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    おはぎ

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    おはぎ

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    呪宴2の展示作品です。

    以前ポイしたお宅訪問のお話のワクワク!夏油家お宅訪問~!Verです。
    いつも通り180%捏造ですが、幸せになって欲しい気持ちは本物を詰めてます。
    傑さんや、君にこれだけは言っておきたい!!

    ▼特に以下捏造が含まれます
    ・教師if
    ・夏油、五条家メンバ(両親、兄妹、ばあや、その他)
    ・五条、夏油両実家に関する事柄(所在地から全て)

    上記楽しめる方は宜しくお願いします!

    #夏五
    GeGo
    #呪宴2
    spellBanquet2

    恋人宣言「ねぇ傑、スーツと袴、どっちがいいかな?」
     コンコン、と開いた扉をノックしながら悟が声をかけて来る。明日の任務に関する資料に目を通していたからか、一瞬反応が遅れる。え、なんて?
    「ごめん、上手く聞き取れなくて。なに?」
    「だから、スーツと袴、どっちがいいかなって。今度実家寄ってくるとき用意お願いしてこようと思ってるから、早めに決めとかないとね」
     今日の昼何食べるかーとか、どっちのケーキにするかーとか、悟は昔から私に小さな判断を任せてくることがよくあった。自分で決めなと何度も言っているのだが悟の変な甘え癖は今も治っていない。だが、服装を聞いてくることは珍しい。(何でも、私のセンスは信用できないらしい。あのカッコよさが分からない方が不思議だ)しかも、選択肢はばっちり正装ときた。何か家の行事に出るのだろうか。それか結婚式とか?
    「どっちも似合うと思うけど……どんなイベントなの?」
     手元の資料から視線を外し悟を見ると、一瞬きょとんとした後柔らかく笑った。あ、可愛い。

    「なーに言ってんだよ傑、傑ん家行くときの話に決まってんじゃん」

     悟の言葉の意味が上手く理解できなかったのは、連勤のせいだと思うことにした。
    「え、ごめん、待って。全然分かんなかった。なんて?」
    「だから、初めてのご挨拶だろ? ちゃんとしないとって思ってさ」
     どこから説明するべきか……。コインでも挟めるんじゃないかと思うほど深く眉間に刻まれた皺を撫でながら考える。悟の場合これは決してふざけている訳ではないのだろう。彼なりに私の家族に対して礼儀を払った結果なのだと思う。だとしても、だ。久しぶりに帰って来た息子が、美形の大男を連れてきて、しかもソイツがオーダーメイドで仕立てられたスーツを着ててみろ。両親は新手の勧誘か、ドッキリだと思うに違いない。
     悟が私を思って考えてくれたことだ、やんわりとこの状況の違和感を伝えたい。
    「ありがとう悟、でもその、ウチは君の家と違ってお手伝いさんとかもいない家なんだ。だから、いきなりばっちり決めていくと、両親も驚いちゃうかもしれない。私も普通に普段着で帰るしさ」
     ね? というと、悟は少し考え込んでから、そっか、と腑に落ちた顔をした。良かった、伝わったか。ほっと胸を撫でおろしたのも束の間、きらきらとした笑顔で悟が言った。
    「ごめんごめん、傑の分も必要だったよね。じゃあやっぱりスーツにする? いっその事、作りに行く?」
    「そうじゃないだろ!!」


    ◇◇◇


     先日のひと悶着を思い出しながら車を走らせる。雲が少ない晴れ渡った空は日差しが強く、絶好のドライブ日和だった。助手席では窓を薄く開けている悟が冬特有の乾いた冷たい風を浴び、気持ちよさそうに大きく息を吐いている。
     約一年半ぶりの今回の帰省には、高専近くで少し大きめなワゴンを借りることにした。在来線を乗り継いで帰ることもできるのだが、ただでさえ人目を引く大男二人が荷物を抱えて電車に乗り込む様を想像して辞めてしまった。きっと車移動ばかりの悟は年甲斐もなくはしゃぐだろうし、ウロチョロする子ども(のようなアラサー男)と移動するときは車に乗せるのが一番楽だからだ。それに……私はバックミラーに映るトランクからはみ出した大荷物に目をやる。
    「日帰りの帰省についてくるってだけなのに、何であんなに大荷物なんだ君は」
    「えー? だって傑の実家行くの初めてだし、僕としても準備が色々あるわけよ!」
    「はぁ……あんまり両親の寿命を縮めるようなことはしないでくれよ」
     眉間を掻きながらハンドルを握りなおした。やはり車にして正解だったな、と考えながら隣に座る悟を見る。
    (私が京都に降り立った時とまるで違うじゃないか)
     事前シミュレーションでは、緊張してしおらしくなった悟を優しく慰めているはずだったんだが……。私の時とは打って変わって、昨夜からまるで遠足前の子供のようにワクワクしている悟を見ると、何だか悔しいような残念なような複雑な思いだった。
    (肝が据わっているというかなんというか……悟が緊張することってあるのかな)
     薄くかけていたラジオの曲に合わせて悟がメロディーを口ずさむ。いつになく上機嫌な悟に、心の中でほんのちょっとだけ肩を落とした。
     オフホワイトのタートルネックに仕立ての良いジャケット姿が良く似合っている。正装で行くという悟を必死に説得して、なんとか〝綺麗めな普段着〟で妥協してもらったのだ。その代わり普段ならジャージやスウェット(もちろん外出用だが)で帰ることの多い私も、今日は緩めのスラックスにジャケットという出で立ちである。いつも通りの楽な恰好で悟の部屋に迎えに行ったのだが、「そんなランニングに行くような恰好じゃダメ」と部屋に戻って着替えさせられたのだ。別にただ実家に帰るだけなのだから何でもいいだろうと思うのだが、私の服を選ぶ悟が楽しそうだったので好きにさせた。

     お正月の五条家訪問の帰り道、私から今度はウチに遊びに行こうと誘った。その時には特段日付を考えていたわけではなかったのだが、正月気分も些か落ち着いてきた頃に「餅でも送ろうか」という母からの連絡を受け、ならばと帰省の約束を取り付けたのだ。本当はゴールデンウィークとか夏休みとか、他にも選択肢は沢山あった。だが、あまり時間を置きすぎると決心が鈍ると思ったのだ。……私の。
     今回の帰省では、私は大きなミッションを二つ抱えている。一つは悟を家族に会わせること、そしてもう一つは――悟が私の〝恋人である〟と家族に伝えることだった。

     私が親元を離れてから約十五年が経つ。まだ実家に居た頃の私はもう少し純真で、良い雰囲気になっていた子がいたとしても、親に話すなんて恥ずかしくて当然できなかった。決して家族仲が冷え切っていたというわけではなく、どちらかといえば仲の良い家族だったように思う。しかし高専に来てからは折に触れて連絡を取る程度で、自分のプライベートなことに関して共有したことはこれまで一度も無かったのだ。
    (あの人たちの事だから、頭ごなしに否定されることはない、と思うが……)
     久しぶりに帰って来た息子から初めて紹介された恋人が男だった時、果たして家族はどんな反応をするのか、私自身も想像がつかなかった。しかし私は薄情にも、自分と家族の関係より今回の訪問で悟が嫌な思いをしなければいいと、そればかり考えていた。私が京都で感じたあの温かな気持ちを悟にもあげたい、ただ、そう願っていた。



