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    846_MHA

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    6/26 TOKYO罹破維武5で配布した無配です。紙にサークル名も名前も書いて無いことに終わってから気付いたので、署名の意味合いで投稿します。
    改めて本を手に取ってくださった皆様、誠にありがとうございました。

    #たいみつ

    サメ太郎のこと 海を越えた遙か遠く。短い夏には日が沈まず長い冬には太陽が上がらない、オレ
    はそんな国から期待に胸を膨らませて日本にやってきた。ぎゅうぎゅうにコンテナ
    に詰められての長い船旅だって、オレのことを手に取るのはどんな奴なんだろうと
    考えたらちっとも辛くなかったんだ。
     けれどそれから長い間、オレは誰にも買われることなく、今日も大きな籠の下の
    方でぺちゃんこになっている。店員が定期的に場所を変えるから手には取られるけ
    ど、みんなオレを戻して別の奴を買っていく。だから、その度にどんどん下へ追い
    やられてしまう。
    「ママ、この子なんだか他のとちがうよ。へにゃってしてる。」
    「そうだねぇ、他の子にしようか。」
    今だって、オレを一度手に取った小さい男の子と母親が、一昨日籠に入ったばかり
    の新人を連れて行った。
     きっと今日も買われないんだろうな。しょうがない、だってオレは出来損ないだ
    から。
     オレの背びれは、みんなのように立たない。綿が少し足りないんだね、と他の奴
    らからは憐れみの目を向けられた。最初はそんなことない!って思ってたけど、オ
    レを手に取る全員がそう言って籠に戻していくのが続いて、認めるしかなかった。
     オレはこのまま、捨てられるのを待つしかないんだ。
     それでもやっぱり傷つくから、早く籠の下に潜らないないかなと思っている
    と、誰かに持ち上げられた。
    「おわぁ、こいつ中々のくたびれ具合だな。」
    オレを持ちあげた奴がそう言って笑った。
    「背びれ立ってねぇぞ。下の方にいたからか潰れてるし痕も付いてる。他のが良い
    んじゃねぇのか。」
    そりゅあわざわざ金出してこんなぺちゃんなやつは選ばないさ。オレだってそんな
    こと分かってる。早く籠に戻してくれ!
    「これくらいなら洗濯すれば復活するよ。背びれも、もう少し綿詰めればきっと立
    つし。ダメ?」
    他に綺麗な奴はいっぱいいるのに、どうやらオレを持ち上げているこいつは、オレ
    を買ってわざわざ洗濯して綿を詰める気でいるらしい。…変な奴。
    「テメェのツボ、本当にわかんねぇな。」
    そう言いながらデカい奴は笑っている。
     ふわりと身体が浮いた。そのままレジに運ばれていく。まじか、買うのかこの俺
    を。
    「袋はどうなさいますか。」
    「あ、大丈夫です。はい大寿くん。」
    「…俺が持つのかよ。」
     家に着くと、本当にオレを洗って乾かして痕を消してから、丁寧に糸を解いて綿
    を詰めてくれた。へたっていた背びれがピンと立った時の奴の、ミツヤの嬉しそう
    な顔を、オレはずっと忘れない。
    「こいつ、サメ太郎って名前にしよ。」
    「ダセェ却下。」
    「ダサくねェよ可愛いだろ!」
    「今を時めく新進気鋭のデザイナーが名付けたと知れたら、全米が泣くぞ。」
    「大寿テメェ表出ろや。」
    それから決着が付かなかった名前問題は、ミツヤの粘り勝ちだった。そうしてオ
    レ、サメ太郎はタイジュとミツヤのサメになったのだ。

     黒を基調に統一された寝室。その真ん中にどんと置かれたキングサイズのベッド
    の上が、オレの定位置。でも、ミツヤは家にいる時は、大体オレを抱きしめながら
    リビングのソファに座っている。結構容赦ない力で抱き締められるから苦しかった
    りするんだけど、そんな時はタイジュが「サメ太郎潰れてンぞ。」って助けてくれ
    る。
    「だってサメ太郎柔らかくて気持ち良いんだもん。大寿くんも抱きしめてみな
    よ。」
    「俺は良い。」
    こうやってミツヤの誘いをいつも断るから、タイジュはオレのことは撫でるばかり
    で抱きしめたりすることはない、ってミツヤは思っているだろう。でもミツヤがい
    ない時、タイジュはオレを抱きかかえて寝る。いつも少し迷った素振りを見せるけ
    ど、結局恥ずかしそうにオレを腕の中に抱き込んで顔を埋めてくるんだ。オレはい
    つもミツヤに抱きしめられているから、ミツヤの匂いが染みついている。多分、タ
    イジュはミツヤの匂いを嗅いでるんだと思う。これは、タイジュとオレだけの秘
    密。

