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    mona5770

    Twitterに投げたネタをちょっとまとめたメモ置き場
    燭へしと治角名が混じっています。ご注意ください。

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    mona5770

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    (燭へし)2021・6・11ワンライ「お題:雨」
    後輩光忠×長谷部主任 5月の続き。

    #燭へし
    decorativeCandlestick

    kissing in the rain「では今後ともよろしくお願いします」
    頭を下げて取引先を出たところで、さっきまで晴れていた空にすっと薄灰色が混ざり始めていた。
    「ああ降りそうだな」
    駅から徒歩以外の手段がないこの会社にはいつもなら車を使うのだけれど、今日は突然の呼び出しで使える車が残ってなくて電車で来ていた。
    来るときはタクシーを使ったのだけれど、帰りはどうしよう。
    「せいぜい20分だ。荷物もないし歩くか」
    「今日はすみませんでした」
    「お前は悪くないだろう」
    長谷部さんから引き継いだ案件、その相手先の部長が突然「契約と違う」と怒り心頭で電話をかけてきた。
    興奮しているからか、案件への理解が足らないからか全然話が通じなくて、相手はひたすら謝りにこいの一点張りで。
    長谷部さんを巻き込むつもりはなかったのだけれど、話をしておいたほうかと声をかけたら「俺もいく」と一緒に来てくれた。
    結局のところ相手先の社内での連絡不足ーー何度かミーティングを重ねて変更したところが伝わっていなかっただけだ。それも報告書は出ていて部長の決裁もされていて、つまりは読んでいなかっただけーーだということが判明して、相手先の担当者には盛大に謝られたのはこっちだったのだけれど。
    「この段階で一度内容確認しておけてよかったです」
    大人の笑顔でそう言う長谷部さんに相手先の部長は「そうだろうそうだろう」なんて自分のバカさ加減を棚上げしてうなづいたあと爆弾を落とした。
    「長谷部君、婚約破棄したんだって?」
    叩き切ってやろうか。思わず腰に手が伸びたけれど、一介のサラリーマンの腰に刀などないわけで。
    相手の担当者が慌てて「部長」って窘めるような声をかけたけれど、厚顔無恥を形にしたらこんな感じに仕上がりましたっていう男には届かない。
    「どっちからなの?君から?相手から?あそこのお嬢さんでしょ?将来の社長の座が手からこぼれちゃったね」
    心の中で僕が振るった刃が脂ぎった胴を斬り、そして返す刀で無駄な脳みそを支える首を落とした。
    真っ赤に噴き出す血が地面を朱く染め、頬に飛んだ返り血を拭うと僕は刃についた血を一振りで落とした。
    けれど現実では僕はただ膝に乗せた掌でぎゅうとスラックスを握りしめることしかできない。
    ただでさえ傷ついているだろう長谷部さんをこれ以上傷つけたくない。
    気持ちを隠して皮肉めいた顔で笑うところも、何でもない顔をして「俺なんかが選ばれたことが間違いだったんですよ」なんて言うところはもう見たくないんだ。
    「私の力不足だったようで」
    「ああそうなの?へえ見限られちゃったんだね」
    ピシって音がして血管が切れたような気がした僕の手をぽんぽんと長谷部さんの細い手が叩く。
    「また一からやり直しますので、これからもご指導よろしくお願いします」
    人の不幸は蜜の味。
    すっかり機嫌を直した部長から新規案件が飛び出してきたけれど、そんなものいらないからもう二度と顔を見せるな。
    なんてことは言えなくてふたりして「これからもよろしくお願いします」と頭を下げるしかなかった。
    「でも、すみませんでした」
    「お前が気にすることじゃないさ」
    僕が長谷部さんに声をかけなければ、あんな言葉を聞かせることもしなくてよかったのに。
    早くもっと力をつけて、この人を守れるほどになりたい。

    ぽつん

    頬に冷たいものがあたり見上げた空は瞬く間に真っ黒な雲に覆われ始めていた。
    取引先に戻るにも、駅まで行くにももうそう変わらないところ。
    傘を買えるような店も、雨が止むまで休めるような店も見当たらない。
    「急ごう」
    長谷部さんの言葉に答えるかのように雨粒がアスファルトを濡らし始めた。