     高速を降り下道に入る。車で一時間ちょっと走っただけなのに、高専の敷地一体とはまた違うのどかな風景が広がっていた。高速の出口付近には周囲の田んぼに似合わない大きな倉庫が何軒も並び立っている。そういえば最近は物流拠点としてテレビに出たとかいってたっけ。そのまま下道を走ること二十分、見慣れた住宅街が視界に映る。実家近くの時間貸駐車場に差し掛かった時、保険程度にかけていたカーナビが『目的地周辺です』と到着を告げた。カーナビの音声を聞いた悟がきょろきょろと辺りを見回す。
    「君ん家みたいに、どでかい門やら着物の人だかりなんて無いからね。そんな見たって見つかんないと思うよ」
    「そうじゃないけど、夏油なんて名前珍しいだろ? 表札で分かんないかなと思ってさ」
    「もうすぐ行くんだからいいじゃないか」
     母から事前に聞いていた場所に車を停めて外に出る。久しぶりに訪れた地元は何となく空気が違って感じた。トランクから荷物を下ろそうと手をかけると「僕がやるよ」と悟が手伝ってくれた。いつもより少しだけ優等生然とした振る舞いが始まっているのが可笑しくて、悟にバレない程度に小さく笑った。
    「じゃあいい? 向かっても」
    「うん、オッケー」
     ふぅ、と小さく息を吐く様を見る限り、流石の悟も少しは緊張してきたらしかった。何だかこっちまで緊張しちゃうじゃないか、急に改まった顔するなよ。心の中で悟に理不尽な悪態をつきながら久しぶりとなる実家へと歩を進めた。

     実家の前まで来ると「おぉ、コレが傑の生家か」と悟が謎に感嘆の声を上げる。生家って、何だそれは。偉人じゃあるまいし。見慣れた門に手をかけると、きぃ、と軽く軋みながら私達を出迎えた。門から玄関まで小さな道が引かれており、その周りには綺麗に手入れされたシクラメンの鉢植えが置かれている。そういえば母はこの時期になるといつも花屋でシクラメンの鉢植えを買ってきていたのを思い出した。小さい頃は手伝いに駆り出されて一緒になって綺麗な鉢植えを探し回ったものだ。その奥には小さな芝生と物干し竿が見える。
    「悟の家とは比べものにならないけど、中々立派なものだろう? 小さい頃はここにプール出したり、バーベキューしたりしたんだよ」
    「へぇ~……?」
    「子供用のビニールプールならここでも出せるんだよ、ほら、夏に高専でスイカ冷やすのに使ったろ? あれだよ。それと、バーベキューは家族だけでやるならこれくらいの敷地で十分なんだからな」
    「あ、あぁあれね! はいはい、確かにあれなら……」
     絶対分かってない顔だったもんな、あれは。悟に一般家庭の常識を一つ授けたところで「じゃあいくよ」と玄関のチャイムを鳴らした。家の中から聞こえる「はーい」という声に、私の横では悟がスッと背筋を伸ばす。

    「はいはい、おかえ……り……」
     ガチャリ、玄関を開けて出迎えてくれた母は私の横に立つ悟に気づいた途端、彼を見上げたまま固まってしまった。流石の悟もここまであからさまに固まられては、何と声をかけていいものか困っている。あの五条悟が一般人の様子を伺うように黙って苦笑いしてるなんて、高専の奴らに言っても絶対信じないだろうな、これ。
    「あ、あの……」
    「母さん、大丈夫? 電話で話したでしょ、悟、一緒に高専で働いてる同僚の」
     痺れを切らした悟が声を発したところで私が割って入る。
    「あ、あ、ごめんなさい! 傑より大きい人って初めて見たから、びっくりしちゃった」
    「驚かせてしまってすみません、私、傑さんと一緒に高専で教員をしてます、五条悟といいます。今日は家族水入らずの所にお邪魔してしまい申し訳ありません」
    「いえいえこちらこそ、ごめんなさいねボーっとしちゃって。私、傑の母の文子あやこです。遠いところわざわざありがとうね」
     やっと動き出した母さんに招かれて玄関をくぐり中に上がると、一軒家特融のひんやりとした感触がフローリングから伝わってくる。「これで大丈夫かしら」と出された来客用のスリッパからは私も悟もかかとがはみ出していた。それを見た悟がぽつりと「何かこびとの家に来たみたい」とつぶやいた。君は気づいてなかったんだろうが、五条家は日本家屋のわりに全部がデカすぎるんだぞ、私たちくらいの身長で頭を下げずとも跨ぐことのできる敷居なんてそうそうないんだから。変にワクワクしている悟に「私たちがデカすぎるんだからな」と釘を刺しておく。
     リビングには私が実家に居た頃から使っている年季の入ったソファとダイニングテーブルが置かれている。「お茶でいいかしら」といってキッチンに入る母に、悟は慌てて手土産を渡した。
    「あの、お菓子なんですがもしよろしければ……傑さんにご家族の好みを伺って選んだのでお口に合うと嬉しいのですが」
    「あらあら、わざわざありがとうございます。そんな、良かったのに」
    「甘すぎるのは得意じゃないと思うって伝えたんだ。悟、美味しいもの沢山知ってるからきっと母さんたちも気に入ると思うよ」
    「そうなの? じゃあこれはお父さんが帰ってきてからの楽しみにとっておきましょうか」
     いそいそと貰った手土産を脇におくと、慣れた手つきで母が用意をしてくれる。「これ持ってくね」とカウンターに置かれていた菓子入れを手に取ると、手持無沙汰になった悟がすかさず「僕が持ってくよ」と手を出した。うーん、これはまさしく借りて来た猫だな。そのまま悟に任せ、私はキッチンの母を手伝いに向かった。
     
     食器棚から来客用の湯飲みを出そうとする母の後ろから手を伸ばし手に取る。
    「これでいい?」
    「あぁそうそう、ありがとう。傑がいると本当助かるわ」
    「無駄にデカいからね」
     無駄ってことないでしょうよ、と笑いながら母が受け取った湯飲みを軽く洗いお茶を用意する。私用には魚の名前が書かれた寿司屋の湯飲みが当たり前のように用意されていて恥ずかしい。実家に居た時から使っていたものだが、あの時は量も入るし何かカッコいいと思っていたんだよな。
    「ごめんね、急に人連れてきてさ」
    「いーのよ、傑が誰か連れてくるなんて珍しいからお父さんと楽しみにしてたくらいだもの。でも、傑より大きくて本当にびっくりしちゃった。悟さん? はどのくらいあるの」
    「えー、たぶん二メートル弱じゃない? 私が一八〇くらいだから」
    「ひゃー、そりゃ大きいわけだ。最初見た時、モデルさんが来たかと思っちゃったわよ」
     さっきまでそんなこと一切表に出してなかったはずの母が少し興奮ぎみに話すのを見て、母もそれなりに緊張しているのかもしれないなと思った。そりゃあんなに綺麗でデカい美人を目の当りにしたら圧倒されちゃうのもわかるけどさ、未だに朝とかびっくりするときあるし。私も。
     小さなお盆に湯飲みを乗せてリビングに戻る。ダイニングテーブルの傍で立ちつくしていた悟は、上座を勧める母に押し負けて私と共に腰かけた。来客用の湯飲みは悟の手には小さく明らかにサイズが合っていなかった。そういえば私も、自分の手に会うサイズの食器がなかなか無くて、結局寿司屋の湯飲みに行きついたのを思い出した。
     思い返せば、五条家に伺った時は食器や布団に至るまで小さいと感じることは無かったかもしれない。それは何から何まで悟基準で設計された家だから私も不便を感じなかったのだ。改めて規格外の愛情をひしひしと感じる。
     あの時の緊張感とほんのりとした温かさを思い出していると、私の向かいに腰かけた母が湯気の立つ湯飲みを傾けた。
    「今日は寒かったでしょう、道も混んでなかった?」
    「うん、来るときはそんなに。朝道が凍るかもって聞いてたから用心してたんだけどね、特に問題なかったよ」
    「それならよかった。悟さんも折角のお休みに傑に付き合ってくれてありがとうね」
    「いえ! 僕の方こそ誘われるままについてきてしまって。でも傑さんの生まれ育ったところを見てみたかったのでとても楽しみにしていました」
     すぐに母と打ち解けて柔らかく話す悟の顔は、いつも以上に〝好青年〟のキラキラが足されていて眩しい。この家に来てからずっとばかり見ているせいで、いっそ恐ろしくすら感じてくる。これが普段伊地知を脅し、楽巌寺学長を煽りまくっているあの悟なのか? 普段からこの百分の一でも周囲に気遣ってもらえると、私の気苦労も少しは減るのだろうが……まぁ期待するだけ無駄だろうな。
     でも同時に、それだけ私の家族に対し配慮してくれているのだという事実は、ちょっとだけ嬉しかった。

