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    greensleevs00

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    【空ベド再録】
    空が性的に興奮してしまう実験薬を飲まされて、アルベドを抱くことになる話。和姦。失敗した初夜をやり直す話でもある。
    *直接的な描写はないですが、モブベド要素(強姦)あり。また、アルベドがその性暴力被害について淡々と話します。

    *pixivに2021年2月に投稿したものの再録。

    偏倚の天秤 だから、嫌だと言ったんだ。こんな副作用があるなんて知っていれば、絶対に飲まなかった。
     そんな後悔が溢れんばかりに、空の胸に満ちていく。体が、風邪を引いた時のように熱くて、少し怠い。けれども、風邪を引いた方がまだ幾分も良かった。何故なら、全身の火照りは、病原菌と戦っている体の抵抗ではなくて、性欲のそれだからだ。
     浅い呼吸を繰り返す。内側で猛り狂っている欲望を少しでも発散させて、楽になりたかった。目の前の体にぎゅっと抱きつくと、ひんやりとした体温が伝わってくる。
    「空、苦しいかい?」
     こんな異常状態の人間に抱きつかれても、アルベドは普段通りの涼しい顔をしている。話すのも億劫で、空はこくこくと頷いた。
    「すまない、ここまでキミに効くとは思わなかったんだ」
     天才と名高いはずのアルベドが予想を外すなんて珍しいこともあるものだ、と朧げな頭の片隅で思う。でも、今回ばかりは外して欲しくなかった、と恨めしさが募る。
     今の自分たちの姿と言えば、酷いものだった。西風騎士団本部の片隅にあるアルベドの自室、そのベッドの上で抱き合っている。抱き合っている、と言えば聞こえはいいが、実際は高すぎる体温をとかく持て余した空がそれを少しでも和らげようとして、氷にでも抱きつくように体温が著しく低いアルベドに縋り付いている。
     ベッドに押し倒された格好のアルベドは空の腕のなかで、平然と相手を見上げている。透きとおったターコイズグリーンの瞳は、あくまで実験対象を観察する冷静さを崩さない。
    「……あんまりこっちを見ないで」
     きっと、みっともない顔をしているに違いなかった。欲にぎらついた顔。せいぜい良くてそれを抑え込もうとして苦悶する顔。こんな顔を、アルベドにまじまじと見られたくなかった。
    「だが、見なければ観察できない」
     手がのびてきて、頬に触れる。その手は手袋に包まれてはいたけれども、アルベドの特殊な体温の低さを伝えてくる。は、と思わず息を詰める。もはや冷たくて気持ちいいというよりも、触れられる感覚が体の疼きを刺激して、ただただ辛かった。

     空がこんな事態に陥ってしまったのは、ひとえにアルベドのせいだった。
     珍しく彼が研究拠点としているドラゴンスパインではなく、またモンドの西風騎士団にある工房でもなく、同じ建物内にある自室に来てほしいと呼び出された。訪れたのはもう夕暮れ時で、窓からは朱色の光が射し込んでいた。
     まずは丁重に一杯の紅茶でもてなされ――これはアルベドがいつの間にか空を大切な友人と遇し始めから始まり、曲がりなりにも恋仲となった今でも最初の挨拶として欠かさない――その後、おもむろに次のように切り出された。
    「空、この前言っていた実験に付き合ってほしい」
    「え、本当にするの?」
    「するよ、ほらこっちに来て」
     その日のアルベドは妙に強引で、空が逃げ腰になっているところを背後から抱きすくめ、散らかった作業台の前へと連れて行った。
     この前言っていた実験とは、アルベドが西風騎士団から頼まれている薬品の開発実験だった。彼の弟子であるティマイオスが璃月の錬丹術に興味を持ち、膏肓と呼ばれるある種の薬品のようなものを作ったことに端を発していた。膏肓とは、医術とは異なるものの、いくつかの材料を掛け合わせ、人体に健康的な効能があるとされている気付薬のようなものである。
     医学的に直接人体に作用するというよりも、その香りの良さなどで気分を良くするといった精神性の強いものだったが、これを聞いた冒険者協会がぜひそのような気付薬が欲しい、それがあれば冒険が今より楽になるだろうと言い出した。そこで西風騎士団がその要望を聞き入れ、騎士団が誇る才女リサではなく、何故かアルベドに仕事が回ってきたのである。
     作業台の上からひとつ、小さなフラスコが取り上げられる。その中には、とても人が飲むものとは思えない色をした液体が入って、その水面が静かに波打っている。まず、こんな見た目のものは飲みたくない。改善点一個目、と空は数えた。だが、そんな空の動揺をよそに例のフラスコを眼前に差し出される。
    「今日、キミに飲んでほしいのはこれだ」
    「……本当にこんなもの飲むの?」
    「飲んでくれないと実験にならないからね」
