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    abicocco

    @abicocco

    『過去のを晒す』カテゴリにあるものはpixivにまとめを投稿済

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    abicocco

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    ※ノーマルEND軸革命後交際中レムラキ

    寝てるラキの指のサイズをはかるレムの話。

    #レムラキ
    lemniscate

    鈍色の輪っか 兎にも角にも、言い訳を、させてほしい。

     なにも本当に、贈り物をしようと考えて取った行動ではなかった。決して僕のアレはそんな、計画的なものなんかじゃあなくて、ただ衝動的に……意味もなく行った戯れに近い何かだったのだ。

     共用スペースで軽く機械いじり——仕事ではなく趣味の方——をしていた僕の横で、宙に投映していたニュース放送をぼうと眺めていたその人が、いつの間にかテーブルに突っ伏して小さく寝息を立てていることに気が付いて、自分で移動するにしろ僕が寝室まで運ぶにしろ、ひとまずは起こそうと傍まで寄ったとき、ふと無防備に投げ出されたままの左手に目がいった。これまで一度も日に焼けたことがないのだろう、この世に生まれ落ちた時のままの白みがかったやわらかな肌色をした手は、平均的な男性の手のサイズに比べると幾分華奢で小ぶりに見える。ココが生まれ故郷であるラキオさんと違って、グリーゼでの生活歴が浅い僕には詳しい事情までは分からないけれど、身体的汎化処置は未だ受けていない身でも、汎向けに国から支給されたサプリメントやホルモン抑制剤を長年摂取してきた影響はそれなりに大きいのだろう。
     僕はラキオさんを起こさないように気を付けながら、力の抜けた左手の隣にそっと自身の片手を並べてみた。

    「……小さいな」

     手のひらの面積も、そこから伸びる五本の指も、先っぽに乗っかった形の良い鮮やかな爪も、どれをとっても僕より小さい。
     戦友兼同居人という立場だった頃も、恋人という名の関係に変わった後も、なにかとこの手に触れる機会はあったように思うが、こうしてじっくりと僕たちの手の差異について注目したのは今が初めてかもしれない。だって、どうしても起きているラキオさんと一緒にいると、そのお喋りの方に意識が持っていかれてしまうから。こんなふうに黙って身体の一部を観察するなんてこと、普段はなかなか難しい。
     現代の医療技術は優秀ではあるけれど、この世の悪そのものと言っても過言ではない悪魔のような女に、何度も折られて、切られて、修復してを繰り返した僕の指は、左右で指の長さが揃っておらず、関節も太くて全体的にゴツゴツしている。それに加えて日々機械油に塗れながら、マシンや擬知体のメンテナンスを行っている商売道具でもあるこの手はどうしたって荒れがちだ。乾燥してカサついた僕の手に触れられたラキオさんが時折「痛いよ」と文句を言うので、気休めにハンドクリームを塗る程度の努力はするように心掛けている今日この頃だ。

     眠っている恋人を相手にひとり手の大きさ比べを楽しんでいた僕は、未だ起きる様子を見せないラキオさんを前に少しばかり気が大きくなって、つるつるとした手の甲をなぞってみたり、親指と人差し指を使ってラキオさんの指の細さを確かめたりなんてことをしていた。そのうち、ふと思いついた。この手のサイズをなにかで形として残しておけば、出張でしばらく顔を見られない時でも、今日のことを思い出して寂しさを紛らわせる材料くらいにはなるんじゃないだろうか。

     先ほど作業を中断した時のまま、テーブルの上に広げっぱなしの工具や細かい部品の中から、僕は中途半端な長さの針金を手に取ると、それを先ほどまで弄んでいた薬指へと巻き付けた。くるりと指のまわりを一周させて、重なった点の部分で軽くねじり輪っかを作る。ねじった部分を指の腹の方へ隠すだけで、武骨なアルミの針金がイミテーションの指輪へと早変わりだ。もっとも、僕はこの人に本物を贈れるような度胸も甲斐性も今のところ持ち合わせていないのだけれど……。照明を受けて鈍く光を放つ、この華やかな人には不釣り合いな味気無い鈍色の輪をしばらくの間眺めて満足した僕は、薬指からそっとそれを引き抜いて、己の過ちを隠すようにズボンのポケットへとしまった。