    「学校では傑上手くやれてるのかしら? 悟さんに迷惑かけてない?」
    「傑さんは体……育系のクラブ活動なんかの指導も上手くて、生徒たちから慕われていますよ。それに普段から僕の面倒をよく見てくれるくらいで……何かと頼ってしまってます」
    「おや自覚はあったのか」
     普通の高校で〝体術〟の授業なんてあるわけがないし、呪術界の外では高専の説明は中々難しい。これも私が両親に自分の事をあまり話さなくなった要因の一つだった。無駄な心配はかけたくないし、ましてや知らなくてもいい恐怖や不快感を家族に与えたくはなかった。
     悟には、事前にこの辺りのことを共有しておいたので誤魔化しながら上手く話してくれている。私がスカウトされた時にも一度説明を受けているからか、家族たちはそれ程深く高専について突っ込んでは来ない。これもまた、この人たちの優しさなのだろう。

     それからも悟は一年達の任務へ同行した時の話や姉妹校交流会の話、一緒に働くもう一人の同級生の話なんかを少しの嘘を交えながら母に話して聞かせてくれた。悟の話を面白そうに相槌を打ちながら聞く母を見て、昔から母さんは聞き上手だったな、と思った。
    「傑ってば全然連絡よこさないから心配してたけど、悟さんみたいな素敵な方が一緒なら心強いわね。この子結構頑固なところあると思うけど、根は良い子だから。悟さん、これからも傑のこと、よろしくお願いしますね」
     一通り悟の話を聞いていた母がふと口にした台詞にどきりとする。なんて事ない軽さで発せられた、息子の同僚に対して何の違和感もない言葉の筈なのに。「こちらこそ、傑さんにご迷惑をお掛けしすぎない様に気をつけます」と笑顔で応える悟にも、特に変わった様子はない。「お菓子足してくるわね」と席をたった母の後ろ姿を見つめながら、この人はどこまで分かっているのだろうかと静かに早鐘を打つ心臓を落ち着かせるため深く息を吐いた。

     母が持ち帰った菓子入れには私が好きだった醤油煎餅が用意されていた。
    「あ、これさ、東京だと全然見かけないんだよね。このちょっと焦げた感じとか好きだったのに」
    「私もこれがお煎餅の中だと一番好きなのよ。でも、この辺でもサトウさんとこしか置かなくなっちゃって、見つけたら何袋か買ってくるの。良かったら少し持ってく?」
    「いいの? やった、私一時食べた過ぎてメーカーから直接箱買いしようか真剣に悩んだことあるんだよね」
     徐に煎餅を手に取ると、ぱきぱきと袋の中で小さく割った。それを見ていた悟が不思議そうに私の顔を見る。
    「え、何どうしたの? 悟も食べるこれ、美味しいよ」
    「や、傑が食べ物一口サイズにしてるのって初めて見たかもと思って」
     それを聞いた母さんが「あんたまさか、学校でも丸呑みしてるの?」とぎょっとしていた。
    「人聞き悪いな、別にいつでもって訳じゃないだろ」
    「でも傑、この前みかんも一口で食べきってたじゃん。僕喉詰まらせるんじゃないかってひやひやしたもん」
    「あれは、私が剥いた傍から悟が食べるから仕方なく、」
     必死の弁明をしていると、母が「でも」と挟んだ。
    「傑ってば、ちっちゃい時から何でも口に入れる子供で。ご飯の時もいっつもハムスターみたいになってたじゃない」
    「そうなんですか! わ〜小さい時の傑って見た事ないから想像できないなぁ〜!」
     隣に座る私の顔をじろじろと眺めながら悟は希望に満ちた眼差しをバシバシ私に投げかける。そんなキラキラした顔しても絶対嫌だぞ。
     しかし私のスルーも虚しく、気の利く母は「じゃあ昔のアルバムでも見る?」と席を立ってしまった。
     廊下の奥に母が消えたのを見てから「人の母親を誑かすなよ」と悪態をついた。
    「誑かすって! 人聞き悪すぎでしょ」
     傑ママが優しいってだけじゃん、とルンルンと効果音が付きそうな笑顔で座っている悟の足を、机の下で軽く小突いた。

    「あったあった、これこれ」
     数冊のアルバムを手にした母が戻ってくる。どれも表紙の絵が色褪せていて時の流れを感じる見た目をしていた。
    「傑は初めての子供だったから写真沢山あるのよ〜」
     そう言って母が開いたアルバムの最初のページには、真っ白いガーゼに包まれた赤ん坊の私が写っていた。
    「わ、可愛い〜! まだホヤホヤの赤ちゃんじゃん!」
    「これは生まれた日の写真ね、本当にホヤホヤよ」
     自分の記憶にない写真を恋人に見られるのは結構恥ずかしいし、変なものが写ってないか怖くもあるのだが、母も楽しそうなのを見ると無碍にできず、私も黙って見ているしかなかった。
     ……悟、いいから私が生まれた日のこととか聞かなくて、天気とかいいって別に。
     ぺらぺらとページを捲りながら、悟と母が楽しそうに写真を見ていく。「これはお宮参りね。傑ってばずっと寝てて静かで良かったんだけど重かった」「これは初めて公園に連れて行った日、子供たちに囲まれて泣いちゃったのよ」母が私も知らない様な話を添えながら写真を説明していく。その話を聞くうちに、最初感じていた恥ずかしさは薄れ、悟と一緒に聞き入ってしまう。
     ぺら、幾度めかのページをめくると戦隊モノのヒーローと並んでポーズを決める私の写真があった。
    「あ、これジュレンジャーでしょ! 僕も観てたよこれ」
    「そうそう、これわざわざ遠くの遊園地まで会いに行ったのよねぇ。スーくん大好きだったから」
     この頃の写真だいたいこのポーズしてるのよ、と母が他の写真も見せる。だが、悟は私の可愛い写真達にも惑わされてはくれなかった。
    「小さい頃は〝スーくん〟って呼ばれてたんですか?」
     にこにこといい笑顔の悟が逆に怖い。
    「あぁ、そうなの。家にいた時はずっとスーくんだったから出ちゃったのね。ごめんなさいね、恥ずかしいわよね」
    「いいじゃないですか、仲良しって感じがして! ね、スーくん」
    「悟なんて実家では、坊ちゃま坊ちゃまって呼ばれてたじゃないか」
     にやにやと私の肩に手を回す悟に、お前も人のこと言えるのか、と努めてにこやかに言葉を返す。すると母が「悟さんってお坊ちゃまなの?」と興味を惹かれた様だった。ナイス母さん。
    「悟の実家は京都なんだけどさ、凄いんだよ。京都駅でタクシー拾うでしょ? その人に〝五条の屋敷まで〟って言うと悟の家に着くんだ」
    「え、五条さんってお名前珍しいの?」
    「そうじゃないよ、悟の家が凄い家すぎてその辺りじゃ有名なんだって」
     何処かで聞いた様な疑問に意気揚々と答える。隣では悟が「僕の話はいいじゃん、傑の話聞こうよ」と控えめに声を上げていた。普段の悟なら無理にでも私の口を塞ぎに来るだろうが、生憎ここはわたしのホームだ(別に上手いことは言ってない)手も足も出ない悟に免じて、五条家エピソードは少しに留めておいた。
    (それに母もあんまり話すぎると、悟に対して緊張してしまうかもしれないしな)
     話を戻してアルバムに視線を戻す。そこにはランドセルを背負って桜の下でピースサインをした私と母が写っていた。
    「これ小学校の入学式?」
    「そう、父も居た筈なんだけど……写真撮ってくれるのがいっつも父だから写真に写ってないのかも」
    「お父さんずっとビデオ回したり、写真撮ったり忙しそうだったものねぇ」
     すごいいい笑顔じゃん、と悟が優しく写真の中の私を撫でた。悟は以前、高専以外の学校には通って来なかったと言っていた。私たちが出会った高専も、一般的な高校生活と比べたら全く異なる環境と言える。もしかしたら私が当たり前の様に経験してきた学校生活というものに、私が思う以上に悟は憧れがあるのかもしれないなと思った。
    「でも傑、昔からモテたんじゃないの? クラス中の女の子みーんな夢中にさせてたでしょ」
    「そんなわけないだろ、別に普通だよ、普通」
    「いやいや、高専の時だってすんごいモテてたじゃん!」
     実際はどうなんですか? と悟が母に裏を取ろうとするが「そんなにモテモテじゃなかったんじゃない?」と否定され驚いている。
    「え、あの傑がモテないなんてある?」
    「いや、私の印象どうなってるんだよ」
    「だって、何かあったとしか思えないじゃん!」
     私と悟のやり取りを見ていた母が、ふふ、と笑いながら「スーくんは夢中になってた女の子がいたからね」とアルバムのページをめくった。
     そこには、戸惑いながらも大事そうに赤ん坊を抱える小さい私の姿が写っていた。