     躊躇いなく、すっぱりと言い切る。
     以前にも、空の生命体としての特質を調べるという名目で、気分が悪くなるという副作用が確定している薬を飲まされたことがあった。あの時は、まだお互いにモンドの首席錬金術師と栄誉騎士でしかなく、こちらが実験体になる以上、安全面を一応考慮したらしい薬を飲まされることに、さしたる抵抗はなかった。
     今は一応恋人なのだから、少しはこちらの体を気遣ってほしい、という気持ちになる。もしかして手軽な実験体として恋人になったのだろうか。いやいや、流石にそんなことはないと、お互いの気持ちを伝え合った夜に見たアルベドの真剣な瞳を思い出す。結局、恋人の体を丁重に気遣うよりは科学的探究の方が彼の中で優先されるのだろう。けれども、それは、決して事故は起こさない、という自信にも裏打ちされているのだろうから、空は諦めてフラスコを受け取って飲むことにした。
     味は、見た目の邪悪さに反してほとんど無味無臭だった。飲み薬としては一応合格点、と心のなかで丸をつける。
    「あのさ、今更なんだけど、これって何か副作用とかあるの?」
    「強い興奮作用がある」
    「……もしかして暴れ回るとか?」
    「破壊衝動よりは性的興奮の度合いの方が高いはずだ」
     え、と間抜けな声を発してしまう。そうだと知っていれば、絶対に飲まなかった。説明なしに飲ませる副作用ではない。
     フラスコの中身を飲み干して数分も経たないうちに、空の体には変化が現れた。まずスープを食した時のように全身がぽかぽかと温かくなり、それから徐々に暑いと感じるまでに体温が上昇していく。夏にはそう感じるように、この熱を鎮めてくれる冷たいものが恋しくて堪らなくなる。
    「空、大丈夫かい?」
     空は作業台の前に立ち尽くしたままだった。その隣へ、気遣わしげにアルベドが近寄ってくる。雪を傍に置かれたように、ひやりとした空気が伝わってきて、気がつけば空はアルベドに抱きついていた。
    「空?」
    「……ごめん、でもいま体が熱くて仕方ないんだ。アルベドに抱きついてると涼しい」
    「キミがそれで副作用をやり過ごせるならば、ボクは構わないよ。けれど、この体勢は少し負荷が大きいからベッドに行こうか」
     そうして、二人で窓際にあるベッドへ倒れ込んだ。性的興奮の訪れは、それから数分も経たない頃だった。

    「空、もう少し興奮を抑えらえるかい?」
    「む、りっ……は、あっ……」
     幼子をあやすように背中を撫でられ、びくびくと体が震える。丁度、三つ編みを掠める位置にある手は毛先までくすぐって、もどかしさを加速させる。目の前の細い体に縋るように抱き着いた。自分だけが情事のような声を出していて、恥ずかしくて堪らない。
    「あるべどっ……」
     ふう、ふう、と獣じみた吐息が漏れる。元々は副作用のせいとは言え、好きな相手に抱き着いていれば、否が応でも興奮は高まっていく。アルベドの太腿に触れた部分から、もう誤魔化せないほど股間の膨らみが大きくなっているのが分かる。このまま脚を動かされれば、その快さを貪ってしまうに違いない。
     今すぐにでも、アルベドを抱きたい。着込んでいる服を脱がせて、その肌に直接触れてしまいたい。そうして、この体の内で荒れ狂う熱情を吐き出してしまいたい。そんな衝動が、腹の底からせり上がってくる。けれども、このままアルベドに触れるには、ある夜の記憶があまりに生々しかった。
     空とアルベドは、一度だけ体を重ねようとしたことがある。重ねようとしたことがある、というのは、その試みが失敗に終わったからだ。無論、合意ではあった。空が性行為を望み、アルベドもキミが望むならと青いシャツを脱ぎ捨てた。だが、空の甘い夢はそこから裏切られていく。その特別な夜のために蓄えた知識――主にガイアに教授してもらったものだったが――は何の役にも立たず、首筋に舌を這わせても、胸を撫でても、アルベドは清潔な瞳を瞬かせるだけで、僅かな声すら漏らさない。体もひんやりとしたままで、いつの間にか空の手は冷え切っていた。
    「すまない、どうやらボクの体は性的な感覚を覚えないらしい」
     良ければ、せめてキミだけでも吐精するかい? その問いかけと共に、萎えきっていた自身に指を絡められる。流石にそれはと躊躇いを感じ腰を引きかけたが、与えられる快楽に抗えず、嘘のような早さで空は達してしまった。アルベドが手を洗う音をベッドの上で聞きながら、空は酷く惨めな気分になった。
     あの日以来、性行為の話題が二人の間に出ることはなかった。空は明確に避け、アルベドはそんな空に合わせて何も言わなかった。ただ、あの日の気まずさと向き合うことを避けて、過去に置き去りにしていた。
    アルベドは、空が望めばきっと拒まない。けれども、待っているのはまたあの夜と同じ光景に違いない。それに、こんな形――アルベドはただ実験を望み、副作用に負けた自分が欲望を押し付ける、という形で、二度目を迎えたくはなかった。二度目に及ぶなら、きちんと話し合って、自分だけが満足する以外の形にしたかった。もしも、それが性行為をしないということならば、空はそれを受け入れるつもりだった。
