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    abicocco

    @abicocco

    『過去のを晒す』カテゴリにあるものはpixivにまとめを投稿済

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    abicocco

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    ※ノーマルEND軸革命後のレムラキ
    ※名の無いモブが喋る

    「ずっと一緒にいましょう」を口にするレムナンと、言うまでもなく当然一緒にいるものだと思い込んでいたラキオの話

    #レムラキ
    lemniscate

    Be together as one 資源が尽き未来がないとされていたとある惑星から、最新鋭の技術を駆使し作り上げた宇宙船で脱出した知識人の集まり——グリーゼ船団国家。新興国として独立して以来長年続いてきた旧支配体制が打ち捨てられた新制グリーゼでは、近頃、とあるサービスが流行り始めていた。


    「リーダー聞いてくださいよ。俺、今度、弟に会いに行くんすよ」
    「え。弟さん、いたんですね……?」
    「はは。俺も最近知ったばっかで」

     どういうことかと不思議そうな顔をする革命軍レジスタンスの元上司を相手に、元隊員の彼は少し照れ臭そうに笑った。

    「最近流行ってるんすよ。血縁上の家族と引き合わせてくれるマッチングサービス。俺達は生まれた瞬間から国から厳重に管理されてきたから、親の顔もろくに知らないのが普通で。まぁ……でも、その管理体制が崩れたとなったら、やっぱり気になるじゃないっすか。自分と繋がりのある身内って奴が」
    「そう、だったんですね。……いいことだと思います。弟さんの方も、きっと会えるのを楽しみにしてるんじゃないですか」
    「そうだといいなぁ。ちょい緊張もしてるんすけどね」

     はじめて会う兄弟と何を話そうかとそわそわと落ち着かない様子でネットの海から話題になりそうなニュースを検索している元部下を横目に、レムナンはグリーゼで生まれ育った人々の中でも彼にとって最も身近な人物の姿を思い浮かべていた。

    (ラキオさんも……自分の家族に会いたいと思ったりするんだろうか)


     レムナンの抱いた疑問はその晩あっさりと答えが見つかった。帰宅後、ふたりの暮らす居住船へと届けられた郵便物の中にレムナンは見慣れないコバルトブルーの封筒を見つけた。宛名はラキオの名になっていて、差出人欄には●●調査事務所と印字がある。昼間に話題にしたばかりの例のマッチングサービスを提供している民間企業の名前だった。

    「ラキオさん。これ……」

     レムナンが青い封筒を差し出すと、特に動揺する様子もなく「ありがとう」とそれを受け取ったラキオはピリリと封筒の口を切って、三つ折りになっていた数枚の書類に目を通しだした。少しの間を置いて、ふぅと小さく息を吐きだしたラキオはもう興味が尽きたとでも言うように、パサリと紙の束を机の上に投げ出した。その間、レムナンはその場を去ることもできず、かと言って何と声をかけていいのかも分からずに、ただすぐ傍で立ち尽くしてラキオの動向を見守るばかりだった。そんなレムナンの様子に気付いていたのか、顔を上げたラキオは先ほどまで眺めていた書類を指差し、彼に言った。

    「気になるなら見てもいいよ」
    「え? でも……ラキオさんの個人的な情報が含まれているんじゃないんですか」
    「なんだ、知っていたのか。ま、最近巷で話題になっているようだし、君の耳に入るのも当然か」
    「えっと、それで……ラキオさんも会うことにしたんですか? 自分の、家族に」

     知ることを至上の喜びとしているラキオが自身のルーツを知ろうとするのは自然な流れだ。もし、血族と対面したラキオが今後彼らと共に生きていく道を選んだとしても、レムナンにはその決断を責めることも、引き留めることもできそうにない。だから、せめて今後どうするのか、どうしたいのかはラキオ自身の口から聞きたかった。

    「会わないよ。……いや、正確に言うなら『会えない』か」

     意を決して尋ねたレムナンの覚悟とは裏腹に、ラキオの返答は随分とそっけなかった。その声にはどこかうんざりとした、退屈を厭うような感情すら滲んでいるようにさえ聞こえた。

