Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    abicocco

    @abicocco

    『過去のを晒す』カテゴリにあるものはpixivにまとめを投稿済

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🌟 ♋ ♐ 💙
    POIPOI 29

    abicocco

    ☆quiet follow

    ※ノーマルEND軸革命後レムラキ。
    交際を始めた途端好意を隠さなくなったレムの態度に戸惑うラキの話。

    #レムラキ
    lemniscate

    過剰表出「ここ最近の君の態度に僕はどう向き合うべきなのか、正直考えあぐねている」

     自身の考えを述べる際、その大体が結論から入る人の口から出た発言にしては珍しい、ラキオさんらしくなく要領を得ない言葉に不意を突かれた僕は狼狽の色を隠せなかった。

     僕が長い間自分の中に留め続けてきた恋心をラキオさんに打ち明けてから——正確には気持ちを言い当てられ白状せざるを得ない状況に追い込まれてから——ひと月。未だに信じ難いことだけれど、ラキオさんは僕の告白を受け入れてくれた。恋人になったからと言って見返りを求めるつもりはないし、汎性である相手に恋愛感情が芽生えることを期待しているわけでもない。ただ僕は、ラキオさんが僕の気持ちを否定せずに聞き入れてくれたことが何よりも嬉しかった。くだらないと一蹴することも、なかったことにして距離を置くこともできただろうに、そのどちらの方法も取らずに、かの人にとっては恐らく一番面倒で手のかかる選択をしてくれた。
     だから、夕食後汚れた食器を食洗機へ入れていた僕を呼び止めて、少し話がしたいと言うラキオさんに招かれるがままにソファの隣へ腰掛けた僕は、開口早々冒頭の台詞を投げかけられて呆気にとられてしまったのだ。

    「僕の……態度、ですか。えぇと、具体的にはどういう……?」

     ここ最近のラキオさんとのやりとりをざっと思い返してみたが、特筆すべきような出来事はなかったと思う。むしろ、しょっちゅう意見の相違でぶつかり合っていた革命中よりもずっと心穏やかな日常を送っていたはずだ。いったい僕の何がラキオさんの気に障ったというのだろう。


    「自覚が無いというのがいっとう恐ろしいな……」
    「え?」
    「レムナン。君、この一か月でなにか心境の変化でもあったの?」

     またもや心当たりのない指摘を受け、僕はぱちくりと目を瞬かせた。

    「特にないです、けど……? あの、すみません。さっきから貴方が何を言いたいのか、僕にはさっぱり……」

     唐突な問題提起をしてきたその人の顔をちらりと横目で確認してみても、特にその表情から怒りのような激しい感情は読み取れなかった。先程浴びてきたシャワーの名残がまだ残っている素顔は湯上り特有の血色の良さを頬のあたりに宿していて、それがいつもよりラキオさんの印象をやわらげており、僕の目にもその姿は随分とかわいらしく映った。

    「まただ。ほら、その目だよ」
    「はい?」
    「どうして君はそんな顔をして僕のことを見るの」

     ラキオさんは厳しい顔をして、僕の眼前に人差し指を突きつけてきたが、こちらとしては依然この人が訴えている主張の全容が掴めないままだ。

    「そんな顔って……。どんな顔ですか」
    「表情筋が緩み切っただらしない顔」
    「は?」
    「君が僕に好意を抱いているということは随分前から把握していたよ。だけど、どうやら僕はその度合いを見くびっていたようだ」

     ……ようやく、僕にも少しだけ話の流れが見えてきた気がする。相変わらずその横顔は涼やかで、理知的な瞳は一見いつも通り冷静一色に見えるけれど、この人がなかなか結論を出さず会話のまわり道をする時は、決まって何か対処法を探っているときなのだ。
     つまり、ラキオさんは今、困っている。


    「えっと……」
    「近頃の僕に対する君の態度はどうにも目に余るものがある。僕はこれまで自分自身を恥じたことは一度もないけれど、君のその、僕のことが好きでたまらないといった態度には何故だか羞恥心を煽られる。この僕を動揺させるほどなんだ、第三者から見ても度が過ぎているに決まっている。そのくせ僕を困らせている君自身は平然としているンだから、これを不公平と言わず何と言おうか」
    「はあ」
    「しかも、そこまで分かりやすく僕に好意を向けているわりに君は恋人らしい行為を求めてこないし、一向に手を出してもこない。肉体的接触を求められたなら交配本能に支配された脳機能がもたらした心理作用だなと説明もつくけど、君はただただ今まで通り僕の傍にいるばかりで何もしてこない。それでいて今まで以上に幸せそうな腑抜けた顔をして僕のことを見る君は……いったい何なンだい。何が目的?」

