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    greensleevs00

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    greensleevs00

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    空ベド。誕生日イラストの話。二人でパーティーを抜け出して、夜の湖で語らう話。甘酸っぱい。

    秘めごと 一体、この胸のざわつきは何なのだろう。空は、アルベドの白い背中を追って夜のモンドを歩きながら、考え込んでしまう。折角のパーティーを抜け出して、夜風にあたろうと誘ったのはアルベドの方なのに、彼はただ石畳に硬い靴音を響かせるだけで、空に何も語りかけてこない。
     エンジェルズ・シェアにおける今日の集まりの主役は、珍しくアルベドだった。アルベドから「時間を数えてみると、そろそろ会うのにちょうどいい頃合いじゃないだろか」と遠回しのようでいて、会いたいという気持ちに満ちた手紙を受け取ったのが半月前。道中いつものように様々な頼まれごとをこなしながらモンドに戻ったのが数日前だった。けれども、生憎アルベドは仕事に追われていて、ようやく時間がとれるというのが今日の夜だった。
     九月十三日というこの日が、アルベドの誕生日であることは知っていた。「じゃあ、誕生日パーティーを開いてやろうぜ!」というパイモンの一言もあり、空は慌てて、アルベドと縁故のある人びとを訪ねてまわり、パーティーの企画を知らせた。スクロースもティマイオスも「アルベド先生が誕生日パーティー?」と首を傾げたが快く頷いてくれ、クレーは大はしゃぎし、ガイアは酒が飲めるとあれば断るはずもなかった。アンバーも誘ったら、あっという間にエウルアやベネットもメンバーに加わった。エンジェルズ・シェアではたまたま予約の時に居合わせたディルックが、君とアルベドさんには世話になっているから割引をしようと申し出てくれた。
    「アルベド、そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
    「いや、もう少し歩こう」
     酒場から出てすぐ、城外に通じる階段をアルベドはゆったりと下りていく。もはや宴席を抜け出したのがバレても構わないという風だった。
     久々に会えたアルベドとこうして二人きりになれるのは、嬉しくないわけではなかった。アルベドだって、きっと同じことを考えてくれているはずだ。だが、宴席の主役は彼であるし、何より夜の散歩を始めたのは彼が自分を気遣ってくれたからだった。
    ――ボクに、何か言いたいことがあるようだね?
     ヴァルベリーのケーキを食べていた手を止め、向かいの席から大きな丸い瞳でじっとこちらを見つめてくる。何か言い争っているらしいパイモンとガイアの間をくぐりぬけて届いた秘密の眼差しは、空の胸を弾ませた。無言のまま視線を絡めると、みんなから離れて風に当たらないかい、と囁くように言われたのだった。
     アルベドに会うのは久しぶりで、彼が手紙でも書いていたように、自分たちの間には積もる話がたくさんあった。けれども、〝言いたいこと〟というのはそういうことではないだろう。いつもはそれに助けられているくせに、こんな時ばかりアルベドの鋭すぎる観察眼に、少しだけ居心地が悪くなってしまう。それとも、自分はそんなに分かりやすい顔をしていたのだろうか。ポーカーフェイスならば、それなりに自信があったはずだけれども。
     石段を下りきって、城門をくぐると、一気に開けた視界に、蒼白く輝くシードル湖が姿を現す。暗い水面の向こうには、切り立った崖の連なるのが見えた。夜空には、神々の手から零れ落ちた宝石のように幾千の星屑が瞬いている。湖から立ち上がってくる風は穏やかで、酒で火照った頬に心地が良い。アルベドは湖の水際まで下りて、そこで足を止めた。
     風に揺られた葉が優しく擦れ合う音がはっきり聞こえるほど、静かな夜だった。月明かりが湖に反射し、きらきらと光が揺蕩っている。隣に立ったアルベドはしばらく黙ってそれを見つめていたが、やがて視線を空の方へ向け直した。
    「……酒場で、キミは見たことのない顔をしていた。だから、何故キミがそんな顔をしているのか知りたくなってね」
    「……俺、どんな顔していた?」
    「もっと適切な言葉があるとは思うけれども、浮かない顔、とでも言うのかな」
     そんな顔をしていたかどうかの自覚はないけれども、気持ちが何処か曇っているのは事実だった。アルベドの誕生日を皆で祝おうと言い出したのは自分だったのに、皆に祝われ、彼が楽し気にしていることを喜ぶ気持ちも嘘ではないのに、酒がまわるにつれて、気分にざらついたものが混じるようになっていた。アルベドの世界が広がっていくこと、彼が色んな人と馴染んでいくことは良いことなのに、何故だか素直に喜べない。
     アルベドの視線は、まだ空の顔に固定されたままだった。自分に分からないものがある時、アルベドはそれを観察をし、分析を加え、何かしらの結論で以て、その対象を理解しようとする。それはアルベドが他者に対して、この世界に対して誠実でありたい、という謙虚さから生まれてくるものだった。親交を深めていくうち、アルベドは空の感情を理解したがり、またそれを尊重したがった。だから、空も彼に誠実でありたかった。
