愛着、湧いてしまった「〜〜あー、またダブった!」
悔しそうな声に聞き覚えがあり辺りを見回しふと目に止まったのは、テレビ局のグッズが売っている売店の片隅にこれまた見覚えのあるオーバーサイズのジャケットにキャップを被っている男性の姿でそれが誰と認識するよりも先に彼の元へ足が動いていた。
「……百くん?」
「──へ? あ、おはようございます!」
しゃがみ込んでいた彼を覗き込むように伺えば、こちらを見上げてぱちくりと瞬きをして弾ける様に立ち上がって挨拶をしてきた。学生時代に打ち込んでいた体育会系の癖は抜けないらしい。所属していない部活の先輩になった気分になって思わず苦笑が零れた。
「何してたの?」
「あ、これはですね」
1歩下がって避けた先にはガチャガチャの筐体が並んでいた。動物のラバーキーホルダーのものでそのうちの1つ、毛足の長い猫を指差しながら嬉々とした声を上げた。
「これ、ユキに似てません?」
「んー……言われてみれば?」
真っ白い毛足の長い猫が眠そうな顔をしながらいわゆる香箱座りをしている物だった。
「ひと目見た時からど〜〜してもこの子が欲しくて! ここに来る度に回してるんですけど全然出なくて」
「あー、」
「遂にはこの子以外は全部揃っちゃって……もうちょっとヤケクソになってきてます」
ほら、と広げた手の中には今ほど回した分のキーホルダーがあった。犬と狸と犬。
百曰く、他のどこを探しても同じ筐体は見つからずここにしか無いらしい。それでも彼なりに買い占めはしない、このテレビ局に来た時に手元の財布にある小銭の分だけ、とルールを決めている様で今日も見事に惨敗したそうだ。
自分の事務所のナギが似たような事をしていたのが記憶の中に蘇ってきた。見かける度にガチャガチャを回していて、結局他のメンバーが見事に引き当てて大喜びをしていたのをまざまざと思い出した。
財布を取り出して小銭入れを開ける。手持ちの小銭を眺めて改めて筐体を確認する。1回300円。丁度100円玉3枚を見つけて取り出して財布を仕舞うと筐体の前にしゃがみ込んだ。
「どれどれ」
カコン、カコン、カコン。お金を投入してハンドルを回すとコロン、と青色のカプセルが落ちてきた。
「え、え、まさか……」
カプセルの色を見ただけで百が動揺し始めた(後で聞いた話だが今の物はカプセルの色で中身が解る物も多いらしい)。硬く閉じたカプセルをなんとかこじ開けて出てきた中身に百がわぁと歓声を上げた。
「バンさん 凄い、一発で!」
「あはは、たまたまだよ。百くんがもう1回回してたら出てたんだし」
カプセルの中から千に似ていると言う(そう言われるとだんだん似てる気がしてきた)猫のキーホルダーを取り出すとはい、と彼の前に差し出した。
「え、えぇ、も、貰えないです!」
「じゃあ、さっきのもう1回見せて」
「さっきの……」
これですか、とジャケットのポケットの中から取り出した先ほど彼が回した分のキーホルダーが再び彼の手の中に広がった。その中から2つある犬のキーホルダーを1つ手に取ってそこに猫のキーホルダーを置いた。
「交換。これでいい?」
「で、でも」
「俺こっちの方が良いから。ね?」
「じゃ、じゃあ……ありがとうございます!」
言いくるめられたものの内心やはり嬉しいようで猫のキーホルダーを撫でながらどこ付けようかなぁ、と呟く声は喜びに満ちていた。
万理も交換した犬のキーホルダーを改めて眺めた。黒い柴犬がニコッと笑っている物でどこか既視感を覚えて少し視線を反らせば似たような笑みを見つけてなるほどと納得した。
「俺も、どこに付けようかな。お揃い、だね」
自分の手元と彼の手元を交互に指差せば「お揃い……」と呟いた彼がみるみる真っ赤になっていって思わず顔が綻んだ。
「あ、それってガチャガチャのやつ?」
番組収録の合間にひと息つこうとソファに腰掛けると、千が机の上に置いてあった百の鞄に付いているキーホルダーをツン、と突いた。
「へへ! 可愛いでしょ」
「うん、可愛い。確かそれいつもここに来る度に回してたやつだよね? 今日来たらもう無くなってたみたいだけど」
「そう! そうなんだよー! でも欲しかったの手に入ったから大丈夫!」
「なら良かった。……あれ、モモが欲しいって言ってたのって猫じゃなかった? 確か僕に似てるって言ってた」
そう言いながら白い指先が黒い柴犬の姿をしたキーホルダーの頭を撫でた。どっちかと言うとモモみたい、とぽつりと零しながら。
「うん? ……ああ! そうそう! 猫は今大事に家でお留守番してるよ! なんかこっちも愛着湧いてきちゃってこっち付けてたんだ」
ほら、可愛いでしょ! と生きてるみたいに動かせばその動きがツボに入ったらしく肩を揺らしして笑っていた。
「(あんな事言われたら、こっちの方が愛着湧いちゃうよ……)」