     内側から溢れ出た無意識的な愛情表現に意味や目的を尋ねられてもな……と僕は頬を掻いた。それにしても、わざわざ話し合う時間を取らせてしまうほどに、知らず知らずのうちに僕がこの人を困惑させていたとは気が付かなかった。表向きはまったくいつも通りに生活しているように見えていたのに。


    「すみません、困らせるつもりはなかったんですけど……。僕はただ、貴方のことが好きというだけです」

     僕の返答を聞いてラキオさんはフンと鼻を鳴らした。

    「そんなことは僕だって分かってるよ。ただ、少なくともひと月前まで君は僕の前でそんな表情を晒さなかったし、甘ったるい目もしなかった。なのに、恋人になった途端、君は僕に対して今までにない態度をとるようになった。……どうして?」


     正直なところ理由も何もあったものじゃないし、ラキオさんの言うように本当に全ての恋愛感情を脳科学で説明できるのなら、今のような状況は発生していないはずだ。だけど、僕から向けられた感情の大きさにうろたえながらも、なんとか自分なりにその理由を解き明かそうと歩み寄ってくれている恋人の努力を無下にするほど、僕は非情な人間にはなれそうになかった。

    「あの、僕は、ラキオさんが告白を受け止めてくれたことが嬉しくて……。もう隠さなくてもいいんだなと思ったら、なんか……。好意のリミッターが外れた……みたいな」

     まぁ、なんかそんな感じです、たぶん……と曖昧に話を切り上げた僕を見て、質問者であるラキオさんはぽかんと口を開けていた。これもまた普段はあまり見ることのない珍しい顔だ。少し間の抜けた表情がかわいい。


    「……つまり、愚かにも自分の気持ちが僕にバレていないと思い込んでいた君は、僕に対する好意を表に出さないよう無駄な努力を続けていたワケだけれど、恋人という立場を手に入れた今、本心を隠す必要がなくなった。それと同時に今まで内に留めていた僕への好意が表出し、視線や表情をはじめとする愛情表現として分かりやすく可視化され始めた……と」
    「わぁ……。相変わらず概要をまとめるのが上手ですね」

     僕がしどろもどろに述べた主観的意見をよくもまぁこんなにも理路整然とした説明に再構築できるものだ。僕の誉め言葉を冷やかしと捉えたのか、ラキオさんはこちらを軽く睨んで威嚇した。

    「まぁ、いいよ。分かった。……やはり僕の見立てが甘かったようだ」
    「納得してもらえましたか」
    「あぁ、そうだ。君、この先人付き合いで軽率に敵を作らないように気を付けた方がいいよ」

     敵を作るな、とは? 突然飛躍した話題に僕が頭の上に浮かべた疑問符を隠せずにいると、そんなことはお見通しのラキオさんが僕にも分かるように補足をしてくれた。

    「もし僕が今の君の敵だとしたら、間違いなく君本人をどうこうする前に君の弱みになりえそうな対象に接触するだろうからね。せいぜい僕が攫われたり傷つけられたりしないよう、用心しておくことだね」


     仮想敵になりきっているつもりなのか悪い笑みを浮かべて僕に注意を促すラキオさんは、すっかりいつものペースに戻ったようだった。恋人の態度としてはかわいげに欠けるが、僕のせいで困らせるよりはずっといいと思う。

    「問題ありません。そんなことは僕が絶対に許しません、から」

     きっとまた、僕の顔はラキオさん曰く『表情筋が緩み切っただらしない顔』になっていることだろう。でも、それも仕方ないことだ。だってもう、どうしたって僕は、この人のことを好きだと思う気持ちを止められそうにない。

    「君は……本当に僕のことが好きだねぇ」

     なんてしみじみと溢しながら、仕方ないなというように呆れ笑いを浮かべて僕を見る恋人の姿に、僕は自分の中の好意が一段と大きく膨らむのを感じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺👏👏💖💖💖💖💖💖❤☺👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命中のレムラキ
    ※2023/12/14公開の🎃×ゲーム開発スタッフさんの対談動画のネタを含みます。
    飛んでかないように 国内トップのエスカレーター式教育機関の高等部。その中でも一握りの成績優秀者にだけ与えられた貴重な社会見学の機会。
     そういった名目でラキオとそのほか十数名の生徒がある日教師に連れてこられたのは、テラフォーミング計画で使用されているロケットの発射場だった。管理首輪で抵抗の意思すら奪われた、グリーゼから不要の烙印を押された国民たちがタラップを上り順に乗り込んでいくところを、生徒たちは管理塔の覗き窓から黙って見送る。彼らが着せられた何の装飾もない揃いの白い簡素な服がまるで死に装束のようで不気味だなと、過去文献で知った他星の葬儀の様子を思い出しながら、ラキオもその現実味に欠けた光景をどこか他人事のように眺めていた。今回打ち上げ対象として選定された人間の多くは肉塊市民だが、それ以外の階級の者も少数ながら混じっているらしい。国産の最新ロケット技術の素晴らしさや、各地で進行中のパラテラフォーミング計画の実現性について先程から熱心に概念伝達装置を通じて語りかけてくる職員の解説を適当に聞き流している中で、ラキオは小さく「あ」と声をあげた。覗き窓の向こう、だんだんと短くなっていくロケットまで伸びる列の後方部に見慣れた人物を見つけたからだ。
    4327