     今にも弾けてしまいそうな衝動と、ぼやけた頭の片隅に宿る理性との間を、空は揺れていた。けれども、いくらアルベドに触れたくたって、この昂る熱を彼自身になだめてもらわなくても良いはずだ。欲動のなかに散り散りになっている理性を搔き集めて、ベッドから身を起こそうとした。
    「空? どうしたんだい?」
    「……やっぱり、実験の副作用って言っても、こんな風にアルベドに抱き着いてるの、良くないと思うから」
     そう言えば、相手は簡単に頷いてくれるだろうという空の目算は見事に外れた。そうするのが自然のように、アルベドの腕が延びてきて、空の腕を掴む。その感触さえ、今の空には毒のように辛い。は、と欲に塗れた吐息が漏れてしまう。
    「ボクは構わない」
     その言葉と共に、折角離れかけたところを引き戻される。こちらの体温が移ったのか、最初に触れた時よりも相手の体が温かいように感じた。
     再び体と体がぴったり触れ合って、アルベドの存在が近くなる。重なり合った胸が呼吸する度に浅く隆起し、鼓動が浅く伝わってくる。人形めいた容貌を持つ彼の命を、空は改めて感じ取った。情欲に支配された意識のなか、蓮が泥中から水面に美しい花を咲かせるように、愛しいという思いがどうしようもなくせり上がってくる。
     アルベドはこの状況の意味を分かっているのだろうか。興奮している人間を、恋人に抱き着かせるという状況の危うさを。だが、結局それは空を信頼している証なのかもしれない。空ならば決して自分に害を加えないという、得難い信頼。
     その信頼に応えたかった。だから、自分を包む甘やかな嵐が過ぎ去るのを、このまま待とうと、自分の欲望を意識しないようにと、空は努める。けれども、気にしないようにすればするほど、アルベドの体温、呼吸、体臭が強く迫ってくる。
    「空、大丈夫かい」
     アルベドは、まるで彼の世界には性という概念が存在しないかのように、超然としている。そのしなやかな手が空の金の髪に触れ、頭を撫でられる。あやすような仕草だった。長い前髪を白い指に絡めとられ、梳かすように後ろへ流される。それを何度か繰り返したあと、アルベドの指は頬を滑って、金の前髪を耳にかけようとする。瞬間、耳朶をくすぐられたような気がして、張り詰めていた糸が弾け飛ぶ。
     考えるより先に、眼前の首筋に舌を這わせていた。熱くぬめったそれを柔らかな肌に押し付けると、抱きすくめていた体が僅かに身じろぐ。ん、という嬌声のようなものが微かに聞こえて、火を灯されたように全身がますます熱くなる。衝動のまま、無防備に晒された首を、下から上へと舐め上げた。
    「……あっ、ん……」
    「ごめん、アルベド……あとで怒ってくれていいから、」
    「空、……っ、待って……」
     その声には拒絶というよりも、戸惑いの方が多分に含まれていた。頭では彼の言葉に応えたいと思うのに、体はそれとは違う意思を持ってしまっている。首元で光る神の目を剥ぎとって、青いシャツのボタンを外そうとする。指が縺れてもどかしく、空は黒い手袋を外して、ベッドの上に放り投げた。
     襟を寛げ、彼の彼たる証に、そっと指先を滑らせる。傷痕のように見える菱形のそれは、通常の傷のようにへこみがあるわけでも、盛り上がっているわけでもない。ただその輪郭に沿って、ほんの少しだけ内側に陥没するように皮膚が引き攣れている。その生々しい手触りは、まだ無垢な人形であった彼が命を注ぎ込まれた瞬間のことを空に幻視させた。遙か遠くのその日からアルベドの命は紡がれて、いま此処にある。それはアルベドの言うように、奇跡のように感じられた。
     信じられないほどの愛おしさが胸の底からこみあげ、空を満たしていく。白き肌に刻まれた宿星に、静かに唇を落とす。アルベドはくすぐったそうに首を少しだけ仰け反らせた。
    「ふ、っ……ん、……」
    「アルベド、かわいい」
    「……っ、や、」
     首元に刻まれた星に、舌をねっとりと押し当てる。肩にかけられた手には力など入ってなく、縋るように指先だけに力が込められる。それが意味するものを理解した空は、その黄金色の傷に幾度も口づけ、恒星のようにして周囲に赤い痕を散らしていく。その間、アルベドの口からは控えめに、けれども確かに快楽を滲ませた声が漏れた。
     彼の正面を肩から腰へ斜めに横切る、独特のサッシュを脱がそうと空は試みた。アルベドに教えらえるまま、金属の装飾と黒い本革の繋ぎ目の裏に指を潜り込ませて取り去る。そのまま青いシャツのボタンに触れ、ぷつんぷつんと外していく。下は黒いインナーを身につけており、それも性急な手つきでたくし上げた。露わになった肌は、光を受けて輝く雪のように白かった。窓の外では陽が暮れ、室内は青い薄闇に包まれていて、余計に白さが際立つ。
