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    greensleevs00

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    空ベド。眠れないアルベドに子守唄を歌ってあげるだけの話。

    【空ベド】子守唄 隣で身じろぐ気配を感じて、空は目を覚ます。温かな室内で、柔らかなベッドで眠っていたというのに、こうした僅かな気配でも起きてしまうのは、長い旅路の果てに身についてしまった習い性だった。目覚めばかりの眼でもすぐさま闇に慣れ、傍で眠っていたはずのアルベドが本を開いている姿が目に入った。灯りはなく、窓から射し込む月光だけを頼りに文字を追っているらしい。
    「おや、起こしてしまったようだね。すまない」
     アルベドは本から視線を外し、空を見た。空は、ううん、と小さく頭を振って、相手の体に抱きついた。白い首筋に顔を埋めると、眠る前に肌を重ねたことなど嘘のように、清らかな花の匂いが微かに香る。ただ、首元に残された赤い痕だけが、あれは空の夢ではなかったことを教えてくれている。不意に愛おしさがこみ上げて、そこへ唇を落とすと、アルベドはくすぐったそうに体を小さく震わせた。
    「空、今晩はもうしないよ」
    「分かってる。明日、朝早いんでしょ?」
    「そうさ。だから、本当はボクも眠りたいのだけれども目が冴えてしまってね」
     そう言って、アルベドは再び本に視線を戻す。研究に関する書物らしく、題名は如何にも難しそうだ。空であれば、眠りたい時にこんな複雑そうなものは読まない。それとも、アルベドであれば、こんな本でもそれこそ絵本のように苦もなく読めるものなのだろうか。
    「……ねえ、アルベド、子守唄でも歌ってあげようか」
     もはや数えることすら困難なほど遠い昔、自分と妹の蛍がまだ幼かった頃。眠れぬ夜に、二人の世話係はよく絵本を読み聞かせてくれたり、子守唄を歌ってあやしてくれたりした。それで眠れることも、結局眠れないこともあったけれども、蛍と手を繋いで、柔らかな声に耳を傾けるのが、空は好きだった。
     アルベドは驚いたように、その美しさ瞳を数度瞬かせた。だが、数拍後には開いていた本を閉じ、空の方に向き直る。その顔には未知への興味が浮かんでいる。
    「……アルベドってもしかして子守唄知らない?」
    「そういう文化習慣があることはボクでも知っているよ。ただ、実際に歌われたり、歌ったりした体験はない」
    「クレーには?」
    「クレーは絵本の読み聞かせがあれば満足みたいでね。子守唄が必要になったことはないかな」
    「そっかあ……アルベドが初めて聞く子守唄が俺でいいのかな」
    「ボクが体を預けたのもキミが初めてだというのに、今更そんなことを気にするのかい?」
    「……それもそうだね」
     アルベドがくすくすと笑う。早く、と訴える瞳に促されて、空は昔好きだった子守唄を歌う。アルベドは興味深そうに耳を傾け、聴き終えると何かに納得したように頷いた。
    「なるほど、確かに入眠に適した素朴さだね」
    「……アルベド、もしかして俺の歌が下手って言いたい?」
     以前、瑠璃百合に歌を聞かせてほしい、と鍾離から頼まれて歌った時には、何故だかトリックフラワーが現れてしまったことがあった。
    「そんなことはないさ。キミの声は柔らかくて、聞いていてとても心地が良いよ」
    「じゃあアルベドが眠るまで、歌っていようか」
    「そうしてくれると嬉しいのだけれども……頼めるかい?」
    「もちろん。任せて」
     頼もしいね、と笑って、アルベドは瞼を閉じる。彼の大きくて丸い瞳はあどけない印象を与える一方、同時に深く落ち着いた眼差しは酷く大人びていて、普段のアルベドは少年とも大人ともつかない、不思議な雰囲気を纏っている。だが、こうして碧色の瞳が瞼で覆われてしまうと、少年らしい面立ちが目立って、あどけなさが増す。空は以前、彼の柔らかな頬を触りながら、アルベドって何処か赤ちゃんみたい、と揶揄ったことがあったけれども、あながち的外れでもない、という気がしてくる。
     亜麻色の髪を優しく撫でながら、空は静かに子守唄を歌う。アルベドは時折、空の掌へ猫のように擦り寄ったが、やがて身じろぎしなくなり、静かな寝息ばかりが聞こえてくる。触れ合った胸では鼓動が静かに、けれども確かに脈打っていて、空よりはやや低い体温がじんわりと伝わってくる。
    ――どうか、こんな夜がいつまでも続きますように。
     空が妹の蛍を探し出した後はモンドにいたい、と将来を語る時、アルベドは決まって寂しげに目を伏せる。それが何故かは、空には分からない。けれども、きっと、いつまでも一緒にはいられない、という予兆がアルベドにはあるのだろう、とだけ思っている。そのことを思う度、空の胸はぎゅっと締め付けられる。
    ――そう、だからせめて今だけでも。
     蒼白い光に照らされた額へ、空は祈るように口付けた。
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    greensleevs00

    DONE #タル鍾ワンドロワンライ  
    お題「花言葉」
    *タルが何気なくあげた花についての花言葉でぐるぐる考えてしまう先生と、そんな先生が何を考えているのか分からなくてもやもやするタルの話。

    タル鍾ワンドロワンライさんがクローズされるということで、2021年11月に投稿したものを記念に再アップ。タル鍾初書きかつ、初めての原神二次創作だった。
    花言葉 夕間暮れ、太陽が寂々と山の端に入りかかる頃、朱の格子から滲むように漏れ出す橙の灯りを、タルタリヤは薄ぼんやりと眺めていた。見慣れ、通い慣れた往生堂の玄関口である。普段ならば悠々とその扉を抜け、奥へ進み、此処の客卿と名乗る男に会いに行く。だが、今夜はどうにも扉へ手をかけるところから躊躇われた。ここ幾日か、鍾離の態度がどうにも奇妙なのである。
     発端と思しき出来事は数日前のことであった。
    「先生、これあげる」
     まるで野良猫が都合の良い投宿先を見つけたかのように往生堂に居つくタルタリヤは、ある日、蝋梅を鍾離の眼前へと差し出した。蝋梅は、古来より璃月で愛でられたきた梅花の一種であり、その名の通り蝋の如き花弁を持つ花であった。寂とした黄金こがね色であり、その長閑な輝きは月の風格に似る。鍾離と異なり、文人墨客的な美学を持たないタルタリヤでも、その璃月の文化的風土の一縷をその身に湛えたような花は、素直に美しいと感じた。
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