ナイトドリーム「信じらんない!!!」
「…何がだ?」
「昨日僕何回気絶させられたと思ってるんだよ?!」
「覚えてないなら教えてやってもいいが……」
「いい!!聞きたくない!!」
必死になって耳を塞ぐキラに、支度をしながらへそを曲げている恋人にやれやれとアスランが唇を寄せる。
キラはそのアスランの唇を手のひらで防御して、高らかに宣言した。
「アスランは反省するまで、僕に絶対に触らないでね!!」
「………」
「今回の休暇って何日って言ってたっけ?」
「……明日まで、だな」
「じゃあその間は、僕に触れて来ないで!!」
「…ふぅん……」
何事か考え込んでいるアスランの隣で、手早く隊服に着替える。
コンパスの白い隊服姿には清廉なイメージが付きまとう。
まあ、その服の中の肌に、アスランから付けられた赤い花が沢山散っているのだが。
「……まあ、俺ばかり求めてるみたいなのも癪だしな…」
「何か言った?」
「いや……行くぞ?キラ」
そのまま手を繋ごうとしたアスランに、キラが自分の手を上げてなんとか回避した。
───そう、仕事に集中していれば、いつもの通りに生活していれば、アスランを躱せると思っていた。
仕事中、アスランは確かに触っては来なかった。自らの持って来てしまった仕事も端末でこなしながら、チラリっと眼で、こちらを見つめて来る。
そう、蕩けそうな眩い眼差しで、じっとこちらを見ているのだ。
カー―――――――っと真っ赤になったキラは、アスランの居るルームのガラスに息を吐きかけると【視姦止めてよね!】と指できゅきゅっと書いた。
アスランが噴き出して笑い出しているうちに、キラはその視線から逃れようと走った。身体中が熱い。熱くて熱くて……。
「……何してるんですか?」
キュっとその文字を消しながら、シンがアスランの方を睨みつける。
「…いや、キラは可愛いな……」
「あんま無茶させないで下さいね」
「ああ、判ってる……つもりなんだが」
事と次第となり行きを聞いて、シンはげっそりとした顔をした。
食事は食堂で取る事にした。アスランが来る時はいつもは士官室で二人でいちゃいちゃと食べていたのだが、キラなりの抵抗の意思だ。
「いただきます……」
を言ってもそもそ食事を取る。こんな事なら隊の誰かに声をかけるんだった、と思った。目の前の席が空席で、そこに彼が来る事を望んでいる。
胸が切なさに浸されて行く。ミレニアムに居るのに、ここに居るのに、アスランが傍らに居ないなんて。
キラの胸の奥がズキズキと痛みだす。大好きなハンバーグも味がしない。
下を向いて食べていたら、カタンっと前の席に座った。
「アスラン!!遅いよもう……!」
顔を上げたキラが見た視界にはアスランは居なかった。
ミレニアムの年若いクルーが「あ、その。准将…ここ空いてますか?混みあって来てて……もし、誰か来るなら…」と告げた。
気が付けばざわざわと周囲は混みあって来ていて、キラは慌ててトレイを持って立ち上がった。
「ご、ごめんなさい!!僕、ぼんやりしてて……その席空いてますからどうぞ。この席も今、空けますから……!!」
「いやっ…准将はゆっくり食べて行って下さい……!あっ」
ぴゅんって走ってキラは士官室に向かっていた。そうだよ、「邪魔」になっちゃうから仕方ないよね?アスランと一緒にご飯食べても良いよね?そう言い聞かせながら躍る胸は隠せなかった。
早く会いたい……!!!
