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    greensleevs00

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    greensleevs00

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    公爵とヌ様の短い話。

     痛みが意識を支配する。体のあちらこちらが不愉快な刺激に覆われ、リオセスリは奥歯を噛み締めた。皮膚は鋭く裂かれ、肋骨の一本は折れていそうだ。
     それは、あまりにも古典的な手段だった。リオセスリが公用でヌヴィレットの執務室を訪れている時、セドナが郵便物を運んできた。失礼、と一言断り、ヌヴィレットは早速その小型の包みを開け始めた。聞けば、クロックワーク工房に置き時計の修理を頼んでいたという。包みを開き、時計が再び時を刻み始めているのを見た彼は僅かに安堵したような笑みを浮かべ、時計の針を正確な時刻に合わせようとした。刹那、奇妙な音がリオセスリの耳に届き、黒い手袋がはめられた手から時計を奪い去って宙に放り投げた数瞬の後、空気をつんざくような音とともに時計は破砕した。その爆風を、リオセスリはかろうじて背中で受け止めたのだった。
    「……ヌヴィレットさん、あんた、無事か」
     やたらに手触りのいい絨毯に掌をついて体重を支えながら見下ろした先には、こちらを見上げるヌヴィレットの顔があった。こんな時でも厳粛な表情を崩していない相手に少し笑いそうになって、瞬間、違和感がせり上がる。数秒経って、その理由に気がつく。磁器を思わせる白皙の頬を、鮮やかな血が濡らしている。血はぽつぽつと落ち続け、滑らかな肌を伝いおちていく。
    「……ああ、汚しちまったな、悪い、」
     体を起こすべきだと理解をしていても、それは容易ではなかった。血を浴びたまま、ヌヴィレットは澄明な瞳でこちらをじっと見つめている。視線が交わると、きつく弾き結ばれていた唇がふと緩んだ。
    「実にリオセスリ殿らしい」
    「……何が俺らしいって言うんだい、ヌヴィレットさん」
    「こんな時にでさえ、自身よりも他者を優先するのは実に貴殿らしい」
     ヌヴィレットはそう言って、リオセスリの下から這い出した。すぐさまセドナを呼んで医者を手配するように頼み、リオセスリには感謝と謝罪を述べながらソファに身を横たえるに勧め、またそう出来るように自ら手を貸した。リオセスリが何か止血できるものを求めると、彼は少し考えこむような表情を浮かべた後、自らの長い髪を束ねている紺色のリボンをほどき、傷を負った体にあてた。
    「……ヌヴィレットさん、あんた、変わったよな」
     ヌヴィレットは数度瞬いて、そうだといいのだが、とだけ言った。だが、その目元が僅かに緩んだのを、リオセスリは見逃さなかった。
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    greensleevs00

    DONE #タル鍾ワンドロワンライ  
    お題「花言葉」
    *タルが何気なくあげた花についての花言葉でぐるぐる考えてしまう先生と、そんな先生が何を考えているのか分からなくてもやもやするタルの話。

    タル鍾ワンドロワンライさんがクローズされるということで、2021年11月に投稿したものを記念に再アップ。タル鍾初書きかつ、初めての原神二次創作だった。
    花言葉 夕間暮れ、太陽が寂々と山の端に入りかかる頃、朱の格子から滲むように漏れ出す橙の灯りを、タルタリヤは薄ぼんやりと眺めていた。見慣れ、通い慣れた往生堂の玄関口である。普段ならば悠々とその扉を抜け、奥へ進み、此処の客卿と名乗る男に会いに行く。だが、今夜はどうにも扉へ手をかけるところから躊躇われた。ここ幾日か、鍾離の態度がどうにも奇妙なのである。
     発端と思しき出来事は数日前のことであった。
    「先生、これあげる」
     まるで野良猫が都合の良い投宿先を見つけたかのように往生堂に居つくタルタリヤは、ある日、蝋梅を鍾離の眼前へと差し出した。蝋梅は、古来より璃月で愛でられたきた梅花の一種であり、その名の通り蝋の如き花弁を持つ花であった。寂とした黄金こがね色であり、その長閑な輝きは月の風格に似る。鍾離と異なり、文人墨客的な美学を持たないタルタリヤでも、その璃月の文化的風土の一縷をその身に湛えたような花は、素直に美しいと感じた。
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