     最近、ミツヤに抱きしめられていない。アトリエ?ってところに泊まり込んでい
    るらしい。ちゃんと飯食ってんのかあいつは、とタイジュがオレを抱きしめながら
    ぼやくのを聞いた。オレについているミツヤの匂いが薄くなってしまってタイジュ
    が寂しそうだから、早く帰ってこないかな。
     そう思っていると、玄関からカチャリと鍵の開く音がした。
    「ただいま、サメ太郎。」
    ミツヤだ!おかえり!
    ミツヤがオレを抱きしめる。いつものように力が強いけど、なんだか今日は抱きし
    めてくるミツヤの身体がごつごつしていて痛い。もう少しだけ優しく抱きしめてほ
    しいな。
     そんなオレの思いに気づくわけもなく、ミツヤはオレに顔を埋めて大きく息を吸
    い込むと、ぽつりと小さく呟いた。
    「…だいぶ寂しい思いさせちまったんだなァ。」
    そうだよ、タイジュすごく寂しそうだったよ。あれ、なんでミツヤはそれが分かる
    んだろう。
    「サメ太郎、タイジュくんの葉巻の匂いすごいから今日は洗濯するぞ。」
     タイジュがオレを抱きしめていることはミツヤにはバレバレだった。タイ
    ジュ、バレてることを知ったらすごく恥ずかしいだろうな。でも、今日は久しぶり
    に三人で寝られるからまぁ良いか。

     バタン、と玄関の閉まる音が聞こえてからしばらくして、タイジュが寝室にやっ
    て来る。ミツヤの気配はない。
    「…見てんじゃねェよ。」
    なんだタイジュ、やんのかコラ。あんなに寂しがってたのに、何でミツヤが出てい
    くの止めなかったんだよ!
     睨み合いの戦いから先に手を引いたのはタイジュだった。
    何やってんだ俺は、なんて言いながら俺の鼻先をひと撫でしてくる。タイジュの手
    はミツヤよりも大きいけど、触り方はミツヤより繊細だった。
    「サメ太郎。悪ィが、今日は一人で寝てくれ。」
    そうして、寝室のドアが静かに閉じられる。そんな顔、タイジュらしくないよ。早
    く仲直りしてよ。今日はミツヤが洗濯してくれたからお日様の匂いがしてふわふわ
    なんだぞオレは。

     朝になっても、タイジュもミツヤも戻ってこなかった。このまま二人がずっと喧
    嘩したままだったらどうしよう。オレは二人が一緒に買ったんだから、こんなもの
    いらないと捨てられるかもしれない。
     慣れているはずの広いベッドが、無性に寂しかった。

    「あ、本物のサメ太郎だ。ただいま。」
     聞き慣れた声の主が、オレの背中を撫でる。豪快な撫で方は中々強くて、やっぱ
    りタイジュの方が撫でるのは上手いと思う。でも今はこの撫で方が嬉しかった。ミ
    ツヤが帰ってきたんだ。
     案の定、嬉しそうなミツヤがオレを抱き締めてすぅと匂いを嗅ぐ。そのまま一緒
    にベッドに横になると、オレを挟んで隣にタイジュが寝転んだ。これが三人のお決
    まりの位置。
    「サメ太郎、昨日洗濯したからふわふわで良い匂いすんだよ。」
    ほら、大寿くんも。と差し出されるが、タイジュはオレの背びれを掴むと、自分の
    背中側に下ろした。おい、背びれ持つ時は優しくしろよ!
    「テメェは、こっちのサメ太郎を構うのが先だ。」
    「…ふは。サメ太郎、めっちゃ葉巻の匂いした。寂しい思いさせてごめんね。」
    「…クソ、バレバレじゃねぇか。」
    二人のくすくす笑う声が穏やかな寝息に代わるのはあっという間だった。
    全く。背びれのことは、今日だけは大目に見てやるか。

    「はぁ、腹いっぱいになったらまた眠くなってきた。」
    「ほら見ろ。」
     太陽がだいぶ高くまで上がったころ、二人はもそもそと起きると寝室から出て
    行って、しばらくしてまた戻ってきた。そうして再び二人でベッドにごろりと寝転
    ぶ。昼間に寝室にいることは少ないから、なんだか嬉しいな。
    「まだ寝られるだろ。寝とけ。」
    「んー…もうちょい頑張る。」
    「…いや頑張らないで寝ろよ。」
    寝転ぶミツヤにぎゅうと抱き締められる。ミツヤには感謝してるし一生ついていく
    と決めてるが、力加減はもう少しなんとかならないかな。
     タイジュも隣に寝転んでくると、オレを挟んで二人はまた楽しそうに話し始め
    た。眠いんじゃないのかよ!
    「…なァ、本当に仲直りエッチしねェの?」
    「………テメェ、明日の仕事は。」
    「んなもんいくらでも調整できるワ。あぁ、大寿くんは仕事忙しいんだ?」
    「……んなもんいくらでも調整できンだよ。」
    なるほど、ミツヤが眠かったのに寝ようとしなかった理由はこれか、ラブラブって
    やつだ。
     頭の上でリップ音が聞こえる。頼むから、色々飛ばさないでね。オレ、昨日洗わ
    れたばかりなんだ。
     なんだかオレも相棒が欲しくなってきた。もう一体くらい買わないかななんて
    思っていたら、タイジュがミツヤの手からオレをそっと抜き取って、そのまま
    ウォークインクローゼットまで連れていかれる。
    なんだよ!二人のラブラブなんてもう見慣れてるよ!
    タイジュの肩越しに、ベッドでミツヤが笑っているのが見えた。
    「あっはっはっは!大寿くん、サメ太郎に気ィ使ってんのかよ。可愛いなァも
    う。」
    「うるせェ!」
    はぁ、また三人で寝られると思ってたのにな。
     クローゼットのドアが閉まる直前、タイジュの小さな呟きが聞こえた。
    「…勝手に名前を借りてすまなかった。」
    あんなにダサいって言ってたのに、タイジュはオレの名前を借りたんだ。悪い気は
    しないから、今日はここで我慢してやろう。
    その代わり、また明日から三人で寝るんだからな!

                                                                           END
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