     空は、無意識のうちに生唾を飲んだ。人形を思わせる、陶器のようなすべらかな肌。あの夜にも確かに見て、きっと同じように美しいと感じたはずなのに、初めて見たような新鮮な感動が空の胸を打つ。何故だろうと考えて、今はあの夜と異なって、きちんとアルベドの心の手触りが分かるからだと気づく。同じように、きっと彼も自分の心の輪郭に触れてくれているはずだという安堵が広がっていく。
     穢れのない白い胸に手を這わせ、薄く色づいた頂きにそっと触れる。指先で撫でると、あっという間に硬くなっていく。引き結ばれた唇からはくぐもった声が漏れ、それが嬉しくて、空は尖り立った先端を口に含んだ。
    「……ひ、っ…ん、」
    「きもちい?」
    「っ、そら、そのまま喋らないで、ッ……」
     じゅる、と音を立てて吸い上げる。空が組み敷いた体は、あの夜が何かの夢であったのではないかと思われるほど、素直かつ繊細に反応した。自分の与える快楽でいっぱいになっているアルベドが可愛らしくて、空は胸の頂きを舌先で転がし、蜜の滴る果実を食べるように啜った。胸が波打ち、頭上からは小さな悲鳴が聞こえてくる。もう堪らない、とばかりに、頭を抱え込まれる。素肌とは異なる感触に、ようやくそこでまだ脱がすべきものがあったことに思い至った。
     顔を起こし、アルベドの手を掴む。未知の感覚に耐えるために空を求めていた指先が、対象を失って不安げに宙を彷徨っている。そんな些細な仕草にさえ心をくすぐられて、空は赤と黒の交わる指先へそっと口づけた。そのまま手袋の先を軽く噛み、ゆったりと脱がせていく。次第に肌が露わになって、桜貝のような爪先に空は再び唇を落とした。もう片方の手からも覆いを取り払うと、爪と皮膚の間に僅かに絵の具が付着している指が数本あり、汚れを落とすようにその一本一本を深く舐める。アルベドは眉根をきつく寄せ、手も震えていたが、決して逃げはしなかった。
     空の手が、アルベドの腰部へ延ばされる。まだあどけなさの残る肢体を包むのは少年の衣服で、それがまたアルベドの無垢な雰囲気を際立たせる。けれども、黒いキュロットを纏った脚の間には膨らみが生まれており、空は布越しにその昂ぶりを撫でた。アルベドの唇から艶めかしい吐息がこぼれ、腰が物欲しそうに揺れる。その無言の要求に急き立てられるようにキュロットのウエストへ指をかけると、腰が微かに浮かせられ、空は思わず口元を綻ばせた。やや乱雑に片方だけブーツを脱がせキュロットをタイツや下着ごと剥いで、片脚だけ露出させる。
     反射的に閉じられようとした膝に割って入り、既に硬くなっているアルベド自身に指を絡ませた。まだ成人男性のそれよりは幾分か小さいそれは、愛でられるうちにみるみる膨らみを増していく。先端からは透明な雫が滴り始め、吸い寄せられるように空はそれを口に含んだ。
    「ひ、ッ……空、それは、」
    「アルベドだって前にやってくれただろ」
    「……や、めっ……」
     動く唇と吐かれる息とが新たな刺激となるのか、腰が大袈裟に揺れる。アルベドをもっと快楽の海へ沈めてみたくて、流れ落ちる蜜をアイスクリームのように舐めとった。最も敏感な部分をねぶって弄ぶうち、性器が一層張り詰める。
    「そ、らっ……出る、からっ……」
     だから口を離してほしい、とは言葉にならなかった。それはただの嬌声としてだけ響き、けれども自分の頭を押しやる手と、シーツの上へずり上がるように体が退かれる動作とで、空は相手の躊躇いと羞恥とを理解した。自分から逃れようとする細い腰を両手で掴み、これまでよりも格段に強く吸い上げた。
    「……あ、んん、ッ――」
     甘やかな声が一際大きく発され、掴んでいた腰が派手に仰け反る。同時に、口内が生温かな体液でどろりと満たされていく。青臭く、苦いものだと聞いていたが、アルベドから放たれたものは、彼の純白な雰囲気そのままに、ほとんど無味無臭だった。空はさしたる困難も伴わず、それを飲み下した。
     アルベドは、放心したようにぐったりと波打つシーツに身を預けている。普段は知的な光を宿す凛とした瞳も、今は達した余韻に浸ってぼんやりと宙を彷徨っている。雪のように白い頬には仄かに紅潮していて、彼が体験した快感の激しさを空に物語っていた。衣服は乱れ、青いシャツも白いジャケットもずり落ちて、華奢な肩を露出させている。下半身も、タイツに覆われた方の脚は僅かに太腿を覗かせ、素足の方はしどけなく投げ出されていた。
     その姿は、空の内に灯った火をますます激しく掻き立てる。これ以上負担をかけるのはという躊躇いと、もっとアルベドを可愛がりたい、燻ぶり続けている熱を解放したいという欲求とが一瞬だけ天秤にかけられ、後者が勢いよく傾く。
    力の抜けた脚を広げ、本来は排泄に用いる窄まりへ触れた。アルベドの体が強張る。
    「……アルベド、いい?」
    「キミの好きにしてくれて構わない」
    「そうじゃなくて……アルベドはどうしたい?」
