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    greensleevs00

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    greensleevs00

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    空ベド。初夜のピロートーク。
    ベドのことを大事に上手く抱きたくて男娼と軽い練習をしてきちゃった空くんと、そんな空くんに寂しさと喜びという矛盾した感情を覚えるベドの話。

    身体 さらりと肌触りの良いブランケットに包まって、自分よりも少しばかり体温の低い体を後ろから抱きすくめて、空は幸福な気分に浸っていた。癖のあるプラチナブロンドの髪が頬を柔らかく撫でるのをくすぐったく感じながら、華奢な肩口に顔を埋める。先までうっすらと汗ばんでいたはずの肌からは清涼でほんのり甘やかな匂いが香ってきた。人の体からこんなセシリアの花を思わせる香りがすることの不思議に打たれながら、空は何度も深く息を吸い込んだ。ようやく初夜を迎えられた満足が、空の全身を隅々まで満たしていた。
    「……ん、そら……?」
     掻き抱いていた体が、まだ眠気を纏った声と共に身じろぐ。空の腕に体重をかけないように寝返りを打ったアルベドは、まだほんの少し瞼が重たげだ。空は自分とそう変わらない体格の体を再び抱きしめて、額に口付けた。一瞬、アルベドの瞼が閉じられてくすぐったそうにするのが可愛くて、空はもう一度唇を落とした。
    「おはよ、アルベド」
    「ああ、うん、おはよう。……ボクはそんなに長いこと眠っていたのかな」
    「いや、三〇分ぐらいだよ」
     アルベドは空の腕の中から部屋の中を見回す。時計は置いていないが、室内の薄暗さでまだ夜が明けてないことを理解したようだった。
     少し負担をかけすぎたのだろうか、と今更のように心配になる。恋しい人の体に初めて触れる喜びに我を忘れそうになりながら、それでも一応の自制はしたつもりだった。――それでも何度したのか、空は数え切れていない。雪のように無垢で、禁欲的なアルベドが自分の名を呼びながら縋りついてくる様は、ほとんど毒に近かった。眼前に晒された白い首に残された夥しい鬱血痕が、空に現実と自制したという自己認識とのズレを突きつけてくる。
    「アルベド、体、痛くない?」
    「……正直に言えば、少し腰が痛い、かな」
    「う、ごめん」
     手を腰まで這わせて、労わるようにさする。こんなことで痛みが良くなるとも思えないけども、アルベドは額を撫でられる猫のように大人しく、ほんの少し目を細めている。それがまた可愛くて、動かす手の目的は途中から変わっていた。
    「空、一つだけ訊いてもいいかな」
    「ん、なに?」
    「キミはその、――ボク以外の人とこういう経験があったのだろうか」
     腰を撫でていた手が思わず止まりかける。すぐさま気を取り直して、掌を肌に押し付けると、ん、と小さくアルベドが呻く。
    「……何でそんなこと訊くの?」
    「不躾な質問をすまない。……ただ、キミはボク以前に付き合った人はいないと言っていたと記憶しているが、今日のキミは何だかこういうことに慣れている感じがしてね」
     アルベドの言葉はそこで途切れた。というよりも、続く言葉をあえて押し込めた、という風だった。恋人がいたことと、性行為の経験があることとは、決して等価ではない。恋人以外の人間と性行為に耽ることだって、この世界にはままあることだ。アルベドはそういう可能性を指摘しようとして、口をつぐんだように、空には思えた。
     実のところ、アルベドの記憶と洞察は正しいものだった。空はこの初夜を迎える前、ごく最近、1人の青年と性的な行為を試みている。こういうの浮気って言うのかな、と悩まないでもなかったが、何の知識も経験もなしに、アルベドに触れるのが怖くてならなかった。
     性的な知識と経験の薄さに悩んでいるのを、うっかりタルタリヤなぞに知られたのが運の尽きだったと言えばそうかもしれない。珍しくパイモンと別行動をしていた夜だった。たまたま道で出会したタルタリヤにしつこく誘われ、ちょっとした意趣返しに自分の財布では食べられないような上等な店で好きなだけ食事と酒を注文し、酔って、うっかり喋ってしまったのだ。
     彼はお会計を済ますと、相変わらず人の良い、だが軽薄な笑顔で空をそういう街へ連れ出した。アルベドを裏切っているようでなかなか踏ん切りのつかない空は受付でぐずぐずしていたが、タルタリヤが女将と勝手に見繕ったらしい若い男娼と部屋へ放り込まれてしまった。軽佻浮薄という言葉が服を着て歩いているようなタルタリヤでも気を利かせるという回路は持ち合わせているらしく、男娼は優しく笑いながら、何をお知りになりたいのです、と艶やかに首を傾げた。折角ここまで来て何も知らずに帰るというのも何だか勿体無いような気がして、結局この男娼には様々な手解きをしてもらった。