    「……会えない?」
    「一応所在地くらいは知っておこうかと書面調査を依頼したけど、僕の遺伝子提供者の二人は既に存在していなかったよ。仮に存命していたとしても今更会うつもりはなかったから、何も問題ないけどね」

     なんと言葉を返せばいいか分からず、つい癖でレムナンが視線を下に落とすと、印刷面を表にしたまま机の上に放置されていた報告書の一番上、小さく載っている横並びの顔写真と目が合った。女性の瞳は光を照り返し煌めく海を閉じ込めたピーコックブルー。男性の髪はレムナンより少し短いくらいの長さだったがそれでも分かる程度に顔のまわりでくるくると柔くカールしていた。(あぁ、この人たちがラキオさんと同じ血が流れている人間なんだな)と、レムナンが一目見て分かる程度に容貌の整ったふたりだった。

    「残念、ですね。せっかく、家族のことが知れたのに」
    「どうだろう。正直、よく分からない。今までなくて当然だったものが突然現れたところで、だから何? という感じだし。僕自身になにか影響を及ぼすわけでもあるまいし」
    「寂しいとか、思いませんか?」
    「寂しい……?」

     カナン579にいる家族や友人のことを思い出すたび、時折胸を襲う感傷を思い出しながらレムナンはラキオを気遣う言葉をかけたが、当の本人はちっともピンと来ていない様子であった。

    「生憎と、僕はその手の感情を覚えたことがないからね。君みたいに自身の境遇を前に悲嘆に暮れる趣味もないしさ」
    「……一言余計なんですよ、貴方はいつも」

     レムナンが恨めしそうな視線を向けると、ラキオはハハッと生意気に笑った。本人の言う通り、ラキオの様子はいつも通りで、そこには肉親を亡くした悲しみや孤独さといったような負の感情は何も見受けられなかった。そのことが却って、ラキオがこれまで一人きりで歩んできた二十年余りの人生を彷彿させて、レムナンの胸をわずかに苦しくさせた。

    「ラキオさんには、僕がついていますから」
    「……なんだい、急に。この流れでそれを言うっていうのは、君——まさか、僕と家族になりたいの?」

     不意に生じた胸のつかえを解消するために、自然と自分の内側から溢れ出た言葉だった。その台詞をラキオに思わぬ方向で受け取られたことに気付いたレムナンは、慌てふためきながら弁解するためにラキオの隣へと腰掛けた。

    「ちがっ! 違くて……!」
    「君も既に知っている通り、グリーゼ人はこれまでずっと国から個で管理されて生活してきたから、他人と家族になるための婚姻制度も養子縁組制度もないよ。勿論これから新制度や新法の導入は検討されていくだろうけど、少なくとも今すぐにできることはないね」
    「あの、ちが……そうじゃなくて。そういう、仕組みとか、それ以前の……あの……」

     モゴモゴと言葉尻を濁しながら、理由を含まない曖昧な反論らしき言葉を繰り返すだけのレムナンに、少し苛立った様子でラキオは片眉を歪めた。

    「なに? ハッキリ言ってくれない?」
    「……ずっと、一緒にいましょうって、ただそう、伝えたかっただけなんです」

     ようやっと主張の核を曝け出したのち、最後にすみませんと謝罪の言葉を付け足したレムナンにラキオは怪訝そうな顔をした。

    「なぜ謝るンだい? 空っぽの謝罪ならいらないよ。癖になっているなら早めに直した方がいい」
    「あぁ、えぇ。……はい」
    「それはそうと……そうか。そういうことは普通口に出して宣言する必要があるものなのか」
    「え?」

     レムナンがラキオの方を向き直すと、ラキオは自分の顎に片手を添えて考えを巡らすように視線を宙に彷徨わせていた。

    「いや……、言うまでもなく君はこれからもずっと僕の隣にいると、勝手に信じ込んでいたものだから」
    「え?」
    「……自分でも不思議だよ。何の根拠があってそんな風に考えたンだか」

     自嘲するように独り言に近い言葉を溢しながら、ラキオはレムナンの顔を覗き込み笑った。

    理由わけもなく他人ヒトの心を信じるだなンて、僕らしくないよね。君があまりにもしつこく隣に居着くものだから……すっかり君に毒されてしまったみたいだ。困ったものだね」