     荒い呼吸をなるべく落ち着けて訊く。だが、声から欲情を取り去ることは難しく、この先を望んでいることが滲み出てしまう。
     これまで散々好きにしておいて、今さらこんなことを聞くなんて滑稽以外の何ものでもなかった。けれども、どんなに自分が切羽詰まっていたとしても、無理強いしたならば酷く後悔するに違いなかった。特に、相手の傷つきやすい部分へ押し入るわけなのだから。アルベドを傷つけるぐらいなら、この拷問のような情欲に一人で耐えていた方が幾倍もましだった。
     アルベドは視線を宙に向けたまま、考えるような表情をした。彼の瞳は、青空と碧海とを混ぜて、この世の果てはきっとそのような色をしていると思わせる深淵な光彩を放っている。空は、自分が性行為の了承を得るなどという俗の極みにいることも忘れて、その光に見入った。人よりも瞬きの少ない瞳がぱちぱちとまたたき、引き結ばれていた唇が静かに開く。
    「ボクは、キミが望むことに応えたい。だから、キミのしたいことをしよう」
    「……じゃあ、アルベドのなかに入りたい。いい?」
     アルベドは、こくりと頷いた。潤滑剤なら作業台に置いてあるシャーレのなかにあるスライムの液体を使うといい、元素力は抜いてある、と言った。まるでこうなることを予想していたかのような手際の良さに驚きつつも、空はベッドを下り、言われた通りのものを掴んで戻った。
     シャーレの蓋を開けて、中のものに触れる。どろりとしていて、冷たい。元素力が抜いてあるというだけの、何の変哲もないスライムの体の一部だった。けれども、これならば潤滑剤として申し分ない。
     空はそれを掬いとり、秘部にあてがった。最初は硬く窄まっていたものが徐々に柔らかくなっていき、つぷりと指を挿入する。今更のようにきちんと爪を切ってあるかが気になったが、手を見れば全て短く綺麗に切り揃えられていた。
    「アルベド、痛くない?」
    「大丈夫、痛みは感じない」
    「その他は何か感じるってこと?」
    「慣れないから、やはり違和感はあるよ」
    「……やめる?」
    「構わない。ボクは続けたいと思っている」
     一本の指が奥まで達し、二本目を潜り込ませる。異物の侵入を拒むように内壁が蠢いたが、暫く待つとしっとりと二本とも馴染んだ。最初に触れた時よりも中は熱くなっていて、アルベドの平時の体温からは信じられないほど温かい。ここに押し入ることを想像しすると、自然と腰が焦れる。
    「……あの、アルベド、そろそろ挿れたい」
    「ボクの方も大丈夫だと思う」
    「痛かったら、ちゃんと言ってよ」
     アルベドが頷く。空もベルトを外し、自らの肌もさらけ出した。既に張り詰めきった自身は大きく反り返っていて、アルベドのものと大きさはそんなに変わらないはずなのに、何だかやけに大きく見える。そこに自分の情欲が詰め込まれているようで、これをアルベドに突き立てるのかと思うと、強い羞恥と罪悪感とが湧き上がってきてしまう。動きを止めたままの空の腕をアルベドが引き、続きを促した。
     昂りを、先ほど丁寧に解きほぐした秘部へ押し当て、ゆっくりと腰を進めていく。流石に指より質量のあるそれは、内壁を押し広げるようにして入っていき、その圧迫感に空もアルベドも息を詰めた。
     アルベドのなかは、指で感じたよりもずっと温かくて、やわらかかった。性器を押し包まれる感覚は、空にとって未知のもので、気を抜くとすぐにでも果ててしまいそうだ。アルベドは、眉根をきつく寄せ、空の存在に耐えている。侵入者に慣れない内壁はきつく収縮した。だが、徐々に二人の熱は馴染み、空は汗で張り付いた白金の前髪を拭い、額に口づけた。
    「アルベド、動くよ」
     アルベドはこくりと頷いて、空の首へ腕を回した。伝わってくる体温はもはや彼のものとは思えないほどに高くなっている。その意味するところを理解した空は一層高揚し、ゆっくりと始めるはずだった律動はやや強引になった。
    「……ぁ、ふっ……そら、ッ……」
    「ある、べど、っ……」
    「……あッ……んんっ……」
     内を抉るように、腰を進めては退く。与えられる刺激に耐えるように、首に縋りつくアルベドの腕にぐっと力がこもった。声音は甘く、彼が快感を拾っていることは空にも分かった。けれども、その顔は未だに少し苦し気だ。眉を顰め、目をぎゅっと固く閉じている。つらいの、と聞くと、アルベドは浅い呼吸を繰り返しながら、微かに首を横に振る。
     アルベドにも、ちゃんと気持ちよくなってほしかった。空は膝裏に手をかけ、ぐ、と白い脚を折り曲げる。そして、先よりも深く自身を沈めて、奥をくすぐるように腰を揺り動かす。ある一点を掠めたとき、それまで息を詰めるばかりだったアルベドの口から、耐えきれないように喘ぎ声があがった。
    「……ん、ああっ!」
    「アルベド、ここが良いの?」
    「そ、らっ……ま、って……!」
    「どうして? 俺はアルベドに気持ちよくなってほしい」
    「ん、んっ……ゃ、そら、やめっ……」
