    「テレビで見た内容を話しただけさ」

     水上の方を見やると、こちらの話を聞きつつも、もくもくとパンを咀嚼そしゃくしている。彼もこの話には聞き覚えがあると見え、そろいもそろって博識なことだと当真は思う。

    「汁気がないから挟むのにちょうどいいんだろうね。青のりが気になるから、ぼくはあんまり食べないけど」
    「切っても切れねえ関係だからな~、焼きそばと青のりってのは」

     ニッと笑った当真の歯には、お約束と言わんばかりに青いものが付いている。肩をふるわせる友人たちをよそに、当真はのんびりと親指の腹で口元をぬぐった。

    「そうか、汁気があっからラーメンパンってのは見かけねえんだなあ……」
    「あ、それ俺も思ったことあるわ。なんで焼きそばパンはあんのに、うどんパンはないんやろって」

     ラーメンは当真の、うどんは水上の好物である。

    「2人とも、"ない"と決めるのは早いかもしれないよ」

     いまは多様性の時代だからねと言い、王子はスマートフォンを取り出した。慣れた手つきで画面を操作すれば、30秒もたたないうちに口端が上がる。

    「ほら、これ」

     画面には、"昔ながらのラーメンをそのまま詰めこみました"といった様子のコッペパンが映し出されている。麺の上にはナルトと刻みネギがちょこんと添えられており、どことなく懐かしい風貌だ。続けて画面をスライドすれば、同じく太めのうどんが丸ごと詰められたパンが確認できる。

    「「マジか」」

     水上と当真はそろって驚きの声を上げる。
     王子はスマートフォンをさらにタップすると声を弾ませた。

    「この辺でもラーメンパンが買えるみたいだ。駅前の三門ストアで期間限定販売だって」
    「ええやん。当真、こんど食べに行って感想聞かせてーや」
    「んー、どうだろなあ……」

     当真はゆっくり伸びをすると、決め顔で答えた。

    「ラーメンはそのまま食うのが一番うめーからな」
    「身も蓋もなっ」

     水上が大げさにイスにもたれかかれば、たまらず王子が吹き出した。



     王子はクロワッサンをちぎってはゆっくりと口に運び、これまたゆっくりと咀嚼そしゃくしている。その仕草を見た水上は、「店だとクロワッサン売ってるんやな」とこぼした。

    「購買には置いてないのかい?」
    「ああ、クロワッサンは売ってへんかった気がするなあ。……てか2人とも昼は弁当やねんな。親と暮らしとるんやから、そらそうか」
    「まあね。ボーダーの給料があるし、昼は買うからって断ったこともあるんだけど」
    「ボーダーのヤツは案外弁当派が多いかもな。家族と顔合わす時間がねーからよ、基本」
    「手作り弁当もコミュニケーションの一環ってところだね」

     当真は残りの焼きそばパンを豪快にほお張ると、包む対象を失ったラップをくしゃりと丸めた。

    「おれもボーダー入ってから割とずっと忙しかったけどよ。最近は特にほら、遠征とか行くだろ? 弁当くらい作らせろって親がな、言うんだよ」
    「ぼくも似たようなものかな。昔いろいろあったから……弁当を作りたいって言うなら、それを受け入れるのも親孝行かなって」

     素直にとらえれば、弁当づくりは息子を支えたいという気持ちの表れだ。一方で、万が一なにかあった時に──別れが不意におとずれた際に、悔いがないよう弁当を持たせている。そう、受け止めることもできるのではないか。なんてことない親心を思い出作りと捉えるなんて邪推だ。そう思いつつも、頭の中には昼休み同様、二宮隊のスナイパーの顔が浮かんでいる。

    「それに親の弁当を食べられるのも、高校までだろうからね」

     王子の言葉に、当真は無言でうなずき同意の意を示す。ボーダー隊員は年齢のわりに大人びた人間が多い。大規模侵攻の被害者もいることから、風のうわさを耳にすることはあれ、込み入ったことは聞かないのが常だった。そんな中はじめて友人らの事情を垣間見、水上も少しばかり故郷に思いをはせてみる。

    「あ」

     それは無意識に発せられたものだった。自身の声に反応した2人とばっちり目があった水上は、「や、なんでもないねん」と不自然に顔をそらす。だがそんなごまかしが通じるわけもなく、

