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    abicocco

    @abicocco

    『過去のを晒す』カテゴリにあるものはpixivにまとめを投稿済

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    abicocco

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    ※ノーマルEND軸革命中&革命後レムラキ。
    催涙ガスで涙が止まらなくなった日の話。
    事後の描写が含まれます。

    #レムラキ
    lemniscate

    稀泣き 隊員を引き連れて支部へと出掛けていたラキオさんが戻ってきたとの報せを受け、僕が入り口まで迎えに行くと、その時点でかの人の頬は随分と濡れていた。照明が直接あたっているところなんかは水の通り道がはっきり視認できるほどだったので僕は困惑した。髪や服は濡れていないから、天候や放水が原因でないことは分かる。そんな遠回しな推察をせずとも、一目見れば誰にでも分かるくらい、その人の頬がしとどに濡れている理由は明らかだった。

    「ら、ラキオさん? 何があったんですか……」

     僕の前に立つその人の二つの目からは現在進行形で次々と新しい滴が生まれてはこぼれ落ちている。眼球の外へと溢れ出た透明な体液は頬の上を滑り、顎先をつたってシャツの襟や地面に小さなシミを作っていった。その一粒一粒はごく限られた量なのだけれど、とめどなく湧き出ているせいで、美しく整った顔はすっかり濡れそぼっていた。
     同行していた数名の隊員たちを自分の後ろに控えさせている司令の貴重な泣き顔は、今その人と対面している僕にだけ見えている。目から絶えず排出されている多量の涙とは裏腹に、ラキオさんは嗚咽することも取り乱すこともなく、不機嫌そうな表情だけを顔に貼り付けて、ただひたすらにはらはらと静かに泣いていた。
     ラキオさんの泣き顔を見るの自体が初めてだったのと、その泣き方があまりに異様だったので、僕の脳内ではこの人の正体が実は人間じゃなくて、目からオイルか何かが漏れ出す故障を起こしたんじゃないか……なんて、おかしな妄想まで浮かんでくる始末。
     いつまで待っても口を開かないラキオさんと、いつもとは違う様子のその人に狼狽している僕を見かねたのか、ラキオさんに同行していた隊員のうちの一人が事情を話してくれた。

     なんでも、支部から帰る前に中級市民船で行われていたデモ行進の様子を覗きに寄ったところ、妨害に現れた政府派遣の制圧部隊が放った催涙弾に巻き込まれたのだという。隊員達は支給品の情報端末兼用ゴーグルを装着していたので無事だったが、見映えが気に入らないとゴーグルの着用を拒否していたラキオさんだけが刺激性ガスの餌食となって——今、この状態にあるということらしい。

    「……半分は自業自得じゃないですか」
    「ぅ、るさい」

     基地へと戻ってきてからはじめて聞いたその声は掠れていて、今までラキオさんが沈黙を貫いていた理由を察したのだった。

    ***

    「寝る前にもう一度、目薬さしておきましょう」

     キャップを外した点眼薬を片手に構えた僕がそう促すと、ベッドに腰掛けたラキオさんは大人しく顔を上に傾けた。
     反射で目を瞑ってしまわないよう、両瞼をそっと二本の指でおさえ、その隙間から覗くピーコックブルーにめがけて、二滴薬を落とす。右、左と同じことを繰り返して、終わりましたと僕が離れると、ラキオさんは薬液を眼球全体に浸透させるようにパチパチと何度か瞬きをした。出会った時から変わらず、メイクを施していなくても十分に長く濃いまつ毛の束が上下に動く様子は蝶が羽ばたくさまに少し似ている。

     瞬きを終えてゆっくり目を開いたラキオさんの両頬で、今できたばかりの涙の筋が光っている。昼間とは違って、これはただの目薬だけど。

    「まったく……今日は散々な目にあったよ。これまで非致死性ガス攻撃の類は加害目的というよりはただの威嚇行動に近いものだと認識していたけど、半日以上も視界に影響を及ぼすというのはなかなかタチが悪い。ねぇ、僕達もああいうの取り入れようか」
    「その前にラキオさんはちゃんと外出の際ゴーグルを着用してください」
    「じゃあ、僕に似合うように発明者の君が責任をもってデザインを改良してくれる? 僕がいくら着こなしを工夫したところでまず頭の大きさが合ってないから、どうしたって不格好になるんだよ」
    「ラキオさんが小顔すぎるんですよ……」

     とはいえ、視察のたびに泣き腫らした顔で帰ってこられるのはこちらとしてもいい気はしない。僕は今週のタスクにラキオさん用のゴーグルの改造を追加した。

    「今日一日で一生分の涙を流したよ、きっと」
    「僕も、今日だけで貴方の泣き顔を山ほど見ました」
    「見てて面白いものでもないだろうに、他の仕事をほっぽり出してずっと横についているなンて……。反政府組織のリーダーって思ったより暇なンだね」
    「じゃあ涙が止まらなくて一日を棒に振ることになった反政府組織の司令官は思ったより間抜けなんですね」
    「フン……君もなかなか言うようになったじゃないか」