     その後ごねるラキオさんを寝室に連れていったりしているうちにすっかりポケットの中の存在を忘れてしまっていた僕は、翌日ラキオさんに「君の服に金属製のなにかが入ったままだって、洗濯機がエラーを吐いていたよ。なンだいこれ?」と見覚えのありすぎる環状の針金を突き付けられて、思わず変な声をあげそうになった。いっそのこと洗濯物に揉みくちゃにされて形が崩れていてくれればよかったのに、優秀な我が家の洗濯機は洗浄開始前にラキオさんへエラーを伝えたようで、針金の切れ端は前の晩僕が象った形のまま時が止まっていた。

    「ただのゴミ? それなら捨てておくけど」
    「いや、えっと、あの、自分で捨てるので……か、返してください」

     僕は動揺していた。冷静に考えれば馬鹿正直に返してくださいと懇願する必要なんてなくて、あとからこっそりゴミ箱から回収するなり、後日またチャンスが巡ってきたら同じことを試してみるなり、他にいくらでもやりようはあっただろうに、その時の僕はラキオさんから早く取り返さなくてはという思考にすっかり囚われてしまっていた。僕の妙な申告を、賢く好奇心も旺盛なこの人が見逃してくれるはずもなく、取り上げようと必死な僕の手をひょいと潜り抜けてラキオさんは悪い顔で笑った。

    「なンだい? コレがそんなに大事なものなの?」
    「そ、そうです……! あの、だから返して」
    「ふぅん。僕にくれるつもりじゃなかったんだ」
    「え」

     僕の目の前に晒らし上げるようにして摘まんでいた不格好な輪っかを、ラキオさんはおもむろに左手の、右から四番目の指へとはめた。

    「ちょうどだ」

     当たり前だろう。貴方のサイズに合わせて作った輪っかなのだから。

    「……狸寝入りなんて意地が悪いですよ」
    「じゃあ寝ている人間の手を好き勝手に触った上にあまつさえ勝手に指のサイズまで測った君は趣味が悪い」
    「……」

     事実なだけに何も言い返せずにいる僕を見て、ラキオさんはアハハと声をあげて笑った。

    「そうやって、自分の行動に自信が持てずにコソコソ証拠を隠蔽しようとするくらいなら、いっそのこと堂々と僕を一緒に店に連れていくくらいの甲斐性を見せてみなよ」
    「え」
    「デザインによってはつけてやらなくもない」
    「え、え?」
    「期待せずに待ってるよ。あぁ、これはその時まで僕が預かっておくからね、君の愚行の証拠品として」

     言い訳をする間も与えられず、こちらを揶揄い期待を持たせるだけ持たせて、さっさと自室に戻ってしまったラキオさんの後ろ姿を僕はポカンと見送ることしかできなかった。僕は、本当にそんな大層な贈り物をしようだとか、地球をはじめとする多くの星で大きな意味を持つ特定の装飾品をつけてもらおうだとか、そんなつもりはなかったんだ。——昨日までは。
     あぁもたきつけられて、人質までとられている以上、僕も黙っていられない。まずは特別な輪っかのカタログを取り寄せることから始めようと思う。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命中のレムラキ
    ※2023/12/14公開の🎃×ゲーム開発スタッフさんの対談動画のネタを含みます。
    飛んでかないように 国内トップのエスカレーター式教育機関の高等部。その中でも一握りの成績優秀者にだけ与えられた貴重な社会見学の機会。
     そういった名目でラキオとそのほか十数名の生徒がある日教師に連れてこられたのは、テラフォーミング計画で使用されているロケットの発射場だった。管理首輪で抵抗の意思すら奪われた、グリーゼから不要の烙印を押された国民たちがタラップを上り順に乗り込んでいくところを、生徒たちは管理塔の覗き窓から黙って見送る。彼らが着せられた何の装飾もない揃いの白い簡素な服がまるで死に装束のようで不気味だなと、過去文献で知った他星の葬儀の様子を思い出しながら、ラキオもその現実味に欠けた光景をどこか他人事のように眺めていた。今回打ち上げ対象として選定された人間の多くは肉塊市民だが、それ以外の階級の者も少数ながら混じっているらしい。国産の最新ロケット技術の素晴らしさや、各地で進行中のパラテラフォーミング計画の実現性について先程から熱心に概念伝達装置を通じて語りかけてくる職員の解説を適当に聞き流している中で、ラキオは小さく「あ」と声をあげた。覗き窓の向こう、だんだんと短くなっていくロケットまで伸びる列の後方部に見慣れた人物を見つけたからだ。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    レムがグリーゼに来てからラキが革命を起こすまでに二人の間で発生したやりとりについての想像
    ブロカント「レムナン。作業ペースが通常時の八十パーセントまで落ちています。休息を取りますか?」

