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    花子。

    @tyanposo_hanako
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    花子。

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    宣伝ツイートで八万字超えとか書いてしまったんですけど普通に数え間違いでした。すみません。

    6月に出したいポケパロ再録の書き下ろし短編前編(単体で切りよくはなってます)。SVに触発されて書いた日和とジュンの出会い編。

    #ひよジュン
    Hiyojun

    ???の日和とジュンが勝負をしかけてきた! 番外編①ここはパルデア地方にある私立アップルアカデミー。世界でも有数の歴史を誇り、全国各地から生徒が集まる名門校である。
    そんなアカデミーの一生徒であるジュンは、広いエントランスの端にあるソファに腰掛けて項垂れていた。
    ジュンの悩みの種は先週から始まった課外授業、宝探しのことだ。この広大なパルデア地方を自由に冒険して自分だけの宝物をみつける、そんな内容の授業にいまいち積極的になれないまま一週間が過ぎてしまい流石のジュンも焦りを覚えているのだが……ジュンが積極的になれない理由こそ正にその『自由に』という点だ。
    これまでジュンは、元ジムリーダーでありアイドルでもあった父親の夢を半ば無理やり引き継がせられ、アイドルトレーナーのトップに登り詰めろ、ポケモンチャンピオンに、それが叶わなくともポケモンリーグ公認の四天王かジムリーダーにはなれ、と道を決められ強制されてきたのだ。突然自由にやれと放り出されても……と途方に暮れているのだった。
    おまけに学園内ではいじめが横行しており、生徒内での格差ができていた。いじめっ子どもが意気揚々と課外授業で外に出払っている今、逆に静かな校内は居心地が良い。そんな理由も相まってジュンの出不精を助長させていた。
    このままでは良くないことはジュンにもわかっているのだが。はぁ、とため息をついて、今日もルーティンワークをこなすべく重い腰をあげる。
    授業を受け、日課であるポケモンや自身のトレーニングを行い……それからテーブルタウン内で路上ライブを行う。
    今日のステージはカフェテリアなどが連なる広場の片隅。どこの事務所にも所属していないジュンには持ち歌など無い、最近人気のアイドルや、父が異様に執着している一昔前のスーパーアイドルの曲を流し歌い踊る。
    反応は毎回芳しくない。音楽好きのポケモンがリズムに乗ってくれれば良い方で、通行人には見向きすらされないことがほとんど。せいぜいが近くのカフェのテラス席に座る人々が退屈しのぎに視線を向けてくるくらいだ。
    そのうえ今日は間の悪いことに、アカデミーのいじめっ子たちがニヤニヤと見物しているのを見つけてしまい気分が悪くなる。授業を受けに戻ってきていたのだろうか。
    (……オレは、こんなもんなのか。こんなんじゃ……もっとオレを見てくれ、オレの歌を聞いてくれ、もっと、もっと……誰か、)
    努力すれば必ず実るとは思わないけれど。幼い頃から人並みの青春や幸せをかなぐり捨ててまで戦ってきたのに、それでも現実というものは厳しい。
    ジュンの笑顔とは呼びきれない強ばった表情が悔しさで更に歪みかけた、その時。
    「面白そうなことをしているねっ! ぼくも混ぜて!」
    「は、はぁ……っ!?」
    突然、ジュンの横に見知らぬ男が乱入し、音楽に乗って共に踊り始める。唖然としているうちに振りがあやふやになってしまったジュンを数少ない観客から隠すようにターンしながら前へ出て、ジュンの頭のほうへと腕を伸ばす。咄嗟にそれを避ける形をとったジュンは気付く、今の自分の体勢が次の振り付け通りの形であることに。
    (踊りながらオレの動きを矯正した……っ!?)