     ラキオさんはいつまで経っても目の下を拭おうとしない。昼間、壊れた蛇口のごとくずっと涙が止まらなかったものだから、拭き取っても無駄だという認識ができあがってしまったのかもしれない。
     僕は泣くという行為に慣れていないその人に代わって、親指の腹で濡れた頬をぬぐった。乾燥している皮膚がじわりと目薬の残滓を吸収する。

    「ティッシュかタオルを使ってよ」
    「今近くにないんだから我慢してください」

     数回同じ動作を繰り返すと、ラキオさんの顔はすっかりいつもと同じになった。澄んだ瞳は潤んで揺れているようなこともなく、しっかりと光を宿している。ラキオさんの強固な自我と芯の強さはどうしても敵を作りやすいけれど、その分自分に無いものに憧れる人間たちを惹きつける不思議な魅力がある。それが現在革命に向け活動を共にしている組織の構成員たちであり——僕だ。
     ときにこちらを小馬鹿にするような笑い声にはカチンとくることもあるけど、この人にはずっと笑っていてほしい。密かにそう願い続けている。

    「できれば……僕は、ラキオさんの泣き顔はもう、見たくないです」
    「そう。改良されたゴーグルの仕上がりを楽しみにしているよ」

     今日一日の感想をあいまいな願望で締めくくった僕を見て、ラキオさんはにんまりと笑った。

    ***

    「過去に僕の泣き顔はもう見たくないと言っていたのはどこの誰だったかな。おかしいよね。その張本人から泣かされることになるなンてさ。君もそうは思わないかい?」

     僕の二の腕あたりに頭を置いて横になっているラキオさんは、少し、ほんの少しだけ怒っている。疲れているから今日は無理だと止めたのにも関わらず、僕が二回目を強行したからだ。なにを、とは口にするまでもないだろう。

    「ちゃんと、貴方の希望する目標就寝時間までに終わらせたじゃないですか……」
    「ハン! 最低ラインを守っただけのことで開き直ンないでくれる? 明日の休みはふたりで少し遠出したいって君が言うから今夜は一回でやめておけと言ったのに。ついに君は言葉を忘れた獣に成り果ててしまったのか。あぁ嘆かわしいことだね」
    「……ラキオさんだって、最中はろくに口がまわらないくせに」
    「あン?」

     本当にいつものことながら、終わった途端よく喋るわ、悪態は吐くわ……。ピロートークと言えば聞こえはいいが行為後の僕らに甘さなんてまるでない。幾度となく繰り返してきたこんなやりとりさえも第三者から見ればバカップルの戯れとして一蹴されてしまうのだろうか。
     僕は黙ってすぐ目の前にある大切な人の顔を見た。距離が近過ぎて、少し輪郭がぼやけている。それでも、同じく口を閉ざしたその人もまた僕の方をじっと見ていることは分かった。基本的にラキオさんは自分から目を逸らさない。だから、僕が見つめることをやめるまでふたりはずっとこのままだ。
     人工物ばかりのこの国で、海の青と森の緑が混じり合った色を持つ唯一無二の瞳は、革命を終えた今となっても鮮やかに輝き続けていた。強い意思を宿したこの綺麗な目が、絶望に、諦念に、悲嘆に染まり、特別な意味を含む涙に濡れることが無かっただけでも、僕が革命に手を貸した甲斐はあった——そう、思う。


    「ベッドの上以外では、泣かないでください」

     僕がそう溢すと、その人は馬鹿じゃないのと言って小さく笑った。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命後交際中のレムラキ
    レムが初めて酒で失敗した翌朝の話。
    それみたことか(だから、僕は止めたじゃないか)

     ラキオより二十分ほど遅れて目を覚ました隣の男は、呆けた顔でまだ眠気の抜けきらないとろりとした瞬きを何度か繰り返したのち、のそりと身体を起こした。覚醒したての彼が緩慢な動きで自分と、それからラキオの格好を見て、みるみるうちに顔を青く染めていく様を目にして……ラキオは小さく溜息を吐いた。

