画面の中から最近何故か凛子の送ってくる情報が送られてくるのに付随して重要な情報が容易に手に入るようになった。それらの情報に助けられたことは一度や二度ではない。だが、あまりにも都合が良すぎる。この異様さはどうやらスマホが原因のようだった。
「便利だがウイルスか…いやこれは………よし消すか」
霊視して見てみると、薄っすらとスマホに重なるように影が映る。少し悩んだ後、機内モードで電波を遮断し、スマホ裏に捕縛用の御札を貼り付けた。
これが電波を介して取り憑くものならば、スマホに閉じ込め初期化するフリをすれば何かしら行動を起こすだろう。
「初期化ってどうやるんだ?」
操作に手間どっていると、画面が砂嵐がかかったようにブレはじめた。
「あったあった、コレか?」
「わーーー!待ってー!!!」
画面からズルリと何かが飛び出してくる。落としたスマホから全身が出てくると、御札から縄が伸びて体をがっちりと縛り地面に転がした。
黒い狐だ。少し変わった成りをしているが、以前仕事で遭遇した神使に似た気配があるからそういった類のものだろうか。入れ墨なのかわからないが、コロコロと忙しなく変わる数字が奇妙だ。
「…やっぱりなんか入っていやがったか」
「いてて…」
「それで?オレのスマホで何してた、見たところ狐みたいだが」
「えっと…ゴメンナサイ…悪い事はしてないんだけど」
「人のスマホに入っておいて?」
「…すみません」
捕縛されたまま土下座する黒狐を仁王立ちして睨み下ろすと、耳に光る数字が瞬いた。
「前に、僕の神社を運営するサーバーのある会社を助けてくれたのを見てて…何か助けになりたくて音声ナビのフリして道案内したり、朝のアラームをかけ忘れていたら代わりに鳴らしたり、AIコンシェルジュのフリして情報収集してメールに残してました…」
「あれ全部オマエだったのか!?情報メールだけじゃなかったのか!?」
「僕です…」
「オマエなんなんだ…?」
狐は待ってましたと言わんばかりの顔で体勢を土下座から正座に直し、こちらを見上げてにっこり笑う。
「インターネット上にある神社の神使の狐です!」
「なんだそら…」
「アンタのお手伝いをしようと思って!押しかけました!サポートも、ちょっとなら戦うのもできるよ!」
「確かにサポートは便利だったがいらねえよ!」
「そこをなんとか!!」
いつの間に縄を解いたのか、自由になった腕で腰にしがみついてくる。剥がそうと頭を押すが力が強く、びくともしない。なんなんだこの狐は。実は戦闘もちょっとどころじゃないんじゃないか、そう思えるほど腕力が強い。
「離せ!いらん!神社に帰れ!そこで仕事してろ!」
「大丈夫!KKのスマホから時々顔を出すから問題ないよ!」
「なんでだよ使うなら通信料払え!」
「いいよ!お賽銭のペイ○イでいい?」
「電子マネー?!やめろ!」
なんとか巻き付く腕を引き剥がし、狐を正座させ手の届かない所まで下がった。叱られたのが効いたのか、もう飛びついてこようとはしなかったが、しょんぼりと伏せた耳がぴるぴる震えている。
「賽銭はやめろ。運営費だろうが」
「…じゃあKKネットカジノとか興味ない…?」
確率操作とかできるよ…?と上目遣いでこちらの機嫌を覗うようにする狐の頭頂部に勢いよく手を振り下ろした。ハッキングするつもりか、この狐は。腐っても神使がすることではない。普通に違法行為である。
コイツ、放っておいたらオレのためと称してとんでもないことをやらかすのではないだろうか。狐のどこか期待した眼差しに頭を抱えてため息をついた。
「オマエな…わかった、オレのスマホに居ていい。通信量もいらねえ。けど交換条件だ、オマエが悪さしないとは限らないからな、行動を縛らせてもらう」
「!いいの!?」
「頼むから大人しくしてろよ。そういえば聞いてなかったな、オマエ名前は?」
「僕は暁人。よろしくKK!」
狐、暁人が勢いよく飛びついた。重さと勢いに耐えきれず後ろに倒れ、尻餅をつく。痛みに呻いて睨みつけるが、元凶は腹に巻き付きにこにこ楽しそうに胸に顔を擦り寄せている。尻尾が左右に揺れて忙しなさそうだ。その様子に怒るのも馬鹿らしくなってそのまま寝転び天井を見上げた。…煙草が吸いたい。
こうして押しかけ女房狐暁人の献身ならぬ、押しかけられ旦那KKの受難が始まるのだった。