     やれやれといった調子で呟いたラキオは身体から力を抜くと、隣のレムナンに寄り掛かるように彼の肩に自分の頭を預けた。やわらかな髪がレムナンの首筋を甘くくすぐるのと同時に、彼の心の内もこそばゆくさせた。

    「困りますか?」
    「少しね」
    「安心してください。僕は貴方から離れるつもりはないですよ。これまでも、これからも」
    「知ってるよ、そんなことは」

     寂しいという感情を知らない貴方が、味方がいないことが普通だと信じてきた貴方が、思い描く未来像に自然と自分の存在が含まれていることが、こんなにも幸せなことだなんて知らなかった。レムナンは左肩に預けられた重みと熱にそっと頬を寄せた。近付いた顔を見上げながらラキオは呆れと許しの混じったやわらかなトーンで彼の名を読んだ。

    「レムナン。つくづく変わっているね、君は」
    「ラキオさんには負けますよ」
    「君の方こそ、いつも一言余計だよ」

     形式ばった契約書がなくたって、誓いの言葉がなくたって、お互いが一緒にいることを望んでいるのなら、ふたりが共にいることにおいて、それに勝る理由はないのだ。そのことを一生かけてこの人に伝えていこう。そう胸に刻んだレムナンは、傍らのぬくもりを抱き寄せ、満ち足りた様子で微笑んだ。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    レムがグリーゼに来てからラキが革命を起こすまでに二人の間で発生したやりとりについての想像
    ブロカント「レムナン。作業ペースが通常時の八十パーセントまで落ちています。休息を取りますか?」

     今日は各船を繋ぐ自動走行路オートチューブの定期メンテナンスで地下へと潜る日だった。僕がこの国にやってきてから、そして擬知体を含む機械全般の整備士として働き始めてから、もう何度もこなしてきた仕事だ。それにも関わらず、いや、慣れている作業だからこそか、いつも僕の業務に同行してくれているサポート擬知体から集中力の欠如を指摘されてしまった。

    「いえ……。いや、そう、ですね。昼休憩にしましょうか」

     作業が丁度キリのいいところだったこともあり、彼女の提案に甘えることにした僕は工具箱を脇に避けて作業用のグローブを外すと、持ち込んだランチボックスからマッケンチーズをフォークでつついた。鮮温キープ機能のある優秀な容器のおかげで、チーズと胡椒をまとったマカロニとベーコンはフードプリンターから出てきたばかりの今朝と変わりない姿で湯気を立ちのぼらせている。食欲を刺激する濃厚なチーズのジャンクな香りは僕の好物に違いないのに、食事の手はなかなか進まなかった。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命前のレムラキ

    友好関係が築かれつつあるふたり
    大停電の夜のこと 元は何の変哲もない夜だった。第四と五の区画を繋ぐ船間連結部の定期メンテナンスを概ね予定時刻通りに終わらせたレムナンは、使い込んでほどよくくたびれてきた革製の仕事鞄を肩に掛け、帰路についた。帰る先はカナン579メインドーム、シングル用深宇宙探査船に続き、彼にとって第三の家となって久しいグリーゼの管理下にある居住船の一角だ。レムナンは玄関からまっすぐ続くリビングのドアをくぐると同時に、既に学校から帰ってきているであろう同居人に向かって「ただいま」と帰宅の合図を出した。しかしながら、その人物の定位置であるソファの上に彼の期待していた姿は見当たらなかった。

    「あれ? ……あぁ、シャワー室か」

     オーバル型のローテーブルの上に置き去りにされたアームカバーを見て、レムナンはラキオの居場所にすぐに思い当たった。いつもより随分早いシャワータイムだななどと考えながら、少し目を細めて壁際の時計で今の時刻を確認する。たしか今日は校内で代替未来エネルギーについてのディベート大会があると昨晩話していたから、きっと侃侃諤諤の議論で蓄積した疲労や雑念を湯で洗い流しているのだろう。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命後交際中のレムラキ
    レムが初めて酒で失敗した翌朝の話。
    それみたことか(だから、僕は止めたじゃないか)