    「水上、その顔はよ~」
    「何かあるって顔だ」

     No.1スナイパーと走れるアタッカーに囲まれては、逃げ場などどこにもない。図書室の時といい、今日は結局あらいざらい白状させられる日なのだ。

    「いやな、俺むかし将棋やっててんけど……休みの日に出かける時、やたら親が弁当持たせたがってたことを、なんや急に思い出して」

     昼くらい好きなモン食いたいわ。土日くらいゆっくりしいや。様々な言葉を駆使しても親の弁当攻撃はやまなかった。いま思えばそれは、王子が言う所の「コミュニケーションの一環」だったのだろう。実際水上は、平日も休日もほとんど家にいることがなかった。

    「愛だな」
    「愛だね」
    「うーわー……ハズかし」

     水上の顔に熱が集まっていく。自分が躊躇ちゅうちょするような言葉だって、彼らはたやすく口にしてしまう。その違いがおかしくて楽しくて、一緒に戦ったりばかやったりしているわけだが、なんともまあ、くすぐったいものだ。
     在学中に親の弁当を食べる機会はもうなさそうだが、こうして仲間とのんびりパンを食べられるだけでも幸せなのかもしれない。柄にもなく、そんなことを思った。


    (当真の宿題できるかな?) 当真勇は後悔していた。ドリンクを買って自席に戻ると、熱心に話し込む友人らの姿。流行はやりの油そばを挟むのはどうだとか、ラーメンパンとうどんパンではどちらの原価が安いだとか。なんとも楽しそうに架空の経営話に花を咲かせている。話の腰をおるのは趣味ではないが、今日の課題には己の留年がかかっているのだ。当真は仕方なしに声を掛けた。

    「お取り込み中わりーな、この英語のプリントなんだけどよ……」
    「次のテスト、ぼくの読みでは過去完了が出ると思うな」
    「か、加古官僚……?」

     高級スーツに身をつつみ、司令の横にひっそりとたたずむ加古の幻がみえる。だがその間違いが正されることはなく、当真が我に返った時、王子は既におしゃべりを再開していた。
     王子からもたらされた情報は、一般生徒からすれば大変ありがたいものなのかもしれない。だがいまの当真に必要なのは、期末テストのヤマ予想ではなく明日提出のプリントの答えなのである。「当真、コレ使い」と水上が電子辞書を放る。

    「できれば答えを教えてくれるとありがてえんだがな~」

     懇願むなしく、2人はいま漆間の話で盛り上がっている。


     「ちょっと」を使う人間には2種類いる。「ちょっと」が文字通りちょっとで済むタイプと、「ちょっと」の長さが気分次第で無限に延長されるタイプだ。水上は後者のようだった。

     ──わるいな当真、ちょっと待っといてや。

     言われてからまだ1分しかたっていないが、2人の話が終わる気配は一向にない。いま思えば、あの男が具体的な数字を出さなかった時点であやしむべきだったのだ。

     「ちょっと」が終わるのを待つ間、当真はペン回しに興じていた。回数はじきに100の大台に突入する。ボーダーのホームページに「特技:ペン回し」と追加してもいいかもしれない──などと、ちょっとばかり現実逃避してみる。
     手元には課題の束。頼みのつなのこんセンセーは、本日は防衛任務だ。だからこうしてパン屋に同行したわけだが、水上の「ちょっと」が済むまであと20分はかかるだろう。

    (あ~……こりゃ水上センセーはアテになんねーな。自分で進めるしかねえか?)

     当真だってできることなら課題なんぞしたくはない。けれども先日教師に言われてしまったのだ。このままだと卒業が危ういぞ、と。
     ボーダーの仕事は公欠扱いされるから出席日数は問題ないにしても、単純に成績が悪すぎる。鳩原の調査で隊員が不足がちだった5月に任務を入れすぎた。これも授業の理解をはばむ一因だった。
     結果、6月に入ってから他の生徒の何倍も厚いプリントを渡されるようになった。これを提出すれば、テストが悪くてもまあなんとかしてくれるらしい。

     ──あんたの成績が悪くたってどうでもいい。今更どうこうしようとも思わないし。けどね、ボーダーの活動に支障をきたすな。

     ──給料もらってる以上、決められた仕事はやりな。学校の事情を持ち込むんじゃないよ。

     エトセトラ、エトセトラ。真木理佐サマから頂戴したお叱りの数々を、反芻はんすうする。今日は夜から防衛任務で、このプリント類の提出は明日。つまりは、いま少しでも進める必要がある。間違っても隊室で宿題を広げるわけにはいかない。当真はシャーペンをノックして芯を出すと、おおよそ750日ぶりに電子辞書を開いた。