    まだ曲の途中でしょう、パフォーマンスを止めない! すれ違いざま耳元で囁かれ慌ててダンスに戻る。ふと顔をあげると心なしか、こちらに視線を向ける人の数が増えているような。
    必死で歌い踊りながら、横目で謎の乱入者を観察する。身にまとっているのは赤地にアイボリーのチェック柄スラックスに薄いグレーのシャツ、ジュンと同じアップルアカデミーの制服だ。長身に、ふわふわと風に舞う若草色の髪。こんな目立つ生徒がいれば嫌でも目に入ると思うのだが。
    ジュンの視線を感じたのか男がくるりと振り向いてウインクをひとつ。ようやくしっかりと見ることのできたその顔に、嫌という程見覚えがあった。何故、この男がこんな格好でこの場所に。
    「あ、あんた……」
    「きみ、笑顔が固いね! そんなんじゃあお客様を楽しませることはできないね。ほら、こうやるの」
    見本とばかりにピカッとアイドルスマイルを炸裂させたその男は、華麗にターンを決めてジュンと共に曲の終わりのポーズを決める。明らかに数の増えた観客たちの拍手喝采が鳴り止むと、男はジュンのマイクを奪って大きく手を広げながらぐるりと広場を見渡した。
    「はいはい注目〜っ! パルデア地方のみんな、こんにちは! ぼくが誰だかわかるよねぇ、さぁ! みんなでいくよ、せーのっ」
    『良い日和〜!』
    観客や、マイクパフォーマンスで男の存在に気付いた通行人たちが揃って歓声をあげ、遠くにいた人々も駆け寄ってくる。この顔。この決め台詞。
    トレーナーの研究をしていれば嫌でも情報が入ってくる人物。今をときめくアイドルであり元四天王。同年代では最強と謳われるトレーナーの一人、ジュンの目指している存在そのもの。
    「バッチリだね! そう! このぼくこそが! 巴日和だね! そして、今日の素敵なコラボレーションのお相手は〜?」
    「……うぇっ!?」
    日和はにこやかにジュンにマイクを向け、自己紹介を促しながら名前を聞き出そうとしている。コラボレーションだのなんだの勝手に乱入してきて勝手なことばかり。しかしこの好機を逃す手はない、今はジュンに興味が無いであろう日和のファンたちでも、存在を知ってもらえさえすれば未来のファンになってくれるかもしれない。
    「さ、漣ジュンです! 読みにくい名前ですけど、是非覚えていってください」
    ジュンは日和からマイクを受け取るとしっかり自分の名を宣伝する。それを見てうんうんと満足気に頷いて、日和はマイクに入らないよう小声で次の指示を出す。
    「貪欲な子は嫌いじゃないね。さぁジュンくん、次の曲を流して。聞いている限りどうやら流行りの曲のコピーをしているみたいだったし……一曲くらいぼくの歌も入っているんじゃない? まぁ無いなら無いでどんな曲でも踊りこなしてみせるけど!」
    日和の乱入により、ジュンの路上ライブだったはずのものは一瞬で巴日和のゲリラライブへと変わってしまった。求められているのは巴日和の曲だろう。そして実際、日和の言う通り一曲だけプレイリストに入っている曲があった。陽光に照らされた素晴らしき日々を歌った底抜けに明るい曲が。
    今のジュンにはその曲を観客に魅せられるほどの感情や表現の引き出しが無い。それでも迷っている時間は無かった、観客たちが、日和が期待の眼差しでこちらを見つめているのだから。
    「……あぁクソッ、やってやりますよ! みなさん、次の曲はこれです! 巴日和で───」





    「あっははは! と〜っても楽しかったね!」
    「GODDAMN! どこがだ! あんた目当てに人が押し寄せて、命からがら逃げてきたとこでしょうが!」
    たった十数分の短いライブであったのに、終わる頃には噂を聞きつけた日和のファンで広場は埋め尽くされており、熱狂に瞳をギラつかせたファンがサインや握手を求めて迫ってこようとしたところからどうにか日和の手を引いて路地裏へと逃げ込んだのだった。
