おねだり「これも何かの縁だし、メアド交換しねえ?」
ってばったり再会した時にお願いしたら、怪訝そうな顔しながらもアドレス交換して一緒にクレープ食べてくれた。
「きょういえあそびにいってもいい?」
ってメールしたら、面倒そうにしながらも結局家に入れてくれて一緒に映画見た。
「絶っっっ対ェ行きたい衣装展があるんだけど、俺の周りですごさ理解してくれそうなの大寿くんだけなの! クレープ奢るから一緒に行こ!」
って必死にお願いしたら、嫌そうな顔しながらも結局ついてきてくれたし、なんだかんだ楽しそうに見て回った(と思ってる)。展示見てる時にしてくれた話が全部面白くて、大寿くんの知識量にビビった。
クリスマス決戦からひっそりこっそり仲が良い俺らだけど、思い返せば大寿くんから何かをお願いされたり、ねだられた記憶がない。
俺ばっかり聞いてもらってんのはフェアじゃねえよな。でも大寿くん、真正面から聞いても答えてくれそうにねぇよなー。どうやって聞き出すか。目の前でコーヒー飲んでる大寿くんを見ながらそんなことを考えていると
「おい。」
と凄まれる。全然怖くない。
「何そんな見てんだ。」
「あ、悪ぃ悪ぃ。ケーキと大寿くんって絵面、何回見ても面白くて。チェーンだけどここのケーキ美味いだろ。」
「ド突くぞ。」
なんて答えるけど、食べ進め具合で(あ、好きなんだな)って分かるくらいには、大寿くんと過ごした時間は長い。
今日も今日とて、俺は大寿くん家にいる。何もなしに押しかけるのはあれなので、来る途中で見かけたチェーン店のケーキ屋でケーキを買ってきた。大寿くん、クレープも好きだし意外と甘党なんだよな。
「てめぇもはやく食え。」
「あ、うん。」
温くなったケーキは美味くないので、俺もフォークを手に取る。ショートケーキとチョコレートケーキを買ってきたけど、大寿くんがどっちでも良いっていうから、俺はショートケーキを選んだ。ひと口頬張れば、生クリームの甘さと苺の甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。うん、美味い。久々のケーキに浸っていると、大寿くんが控えめに声を掛けてきた。
「…なぁ。」
「ん?」
「……そっちのひと口くれ。」
ソッチノヒトクチクレ??
突然のおねだりに頭が停止する。そんな俺を見て、大寿くんは困ってると勘違いしたらしい。
「…嫌なら良い。」
と引こうとするので、突然のおねだりにテンパっていた俺は何を思ったか
「全然! 全然嫌じゃねえから! 大寿くんって人が食べたやつとか嫌だと思ってたからびっくりしただけ! はい!」
と、咄嗟に自分のフォークでケーキを掬って差し出していた。いや、相手ルナマナじゃねーんだぞ。ひと口上げるのとアーンはまた別問題だろ。完全に間違えた。目の前には、宙に浮いた一口のケーキと大寿くん。頼むなんかツッコんでくれー!!
そんな俺の気持ちなんか知らないで、大寿くんはジーッとケーキを見る。そして
「…ん。」
と俺が差し出したケーキを食べた。
「苺は旬じゃないからあれだが、こっちもまずまずだな。」
「テメェも食うか。」とかなんとか言ってる気がしたけど、俺はもうそれどころではなかった。
大寿くんの初めてのおねだりは想像以上の破壊力で。しかも大人しくアーンなんてされて食べるものだから。
(墨入った大男、しかも元BD総長に対して可愛いはねぇだろ俺ェ…!)
頭では分かっているのに胸のキュンキュンは収まってくれず。
取り敢えず、次からなんか食べる時は、大寿くんにもひと口あげよう。
と、未だ混乱した心の中で謎に誓ったのだった。