AWAY,AWAY,AWAY from HOME グレイグ3日目3日目
「取り敢えず適当に買ってきてみたが…」
スーパーで買ってきたスイーツをキッチンのカウンターテーブルに並べる。
「今は随分色んなものがあるのだな。俺には何がなんだかさっぱりだ」
普段甘いものなど食べることも買うことも稀な自分には最近のスイーツ売り場は未知の惑星そのものだった。
昔ながらのケーキやクッキーのようなものもあるにはあったが、もはやこれは食べ物なのか?ただ大量の生クリームをパンに挟んだだけではないかと言いたくなるようなものもあった。
ホメロスは並べられた未知の惑星スイーツをじっくりと吟味していたが、やがてその中からひとつを選ぶと(一番胃もたれしそうな生クリームてんこ盛りのやつだ)、スプーン片手にキッチンを出て行った。
どうやらお眼鏡にかなったものがあったらしい。
ほっとしたのも束の間、直ぐにお眼鏡に適わなかったスイーツたちはどうするかという問題に直面した。
個包装されたクッキーなどはまだしも、生クリームが使われているものはどれも消費期限が短い。
好みがわからなかったとはいえ少々買いすぎたか。
「消費期限内にすべて消費するのは無理だろうが…取り敢えず冷蔵庫にいれておくか」
残ったスイーツたちを冷蔵庫にしまおうとしたが、昨日大量に買い込んだ食材が場所をとってスペースがない。
「むう。少々買い込みすぎたか。こちらのキノコを冷凍にして、こちらのキノコは今日の昼食に使うか…」
冷蔵庫内のパズルに四苦八苦していると、ホメロスがリビングから戻ってきて、カウンターの上に並べられたままのスイーツたちを再び吟味し始めた。
「どうした、他のにするのか?」
やがて先程のものにも負けずとも劣らぬ量のクリームもりもりスイーツを一つ選ぶと、ホメロスは再びリビングへ戻っていった。
見ているだけで口の中が甘くなってくる。
いくら甘いものが好きだと言ったって、あれにはお茶が必須だろう。
しかも相当渋いやつが。
冷蔵庫パズルを中断してリビングへ向かうと、ホメロスはソファーに寝転がって本を読みながら先程の生クリームの塊スイーツを食べていた。
なんて行儀が悪い。親が留守にしている時のティーンエイジャーか。
「お茶を淹れるか?それとさっき選んだやつ、食べないのなら冷蔵庫に…」
そこまで言って、俺は気が付いてしまった。
ティーンエイジャーの隣に置かれたサイドテーブルの上に転がったあるものに。
(あれは、まさか)
それは紛れもなく彼が最初に持って行ったスイーツの空容器で。
「もうひとつ食べ終わったのか!?!?」
思わず大きな声が出た。
ホメロスが驚いた顔でこちらを見ている。
いや、驚いたのはこちらの方だ。
まさかそんな。あの短時間であの生クリームの塊を?
しかし動かぬ証拠がそこにある。
デルカダール語で「糖尿に気をつけろ」は何というのだ。
エプロンのポケットから少しでも会話の役に立てばと昨日買ったばかりの辞書を取り出し、ページをめくる。
と、と、とうにょう…
ポケットサイズの小さな辞書はどうにもめくりにくい。
悪戦苦闘していると、隣にやってきた男にひょいとそれを取り上げられた。
ホメロスは器用にページをペラペラとめくると、俺に向かってひとつの単語を指さした。
『紅茶』
続けてもうひとつ。
『レモン』
それだけ指すとホメロスは辞書を俺のポケットに戻し、顎でキッチンの方向を指した。
早く淹れて来いということだろう。
「レ、レモンの紅茶か?それは糖尿病予防に効果があるのか?」
それなら急いで淹れてきてやらねば。
俺は急いでキッチンへ戻った。