「まあ、大体想定通りだな」
士官室で仕事をしながら軽食のサンドイッチを取っていたアスランがそう言う。
「美味しいか…?」
「……んっ」
冷めてしまっただろうハンバーグを口に運びながら、それでもキラが嬉しそうに笑う。
アスランはその笑顔を見て、(可愛い…)と思いながらも、少しだけ溜息を吐いた。
さて、交代での寝る時間がやって来た。キラとアスランに自由時間が与えられる。
キラは隊服を脱いでインナーになるとベッドにゴロリと横になった。
「アスラン…その…どうするの?」
「シンのところにでも転がり込むか……嫌がるだろうが。もしダメだったら他に休むところを適当に見つけるから…」
「……添い寝して欲しいって言ったら?」
心臓が飛び出すかと思った。ドキドキして跳ねている。
シンのところでも、他の誰かのところにも行って欲しくない……。自分のところに居て欲しい。
でも、賭け(?)に負けるのは嫌だ。
意地を張ってしまうのは自分の悪いところだと思うけど……。アスランに対しては我儘を言いたくなる。甘えてしまう。昔みたいに。
「………ハアっ。本当にお前は……」
「でも触ったらダメだからね!!!!」
「あるんだな、地獄ってやつが……」
「本当に…触ったら怒るからね!」
「判った…早く寝るんだぞ!……桃太郎でも朗読するか?」
「え?アスラン持って歩いてるの?」
「何も見なくても覚えてるぞ?」
「えーっと最初に出て来たのってなんだったっけ…?」
「まずは爺さんと婆さんが出て来て……それから爺さんは山に芝刈りに婆さんは川に洗濯をしに……」
アスランの綺麗な声に、すっかり安心し切ったキラはうとうと眠りについた。
「おやすみ、キラ……」
眠りについたキラの額にアスランはキスを落とした。
「キラ!交代の時間だぞ?起きたか?」
「……アスランが「いつもの」してくれたら起きる」
「………」
キラが気が付いてガバっと起き上がった。自分の身体を見下ろして昨日と同じ状態である事を確かめた。
そして、アスランが「いつもの」をしようとしていた事を察知して枕をそこに当てた。
「味気ないな…枕とキスしても」
「……約束でしょ!!」
「まあ、そうだが……」
伸びをして立ち上がるアスランを見ながらキラがもじもじと確かめる。
「その…何処で寝てたの?」
「お前に寝物語を話してるうちに俺もベッドサイドで寝落ちてた……何処にも行ってないしお前にも触れてないから安心だろ?」
「……ご、ごめんね」
「じゃあ、俺はもう時間がないから、行くから……良かったな?」
「え?」
「お前の勝ちだ……悔しいもんだな……」
黒のコートを翻して荷物を持つとアスランがキラの士官室から出て行く。
「あ………」
自分は何をしていたのだろう?せっかくの逢瀬だと言うのに。これから何ヶ月も会えなくなるかもしれないというのに?
急いで隊服に着替えると、キラは飛び出して行った。
「じゃあ、後は頼んだぞ?」
「アンタに言われなくたって!!」
「メイリン、待たせたな…」
「いいえ。待ってません!」
メイリンとシンと話してるアスランを見つけて、キラは足が逸るまま、駆けて行くままに飛び掛かって抱きついていた。
アスランとメイリンとシンが全員驚いて目を丸めた。
「アスラン……ゴメン、ゴメン……!!!!僕、もっと君と居たい。君に愛して欲しいよ……!」
本当は昨夜から身体が疼いて堪らないし、アスランが恋しくて触れて欲しくて……ずっと我慢していた。
「もっと一緒に居たいよ……!」
切ない、苦しい、愛してる、全部を込めたキラの言葉は。
あっさりと届いた。
「……判った、今晩は記録を伸ばそうな?」
「へ?」
「アスランさん、一週間も休暇取られてるんですから。キラさんを不安にさせたらダメですよ?」
「え?」
「……キラさん、仕事は俺に任せて後はアスランといちゃいちゃしてて下さい…まさかほんとにアスランが「最後には勝つ」て言った通りになるとは思わなかったです……」
「………い、一週間?」
キラが青褪めてアスランの方を見ると、彼は微笑みかけて「まあ無茶はさせない」と言った。
ただし、「昨日我慢した分は、な……?」と付け加える。
そうだった!!アスランもかなりの負けず嫌いだった……!!と想い出してキラは頭を抱えたが、顎を取られて頬に口づけられたらもう止まれなかった。
自分もアスランが欲しいのだから……!!愛され過ぎるくらいにいっぱい愛して欲しい。
「「わあ………!!!?」」
メイリンとシンの目の前で濃厚なキスを交わして。口づけが解かれてもとろんとしているキラを抱きかかえるとアスランは士官室へと向かった。
ベッドから起き上がれなくなるくらい愛された後。二人の前でキスしちゃったよ…とぼんやりと想い出してキラは赤面した。
後の祭りである。