    「え……傑、この子……まさか、」
    「そ、これがハルだよ」
    「わー! これが噂のハルちゃんかぁ、ほにゃほにゃかーわいー」
     写真の中の妹に悟がメロメロになっている。その様子を見た母が、驚いた顔をして私に小声で問いかけた。
    「あんた、悟さんにハルのこと話してるの?」
    「え、あぁうん、普通に歳の離れた妹がいるよってくらいだけど……」
     私の返答に、へぇ〜、と尚も驚いた様子の母の返しがむず痒く「何か変だった?」とぶっきらぼうに返した。
    「いや別に変ではないけど、昔から自分の話あんまりしない子だと思ってたからちょっと驚いたのよ」

     お茶を啜りながら「別にそれくらい話すよ普通に」と返す私の顔をにこにこと見つめてくる母の視線がうるさくて、そのまま湯呑みを大きく傾ける。寿司屋の湯呑みがデカいことにこんな形で助けられたのは初めてだった。


    ◇◇◇


     他のアルバムもペラペラとめくると、そこにはハルと私の二人の写真ばかりが収められていた。私の話から小さかったハルの話に興味が完全に移った頃、お茶のおかわりを用意しに母が席を立った。
     手元のアルバムを眺めながら悟が懐かしそうに「初めて妹がいるって聞いた時は妙に納得したんだよな」と呟く。
    「会った時から世話焼きな奴だなとは思ってたけど、こんなに歳の離れた妹がいたのは少し驚いたけどね」
    「まぁ確かに七つ離れてるのは珍しいかもね。でもそのおかげで、私も半分ハルの親になった気持ちになれたんだけどさ」
     中学を卒業してすぐ高専に入学してしまった私が彼女と同じ屋根の下で過ごした期間は短い。だが、親元を離れてからも何かと歳の離れたこの妹のことが気にかかり、家族からこまめに近況を共有してもらっていたのだ。……決してシスコンではないが。
    「初めて僕がハルちゃんの話聞いたのって何キッカケだったんだっけ、灰原の妹さんの話とかしてた時だっけ?」
    「え、嘘。まさかあの事件忘れたの?」
    「事件? どんなやつ?」
     やった本人は覚えていないというのはどうやら本当らしい。思い当たる節はないといった様子で首を傾げる悟に半ば呆れながら、一部で語り継がれているかの有名な事件の話を、事件を起こした張本人に話して聞かせる。

    「君、本当に忘れたのか? 『俺とその女、どっちが大事なんだよ事件』さ、覚えてない?」

     
     そう、あれはまだ私たちが付き合う前。互いの事が「いけすかない奴」から「気の合う親友」に思えてきた頃だった。その頃の悟は、初めて出来た同年代の友達に浮かれまくっていたし、私は私で呪術界最強を地でいく悟から執着される事に、正直酔っていた。
     その日もいつもの様に、私の部屋に入り浸っていた悟とダラダラ互いの漫画を貸し借りしていると、いつもと違うオレンジ色に光るランプと共に私の携帯が着信を告げた。本を読む手を止め、すぐさま携帯を構う私に悟が「珍しいじゃん」と声をかける。
    「何が?」
    「すぐ着信に反応すんの」
    「別に、悟や硝子からの連絡だってすぐ返すじゃないか」
     悟への返事もそこそこに来たばかりのメールを開くと、そこには平仮名が多用された文章に一枚の写真が添付されていた。可愛らしいメール文にすぐさま返事を書く。彼女でも読みやすいように、少しの漢字と平仮名はスペースを開けて書いた。自然と綻ぶ私の顔を見た悟が、わざとらしく「げぇ」と声を張った。明らかに嘲笑の声音を乗せたそれに、ぴくりと私の眉が動く。
    「何だよ」
    「べっつにー。キショい顔してんなと思っただけ」
     手元の本に視線を戻した悟を、今度は私が引き留める。
    「その口は失礼なことしか言えないのか? それとも、失礼か否か判断できないほどオツムが弱いのかな?」
    「あ゙? んだとテメー」
     売り言葉に買い言葉、あっという間にピリリとした緊張感が二人の間に流れる。
    「急に私に向かって暴言を吐いてきたのはそっちだろう」
    「お前がニヤニヤとキッショい顔して笑いながら携帯なんてイジってるからだろーが。何だ女か?」
     煽る悟の顔にすぐさま手が出そうになったが、グッと堪えた。危ない、つい三日前にも自室の扉を破壊して夜蛾先生に怒られたばかりだ、流石にこんなに続けてはまずい。しかし、このムカムカとした思いをどうにかして悟にぶつけてやりたい。
    「だったら何だよ、彼女がいたって別におかしくないじゃないか。それともあれか? 悟坊ちゃんは自分にいたこと無いから、私が羨ましいのかな?」
     わざとらしく鼻で笑った次の瞬間、私の左腕は悟の拳を受け止めていた。そこからは、まぁいつもの流れで。気づけば私の部屋は青空が見えるほど風通しが良くなっていて、私たちは夜蛾先生に首根っこを掴まれて廊下に座らされていた。
    「で? 今回はどちらが吹っかけたんだ」
    「「コイツです!」」
     互いを指差しながら元気よくハモった私たちは、その場で取っ組み合いを再開しようとしてさらに指導を食らった。
    「何が原因でそうなったんだ」
     夜蛾先生は自然と悟の方を見る。ちらっと悟がこっちを見たが気づかないふりをした。今回は悟が吹っかけたんだから、ちゃんと洗いざらい吐け、そしてもう一発くらい拳骨食らえばいいんだ。
     先生に無言で見つめられ、よほど居心地が悪くなったのか悟が何やら小声でぶつぶつと言い訳を始めた。
    「……って、傑が……か、……から」
    「何だ悟、もっとはっきりと話せ」
    「だって、傑が! 女とばっかメールするから!!」
     横の私を真っ直ぐ指差して非難してきた。ばっかりって。たった一通メールを確認していただけじゃないか、何を言ってるんだコイツは。呆れてものが言えずに黙っていると、続けて不名誉な事を口にした。
    「傑が彼女とメールばっかしてんのがわりーんだろ! 折角俺が遊びに行ってんのに!」
    「はぁ!? さっきはたった一通メールを送っただけじゃないか、勝手に話をでっち上げるなよ!」
    「そのたった一通のメールを嬉しそうにずーっとニヤニヤ見てたくせに!」
    「こらお前たち、言ってる側から喧嘩を始めるんじゃない!」
     また始まった言い合いを制止した先生が、淡々と事実確認を行うと言った口調で悟に話しかけた。
     
    「要するに悟、お前は一緒に遊んでいた傑が、彼女に気を取られてしまったのが寂しかったんだな?」
     
     夜蛾先生は昔から悪気なく青少年の心を抉ってくる事がある。そう、正しく今の様に。
     息を飲んで固まった悟の顔が、みるみるうちに沸騰していく。そんな様子を見たら、弄りたくなってしまうのも仕方がないと私は思う。
    「悟、きみ……私に構ってもらえなくて、寂しかったのか?」
     ぷぷ、とわざとらしく口元に手を添えて悟を見ると、元々赤かった顔が更に赤くなって……あ、爆発した。
    「はぁ!? ンなわけねーだろなにいっちゃってんだよ、つーか、は? イミわかんないし、」
    「そんなに慌てるなって。図星だっていう様なものだよ?」
     肩を組もうとした私の手を力一杯振り解き悟が立ち上がる。意味の分からない言葉を口走りながら、そのままどこかへ立ち去ろうとする悟を追いかけようと足を踏み出した時、ポケットからこぼれ落ちた携帯電話がオレンジ色に光った。
    「あ、」
     ほんの一瞬、私の視線が携帯に向いた事を、悟は見逃さない。
    「っテメー、傑! お前は――」