    「ぼくは大人気だからねっ! きみもなかなかいい声だったね、ダンスも笑顔もまだまだだけど! それより、制服であんなに激しく踊っちゃったしシャワーを浴びて着替えたいね。きみもアップルアカデミーの生徒だよね? ぼくをアカデミーまで連れて行って」
    「は、何でオレが……」
    「だぁって、ぼくはつい先日ここへ来たばかりの短期留学生でこの辺の地理なんかなーんにも知らないからだね! きみがぼくを引きずって逃げてきたんだから、責任もってぼくを案内すること!」
    「う……わかりましたよぉ〜っ」
    逃げる原因を作ったのは間違いなくこの日和なのだが……ジュンにも恩恵があったことも間違いないので、そのくらいはしてやるかと文句を飲み込み、なるべく人目に付きにくい道を選んでアカデミーへ連れていく。
    道がわからないというのにジュンより前を歩いて物珍しそうに街並みを眺めている日和を見て、ジュンは数ヶ月前に見たニュースを思い出していた。
    彼の所属していたポケモンリーグが突然解散し、メンバーを大幅入替え。その際に四天王の座から降りた日和は、アイドルとしてもポケモントレーナーとしてもメディアへの露出を控えているようだったが、まさかアップルアカデミーに留学とは。今更学校から教わることがあるのかどうか疑問なくらいだが……天上人の考えることは、わからない。
    「ところで、きみはアイドルになりたいの?」
    「はい。アイドルトレーナーって言うんすかねぇ……いつか必ずアイドルとしてもトレーナーとしてもトップになってやる。まだまだあんたの足元にも及ばないでしょうけど……絶対に並んで……いや追い越してやりますから」
    「へぇ……?」
    日和は上から下までまるで品定めでもするようにジュンをじっくりと眺める。それまでのお喋りが嘘のように無言で、愉快そうに目元を細めて。
    こんな輩には無理だと馬鹿にされているのだろうか。だとしても、いちいち相手にしても仕方がないことを知っていた。ようやくアカデミーが見えてきたので、これ幸いとばかりに話題を変える。
    「……ほら、着きましたよ。寮までの行き方は流石にわかりますよねぇ」
    「うん、ご苦労だったね」
    門をくぐってエントランスに入る。ジュンも寮に戻るつもりでいたのだが、会ったばかりの人間に部屋を知られるのはなんとなく抵抗があった。先にもうひとつの日課であるポケモンたちの特訓をしに行くかと別れの言葉を告げようとしたところで、ふと受付のところにこのアカデミーの校長であるクラベルが立っているのを見つけた。校長は二人が入ってきたことに気付くと、ほっとしたように表情を綻ばせゆったりと近付いてくる。
    「あぁよかった、日和さん。広場にファンが詰めかけていると噂になっていたので心配していたのですが、無事に帰ってこられてなによりです」
    「校長先生、遅くなってごめんね。ぼくは愛されているからねぇ、ファンの子たちがなかなか諦めてくれなくて困っちゃったね♪ そこのジュンくんが裏道を使って連れてきてくれたんだよね」
    「あぁ、日和さんを案内してくれてありがとうございます。一緒にライブをしたのだとか。さっそくご友人になったのですね」
    「そんなんじゃねえですよ、この人が突然乗り込んできただけで……案内もただの成り行きです。なんか約束があるみたいですし、オレはそろそろ……、」
    「ああ、少々お待ちください」
    クラベル校長はジュンを引き止めると、三つのモンスターボールを取り出して見せた。中身は言われずともわかる、アカデミーに入学した生徒に与えられる最初のパートナー候補となるポケモンたちだ。
    「実は今から日和さんにポケモンを選んでもらうところなのですが……ジュンさんは入学時に既にパートナーを連れていたので選んでいませんでしたよね。良かったらこの機会に一緒に選んでみてはどうですか?」
    「えっ……あ〜、そういやそうでしたねぇ……」