    「空、何かが心に引っ掛かかっているのなら、教えてくれないかな。この楽しい夜に、ボクはキミの顔を曇らせたままにしたくない」
    一体どこでそんな言葉を覚えてくるのか、彼は空への好意を包み隠さない。だが、アルベドの言葉に、咄嗟には答えられず、自分の爪先へ視線を落としてしまう。なんと答えればいいのか、言葉を手繰り寄せては、これではないと解いてしまう。自分の心の形が分からないから、それに与えるべき輪郭だって分からないのだ。薄暗い視界には、静かな波がゆるゆると陸を洗い、たおやかに退いていく様子ばかりが見える。
    思案を続けていたアルベドは「なるほど」と独語して、研究結果を述べるのとさして変わらない声音で言った。
    「ああ、そうか。ボクの推測が正しければだが――キミは寂しかったんだね」
     音がしそうなほど胸が弾んで、急に体温が上がったような気がした。自分でも分かるほどに頬が熱い。ここが薄暗くて良かった、と思う。明るかったら、顔が赤いことなんてすぐバレてしまう。寂しい、という言葉を与えられた瞬間、空は自分のこの感情が何を意味するものなのか、正しく理解してしまった。
    アルベドから示される好意は友情と呼ぶには少しばかり濃密すぎるようにも思われたけども、自分からアルベドへの思いも大して違っていないような気がして、でも今は明らかに自分の感情の方が重たいように思える。酔ったガイアの肩ががアルベドのそれに軽く触れ合う度に、自分とアルベドが話しているところへ誰かに割り込まれる度に、アルベドの視線が他の誰かに向けられる度に、胸の奥がひりついた。雪山では――雪山に居たアルベドの視界には自分だけが映っていたはずなのに。自分とアルベドの間にあるものが友情の定義から逸れたものであることを、空は自覚してしまった。アルベドが気づいているのかどうか分からないけれども、心の最も繊細な部分に触れられたようで、勝手に気恥ずかしくなる。
    「ボクもね、パーティーはとても愉快なものだったけれども、途中からキミとこうやって二人きりになりたいと思っていたんだ」
     アルベドは張り詰めていた表情を解いて、薄く微笑んだ。白銀の月明かりに洗われて、雪色の肌がまばゆく見える。碧空と海とが溶け合ったような瞳が、一際美しく輝いていた。酒場であらゆる人間に向けられていたそれは、今は真っ直ぐにただ空だけを見つめている。空は自分の頬だけでなく、全身がますます熱を高めていくのを否が応でも感じざるをえなかった。
    「ふふ、キミはまた見たことのない顔をしているね」
     アルベドの視線が、再び空の顔に注がれる。その真剣で、誠実な眼差しに、どうやら友愛を超えてしまったらしい感情を見透かされているようで恥ずかしくて、怖かった。あまり見ないでほしい、と顔を背けると、アルベドの瞳はそれ以上、こちらを追ってこようとはしなかった。その代わり、「ねえ、空」と呼びかけられる。
    「キミはボクに何か言いたいことがあるんじゃないかい?」
     ふと、指先が微かに触れ合った。それが偶然ではないことは、アルベドの指先がそのまま動かないことから明らかだった。酷く緊張して、空の手は強張ったままだった。空、と呼ばれても、うまく顔を向けることができない。ほんの僅かに指と指とが触れ合っているだけなのに、そこからアルベドの存在が全身で意識されて、心臓の鼓動がどんどん速まっていく。
     ようやく顔を相手に振り向けた時、こちらを見つめていた無垢な瞳と視線がぶつかり合った。この暗がりで、アルベドの瞳はほんのり潤んでいるように見える。空を見据える眼差しがあまりにも真摯だから、空は少しだけ気後れをした。アルベドの指が先よりも空にますます触れて、その強張りを解こうとしているようだった。グローブ越しでも優しく撫でられる感触が伝わってきて、ぞくぞくと背骨が震える。空が撫で返せば、猫の尻尾のように微かにじゃれついてくた。
    「……アルベド、俺、」
     そこまで言えば、この胸に宿った思いを吐き出してしまえるはずだった。だが、その脆い空の言葉にアルベドがじっと耳を傾けていたにも関わらず、その後に言葉を続けることはできなかった。城門の方から「おーい、旅人! アルベド!」という聞き慣れた声が響いてきたからであった。振り返った先には、ふよふよと宙を滑るようにこちらへ近づいてくるパイモンがいた。気が付いた時には、アルベドの体は少し遠退いていた。
     戻った酒場では、ガイアとティマイオスが酒の飲み比べをしていた。横にはベネットがテーブルに突っ伏して寝ている。どうやら二人の競争に巻き込まれるという不運に見舞われ、早々に酔いつぶれたらしい。クレーは眠気に抗えなかったらしく、スクロースの隣ですっかり眠りこけている。主催者と主役であるのに抜け出すという不義理をした二人をにこやかに出迎えたのは、アンバーとエウルアだった。アンバーはいつもの陽気さが更に増しただけだったが、目の前にいくつもの空のグラスを並べているエウルアは目が据わっている。
    「君たち、全く何処に行って何していたのよ」
     酔っ払い独特の、有無を言わせぬ迫力がアイスブルーの瞳には宿っていた。思わず気圧されて「えっと」と口籠る空を、アルベドの手が制す。彼はエウルアと、好奇心を隠せずにいるアンバーに向かって「秘密」と言い、それから空の方を向いて密やかに笑ったのだった。音を伴わない唇が、空の見間違いでなければ、ま、た、あ、と、で、と動く。空は湖で感じていた胸の高鳴りと同じものを覚え、こくこくと必死に頷いていた。
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