     ふるふると、首を左右に振り乱す。柔らかな髪が、皺の寄ったシーツの上に金糸のように散らばった。空はあやすようにアルベドの頭を撫でながら、それでも腰の動きを緩めなかった。彼が一際愛らしく啼いたところを、角度を変えては抉る。その度にアルベドの体は震え、空の腕のなかで幾度も波打った。そのあられもない姿は、空の胸を愛おしさで締め付ける。その思いは、律動が早まるという形になり、やだ、とか、待って、という言葉はもはや抑止の意味を持たず、ただ閉じようとしても閉じることのできない唇から零れ落ちてしまったものに過ぎなかった。
     抽送を激しく繰り返すうち、星を宿す喉が震え、ひ、と小さな悲鳴が漏れる。こちらを見上げる碧空の瞳はうるみ、紅潮した目尻には涙が浮かんでいた。形の良い顎を掴んで、その雫を舌で掬いとる。すると、内壁が熱くうねり、物欲しそうに空に絡みつく。その妖しい蠢きは誘っているようで、空は一層強く内奥を幾度も突き上げた。アルベドの手が必死に空を求め、しがみつく。
    「あっ、そら、も、うッ……」
    「っは、……ある、べどっ……俺も、もう、っ……」
    「そら、そらっ……ひ、ぁあっ……!」
     細い肩が震え、白濁が引き締まった腹を汚す。小さな悲鳴とともに、内壁が大きく収縮し、空も息を詰めてアルベドのなかに吐精した。
     途端、長いこと自分を蝕んでいた熱からようやく解放され、空の体には疲労感が押し寄せる。そのまま相手の上へ倒れ込み、荒れた息を整えようとした。けれども、この気怠さと同時に、ようやく恋しい相手と体を繋ぐことが出来た歓びが空を覆っていた。
     アルベドは浅い呼吸を繰り返し、涙に濡れた瞳でこちらを見つめていた。何も言わなかったが、赤らんだ目元にはやはり疲れの影があった。
     空は起き上がってゆるゆると腰を引き、アルベドの中から出ようとした。達したばかりで敏感になっているらしく、ただ引き抜いているだけなのにアルベドの唇からは甘い吐息が漏れる。その艶めかしさに思わず腰を戻しかけたが、もはや砂粒程度になった理性を搔き集めて、力を失った性器を抜いた。
     空によって塞がれていた後腔はぽっかりと口を開け、彼の放った精液がとろりとあふれて、肌を伝い落ちる。気が付けば、アルベドの姿は酷いものだった。青いシャツや、キュロットにタイツ、それらはいずれもかろうじて布片が引っ掛かっているだけと言うのが相応しいほど乱れている。露わになった首元には菱形を縁取るように所有の印が散らされ、下半身は自身のと、空の白濁とですっかり汚れている。
     自分が導いた惨状の光景を目にしてしまうと、解放しきったと思ったはずの熱が再び空の中心に蘇り始める。気怠そうに起き上がろうとするアルベドを押さえつけ、白く汚れた後腔に張り詰めつつある自身をあてがった。
    「空? もうこれで終わりでは、」
    「……ごめん、足りない」
     待ってほしい、という声を無視して、ほとんど無理に押し入った。けれども、すっかりと解きほぐされたそこは容易に空を受け入れる。浅く抽送を繰り返し、抑止の言葉が艶めいたものに変わるのにさほど時間はかからなかった。後で怒っていいからという言葉を振りかざして、熱情に浮かされるままアルベドが気を失うまでその体を貪った。


     夜の帳が下り、窓から射しこむ月明かりだけが室内で唯一の光にだった。窓際に置かれたベッドは青白く染まっている。その上で、アルベドと向かい合いながら横たわる空は、今しがた聞かされた話に呆然としていた。
    「……アルベド、何で俺に教えてくれなかったの?」
    「教える必要がないと、判断したんだ。ボクたちの仲には関係のない話だからね」
    「関係あるよ!」
     空は堪えきれず、声を荒げた。けれども、アルベドはやはり分からないという顔をして、澄み渡った瞳を瞬かせる。空の三つ編みに絡められた指は、どうしてと問うているようだった。
     アルベドの話は以下のようなものだった。
    彼は現在、冒険者協会から依頼され、西風騎士団が請け負った薬の開発に取り組んでいる。空が飲まされたのはこの試作品だったが、実はその効能と副作用を観察するため、以前にも空以外の人間にも協力をあおいで、飲んでもらった。空は一応アルベドの実験に協力するとは言っているが、その実験を行おうとした時には丁度、空はモンドを留守にしていた。別段、締切に追われているわけではなかったが、特に気乗りしている仕事でもなく、早く終わらせてしまいたかった。また、空にまつわる研究ではないから、被験者が彼にこだわることはなかった。