    ジュンのような例も少なくないため選択は自由なのだが、せっかく声をかけてもらったのだし、路頭に迷っている今、何かのきっかけになるかもしれないとジュンはコクリと頷いた。
    クラベル校長がモンスターボールを床に放ると飛び出したパルデア地方の最初の三匹、ニャオハ、クワッス、ホゲータ。みな仲がいいのか、ボールから出されるや否やじゃれあい始めている。
    そんな三匹を日和は興味深そうに吟味していたが、その視線に気付いたのか一匹がトコトコと日和の方へ近付いてきた。
    「おや、ぼくに興味があるの? それじゃあぼくはこの子にしようかな。おいで、ニャオハ」
    「はにゃ!」
    ニャオハはすぐに日和に懐いたらしく、腕に抱き上げられて嬉しそうにしている。日和も新たな仲間との出会いに微笑みながら若草色の柔らかい体毛に顔を寄せた。
    「さぁ、次はジュンさんの番ですね。もしジュンさんもニャオハが良ければ控えの子を連れてきますよ」
    「うーん……手持ちとの兼ね合いもあるんで、ちょっと図鑑で調べてもいいっすか?」
    「もちろんです。じっくり選んでください」
    ジュンはポケモン図鑑を取り出して最初の三匹の情報を調べ始めた。特性や使える技、進化系まで念入りに。今はそれぞれ単体タイプだが、進化すると新たなタイプが加わることがある。どんなタイプにも対応できるよう、なるべく違うタイプのポケモンを選びたい。
    今のジュンの手持ちは悪タイプのグラエナに、格闘タイプのゴーリキー。ニャオハとクワッスは進化するとタイプが被ってしまう。となると残りは……と調べたホゲータの進化系の説明文につい目を惹かれた。
    「……へぇ、こいつ進化すると歌うようになるんすねぇ。タイプ的にも被らなさそうだし、校長先生、オレこいつにします」
    「ほげわ〜♪」
    ジュンに選ばれ嬉しそうに身体を揺らしながらぽてぽてと寄ってくる。マイペースそうだが、なかなか愛嬌があり自然と頬が緩んだ。
    「ふふ、そんな理由で選ぶなんて……きみ、歌が大好きなんだねぇ」
    ニャオハを抱いた日和がジュンの隣に立ち、微笑みかけてくる。これでもアイドル志望なんで、と頷くと、ジュンはホゲータをボールに入れた。
    「そんじゃ、オレはさっそくホゲータの特訓をしてきます。……またどこかで」
    「うん、またね」
    願わくば次はあんな広場ではなく、もっと大きなステージやバトルフィールドの上で。そんな意味を込めてぺこりとお辞儀をしたジュンに日和はヒラヒラと笑顔で手を振って返した。



    「……ふふ。あの子……気に入っちゃったね」
    「留学初日からいい出会いがあって、校長としても嬉しい限りです」
    ジュンの背中が遠ざかっていくのを見送って、日和はつい独りごちた。それを聞いたクラベル校長は嬉しそうに返し、そして少し考えたのちに、神妙な表情で日和に語りかける。
    「短期留学生のあなたにこのようなことを頼むのもどうかとは思うのですが……もし良ければ、少し彼のことを気にかけてあげてくれませんか」
    「うん? 彼、なにかあるの?」
    「……課外授業が始まって一週間ほど経つのですが、あまりテーブルシティの外へ繰り出そうとはしていないようなのです」
    真面目に授業を受けてはいるし、日課の路上ライブやポケモンバトルの特訓も精力的におこなっている。そんな生徒が何故この課外授業に消極的なのかわからない。そのうえどうにも大人に対して不信感のようなものがあるらしく、どの教師にも相談している様子がない。
    生徒同士なら教師とは違ったアプローチができるかもしれない。クラベル校長自信が生徒に扮装し……という作戦も考えてはいたのだが、そんな時にジュンと同年代のアイドルトレーナーというより近い立場にいる日和の留学が決まった。日和ならばジュンの悩みにも広く寄り添えるかもしれない。