     
    「『俺とその女、どっちが大事なんだよー!!』と叫ぶ悟の大声が、校舎中に響き渡りましたとさ」
    「あぁ、はい、思い出しました……」
     はず、と両手で顔を覆いながら苦笑いをする悟の耳がほんのりと赤く染まっていた。
    「あの後さ、悟の声に驚いて集まってきた硝子たちにもハルの話する事になったんだよね、確か」
    「硝子死ぬんじゃないかってくらい爆笑しててさ、いやー若いって凄いね! 今でも恥ずかしくって死にそうだもん!」
     火照った顔を手で仰ぎながら「恐ろしいね思春期」と苦笑した。
    「それまで僕、携帯の着信音とかランプの色とか変えられるって知らなくてさ。傑たちに教えてもらって変えたりしたよね」
    「そうそう、俺もトクベツがいいーとか言ってさぁ」
     あの時の悟、可愛かったなぁ。当時の自分はまだ、悟の可愛さに気づけていなかった事が悔やまれる。ガラケーとか懐かしいー、今の若い子たちは着メロとか使わないもんなぁ、と感傷に浸る大人の悟も、まぁこれはこれで可愛いのだけれど。
     そうこうしているうちに、携帯を手にした母が戻ってきた。少し遅いなと思っていたが、どうやら誰かと電話していたらしい。
    「ごめんねさいね、今ハルから電話があってこれから帰るって。傑、悪いんだけど迎えに行ってあげてくれない? 今日自転車は危ないからって朝送ってったのよ。でもまだお父さん帰ってないから車が無くて」
    「あぁいいよ別に。ついでに何か買ってくるものとかある?」
    「お夕飯の買い物はお父さん帰ってきてから行くから大丈夫よ、ありがとう」
     最寄駅からは徒歩三十分の距離にあるこの辺りでは、主な交通手段はもっぱら自転車か自家用車だった。普段は妹も自転車で通学しているのだが、この寒い中歩いて帰るのは可哀想だろう。母に私が迎えにいく事を伝えてもらい、悟と共に外に出た。来た時には明るかった外も段々と陽が落ち、西日を眩しく感じる時間帯になっていた。


    ◇◇◇


     懐かしい道を辿り駅まで車を走らせる。このレストランは家族でよく来た、とか、ここにあった店で中学の制服を注文した、と道中に溶け込んだ思い出を悟にも共有しながら通る道は、何だかいつもと違って見えた。
     駅近くの駐車場に車を入れ改札の前まで迎えに行く。電車がつくたびに多くの人が改札前を行き来していた。改札の真正面、木製のベンチ横の壁にもたれ掛かり待つ。私たちの前を行き交う人々が遠慮がちにちらちらと視線を寄越している。呪術界の人間と一緒に居る時には感じない視線に少し懐かしさを覚えた。
    「何かさ、繁華街での任務帰り思い出さないか?」
    「あぁ、スーツ着た人達に紛れて歩いてたら職質されかけたやつ?」
    「そうそう。高専に居ると忘れそうになっちゃうけど、悟は目立つからなぁ」
     横に並んだ悟は隠す気のないオーラがだだ洩れていて、通り過ぎる人が目で追ってしまうのも頷けた。一人納得している私に「マジで言ってる?」と悟が呆れた視線を寄越す。
    「ん? 何が」
    「いや、傑は昔から少しズレてんだよなって思い出しただけ」
    「悟に言われるのはかなり心外なんだけど」
     そうじゃねーんだよなぁ、と笑う悟をイマイチ理解できずにいると「あ、あれそうじゃない?」と悟が遠くを指さした。そこには人ごみに紛れて携帯を見ている一人の女の子がいた。
    「ハル!」
     片手を上げて呼びかけると、気づいた彼女はかなりの速足でこちらに向かってきた。あ、悟も一緒って母さん言ってないかも。ハル、ビックリしちゃうんじゃないかな。固まっちゃったらどうしようか。しかし私の心配をよそに、近くに来た彼女は「五条さんですか? 初めまして、妹のはるかです、いつも兄がお世話になってます」と頭を下げた。
    「初めまして、五条悟です。こちらこそお兄さんにはいつもお世話になってます」
    「わざわざ迎えに来てもらっちゃってすみません、歩いて帰れるって母にも言ったんですけど」
    「いやいや、こんな寒い中大変じゃない。まぁ実際には僕じゃなくてお兄さんが車出してくれたんだけどね」
     平然と会話を続ける二人の間にたまらず「ちょっと待って」と割って入った。
    「え、ハル、悟には初めて会うよね? 何でそんなに普通なの?」
    「だって、おにいが昔から写真見せてくれてたし、顔くらい何となく覚えてるよ」
    「この顔を何となく!? というか、ハルは緊張したりしないの、悟に会って」
     普通悟に初めて会う人は、老若男女問わず照れたり緊張して硬直してしまうことがほとんどだった。呪術界での立場を抜きにしてもこの容姿だ、そのような扱いを受けるのは本人も周囲も慣れたものだった。しかしハルは緊張するどころか普通に会話が始まっている。
    「え、何で? 緊張する要素ある?」
    「だって容姿がこれだけ整っているし、上背もあるだろ?」
     何故だか必死に悟を褒めているような格好になっているが断じてそういう訳ではなく、私は一般論を述べているに過ぎない。しかし、私の必死の答弁も空しく彼女には全く刺さっていないようだった。それを聞いたハルは、はぁ?、と分かりやすく顔に書きながら「それ、おにいが言うの?」と返してきた。
     そのやり取りを横で見ていた悟がふは、と吹き出した。
    「お兄さんってさ、ホントこういう所あるよねぇ~」
    「そうなんですよ、何か変に自己評価歪んでて……それ以外は結構まともな人なんですけどね」
    「だよねだよね~! あ、僕もハルちゃんって呼んでもいい? 僕の事は悟とか、何か適当に呼んでよ」
    「流石に呼び捨てはおにいに殺されるんで……じゃあ、悟さん、で」
     お兄さんハルちゃんのこと大好きだから殺しはしないでしょ~、と笑いながらそのまま並び立って歩いていく。いやいや、何かよくわからないけどさ、仲良くなり過ぎじゃない二人とも!?
     慌てて二人の後を追いかけ、ハルの手荷物を受け取り運ぶ。ちら、と視線の合った悟に口パクで〝過保護〟と揶揄われ、ハルに見えないよう軽く蹴飛ばした。



    「――で、結局その時も的外れなことばっかり言っててさ」
    「うわ、その場面すっごい想像できます」
     帰りの車の中でも、二人は終始喋り通しだった。……話題は主に私の不可解な言動や行動について。二人が仲良くなってくれるのは私としても嬉しいのだが、予想と違う形で絆を深めている彼らに少し困惑していた。というか、私のおかしな行動についてでよくそんな喋れるな、悟の方がよっぽど常識外れのくせに。だが、久しぶりに会った妹の前で醜態をさらすわけにもいかず、素知らぬ顔でハンドルを握っていた。
     悟はともかく、ハルがこうしてすぐに人と打ち解けるのはかなり珍しいことだった。昔からあまり外交的なタイプではなく、広く浅く友達を作るより狭く深く付き合うタイプなのだ。そのハルが、ここまで楽しそうに話ている……久しぶりに会った実の兄よりも楽しそうに……。
    「なぁ、大学はどうなんだ? 楽しくやってるのか?」
     悟とハルの会話が切れたところですかさず話題を切り替えた。
    「うん、まぁそれなりに。もう授業もそんなに多くないけどね」
    「そうか、まぁあまり無理はしないで……」
    「え、傑緊張してる? そんな口下手じゃないじゃん普段」
     折角私が兄らしい言葉をかけようとしているのに、悟が横からちゃちゃを入れてくる。君は少しも黙ってられないのか?
    「悟、私は別にいつも通りだろう? 何を言ってるんだい?」
    「いやいや、めちゃくちゃ胡散臭さに磨きかかってるでしょ」
    「悟、家に着くまで静かにしてる事はできるかな?」
    「めっちゃテンパっててウケる」
    「悟、」
    「ふっ……くっ」
     どんどん強くなる私の語気を聞いていたハルが、後部座席で小さく肩を震わせているのがバックミラー越しに見える。
    「ちょ、おいハルまで……あー調子狂うな」
    「だって、おにいがこんなに振り回されてるの初めて見たから……ふはっ」
     口元を覆いながらも笑い続ける彼女に、なんだか毒気が抜かれてしまった私は大きく息を吐き「とりあえずどっか寄り道しよう、コンビニとか」とハンドルを切った。