     ラキオより二十分ほど遅れて目を覚ました隣の男は、呆けた顔でまだ眠気の抜けきらないとろりとした瞬きを何度か繰り返したのち、のそりと身体を起こした。覚醒したての彼が緩慢な動きで自分と、それからラキオの格好を見て、みるみるうちに顔を青く染めていく様を目にして……ラキオは小さく溜息を吐いた。

    「ら、ラキオさ……。あの、その、ぼ、僕、は」
    「……おはようレムナン。元気そうだね。見たところ二日酔いの症状も出ていないようでなによりだよ」

     
     ラキオの言う通り、レムナンの顔や体臭には昨晩あれだけ摂取したアルコールの気配は残されていなかった。彼の肝臓は働き者らしい。
     昨日の晩、珍しく……そう、本当に珍しく。レムナンとラキオは家で晩酌を楽しんだ。というのも先日外星系への調査のついでにグリーゼに立ち寄ったという沙明が置き土産として、彼が現在身を置いているというナダ産の飲食物をふたりの家にいくらか残していったのだ。グリーゼと違って未だ自然光で作物栽培が行われ、一次産業が国の経済をまわすのに一役買っていると聞くナダで作られたワインは、会食や社交場で提供されるような合成品とは違い、強く芳醇な葡萄の香りがした。
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    abicocco

    PAST※ノーマルEND軸革命中のレムラキ
    ※2023/12/14公開の🎃×ゲーム開発スタッフさんの対談動画のネタを含みます。
    飛んでかないように 国内トップのエスカレーター式教育機関の高等部。その中でも一握りの成績優秀者にだけ与えられた貴重な社会見学の機会。
     そういった名目でラキオとそのほか十数名の生徒がある日教師に連れてこられたのは、テラフォーミング計画で使用されているロケットの発射場だった。管理首輪で抵抗の意思すら奪われた、グリーゼから不要の烙印を押された国民たちがタラップを上り順に乗り込んでいくところを、生徒たちは管理塔の覗き窓から黙って見送る。彼らが着せられた何の装飾もない揃いの白い簡素な服がまるで死に装束のようで不気味だなと、過去文献で知った他星の葬儀の様子を思い出しながら、ラキオもその現実味に欠けた光景をどこか他人事のように眺めていた。今回打ち上げ対象として選定された人間の多くは肉塊市民だが、それ以外の階級の者も少数ながら混じっているらしい。国産の最新ロケット技術の素晴らしさや、各地で進行中のパラテラフォーミング計画の実現性について先程から熱心に概念伝達装置を通じて語りかけてくる職員の解説を適当に聞き流している中で、ラキオは小さく「あ」と声をあげた。覗き窓の向こう、だんだんと短くなっていくロケットまで伸びる列の後方部に見慣れた人物を見つけたからだ。
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    Yoruma_ma

    DOODLEレムラキの告白の話なんですけど好きです、とうっかり伝えてしまったレムナン
    珍しくキョトンとするラキオ

    すぐ自分の失言に気がついて慌てるレムナン
    「違う、んです、ごめんなさい、今のは……」
    でももはや言い逃れられないのに気づいて、もう一度小さな声で謝る
    ごめんなさい、汚い、感情を、向けて…とフードの胸元を抑えて顔をしかめる

    ラキオは相変わらず目を丸くしたまま、ことんと首を傾げる
    「汚い、って何?」
    「え」
    「それ君の価値観だよね?」
    例えば、とラキオは人差し指を立てる
    「君、動力炉とか好きだよね…結構花や草も。イートフェチでもあるよね。僕はどちらも好まない。機械油は臭くて汚れるし、土なンか触りたくないし、食欲に乱されたり消化に力を割いてしまうのもごめんだね」
    「人の好きと嫌いって複雑で嫌になるよね。ま、でも違いがあることは君でもわかるだろうに」
    いつも通りベラベラとしゃべり続ける
    レムナンは軽く呆気に取られてこくりと頷いた

    「で、君さ。今僕が述べたようなことを、僕の価値観を突きつけたら腹を立てたことがあるよね。そんなの人によりますよね、口出さないでください、ラキオさんには関係ないじゃないですか!ってさ」
    そうだ 1282