    「ジュンさんにも課外授業に参加し、彼だけの宝物を是非見つけてほしい。そのために、どうかお願いできませんか」
    クラベル校長の託した願いを、日和はしかと受け止めた。どの道ジュンには個人的に用事もある、そんな日和つぶやきを聞いてキラリとクラベル校長の眼鏡の奥の瞳が光る。
    「もしや『例の件』でしょうか」
    短期留学の件とともにアカデミーに申請しているとある計画、日和のもうひとつの目的。日和は無言で笑みを深め、肯定を示して見せた。
    「ジュンさんはバトルもお強いですし志も高い生徒です。私からも推薦させていただきますよ」
    「へぇ……楽しみだね。そういえば、ホゲータの特訓をするって言っていたね……寮に戻るつもりだったけれど、追いかけてみようかな」
    「それが良いでしょう。ですが学生の本分は学業ですからね。日和さんもお仕事のこともあるでしょうけれど、一ヶ月の課外授業体験が実り多きものになることを願っています」
    クラベル校長と別れ、ジュンの出ていった扉からアカデミーの外へ出る。すっかり日が落ち、夕焼けから夜へとグラデーションを描く空には一番星が瞬き出していた。
    日和は荷物の中にしまっていたゴージャスボールからポケモンを呼び出す。音もなくふわりと着地したのは、てんたいポケモンのゴチルゼル。四天王になった時から共に戦ってきたポケモンだ。
    「ゴチルゼル、未来予知でぼくとあの子がこれから出会う場所を教えて」
    その命令にゴチルゼルは首を傾げた。日和とは基本的に未来を知りたがることは無かったから。
    「ふふ、そうだね、わかってる。だけど早く見つけたくて仕方がないの」
    出会えることは間違いない。何故ならどんな手を使ってでも探し出すつもりでいるからだ。だったらあてもなく探し回って時間を浪費するよりも、少しでも早くその場所に向かいたかった。
    ゴチルゼルが映し出したのはアカデミーの校舎裏。日和は柄にもなく全速力で駆け抜けて、予知された場所へ辿り着く。そこでは悩ましげに眉根を寄せたジュンが、手持ちであろうグラエナと先程仲間に加わったホゲータとのじゃれあいを見つめている。
    うきうきと楽しそうに体当たりを繰り出すホゲータに対して、グラエナはやや困った様子でちょいちょいと前脚でちょっかいをかけるようにホゲータを引っかいている。立派なグラエナだ。おそらくレベルはなかなかに高い。あまりのレベル差にどこまでの力を出していいのか戸惑っているのだろう。
    日和は乱れた髪を手ぐしで整えると校舎の影から出てジュンに声をかけた。
    「そのホゲータの相手をするには、きみのグラエナは育ちすぎているね。もっとレベルの近い……たとえば、ぼくのニャオハとかはどう?」
    「あ、あんたさっきの……こんちゃっす」
    砕けた挨拶を返したジュンは、日和の指摘を自分でもわかっていたようで、ですよねぇ……とつぶやいた。
    「あんたの提案はありがたいっすけど……なんでまたオレに構うんすかねぇ〜っ? 暇なんっすか?」
    「さっきあんなに楽しくライブをした仲なのにっ、寂しいことを言わないでほしいね。せっかく知り合ったんだからぼくはきみと仲良くなりたいね」
    「仲良く、ねぇ……?」
    「お近付きの印に、そうだね……ちょっとぼくと本気で勝負してみない?」
    「……は?」
    「ほら、早く! もっと離れて離れて!」
    ジュンの返事を待つこともせず日和はジュンの背を押して草むらの向こうへ追いやった。その位でいいね、と提示したその距離はおよそポケモンリーグで定められた公式バトルフィールド分ほど。
    更にニャオハをボールから出すと、ホゲータと共に見物をしているよう言い渡した。
    「この子たちへのお手本も兼ねて本物のポケモンバトルを見せてあげるついでに……きみの今までの努力の成果をこのぼくが見てあげる。光栄に思うといいね」
    またしても勝手なことを。ジュンが文句を言う間もなく、日和はこれまたやはり勝手に決めたルールを説明し始める。