    「ただいまぁ」
    「戻りましたー」
     揃いで買ったホットココアの甘ったるい香りを纏う二人を追いかけて玄関をくぐる。コンビニでも最近ハマってる板チョコや新作アイスで盛り上がる二人を眺めながら、女子大生と同じテンションで盛り上がれる悟がやっぱりおかしいのだろうと結論づけた。(なので、断じて私がおじさんになった訳ではない、はずである)
    「おかえりー遅かったね、どっか寄り道してきたの?」
    「ちょっとコンビニ寄ってたぁ」
     家に帰ると母がキッチンで何やら夕食の準備を始めている。
    「まだ車なかったけど、父さん帰り遅くない?」
    「んーなんかね、渋滞巻き込まれちゃったみたいなのよ」
     予定ではとっくに帰宅予定だった父はまだ帰っておらず、日帰りの予定をしている私たちはまた別の機会にするか、と、この後の流れを想像する。
    (本当は今日、悟の事を話そうと思ってたけど……)
     父が帰っていない事に少し安堵している自分が恥ずかしい。あんなに意気込んでいたのに、案外臆病者なのだなと内心呆れていた。
     まぁ、悩んでいても仕方がない。そろそろ私たちは帰るよ、と母に切り出そうとしたちょうどその時、玄関の扉がガチャンと大きな音を立てた。

    「いや〜すんごい渋滞なんだもん、参ったよ〜」
     ゴルフバッグを抱えて、少しよれたトレーナーを来た父が扉の奥から顔を出した。
    「おかえり〜、ちょうど今お父さん遅いねって言ってたところなのよ」
     出迎える母に続いて、私と悟も玄関に出向く。母と妹に馴染み始めていた悟がまた少し緊張した面持ちに戻った。
    「父さん、おかえり」
     母の後ろから声をかける。父が顔を上げたのをみてすかさず悟が「初めまして」と頭を下げた。続けて名乗ろうとした悟の声を、父が遮った。
    「わ! すんごい美形がいる! え、なに、芸能人!?」
    「え、あ、えっと、傑さんの同僚の五条――」
    「あ、君が五条くん!? 初めまして、傑の父の直樹なおきです。よろしく!」
    「はい! 宜しく、お願い、します!」
     ブンブンと音が出そうな勢いで握手した手を振る父に「とりあえず中入ってからにしたら?」と呆れ気味の母が声をかけた。
    「お、それもそうか。ごめんね気が利かなくてさ。それにしても五条くんおっきいねぇ、身長いくつ?」
    「あ、一九〇――」
    「一九〇センチ!? そりゃデカいはずだわ! 何かスポーツやってないの? バスケとかバレーとかさ」
    「あーそうですね、特には」
    「うっそ! 勿体無いよ〜あ、今度さうちの学校に、」
    「父さん、一旦その辺にして。悟困ってるから」
     帰ってくるなり続いていた父のマシンガントークを無理やり止めに入る。なんだか今日はこういうの多いな……。ごめんごめんと謝りながら廊下をいく父の後ろで悟に小さく謝った。
    「ごめんね、父さん見ての通り声がデカくてよく喋るんだよ……無理して付き合わなくていいからね本当」
    「いや、びっくりはしたけどさ、明るくて良い人じゃん」
    「まぁ良い人ではあるんだけど、その、裏表が無いというか……空気が読めないというか。思った事全部口から出ちゃうタイプの人だからさ、ごめん」
     豪快な人だねぇ、なんて呑気に言ってくれる悟に救われる。父も帰ってきたし少し話したら高専に戻るか、そう思い時間を確認しようとしていると、洗面所から父が大声で何か叫んでいた。顔洗いながら叫ばれても全然分かんないんだけど。
    「んー?」
    「っふはー! そうだ傑、お前今日車で来てるんだろう? 帰りの高速、事故渋滞かなんかで酷い状態だったぞ。帰れるのか今日?」
    「え、嘘!」
     慌てて調べると、そこには広範囲にわたる事故渋滞の様子とその影響で下道もかなり混んでいるとニュースが出ている。……うわ、これは予想してなかったぞ。帰宅時間に重なった事もあり、復旧にはかなり時間がかかりそうだった。
    (いざとなれば、悟に頼んで飛んで帰れるポイントまで移動すれば良いけれど)
     今から無理に車を走らせて帰るのも少し面倒だし、今日は近くに宿でも取って明日の朝イチで高専に戻ったらいいんじゃないか? 幸い、緊急の任務招集はかかっていないし、明日は夜まで時間があったはずだ。
    「悟、ちょっと、」
     廊下に呼び、状況を説明する。悟も今のところ特に連絡は無いようで、一旦は近くのビジネスホテルを探す事で落ち着いた。悟に部屋を探してもらっている間に、両親に状況を説明する。
    「――という状況だから、私たちは今日近くに部屋でも探して明日朝に帰る事にするよ」
    「そう、何か大変になっちゃったわね。じゃあ折角ならお夕飯食べて行く? 悟さんにも相談してみてだけど」
    「そうだね、ちょっと聞いてみるよ」
     母とこの後の事について話し始めると、不思議そうな顔をした父があっけらかんとした様子で「何でホテルを探すんだ?」と聞いてきた。
    「だって、渋滞が酷くて帰れそうに無いからさ」
    「だったらウチに泊まっていけばいいじゃないか。傑の部屋に布団二枚くらいひけるだろう?」
     駄目なのか? と澄んだ瞳で問いかけられ言葉に詰まる。
    「そんな、急に実家に泊まるなんて悟さんがしんどいでしょうよ」
     母が私の気持ちを代弁してくれた。私が悟の実家に行った時は、はなから泊まりの予定だったし、あそこまで広い屋敷であればお家の方々との距離もある程度はとることができた。しかし、ウチは普通の二階建て住居だし、私が以前使っていた部屋だって今は埃を被っているだろう。流石にそこに悟を寝かせるわけにはいかない。どうやって父に理解してもらうか考えていると、父が私を飛び越えて廊下の奥にいた悟に「五条くん! ウチに泊まって行きなよ!」と声をかけていた。
    「ちょ、父さん!」
    「え、五条くんに聞いてみようかと思ったんだけど、まずかったかな?」
    「お父さんに聞かれたら悟さんも断りづらいでしょう!」
     私と母にすごい剣幕で止められたのが効いたのか、流石の父も少し声を顰めていた。その気遣いを二秒前に発揮してくれたらよかったのに。
     父に誘われた悟が「一応部屋探してたけど……どうなったの?」と私に聞いてきた。ここまできて変に隠し立てするのも気持ち悪いと、今までの経緯を説明する。
    「――だから、やっぱりホテルにしようかと思ってるんだけど」
    「僕は別に全然平気だよ、寧ろ傑の部屋とか興味あるし。あ、もちろん皆さんの迷惑にならなきゃだけど」
     けろっとした様子で答える悟に母が「無理はしなくていいのよ」と確認するが、悟は特段我慢している様子は無い。
     この時間からホテル探して移動するより、ウチに泊まらせてもらった方が楽か? いやでも、恋人と急に実家に泊まるというのは些か居心地が悪いし……。眉間にギュッと寄った皺を掻きながら導き出した結論は。
     