     アルベドの指が空の耳に触れ、ピアスを弄ぶ。
    「キミは長らく旅をしているだろうから、当然その間に色々なことがあったのだろうね。……ボクが初めてのように、キミもボクが初めてだと思っていたのだけども」
    「……アルベド、」
    「今、ボクは自分の感情を見定めようとしている。キミの初めてがボクではないことに、ボクは少しだけ落ち着かない気持ちになっている――何故だろうね」
     美しい双眸が、あどけなく空を見上げてくる。空の胸には苦々しいものが広がる。あの晩、タルタリヤに出会う前に戻れたら。自分が、たとえ上手くいかなくても全ての初めてをアルベドと迎える、ともっと潔癖になれていたら。そうしたら、こんな顔をさせずに済んだのに。空のピアスを指先で弄び続けるアルベドの瞳は相変わらず美しく、それでいて手の届かない星空を眺めている時のような色を帯びている。淡い金糸の睫毛が、薄っすらと伏せられた瞼を縁取っている。
     己のピアスにじゃれつく白い手を引き剥がして、己の唇を押し当てる。アルベドの大きくて円い瞳がますます丸くなる。
    「空?」
    「……アルベド、ごめん。俺、アルベドに気持ち良くなってもらえなかったら、もし傷つけたらどうしようって不安になって、他の人に軽く練習に付き合ってもらったんだ」
     掴んでいた手ばかりではなく、全身が強張るのが触れ合った肌から伝わってきた。
    「……ええと、別に俺は本当はそんなことするつもりなくて、知識も経験もないことに悩んでいたら知り合いが男娼相手に教えてもらえって、遊街に連れ込まれて、それで……ごめん、冷静に考えて俺って最低だよね」
     アルベドの顔を見るのが怖くて、思わず目を伏せた。繋いでいた手がゆったりと離れていき、髪に指先の触れる気配がした。それは汗で額に張り付いた髪を拭うようでもあり、優しく撫でるようでもある。
    「ねえ、空、」
    「なに」
    「ボクも練習してくれば良かったかな」
    「え、それは駄目」
     一体どの口が言うのか、と思う前に、言葉が飛び出していた。案の定、アルベドは「論理性の欠片もないじゃないか」とくすくす笑っている。でも、駄目なものは駄目なのだ。アルベドに自分以外の人間が触れるだなんて、想像しただけで胸がむかついてしまう。それに。
    「……俺が初めてなら、俺にアルベドの初めてを見せてほしい」
    「空、その言葉、キミにそっくりお返ししよう」
     ぐ、と空は言葉に詰まる。アルベドの指が金の前髪をくすぐるように掻き分け、額へ唇が押し当てられる。
    「ボクはキミがしてくれることなら、どんなに不器用でも好ましく思えたのに」
     そんな言い方はずるい、と空は思う。そんな風に言われてしまえば、自分もアルベドの慣れない姿を恋しく思っているのだから、アルベドがどんなに自分を愛しく思ってくれてるのか、理解せざるを得ない。もはや発散し尽くしたはずの熱が再び全身の血をたぎらせ、下腹部が火照り始める。絡めていたアルベドの脚がほんの少し身じろぎ、青緑の双眸がじっと空を見据えた。
    「……空、キミの反応は少し素直すぎやしないかい」
    「……だってそんなこと言われたら嬉しいに決まってる」
     空は、先程まで己の熱を収めていた場所へ手をもぐりこませる。二人分の体液で濡れたそこは、ぬるりと生々しい感触とともに空の指を容易く受け入れた。薄っすらと色づいた唇から、ん、と息をつめるような、艶かしい声が漏れる。
    「アルベド、もう一回、いい?」
    「ボクが嫌だって言ったらやめてくれるのかい?」
    「……う、それは、……やめる。アルベドが楽しくないのは嫌だから」
    指を引き抜きかけた刹那、それを追いかけるように内壁が柔らかく収縮し、アルベドの手が空の手を掴んだ。
    「ふふ、冗談だよ。……キミの好きにして」
     白くしなやかな指が伸びてきて、空の頬をくすぐるように撫でる。また飛びかけた理性を掴み直せたのはたかが一瞬だった。解けた亜麻色の三つ編みに指を絡め、薄く笑みを浮かべる唇にむしゃぶりつく。吐息の隙間、唇から喘ぎ喘ぎ溢れる言葉を、空はしっかりとその耳に捉えた。
    ――キミは、ボクの体を他の人間と同じものだと考えてくれていたんだね。
     無言のまま、空は彼の首にある菱形の痕へ口付けた。先につけたばかりの噛み跡が、生々しく赤い。アルベドは人間だよ、と呟くと、ふ、と頭上で笑う気配が淡く漂う。それは喜びとも、自嘲とも判断がつかない。彼が以前示唆した堕落――彼自身が“兄弟”たる魔龍と似たものに化す――の可能性が、空の脳裏で微かな足音をたて、空はアルベドの形を確かめるようにその体を強く掻き抱いた。その自分と変わらぬ輪郭のひとつひとつを記憶に刻み込みながら、束の間の甘美な夢のなかへ空は己の魂を打ち込んでいった。
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    greensleevs00

