(燭へし)立春 春という名がついたとたんのあたたかな陽射しに手招きされるように、身体を起こすと長谷部は窓を開いた。
「寒っ」
春は名のみの風の寒さやとはよく言ったもので、あたたかな光とは裏腹にまだ冬ですが? とばかりの空気の冷たさに思わず声が漏れる。
「……さむい」
部屋を出ると朝に強いですがとばかりの顔を見せていた男が、存外に朝が弱いことを知ったのはつい最近のことだ。
「はせべくん……きょうひばんでしょ」
だからもうちょっとと腰に回された手に誘われるまま、春のようにあたたかい布団へと舞い戻る。
「光忠」
「うん?」
返事は半分夢のなかから帰ってきたのに、もぞもぞと動く手は長谷部をしっかりと抱き込むのに思わず笑みが漏れる。
「春と聞かねば 知らでありしを 聞けばせかるる 胸の思いを」
子守歌のように漏らす言葉が聞こえたのか、寝ているはずの男がすりと頬を寄せる。
この男に出会わなければ、こんな気持ちなど知らなかったのにな。
「いかにせよと」
「すきでいてよ」
あたたかい胸に頬を寄せると答えの代わりにそっと口づけた。