    「ら、ラキオさ……。あの、その、ぼ、僕、は」
    「……おはようレムナン。元気そうだね。見たところ二日酔いの症状も出ていないようでなによりだよ」

     
     ラキオの言う通り、レムナンの顔や体臭には昨晩あれだけ摂取したアルコールの気配は残されていなかった。彼の肝臓は働き者らしい。
     昨日の晩、珍しく……そう、本当に珍しく。レムナンとラキオは家で晩酌を楽しんだ。というのも先日外星系への調査のついでにグリーゼに立ち寄ったという沙明が置き土産として、彼が現在身を置いているというナダ産の飲食物をふたりの家にいくらか残していったのだ。グリーゼと違って未だ自然光で作物栽培が行われ、一次産業が国の経済をまわすのに一役買っていると聞くナダで作られたワインは、会食や社交場で提供されるような合成品とは違い、強く芳醇な葡萄の香りがした。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命中のレムラキ
    ※2023/12/14公開の🎃×ゲーム開発スタッフさんの対談動画のネタを含みます。
    飛んでかないように 国内トップのエスカレーター式教育機関の高等部。その中でも一握りの成績優秀者にだけ与えられた貴重な社会見学の機会。
     そういった名目でラキオとそのほか十数名の生徒がある日教師に連れてこられたのは、テラフォーミング計画で使用されているロケットの発射場だった。管理首輪で抵抗の意思すら奪われた、グリーゼから不要の烙印を押された国民たちがタラップを上り順に乗り込んでいくところを、生徒たちは管理塔の覗き窓から黙って見送る。彼らが着せられた何の装飾もない揃いの白い簡素な服がまるで死に装束のようで不気味だなと、過去文献で知った他星の葬儀の様子を思い出しながら、ラキオもその現実味に欠けた光景をどこか他人事のように眺めていた。今回打ち上げ対象として選定された人間の多くは肉塊市民だが、それ以外の階級の者も少数ながら混じっているらしい。国産の最新ロケット技術の素晴らしさや、各地で進行中のパラテラフォーミング計画の実現性について先程から熱心に概念伝達装置を通じて語りかけてくる職員の解説を適当に聞き流している中で、ラキオは小さく「あ」と声をあげた。覗き窓の向こう、だんだんと短くなっていくロケットまで伸びる列の後方部に見慣れた人物を見つけたからだ。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    友好関係が築かれつつあるふたり
    大停電の夜のこと 元は何の変哲もない夜だった。第四と五の区画を繋ぐ船間連結部の定期メンテナンスを概ね予定時刻通りに終わらせたレムナンは、使い込んでほどよくくたびれてきた革製の仕事鞄を肩に掛け、帰路についた。帰る先はカナン579メインドーム、シングル用深宇宙探査船に続き、彼にとって第三の家となって久しいグリーゼの管理下にある居住船の一角だ。レムナンは玄関からまっすぐ続くリビングのドアをくぐると同時に、既に学校から帰ってきているであろう同居人に向かって「ただいま」と帰宅の合図を出した。しかしながら、その人物の定位置であるソファの上に彼の期待していた姿は見当たらなかった。

    「あれ? ……あぁ、シャワー室か」

     オーバル型のローテーブルの上に置き去りにされたアームカバーを見て、レムナンはラキオの居場所にすぐに思い当たった。いつもより随分早いシャワータイムだななどと考えながら、少し目を細めて壁際の時計で今の時刻を確認する。たしか今日は校内で代替未来エネルギーについてのディベート大会があると昨晩話していたから、きっと侃侃諤諤の議論で蓄積した疲労や雑念を湯で洗い流しているのだろう。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    レムがグリーゼに来てからラキが革命を起こすまでに二人の間で発生したやりとりについての想像
    ブロカント「レムナン。作業ペースが通常時の八十パーセントまで落ちています。休息を取りますか?」

     今日は各船を繋ぐ自動走行路オートチューブの定期メンテナンスで地下へと潜る日だった。僕がこの国にやってきてから、そして擬知体を含む機械全般の整備士として働き始めてから、もう何度もこなしてきた仕事だ。それにも関わらず、いや、慣れている作業だからこそか、いつも僕の業務に同行してくれているサポート擬知体から集中力の欠如を指摘されてしまった。

    「いえ……。いや、そう、ですね。昼休憩にしましょうか」

     作業が丁度キリのいいところだったこともあり、彼女の提案に甘えることにした僕は工具箱を脇に避けて作業用のグローブを外すと、持ち込んだランチボックスからマッケンチーズをフォークでつついた。鮮温キープ機能のある優秀な容器のおかげで、チーズと胡椒をまとったマカロニとベーコンはフードプリンターから出てきたばかりの今朝と変わりない姿で湯気を立ちのぼらせている。食欲を刺激する濃厚なチーズのジャンクな香りは僕の好物に違いないのに、食事の手はなかなか進まなかった。
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    Yoruma_ma

    DOODLEレムラキの告白の話なんですけど好きです、とうっかり伝えてしまったレムナン
    珍しくキョトンとするラキオ

    すぐ自分の失言に気がついて慌てるレムナン
    「違う、んです、ごめんなさい、今のは……」
    でももはや言い逃れられないのに気づいて、もう一度小さな声で謝る
    ごめんなさい、汚い、感情を、向けて…とフードの胸元を抑えて顔をしかめる

    ラキオは相変わらず目を丸くしたまま、ことんと首を傾げる
    「汚い、って何?」
    「え」
    「それ君の価値観だよね?」
    例えば、とラキオは人差し指を立てる
    「君、動力炉とか好きだよね…結構花や草も。イートフェチでもあるよね。僕はどちらも好まない。機械油は臭くて汚れるし、土なンか触りたくないし、食欲に乱されたり消化に力を割いてしまうのもごめんだね」
    「人の好きと嫌いって複雑で嫌になるよね。ま、でも違いがあることは君でもわかるだろうに」
    いつも通りベラベラとしゃべり続ける
    レムナンは軽く呆気に取られてこくりと頷いた

    「で、君さ。今僕が述べたようなことを、僕の価値観を突きつけたら腹を立てたことがあるよね。そんなの人によりますよね、口出さないでください、ラキオさんには関係ないじゃないですか!ってさ」
    そうだ 1282