     その時の被験者は、ある程度の体力や筋力を持つ人物である必要があった。故に、西風騎士団に所属する青年に要請し、試薬を飲んでもらった。当初は何の変化も見られなかったが、やがて空がそうであったように、性的興奮がその青年を襲った。気が付いた時には、仮眠用に設置しているソファに押し倒され、乱暴に服を脱がされた。戦闘員として所属している青年の力は強く、剣を振るえると言えども本業は学者であるアルベドの抵抗など意味をなさなかった。そうして、無理やり犯された。情欲の嵐が過ぎ去った後、青年は手をついて謝ったという。だが、それはあくまで実験中の事故に過ぎないとして、アルベドは口外しないようにとだけ約束をとりつけ、不問に付した。青年の暴走に抗えないと悟った時には、ただ面倒なことになったとだけ思った、とアルベドは言った。
     それだけでも、空に衝撃を与えるには十分すぎた。自分の知らないところで恋人が――それが本当に実験の事故に過ぎないとは言え――性暴力に遭っていたなど、あまりにも重すぎる事実だ。しかも、それはしばらく前のことで、今日まで空はそれを秘密にされてきたのだ。無論、性暴力被害の辛さから話すことができない、ということはある。だが、アルベドの理屈は違う。
    「ボクは自分の体にほとんど執着がない。痛覚も恐らく鈍く、多少の暴力を振るわれても、負荷を感じるほどの痛みを覚えることもない。だから、ボクにとって強姦されたことは、世間一般で考えられているほどの苦しみも、辛さもない。つまり、キミにあえて告げるほどの事件ではなかった。――勿論、これはボク個人の感覚だが」
     空の三つ編みを弄りながら、アルベドは淡々と語った。その乾いた調子は、実験結果を報告するそれでしかなかった。だが、彼の話はこれで終わりではなかった。
     アルベドは、空との性的行為がうまくいかなかったことを気にかけていた。それは彼自身が性的欲求を持ち、その成就を願っているからではなく、あくまで空の希望を叶えることが出来なかった事実と、そしてこのままではこれからも叶えることが出来ないであろう可能性に、彼の懸念は向けられていた。
    「例の青年との出来事が、ボクにインスピレーションを与えたんだ。キミときたら、あの夜以来、性的な話題をあからさまに避けているし、ボクの手すら触れなくなったからね。ボクは、ボクたちの関係に性愛の要素を含むか含まないかについて、キミのような希望はない。確かに性的な欲求はないが、別に性愛を嫌悪しているわけでもない。ならば、キミの望みに沿うのが筋だと、ボクは思った」
     そうして、性的興奮のある副作用のある薬を空に飲ませた。つまり、今回のことは徹頭徹尾、アルベドが仕組んだことだった。
    「だが、ボクの感覚があの夜と同じでは意味がない。またキミにトラウマを植え付けるだけだ。だから、ボク自身の感覚が変わる薬も同時に作って、キミがここへ来る直前に飲んでおいたのさ。念のため、スライムの液体から作った潤滑剤にも催淫作用のある物質を混ぜておいた。――どちらも一人で試した時には、その効果はそれほど強くなかったはずなのだが、どうやら、空、キミに触れられるという変数の値について、ボクは少々予想を違えたようだ」
     空の思考回路は、混乱を極めていた。驚き、悲しみ、悔しさ、戸惑い、喜び。ありとあらゆる気持ちが混ざり合い、アルベドに表す感情を決定できない。そのどれもが空には重要で、真実だったからだ。その混沌の中からようやく空がひとつ掬いあげたのが、何故青年とのことを自分に教えてくれなかったのか、という先の問いであった。
    「空、キミはなぜ、その事故についてボクから知らされることが、そんなに重要だと考えるんだい?」
    「……大事な人が辛い目に遭っていたら俺はそれを知りたいから。知って、その苦しみや悲しみの支えになりたいから」
    「だが、先も言ったように、ボクは自分の体を性暴力の対象にされたとしても、ほとんど気にしていない。つまり、この件に関して、ボクはキミの支えを必要としていないことになる」
     そういうことではなくて、と言い返したいところを、空はぐっと堪える。こちらがいくら言葉を重ねても、これではお互いの価値観を押し付け合うだけで、ただの水掛け論になってしまう。いま、アルベドと話したいことは、そんなものではなかった。
     アルベドの言葉の一つ一つを反芻する。一体、彼の話のどこに、自分はひっかかっているのだろう。恋人なのに秘密にされていたこと? こんな重大なことを体験していながら、彼が自分を頼ってくれなかったこと? あるいは、最後まで至ってしまった性行為の初めての相手が自分ではないことを、彼が気にしていないこと? どれも違う。なら、一体何なのだろう。あらゆる感情が混ざり合う海へ手を入れ、散々に掻きまわす。そうして、ようやく一つの解を暗い海底から掬いあげた。
    「……俺は、アルベドに自分の体を大事にしてほしい」
     悲しかったのは、この出来事から自分が遠ざけられていることではない。アルベドが自分の体を、物のように捉えていること。そのこと自体が、空の心を曇らせる。だが、アルベドは分からないとでもいう風に、枕に頭を預けてまま、小首を傾げる。
    「ボクはボクなりに大事にしているつもりだけれども……今回の件で、ボクはそうしていない、とキミは感じるわけだね?」
    「だって、そんなの――」