    「……じゃあ、お言葉に甘えて、泊まってもいいかな……」
     父の言葉に後押しされ、結局今夜は実家に泊まる事にした。悟が少しでもしんどそうだったらすぐに辞めていたが、私の予想に反して少しワクワクしていたのも大きい。それに、私が中学まで過ごしていた自室に悟が寝泊まりする様を見てみたいという気持ちもあった。
     
    「じゃあ、そうと決まれば傑の部屋軽く掃除しといてやるか!」
     余程私たちの滞在が嬉しいのか、父が張り切って二階に上がっていく。自分でやるから、と声をかけると、それなら母さんを手伝ってやれ、と言われてしまった。キッチンに居た母に「手伝えることある?」と聞くと、買い出しを頼まれた。
    「悟さんも一緒なら、お料理増やさないとね! とりあえずこれ買ってきてもらえる?」
     そう言って渡されたメモには沢山の食材が書かれていた。
    「こんなに食べるかな、私たちもうアラサーだからね?」
    「何言ってるのよ、まだまだ若いでしょ。あ、あと傑に頼むのも変な話だけど……帰りにケーキ屋さん寄ってきて貰える? お夕飯食べてくか分かんなかったけど、一応と思って予約しといたのよ」
     これ予約表ね、と小さな紙切れを渡された。手元で紙切れを遊びながら曖昧に返事をする。
    (私、悟の好物まで話してたのか……でもいつ言ったんだろう?)
     まぁ、悟が喜ぶならいいか、とポケットに紙切れをしまい込み「買い物行こう」と悟を誘った。



     母に頼まれたケーキ屋にも立ち寄り予約商品を回収した帰り道、ちょうど車通りの多い時間帯なのか家へと続く大通りは日中よりも少し混雑していた。信号を待ちながら、隣に座る悟に「本当に良かったの?」と聞いた。
    「今日ウチに泊まる事にしちゃったけどさ、しんどくない?」
    「うーん、まぁ全く緊張しない訳じゃないけど、でも本当に僕無理してないよ、今日傑の家族と一緒にご飯食べられて良かったなと思ってるし。それに、さっきも言ったけどさ、傑の部屋興味あったんだよねぇ」
     悪戯っぽい顔でこちらを向いた悟に「面白いもんなんて無いよ、私がそんなの残すと思う?」と返すとつまらなそうに笑いながら背もたれに寄りかかった。
    「でも、僕と会う前の傑が居た場所って初めてだから。やっぱりちょっと楽しみかな」
     窓の外を眺める悟の姿に嘘は無さそうで安心した。なるべく悟に負担が無いよう、特に父さんに注意しなくちゃな、と気を引き締める。
     
     悟が手にした買い物メモを眺めながら、今日の夕飯は何かな、と予想する。この材料だと唐揚げかな? でも豚肉もあるよ、と想像しながら話していると、唐突に「そういえば、僕のこと家族になんて言ってるの?」と聞いてきた。
    「え、なんてって、」
    「僕のこと恋人とは言ってないんだよね? 学友で同僚ですって感じでいいかな?」
     ご飯食べてる時お父さんに突っ込まれるかもしれないから、口裏合わせとかなきゃでしょ? そう言う悟の顔を慌てて覗き込むが、悲しさや怒りといった感情は読み取れない。
     まずい、まずいまずい。悟は私の事をきちんと事前に紹介してくれていたのに。でもこれだけは勘違いされたくなくて、慌てて弁解の言葉をかき集める。
    「悟、その、ごめん。別に隠したかったとかそう言うわけじゃないんだよ。ただ、本当にプライベートな話を家族にする事が減っていて、」
    「うん、分かってるよ。大丈夫。傑が僕たちの事隠したいわけじゃないのは分かってるから、そんな焦った顔しないでよ。……何事もさ、タイミングってのがあるでしょ。傑と傑の家族の事はお前にしか分からないからさ」
     だから、焦んなくていいよ。そういってハンドルに乗せた私の手に優しく悟が触れた。
     いつも大事なことは悟に任せっぱなしだな、私は。
     自分の不甲斐なさで喉の奥が苦く、きゅうと締まる。信号が変わるまでの間私ができたことといえば、悟の手に自分の手を重ね「ごめん、ありがとう」と小さく答えることだけだった。

    「ただいま」
    「おかえり、ありがとう~」
    「これも、受け取ってきました」
     悟が大事そうにケーキの箱を母に渡す。クスクスと笑い合うくらいに二人は打ち解けたみたいだった。自分の家族にも、悟にも今の私は誠実に向き合っていない。やっぱり今日こそ、今日こそ話さなくては。


    ◇◇◇


    「それじゃ、いただきましょうか」
     慌ただしく準備を終え、ダイニングテーブルの上にはたくさんの料理が並んでいた。ポテトサラダに刺身、冷しゃぶ、煮物に大量のから揚げ。一見すると秩序のない全体的に茶色いその食卓は、私が学生時代に好きだった母の手料理ばかりだった。
    「うわ、凄い量。これ食べきれる?」
    「傑がいるからと思ったら作り過ぎちゃって」
     席に座りながら乗り切れないほどの料理を見てハルが呟く。母と一緒に準備をしながら少し量が多いかなとは思っていたが、これほどとは。隣では悟が料理の写真を撮っている。
    「僕初めてポテトサラダ作っちゃった。あんなに手間かかるんだね、なんかパクパク食べるの勿体無いよ」
     京都での宣言通り、悟には私と一緒に夕食作りを手伝ってもらったのだ。以前私から〝五条家のお手伝いさん〟の存在を聞いていた母は、悟に包丁を握らせることをためらっていたが「ちゃんと家事手伝ってって言ってあるから」と悟にも料理を担当してもらった。手順や味付けを母に聞きながら、それでもてきぱきと料理を作る悟を見て、そういえば悟は普段率先してやらないだけで、何でも卒なく(というか人並み以上に)出来る奴だったなと思い出した。
     悟は楽しそうに手伝ってくれてたけど、悟の実家に知られたら怒られちゃうかな。いや、きっとあの人たちなら『悟坊ちゃんの料理姿をぜひ動画で送ってください』って言われるな、と想像する。頭の中にいる五条家の方々に笑いながら、そっと動画も撮っておいた。

    「ハルちゃんこれ食べた? 取ろうか?」
    「あ、ありがとうございます。これ美味しいですよね」
    「うん僕もこの味好きーずっと食べちゃう」
     から揚げを頬張りながら和やかな食卓を眺める。悟はものすごくウチに馴染みすぎてて、逆に違和感があるくらいだった。まるでずっと前からウチに来ていたかのような順応性。父にあれとって、と言われて、はいって醤油渡せるレベルだぞ。何でもできるにもほどがあるだろう。久しぶりに来た実の息子の私の方が何だか客人のようで、とりあえず手近な肉を頬張った。
    「五条くーん、五条くんはぁ、やっぱり呑まないんだよねぇ?」
    「ちょっと父さん、それもう三回目だよ。悟凄いお酒弱いから、飲ませちゃだめだからね」
     綺麗に出来上がっている父が悟の事をうるうるとした目で見つめながら、酒を共にしてほしそうに強請る。悟もさすがにウチで潰れるのは避けたいからとやんわり断り続けているのだが、酔っ払いは諦めが悪いらしい。どうしてこうも父親というものは酒を飲ませたがるのか。
     私は肝臓の造りがどうやら母に似たらしい。うちでは父が最も酒に弱く、次にハル、母、私の順に酒に強かった。母も昔はもっと飲んでいたようだが、最近は年のせいか弱くなったとぼやいている。(それでもまだまだよく飲む方なのだから、昔はどれほどザルだったのか私にも想像できない)
     父が手にしていた缶をひょいと取り上げ水を飲ませる。その間にも、悟は母やハルと私が子供の頃好きだった料理や最近作った料理の話なんかをしているみたいだった。私が料理するときは結構豪快だとか、初めてカップ麺を食べたのは学生時代私が教えたからだとか。変なことまでハルに話すなよ、と口を挟みながら父の相手をしていると、急に居住まいをただした父が、ハルとにこやかに話す悟を真っすぐ指さして大声で宣言した。