     当真勇は現代っ子である。勉強はからっきしでも、キーボードの入力くらいならできるのだ。持ち前の勘の良さもあり、ほぼ初めてあつかう未知の機器を難なく操作していく。ややあって、

    (お? プリント全部うまっちまったぞ)

     英語だって結局は言語なわけで、一語一語ていねいに調べればなんとなく訳せるものなのだ。ひそかに達成感を噛みしめていると、王子から声がかかる。

    「お待たせトーマくん。そろそろ始めようか」

     当真勇の読みは正確だ。電子辞書の時計を見れば、ちょうど20分たっていた。

    「で、英語のプリントからやったっけ?」

     一瞬、2人にこの快挙を伝えようかという思いが頭をかすめた。5秒かけてたっぷり思案した当真は、

    「いや、今日は数学を頼むわ。この公式なんだけどよ……」

     課題はまだ山積みなのだ。へたに自分でやったと言えば、今後助けが見込めなくなる可能性もある。今日の出来事は、自分の胸にだけしまっておくことにしよう。
     当真勇・入学以来初の快挙は、正答率に着目した教師によって暴かれ、明日職員室をざわめかすことになるのだが──それはまた別の話。


    謝罪 本部についた頃にはあたり一面薄暗かった。分厚いひつじ雲のすき間からは、時おり夕焼けの名残がちらついて見える。夜空に変わる瞬間を目の当たりにして水上は思う。雨が降らなくて、良かった。
     先を急ぐ当真の背中を見送り、水上と王子もゆっくり歩きだす。

    「ごめん、みずかみんぐ。春巻きパンが売り切れだって、本当は行く前から分かってたんだ」

     王子の説明によれば、春巻きパンは揚げ物という性質上、味が落ちやすい。数を作らないため午前中に売り切れることも多いのだという。

    「言わなきゃわからんのに、正直な男やなあ」
    「はは。きみにあの店を知ってほしかったんだ、なんとなくね」

     王子は小学生の頃からあの店の常連で、店主とも親しくしているようだ。どうりで店の内情に詳しいわけだと、水上は納得する。
     だが、小学生が通うには蓮之辺は少々遠すぎる気もした。たしか王子の自宅は蓮之辺とは反対方向にあったはずだ。親の送迎という線もあるが、パンを買い与えるために市外のパン屋に、それも週に何度も子どもを連れていけるものだろうか。彼の家は両親ともに多忙だと聞いたことがある。交通費だってばかにならないだろう。

     あるいは、彼の"尖ってた過去"とやらが関係しているのかもしれない。昔いろいろあったからと、王子はあの店でこぼしていた。けれど水上は何も聞かない。王子はしゃべりたいことがあれば勝手にしゃべる男であり、彼が何も言わない以上、余計な詮索は必要ないと思うからだ。

    「……まあ、名リポーターのきみにあの店を紹介できて良かったよ」
    「その言葉、半分うそで半分ホントって感じやな」

     王子は「うん?」と首をかしげた。おそらく前半は照れ隠しだろう。彼が水上の食レポぐせを知ったのは、数時間前のことなのだ。王子は何か言いたげな様子だったが、その何かを言わせてはいけない気がして水上は、

    「や、俺も今日あの店に行けて良かったし。ありがとうな」

     それは本音だった。カラオケ・ゲーセン等々、定番の遊び場は軒並み制覇していたが、地域の店を訪れる機会はあまりなかったのだ。
     『はすのべ』が大規模侵攻を経験してなお、この地に残ってくれたこと。おいしいパンを毎日母校まで売りに来てくれること。いままで当たり前に享受していた購買のシステムが、実は『はすのべ』の厚意から成り立っているのだと知った。当たり前だと思っていたことが当たり前ではなかったのだと、水上は今日知ったのだ。

     王子はまだ何か言いたげな雰囲気をかもし出していたが、適当な話をふってお茶をにごす。気づけば王子隊の作戦室前まで来ていた。

    「そんじゃま、さっそく隊のみんなに宣伝といこか?」
     土産のパンがたんまり入った袋を持ち上げ、水上はおどけてみせる。

    「……頼りにしてるよ、みずかみんぐ」

     王子もあいさつ替わりに袋を掲げると、隊室へと入っていった。
     自隊の作戦室を目指し1人歩き出した水上の中に、ある思いがふくらんでいく。

    (丹精こめて作ってくれたパンをけんかの理由にすんのも、なんかアレやな……)

     アレが一体どんな感情なのか、うまくは説明できない。説明できないけれど、同じクラスの彼らに早急に謝らなければいけない気がして──水上はゆっくりと息を吸った。
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