    「使用ポケモンは二体! 交換も有りだね。どちらか二体とも戦闘不能になった方の負け。それじゃあ……準備はいい?」
    「GODDAMN! わかりました、望むところ……っす、よ、」
    こうなればヤケだ、とボールを構えたジュンはハッと息を呑む。ビリビリと空気が震えるような感覚。背筋が凍りそうな程の緊張感。底冷えするような冷徹な瞳。口元に笑みを浮かべてはいるが……それは常とは異なる絶対的強者の表情。
    バトルフィールドの向こう、今ジュンと対峙しているのは……紛れもなく、元四天王の巴日和だった。



    「……嘘だろ」
    ジュンの二体目、最後の砦のグラエナが倒れていくのを唖然として見つめる。
    エスパー・ゴーストタイプ使いである日和が繰り出したムウマージに対し、一体目のゴーリキーは自慢の格闘技が振るえずに、奮闘したものの押し負けた。
    あくタイプのグラエナは相性は良かったはずなのに、実際中盤まではしっかりダメージを与えられていたのに、日和は顔色ひとつ変えることなくフェアリータイプのサブウェポン、マジカルシャインで逆転してみせた。
    「あっはははは! まだまだ詰めが甘いね!」
    「グラエナでも歯が立たねぇなんて……強すぎんだろ」
    「相性で有利だからと油断したね。でも……バトルの素質は無くはないね。まだまだ荒削りだけど、磨けばきっと光るね!」
    「……ッス」
    日和はそのままジュンの戦法の改善点を指摘し始めた。ゴーリキーにはゴーストタイプ対策として炎のパンチなど他のタイプの拳技を、グラエナは主戦力だけあってよく育てられているので技の威力を更に上げることのできる道具を持たせるべき、他にも指示の出し方やバトル中の視線の動かし方まで。ひとつひとつに説得力のあるそれらをジュンは真摯に受け止めた。
    ふと気付けば、ホゲータとニャオハも大迫力のバトルに感動したのか自主的にバトルを始めている。まだじゃれあいの延長の取っ組み合いのようではあったが将来有望だ。
    しかしもう夜も深まり、明日へ備えるべき時間だ。名残惜しそうな二匹をボールに戻し、寮への帰路へ着きながら日和は口を開く。
    「ねぇジュンくん、ぼくは明日から課外授業体験でテーブルシティの外へ旅に出ようと思うのだけど、きみはどういう過ごし方をしているの? 参考までに聞かせてほしいね」
    「……う、」
    日和がクラベル校長の名を出さずあくまで純粋な興味として質問を投げかけてみれば、予想通りジュンは言葉に詰まった。うん? と無邪気を装って首を傾げると、ジュンは諦めたようにひとつ溜息をついて、この課外授業に対する悩みを打ち明け始めた。
    自由と言われると途端に身動きが取れなくなる。自身の生い立ちと境遇の話を織り交ぜながらぽつりぽつりと零される不安を、日和は静かに相槌を打ちながら耳を傾ける。
    合点がいった、ジュンが何故この課外授業に消極的だったのか。そういえば聞いたことのある苗字だと思ったのだ、どこかの地方の元ジムリーダーでアイドルトレーナー。自身の夢を息子に託し、そのような厳しい指導をしていたとまでは流石に知らなかったが。
    「そうだったんだ。それに……いじめっ子、だっけ。ライブの時にこっちを睨んでる子たちがいたよね、あの子たちもその仲間?」
    「うお、あんだけ人がいたのによく気付きましたね。あんたと知り合いだって思われてるだろうから、紹介しろ〜とか言って絡んでくるかもしれませんねぇ……」
    「思われてる、じゃなくてもうとっくに知り合いだよね!」
    「めんどくせぇなぁ……」
    いじめっ子がなのか日和がなのかどちらともつかない嘆きをこぼしながらジュンはガシガシと頭をかいた。
    「いつからなの?」