    DONE #タル鍾ワンドロワンライ  
    お題「花言葉」
    *タルが何気なくあげた花についての花言葉でぐるぐる考えてしまう先生と、そんな先生が何を考えているのか分からなくてもやもやするタルの話。

    タル鍾ワンドロワンライさんがクローズされるということで、2021年11月に投稿したものを記念に再アップ。タル鍾初書きかつ、初めての原神二次創作だった。
    花言葉 夕間暮れ、太陽が寂々と山の端に入りかかる頃、朱の格子から滲むように漏れ出す橙の灯りを、タルタリヤは薄ぼんやりと眺めていた。見慣れ、通い慣れた往生堂の玄関口である。普段ならば悠々とその扉を抜け、奥へ進み、此処の客卿と名乗る男に会いに行く。だが、今夜はどうにも扉へ手をかけるところから躊躇われた。ここ幾日か、鍾離の態度がどうにも奇妙なのである。
     発端と思しき出来事は数日前のことであった。
    「先生、これあげる」
     まるで野良猫が都合の良い投宿先を見つけたかのように往生堂に居つくタルタリヤは、ある日、蝋梅を鍾離の眼前へと差し出した。蝋梅は、古来より璃月で愛でられたきた梅花の一種であり、その名の通り蝋の如き花弁を持つ花であった。寂とした黄金こがね色であり、その長閑な輝きは月の風格に似る。鍾離と異なり、文人墨客的な美学を持たないタルタリヤでも、その璃月の文化的風土の一縷をその身に湛えたような花は、素直に美しいと感じた。
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