指先『おつかれ、ちゃんとめしくった?』
三ツ谷からのメールに、大寿は一人しかいない部屋で嘆息した。
(メールでも他人のことばっか気にかけやがって。)
夜、三ツ谷の妹達が寝た後は、起こさないようになるべく電話ではなくメールでやりとりすることが二人の暗黙の決まりになっていた。
大寿は最近変えたばかりのスマートフォンに、慣れた手つきでフリック入力で返信メールを打ち込む。
『食った。そっちは。』
『きょうはまなのりくえすとでちゅうかどん。たいじゅくんはなにたべたの?』
機械音痴の三ツ谷は変換出来ないことと、打ち込み時間を少しでも早くしたいからか全部平仮名で送ってくるため非常に読みづらい。それでも、短くないやりとりで大寿の速読力は格段に上がり、呼んだ瞬間に何が書かれているか分かるようになっていた。
『アイツ野菜食べられるのか。こっちはパスタ茹でて食べた。』
『とりがらであじつけたやさいはすきみたい。ぱすたいいな、うまそう。』
なんでもないやりとりを重ねて、受信ボックスはどんどん三ツ谷の名前で埋まっていった。
――
日付を超えたのを確認して、頃合いかとメールを送る。
『お前、明日も朝飯作るんだろう。そろそろ寝ろ。』
自分も寝支度をしようとした時、ピロンという受信音が聞こえてメールを開く。そこには、三ツ谷の指先から伝えられた小さな甘えが書かれてた。
『おやすみっていいたいからちょっとだけでんわしてもいい?』
内容を理解した瞬間、苛立ちにも似た劣情が胸の内に湧きあがり、それをぶつけるように猛然と返信を打ち込んで送信ボタンを押す。そして、準備をすべく勢い良く立ち上がった。このメールを受け取った瞬間の三ツ谷を見れないのは残念だが、会った時に聞けば良い。
『今から行くから直接言え。』