    「……入学からです。ちょっと言い返すだけで律儀に上のやつらまで呼んで報復しに来るんですよ。子分になれば許してやる〜とか言ってさ……バッカじゃねぇの、んなことしてあいつらと同じに成り下がるなんて冗談じゃねぇってんですよぉ〜。そんで売られた喧嘩を買いまくってたら目ぇ付けられちまって」
    「……なるほどね。きみは気高くて、真面目ないい子だね。けれどそれだけで渡っていけるほど器用ではない。きみは正直に真正面から戦おうとしているけれど……直接手を下さずとも相手を打ち負かす方法なんて、いくらでもあるね」
    「……っ?」
    そんな言葉が飛び出てくるとは思わず、ジュンは訝しげに眉をひそめて隣を歩く男の顔を見た。どこか遠くを見つめるように前を向いて目線の合わない日和は何を考えているのかわからない。
    いつもの笑顔はなりを潜め、先程対峙した強者の表情とも違う、何か、ジュンには形容しがたい感情の張り付いた真顔。理解の及ばない別の生き物を前にしているような気すらして、薄らと恐怖心が……、
    「そうだ! この課外授業でジムバッジを八個集めて、チャンピオンランクの認定試験に合格すればいいね! きみの目指す方向性とも一致しているし、いい考えだと思わない?」
    「は、はぁっ!?」
    ……浮かんだのもつかの間、日和は急に人が変わったかのようにパッと花のような笑みを浮かべてとんでもない提案をしてきたものだから、驚きでジュンの声が裏返る。
    確かに、肩書きというものはそれだけで強力な武器となる。しかしパルデアのジムチャレンジは経験豊富な大人のトレーナーでも苦労する難関だ。そりゃあジュンだっていずれはと思っているが、いきなりハードルが高すぎる。
    「悩んでる暇なんて無いと思うけどね。このぼくを超えてトップアイドルトレーナーになりたいなら」
    怯むジュンを見透かしたように、日和は挑発的な笑みを浮かべる。
    先刻のバトルで、自慢のポケモンたちがまるで歯が立たなかった。やるべきことは山積みで、時間はいくらあったって足りない。それなのに今この機会を逃して動かないままだったら、きっと何も変わらないまま燻って過ごすことになる。それだけは予想がついた。
    「……そっすね。こんなところで足踏みしてるわけにいかない。あんなやつら軽く跳ね除けられるくらいにオレがもっと強くなればいい。……やってやりますよ」
    日和はその返答に、良い心意気だね、と満足気に口元を綻ばせる。ジュンの決意に燃えた目を見て、日和の中にも燃え上がる想いがあった。
    (……ほしい、この子が。このぼくの手で磨いてみたい)
    誰に見向きされなくとも懸命にパフォーマンスするジュンを見た時の直感に間違いは無かった。歌もダンスも、ポケモンバトルも、とてつもない輝きを秘めた原石を見つけてしまったのだ。高揚感と思いの丈を全部込めた大声で、日和は高らかに宣言する。
    「それじゃあさっそく明日、十時にここを出発しようね! ああ、学食でブランチを食べてからにしたいから九時ぐらいにはぼくの部屋に迎えに来てね!」
    「なっ……はぁっ!? あんたも着いてくるのかよ!?」
    「きみを見守るのもけっこう面白そうだしね! あときみにはぼくの道案内をしてもらわなくちゃならないし……」
    「勝手に決めないでくださいよ、お友達作りのつもりっすか? 悪いっすけどオレは……」
    「きみに拒否権は無いね! ぼくが誘っているんだから、ここは咽び泣いて喜ぶところでしょう?」
    そのあんまりな言い分にジュンは呆れ返って言葉を失った。そういえばプロフィールによればこの巴日和という男、大財閥の御曹司であるらしく、つまりこの貴族気質は産まれついてのものなのだろうとため息をつく。
    「このぼくが直々に、バトルもパフォーマンスも手取り足取り教えてあげる。きみ一人で特訓するよりも何倍も早く、何倍も高みへと押し上げてあげるね」
    「……っ」
    それを聞いてゴクリと息を飲み込んだジュンに、日和はスっと右手を差し出す。握り返してきた手は思った通り、よく鍛え上げられた手だ。