    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命後交際中のレムラキ
    レムが初めて酒で失敗した翌朝の話。
    それみたことか(だから、僕は止めたじゃないか)

     ラキオより二十分ほど遅れて目を覚ました隣の男は、呆けた顔でまだ眠気の抜けきらないとろりとした瞬きを何度か繰り返したのち、のそりと身体を起こした。覚醒したての彼が緩慢な動きで自分と、それからラキオの格好を見て、みるみるうちに顔を青く染めていく様を目にして……ラキオは小さく溜息を吐いた。

    「ら、ラキオさ……。あの、その、ぼ、僕、は」
    「……おはようレムナン。元気そうだね。見たところ二日酔いの症状も出ていないようでなによりだよ」

     
     ラキオの言う通り、レムナンの顔や体臭には昨晩あれだけ摂取したアルコールの気配は残されていなかった。彼の肝臓は働き者らしい。
     昨日の晩、珍しく……そう、本当に珍しく。レムナンとラキオは家で晩酌を楽しんだ。というのも先日外星系への調査のついでにグリーゼに立ち寄ったという沙明が置き土産として、彼が現在身を置いているというナダ産の飲食物をふたりの家にいくらか残していったのだ。グリーゼと違って未だ自然光で作物栽培が行われ、一次産業が国の経済をまわすのに一役買っていると聞くナダで作られたワインは、会食や社交場で提供されるような合成品とは違い、強く芳醇な葡萄の香りがした。
    3579

    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    友好関係が築かれつつあるふたり
    大停電の夜のこと 元は何の変哲もない夜だった。第四と五の区画を繋ぐ船間連結部の定期メンテナンスを概ね予定時刻通りに終わらせたレムナンは、使い込んでほどよくくたびれてきた革製の仕事鞄を肩に掛け、帰路についた。帰る先はカナン579メインドーム、シングル用深宇宙探査船に続き、彼にとって第三の家となって久しいグリーゼの管理下にある居住船の一角だ。レムナンは玄関からまっすぐ続くリビングのドアをくぐると同時に、既に学校から帰ってきているであろう同居人に向かって「ただいま」と帰宅の合図を出した。しかしながら、その人物の定位置であるソファの上に彼の期待していた姿は見当たらなかった。

    「あれ? ……あぁ、シャワー室か」

     オーバル型のローテーブルの上に置き去りにされたアームカバーを見て、レムナンはラキオの居場所にすぐに思い当たった。いつもより随分早いシャワータイムだななどと考えながら、少し目を細めて壁際の時計で今の時刻を確認する。たしか今日は校内で代替未来エネルギーについてのディベート大会があると昨晩話していたから、きっと侃侃諤諤の議論で蓄積した疲労や雑念を湯で洗い流しているのだろう。
    7788

    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    レムがグリーゼに来てからラキが革命を起こすまでに二人の間で発生したやりとりについての想像
    ブロカント「レムナン。作業ペースが通常時の八十パーセントまで落ちています。休息を取りますか?」

     今日は各船を繋ぐ自動走行路オートチューブの定期メンテナンスで地下へと潜る日だった。僕がこの国にやってきてから、そして擬知体を含む機械全般の整備士として働き始めてから、もう何度もこなしてきた仕事だ。それにも関わらず、いや、慣れている作業だからこそか、いつも僕の業務に同行してくれているサポート擬知体から集中力の欠如を指摘されてしまった。

    「いえ……。いや、そう、ですね。昼休憩にしましょうか」

     作業が丁度キリのいいところだったこともあり、彼女の提案に甘えることにした僕は工具箱を脇に避けて作業用のグローブを外すと、持ち込んだランチボックスからマッケンチーズをフォークでつついた。鮮温キープ機能のある優秀な容器のおかげで、チーズと胡椒をまとったマカロニとベーコンはフードプリンターから出てきたばかりの今朝と変わりない姿で湯気を立ちのぼらせている。食欲を刺激する濃厚なチーズのジャンクな香りは僕の好物に違いないのに、食事の手はなかなか進まなかった。
    9047

    recommended works