麦茶の音蝉の声、とか。
外の喧騒、とか。
そんなものは一切消えた。
消えていた。
「……あっ、つ~い!」
「あちぃ~!」
我に返って音が戻ってくると同時に、ふたりして汗だくなことにようやく気がついた。
鉄くんとふたり、荒い息をしながら、おっぱじめる前に準備していたコップを見る。大きめの氷が入っていたように思ったけど、気のせいだったかな。いまや影も形もない。
ガラス製のコップはテーブルに水たまりを作って静かに鎮座している。
どちらからともなく離れて裸のままでそれぞれコップをつかみ、ぬるくなった麦茶を一気に流し込んだ。
ぬるいけど今の俺たちにとってはなによりも美味しい。
「ぷはぁっ」
一気に飲み干してしまった。
そして汗だくで気持ちが悪い。
「……落ち着いてから寮に帰ろっか」
「そッスね。先にシャワー浴びていいッスよ。クーラーつけとくし」
「ん、ありがとね」
散らかした制服を拾って、違和感の残る腰をさすりながら、鉄くんの部屋を出た。
漫画を借りに行くって言う口実で寄った、ご両親が不在中の南雲家。
上がり込み、お茶を準備したところでスイッチが入って盛り上がってしまった。
寮生活となるとやっぱりそう頻繁にふたりきりになることはかなわないから。
仕方ないよねぇと思いながら勝手知ったる南雲家。お風呂をお借りして汗やらなにやらを洗い流す。
こうなることを見越し……いや、期待して。準備しておいてよかった。
(それにしても、ほんとひさしぶり)
心地のいい気だるさ。思う存分、触れ合った充足感。
首筋に散らかされまくったキスマークは汗がひいたら化粧品で隠そう。ゆうたくんに勘づかれなきゃいいけど。
髪の毛は乾かさないまま、鉄くんのいる部屋に戻ればクーラーが効いて涼しい。なんで始める前につけなかったのか……。盛りのついた男子高校生だもん、仕方ないよね。
「お先~」
「うっす。お茶新しく入れたから飲んでて」
パンツだけ履き直した鉄くんは、汗まみれになったベッドのシーツや制服を抱えて部屋を出た。
言われたとおり、テーブルの上には新しい麦茶が涼やかに鎮座している。
───カラン
透明なグラスに、氷がこすれる軽やかな音。その音に腰がぞわりと粟立つ。
「あ~……さっきしたばっかなのになぁ」
またしたくなっちゃったなんて言ったら、さすがに鉄くんにあきれられちゃうかも。
扇風機の前に座り込み、冷たい麦茶を一気に流し込んだ。火照った体が冷やされた気がした。