    ぽつん、ぽたん、ぱたぱたぱた

    「走るぞ」
    「はい」
    すっと白いシャツに包まれた背がまっすぐに伸び、スラックスに包まれた足がタンと雨に濡れた地面を蹴った。

    ぽたぽたぱたたたたたた

    緩やかに地面を濡らしていた雨は次第に激しさを増し、まるで叩くような音をたてはじめる。

    バケツをひっくり返したなんてもんじゃない雨が僕たちを濡れ鼠にしていく。
    前で走る長谷部さんから「なんかもう面白くなってきたな」って笑い声さえ漏れてきた。

    「なんか吹っ切れちゃってるんだよね」

    どうでもいいっていうか、なんか捨て鉢的な?
    加州さんの言葉がよみがえる。
    走りながらどこかに行ってしまいそうな背に何度も手を伸ばす。

    ごうという音を立てて降る雨。
    雨の幕に包まれて人も、街も消えてしまったようで。
    まるでこの世にふたりきりのような、この背が消えたら何もかもが終わってしまうような気がした。
    まっすぐに前を向いて走るその背が雨に消えてしまいそうで僕は声を張り上げた。
    「長谷部さん」
    雨の音に負けないように呼ぶ声に、足を止めたその人の腕をつかむと引き寄せた。
    この人を渡したくない。
    雨にも、知らない誰かにも。
    「どうした?」

    ぎゅうと抱きしめると誂えたかのようにぴたりと僕の身体に収まる身体。
    ここからもう出したくない。

    「長船」
    わずかに緩めた腕のなか雨に濡れた唇。
    その唇に流れ込む雨をぺろりと舐めると、わずかに開く濡れた唇をかぷりと噛んだ。
    一度顔を離す。
    濡れた紫陽花色の瞳がゆっくりと伏せられ、僕は誘われるように口づけた。

    熱い舌がぬるりと絡み、唇から流れ込む冷たい雨粒が心地よい。
    もっともっと。
    濡れて冷えたシャツに包まれた身体を抱きしめると、ぴたりと張りついてひとつになったような心地になり、もっともっとと力をこめる。
    雨が流れる頬、わずかに熱をもつ耳、ぼたぼたと水を垂らす髪。
    どこもかも甘く、全部全部この身に取り込んでしまいたいとばかりに唇で触れていく。
    「犬みたいだ」
    はははと笑いながら長谷部さんは僕の頬を両手で包む。
    「いまだけだから」
    だから寄こせと開いた唇が「いまだけなんて言わないで」という言葉ごと僕の唇を閉じ込めた。

    強い雨の幕と音に閉ざされた世界で、僕たちはお互いを貪りあった。
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    takekavat

    DONE同棲中な冬のリーマン燭へし。お題はまいじつ燭へしから、「猫舌の燭台切×汗だくの長谷部」。
    冬のへしは寒さですぐ鼻の周りとかほっぺたとか赤くなっちゃうと可愛いなと思う。
    うちについたら「昼はラーメンにしよう」
     長谷部がそう言いだしたのは、ある冬の休日の昼前。
    「いいね、たまには食べにいこう」
     頷いてそう応じれば、
    「俺たちの部署も最近忙しかったし、これだけ働いてるんだから外食くらい許されるだろ」
    にやりと笑って返される。燭台切が料理を好きなので、あまり二人は休日に外食をすることがない。だが最近は忙しいせいで少し億劫さを感じていたのも事実だ。それに気づいたうえでの提案だとしたら嬉しいけれど、聞いたところできっと彼は首を縦に振らない。だからそれには触れず、歩いて15分ほどのラーメン屋に向かう。


     長谷部は福岡出身なのでとんこつが好きなのだが、味にこだわりがあるようで彼が認めるとんこつを出すラーメン屋は少ない。このラーメン屋でもとんこつではなくごま醤油を頼む。それでもとても美味しそうに啜るから見ているだけで幸せになる。カウンター席の隣に座る長谷部を見ながら、僕が長谷部くんを好きになった決め手はものを美味しそうに食べるところなのかもしれない、と思っていたら、
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