     今日は各船を繋ぐ自動走行路オートチューブの定期メンテナンスで地下へと潜る日だった。僕がこの国にやってきてから、そして擬知体を含む機械全般の整備士として働き始めてから、もう何度もこなしてきた仕事だ。それにも関わらず、いや、慣れている作業だからこそか、いつも僕の業務に同行してくれているサポート擬知体から集中力の欠如を指摘されてしまった。

    「いえ……。いや、そう、ですね。昼休憩にしましょうか」

     作業が丁度キリのいいところだったこともあり、彼女の提案に甘えることにした僕は工具箱を脇に避けて作業用のグローブを外すと、持ち込んだランチボックスからマッケンチーズをフォークでつついた。鮮温キープ機能のある優秀な容器のおかげで、チーズと胡椒をまとったマカロニとベーコンはフードプリンターから出てきたばかりの今朝と変わりない姿で湯気を立ちのぼらせている。食欲を刺激する濃厚なチーズのジャンクな香りは僕の好物に違いないのに、食事の手はなかなか進まなかった。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命後交際中のレムラキ
    レムが初めて酒で失敗した翌朝の話。
    それみたことか(だから、僕は止めたじゃないか)

     ラキオより二十分ほど遅れて目を覚ました隣の男は、呆けた顔でまだ眠気の抜けきらないとろりとした瞬きを何度か繰り返したのち、のそりと身体を起こした。覚醒したての彼が緩慢な動きで自分と、それからラキオの格好を見て、みるみるうちに顔を青く染めていく様を目にして……ラキオは小さく溜息を吐いた。

    「ら、ラキオさ……。あの、その、ぼ、僕、は」
    「……おはようレムナン。元気そうだね。見たところ二日酔いの症状も出ていないようでなによりだよ」

     
     ラキオの言う通り、レムナンの顔や体臭には昨晩あれだけ摂取したアルコールの気配は残されていなかった。彼の肝臓は働き者らしい。
     昨日の晩、珍しく……そう、本当に珍しく。レムナンとラキオは家で晩酌を楽しんだ。というのも先日外星系への調査のついでにグリーゼに立ち寄ったという沙明が置き土産として、彼が現在身を置いているというナダ産の飲食物をふたりの家にいくらか残していったのだ。グリーゼと違って未だ自然光で作物栽培が行われ、一次産業が国の経済をまわすのに一役買っていると聞くナダで作られたワインは、会食や社交場で提供されるような合成品とは違い、強く芳醇な葡萄の香りがした。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    友好関係が築かれつつあるふたり
    大停電の夜のこと 元は何の変哲もない夜だった。第四と五の区画を繋ぐ船間連結部の定期メンテナンスを概ね予定時刻通りに終わらせたレムナンは、使い込んでほどよくくたびれてきた革製の仕事鞄を肩に掛け、帰路についた。帰る先はカナン579メインドーム、シングル用深宇宙探査船に続き、彼にとって第三の家となって久しいグリーゼの管理下にある居住船の一角だ。レムナンは玄関からまっすぐ続くリビングのドアをくぐると同時に、既に学校から帰ってきているであろう同居人に向かって「ただいま」と帰宅の合図を出した。しかしながら、その人物の定位置であるソファの上に彼の期待していた姿は見当たらなかった。

    「あれ? ……あぁ、シャワー室か」

     オーバル型のローテーブルの上に置き去りにされたアームカバーを見て、レムナンはラキオの居場所にすぐに思い当たった。いつもより随分早いシャワータイムだななどと考えながら、少し目を細めて壁際の時計で今の時刻を確認する。たしか今日は校内で代替未来エネルギーについてのディベート大会があると昨晩話していたから、きっと侃侃諤諤の議論で蓄積した疲労や雑念を湯で洗い流しているのだろう。
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