    捕まえた、と思った。握りしめて、離さない。
    「それじゃあ、明日から一ヶ月間よろしくね」
    「ウス。こちらこそ、よろしくお願いします」
    いつの間にか寮の入口だ。明日からとうとうこのテーブルシティを旅立つことになるのだ、とジュンはなんだか感慨深い気持ちになる。日和ほどの実力者に面倒を見てもらうのだ、迎えや道案内くらい言うことを聞いてやろう、と口にはしないが心に決める。
    フワフワとした心地で曲がり角で日和と別れ自室へと向かい始めたジュンは、はた、とあることに気付き足を止める。
    「……いや、っつうかあいつの部屋どこだよ!」
    慌てて寮の廊下を駆け戻っていくジュンはまだ知らない。とんでもない人物に見初められてしまったこと、そして、この出会いが人生の転機となることを。
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    Replies from the creator

    花子。

    MEMOひよジュンゲームブックの余談というか、書いた感想です。
    そんなに大した話ではないですが、こんなこと意識した〜とか、ここ気に入ってる〜とか、インスピレーション元の別作品や国などちょっとした話をまとめました。ふーんと思って頂ければ幸いです。
    とても読みづらいです。
    ゲームブック余談番号で書き進めています、行ったり戻ったりが激しいです
    ルート分岐図かpixivを見ながらでないと何言ってるかわからない不親切仕様です、すみません


    ・ゲームブックにした理由
    最初はゲームブックじゃなくて普通に一本道の、色んな国から国へ逃げていく話を書いてたのですが……けっこういろんな話を思いついて
    私どちらかというと、二人がなんらかの関係に至るまで、付き合うまでの過程が主食でして
    だからいろんな逃げるパターンを書くのが楽しくて筆が乗ってきたら、いろんな再会のパターンができてしまった
    再会って一回がいいじゃないですか。ひとつの物語の中では。また逃げて再会して〜を繰り返してもいいけど……
    あと、再会させたいという気持ちと、二度と会えなくてもお話として美味しいな……の気持ちがぶつかり、それも両立はできないので、じゃあいっそ分岐にするか!と
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    花子。

    MOURNINGタイトルとは裏腹に暗め。完結まで書いてませんが一応ハピエンのつもりです。
    両片想いひよジュン♀に酒の間違いで子供が出来てしまいジュンちゃんが逃げる話。子どもも出ます、オリジナルで名前も付けてます。途中からただのプロットになります。何でも許せる人のみどうぞ。
    一年くらい前からちまちま書いてたんですけど、地の文をつける気力がなくて完成するか謎なので……
    ひだまり家族ジュンくん、こっちにおいで。
    家の集まりだか何だかで珍しく酒が入って酔っぱらったおひいさんがマンションを訪ねてきたかと思えば、やや不機嫌そうな声で私を呼ぶ。おいでって……ここ、私の部屋なんすけど。まぁこういう時は下手に逆らわないに限る。
    相当飲まされたのか、ちょっとフラフラしてる。ミネラルウォーターのペットボトルだけ持って大人しくついて行くと、そこは寝室で。
    ああ、眠いんすかねぇなんて……何の危機感も抱かずにおひいさんの後に続いてのこのこ入る。扉を閉めて振り向いた瞬間、力強く腕を引かれてベッドに引きずり込まれた。ベコッと投げ出されたペットボトルが床かどっかに当たってへこむ音がする。服の上から胸のふくらみを撫でられて、何をされようとしているのか察した私は慌てて腕を振り回す。
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