雪見酒で天天をしたと仮定する知己越え忘羨。2回目の夜を迎えようとお互いに上手く視線も合わないまま臥床に腰かける。そっと藍忘機の指先が触れ、大袈裟に肩を震わせる。
「……本当にいいのか」
いつもより熱の篭った声に指先が震える。からからに乾いた喉を唾を飲み込んで潤わせる。
「どんとこい!」
困らせまいと強気に出たはずが言葉選びを間違えた気がする。先程までとは違う羞恥心で顔を空いた片手で覆う魏無羨には、確かに藍忘機が小さく笑ったのが聞こえた。
「魏嬰」
名を呼ばれ、顔を上げるとそっと頬に白い指先が触れ、顎にかかる。そのまま引き寄せられるように唇を重ねた。
味はしない。ただ熱を分け合うだけの行為。
しかし酒とは違った酩酊感が襲い、くらりと視界が回る。
臥床にゆっくり倒れていく魏無羨を追うように藍忘機が覆い被さる。そのまま角度を変え、互いの唇がしっとりと同じ温度を帯びるまで押しつけ合った。
あのときのように舌を辛め合わせたりはしていないのに、自然と息が上がる。
どれくらい時が過ぎたのか。藍忘機の方からそっと唇を離し、無意識に追いかけそうになった魏無羨は上手く身体の力が入らなかったために起き上がれず、そのまま目で追うだけに留まった。
目の前の理知的な双眸がとろんと蕩けている姿に藍忘機は思わず息を飲む。
そうして、そっと知己の胸元に手を置き、腰の方へと指の腹で撫で下りた。つん、と腰帯で引っかかるように止まり、魏無羨が小さく頷くのを見て解きにかかった。解きにかかる。解きに、……
「……藍湛?」
「待て」
「……そこ、いや違う。そっちを」
「ここか」
「うん。で、そこを潜らせて……そっちじゃない」「…………」
「…………俺がやろうか?」
「ない」
初めてのときは魏無羨が自ら脱ぎ、藍忘機を誘った。藍忘機が魏無羨の服を脱がせるのはこれが初めてだったのだ。前々から難解な構造だとは思っていたが、まさかここまでとは。姑蘇藍氏の衣にはこのような金具など使われていない。
藍忘機は焦っていた。静かに激しく焦っていた。
先程までかなり良い雰囲気だったのに、今や魏無羨は上半身を上げ、懇切丁寧に腰帯の外し方を説明してくれている
。四苦八苦して外し終えた頃には、二人の間に漂う空気は普段通りのものになってしまっていた。
「…………」
「…………」
藍忘機の手の中で腰帯が寂しげに垂れる。
ここから、どう仕切り直せばいいのか。もちろん家規に載っているわけもなく、教えも受けていない。
藍忘機はそっと肩を落とした。今宵はこのまま寝るしかないのか。
あまりにも悲しげな姿に、魏無羨は笑いが込み上げてきた。かの含光君がなんて悲しげな顔をしているのか。
「は、はは……藍湛そんな顔をするなよ。腰帯如きがなんだ。これから何度も解くんだからすぐに慣れるさ」
「よいのか」
今宵に限らず、また抱いてもいいのか。
そう言外に問うと魏無羨は甘い表情で笑った。藍忘機は腰帯を綺麗に畳むと臥床の隅に置き、仕切り直しの口付けをと美しい顔に手を伸ばした。