     当たり前じゃないか、と言いかけて飲み込む。アルベドにとって、こんなことですら当たり前ではないことに気がついて、針で刺されたように胸がちくりと痛む。
    アルベドは、相変わらず金の三つ編みと戯れている。彼の指先が髪留めにするりと滑り込んで、毛先を束ねていたそれを外す。三本の束を縒り合せていた髪ははらりと解け、白い指先はそれを解いていく。
    「でも、あの事件があったからこそ今回のことを思いついたのだし、ボクはキミとこうして体を繋げることができて良かったと思っている――キミの性欲の強さは多少予想の範囲を超えてはいたが」
     それについては、空は何も弁明が出来ない。いくら薬の副作用だからと言って、アルベドに無理を強いたのは事実だ。恋人同士、望んだ性交とは言え、行き過ぎれば暴力に等しくなる。
    「けれども、興味深い現象を観測できた。どうやら、ボクはキミにああやって手酷く抱かれることをある程度好ましく思っているらしい」
    「……は?」
    「そうだな……非常に強く求められている、という感覚は悪いものではない。それに、」
    「それに?」
    「ボクを抱いている時のキミの顔が可愛い」
    「アルベド!」
     カッと頬が熱くなり、声を荒げてしまう。アルベドはくすくすと笑った。
    「だから、全てのことはボクにとって何ら悪いことではなかった。いや、むしろ良いという評価を与えるべきだろう。……キミがボクにこの体を大事にしてほしい、と望むなら、ボクはその感覚を覚えてみることにしよう。空、これでいいかい?」
     はあ、と空は溜め息を吐く。とてもじゃないけれども、アルベドの思考回路についていくのは大変だ。けれども、こんな風に超然としていて、だからこそどこか危うくて、放っておけない、と思ったから彼に惹かれたのだと、改めて思い出す。
    「いいよ。そしたら、もう一個、俺と約束して」
    「なんだい?」
    「人体実験する時は必ず俺を被験体にすること」
    「……それでは研究の進捗が悪くなる。キミはモンドにいないことも多いからね」
     仄かに、アルベドの声が曇る。身を守ることよりも、研究を進めることに重きを置く彼の価値観にまたもや空は頭を抱えたくなる。
    「じゃあ、薬の実験をする時は、必ずティマイオスかスクロースに同席してもらうこと。スクロースはともかく、ティマイオスは一日中合成台の前で番してるんだから連れてこられるでしょ」
    「分かった。ティマイオスの指導にもなる、いい機会だと思う」
     約束だからね、と念を押す。アルベドがこくりと頷き、空はようやく安堵した。空の指先が、薄い亜麻色の髪に触れる。癖のある猫毛は、先程の行為であちこちに跳ねていた。それを整えるように、空は恋人の頭を繰り返し優しく撫でる。アルベドも空の金髪を弄び、見つめ合いながら無言で互いの髪に触れていた。
     髪に絡ませられていたアルベドの指が、ふと空の唇へのばされる。
    「空、キミは口づけは好まないのかい?」
    「え、なんで?」
    「……さっき、一度もしなかったから」
     声の調子はいつもと変わらないように聞こえて、そこにはほんの少しねだるような色があることを、空は見逃さなかった。
    「アルベドはしてほしいの?」
    「何か他の解釈があるとでも?」
     アルベドならただ訊くだけ訊いて終わり、なんて普通にありそう。そんなことを思ったが、ここで雰囲気を崩すようなことを言っては勿体ない。
    「でも、俺、アルベドのを飲んだまま歯を磨いたりしてないけど」
    「構わないよ。どうせボクから排出されたものだ」
    「そういうもの?」
    「そういうものさ」
     相変わらず、アルベドの理屈はよく分からない。今まで聞いた話だって論理的でいるようで、空の理解を超えている。というよりも、人間ならば抱くような感情は全て彼方へ追いやられていて、あまりにも論理だけなのだ。一般的には右に傾くはずの天秤がことごとく左に傾いているような、そんな印象を空は受ける。今日は右の秤皿にほんの少しだけ分銅を乗せてみたけれど、まだまだ元のバランスは揺るがない。空は今のアルベドを愛しているし、そのままの彼を尊重したい。けれども、それ故に彼に危険が及ぶなら、その芽は出来るだけ摘んでおきたかった。
     空、と掠れた声で呼ばれる。アルベドの声は語らっている間もずっと、普段の澄んだものではなく、情事の痕跡が露わだった。白い指先が空の耳を這い、長いピアスを撫でるように掬いあげて、キスを誘っている。空は体を寄せて、静かに口づけた。何度も啄むうちに唇が薄く開かれ、舌を潜り込ませる。ん、とくぐもった声があがり、空よりも少しだけ冷たい舌先が侵入者を迎え入れた。アルベドは積極的で、彼の舌は龍の肢体のようにうねり、空はまた下腹部に熱が集まるのを感じた。
     青い薄闇のなか、こちらを見つめるアルベドの瞳が一等美しかった。
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