    「五条くん! ハルはまだ嫁になんて出さないからね!!」

     一瞬でその場の空気が凍り付く。私と悟だけではなく、母とハルも同様にその場から動けなくなっていた。さっきまでの穏やかな空気は消え去り、重い沈黙が流れている。

    ――今にして思えば、私も結構酒が回っていたのだと思う。ほら、自分より酔ってる人を見ると冷静になるやつあるじゃないか、あんな感じだったんだと思う。だってそうじゃなければ説明がつかない。あの場で急に〝恋人宣言〟をするだなんて愚行。

     私は何を思ったか、隣に座る悟の手を握ったままその場に立ち「あのさ!」と声を張った。
    「私、皆んなに言わなきゃいけないことがあって。その、実は……悟と、付き合ってるんだ、私。友達ってだけじゃなくて、恋人として、悟が好きなんだ」
    「……っえ゙!!」
     真ん丸に目を見開いて固まる父にもお構いなしで言葉を続ける。
    「急にごめん。でも、今日悟を連れて来たのは皆に紹介したかったからなんだ、私の恋人として。だから、その、ハルの事は大好きだけど、悟はあげられないんだ、ごめん!」
    「……いや、知ってたし」
    「……はぇ?」
     がばりと下げた頭上から、なんとも冷静な妹の声がして変な音が出てしまった。その横では母が「ウチに連れてくるって聞いた時から何となくそんな気はしてたから……」と苦笑している。どうやら勘の鋭い女性陣には今回の帰省最大の目的は既にバレていたらしい。私の隣では父がまだ漫画みたいに口をはくはくと動かしていた。
     バレていたなら逆に好都合だ、ここまで来たならば考えていたことを全て話してしまおうと、もう一度大きく息を吸った。
    「それと、その、悟とはただの恋人ってだけじゃなく……生涯を共にしたいと思ってる……ごめん」
     最後、ごめん、という言葉が自然と口をついて出てしまった。きっとそこには、急にごめんとか、酒の勢いに頼ってごめんとか……孫の顔は見せられそうになくて、ごめんとか。色んな感情がない交ぜになって、ぽろっと零れ出てしまった。しかし、そんな私の弱さを母は見逃さなかった。
     
    「傑、その〝ごめん〟は何に対する言葉なの? 悟さんとお付き合いしていること、後悔してるの?」
    「してない! するわけない!」
     右手に掴んでいた悟の手を、一層強く握り込む。じわりと汗をかいた掌が悟に私の早い鼓動を伝えてしまいそうだった。
    「なら、そんな事言ったら悟さんに失礼でしょう。堂々としてなさい」
     母の言葉に自然と背筋が伸びる。続く母の言葉を待つように、その場の全員が視線を向ける。
    「……傑、悟さんのこと幸せにできる?」
    「はい、何に代えても悟を幸せにします」
     すっかり酔いの醒めた声で答えると、母は少し微妙な顔をした。
    「貴方は昔から自己犠牲に走るところがあったけど……。いい? 悟さんを幸せにするってことはね、傑、貴方も一緒に幸せにならなくちゃ駄目なのよ。貴方が大事にしたい悟さんは、傑が苦しんだり悲しんでるのをみて、幸せになれるような人じゃないでしょ? だから、貴方と引き換えにしちゃ駄目なのよ」
     自分でも自覚していなかったことを指摘され、ぐっと言葉に詰まってしまった。私はきっと悟を幸せにするためならば喜んで自分の身を差し出していただろう。自分の事をあまり話さなくなったと思っていたのに、私以上に私を理解している母親という存在の大きさを実感する。
     だが、私は母の言う事を理解した後でも、素直に「自分も大事にします」と言えなかった。何故なら今この瞬間だって、悟と私を天秤にかけたら真っ先に悟を選んでしまうから。頭では理解できたとしても、心が追いついていなかった。
     母に嘘はつきたくない、だが、素直に返事もできない。どう言葉を続けるべきか迷っていると、悟が私の右手をぎゅっと握った。
    「文子さん、僕が傑さんを幸せにします。傑さんと一緒に、僕も幸せになります……だから、息子さんと一緒に居させてください。お願いします」
     大きく頭を下げた悟につられて私も頭を下げる。
     その様子を見ていた母も静かに席を立ち「悟さん。傑を、宜しくお願いします」と頭を下げた。
     これまでのやり取りを傍観していた父が、はっと我に返り「五条くん! む、息子だってまだ婿には出さないからね!!」と叫ぶ声を聴いたところで、私の〝恋人宣言〟は幕を閉じた。



    「はぁ……何か気が抜けたらどっと疲れた」
    「こっちの台詞よ」
     私が洗った食器を母が横で拭きながら、さっきの会話を振り返る。
    「あ゙ぁ゙~もっと何かこう、カッコよく言うつもりだったのにな……勢い任せで言ってしまった……」
    「十分カッコよかったと思うわよ?」
     私の数百倍カッコよかった人に言われてもなんの説得力もないのだが。無心で皿を洗いながら、ふと頭をよぎった疑問を口にする。
    「母さんはさ、いつから気づいてたの」
    「えぇ~確信があったわけじゃないけど、一緒に帰るって連絡貰った時かなぁ」
    「そんな最初から!?」
     慌てて皿を割りそうになる私をみてクスクスと母が笑う。
    「だって傑、今まで付き合ってる人紹介してきたことないじゃない。それが急に、人連れて帰るだなんて改まって言うからさ。あー何かあるのかなぁって」
     お父さんは何にも気づいてなかったみたいだけどねぇ、と拭き終えた皿を片しながら母が笑った。そんなに最初から気づかれてたなんて……それまでの行動で恥ずかしいことしてないだろうな、大丈夫か?
     実家に来てからの行動を反芻していると「傑、まだお腹の余裕ある?」と聞いてきた。
    「え、結構いっぱいだけど……なんで?」
    「だってケーキ食べなきゃいけないじゃない」
    「あぁ、でも私が食べられなくても悟が食べるんじゃないかな。アイツ甘いものなら無限に食べるから」
     そういった私に「今日はそういう訳に行かないでしょ」と母が冷蔵庫からケーキの箱を取り出した。
    「傑、あんた忘れてるのかもしれないけど、貴方今日誕生日でしょう?」
     箱から出て来たホールケーキの上には〝すぐるくん おたんじょうびおめでとう!〟と書かれたチョコプレートが鎮座していた。

     半分寝こけている父をハルが引きづってダイニングに連れてくる。誕生日ケーキを切るときは家族揃って、という母の号令があったからだ。ケーキを箱の上に乗せ、バランスよく刺さった蝋燭に火がともされる。部屋中の明かりが消され酔っぱらって声だけは大きい父と母にハル、そして悟も家族と一緒に手を叩きながら歌を歌ってくれた。
    「ほら、傑、火ぃ消して!」
     悟が携帯片手に促すのをうけ、ふぅ、と一息で吹き消した。あ、そういえば吹き消すとき何か願い事するんだっけ。今からでも間に合うかな。
     明かりをつけてケーキを切り分け(二人でケーキカットしたら!という父のいじりは黙殺した)お皿に盛る。傑の何だから食べなよ、という悟の皿に一口だけ齧ったチョコプレートを、甘すぎるから残りは食べてと乗せた。
     飲み物を用意していると「そうそう」と母が紙袋をだしてきた。それはウチに来た時悟が持参した手土産だった。
    「お父さんもいるし、せっかくなら開けてみない?」
    「あぁ、確かに。見てみようか」
     居間で休んでいた父も、なんだなんだと寄ってくる。
    「これ悟が用意してくれた手土産だって、開けてみてよ」
    「お口に合うといいのですが」
    「えー五条くんがくれるものってなんかすごそうだなぁ」
     父がばりばりと豪快に包装紙を開けると、中から達筆で〝御挨拶 五条〟と書かれた熨斗がかかった箱が出て来た。その文字を見た瞬間走馬灯のように、五条の屋敷で過ごした時間が私の頭の中を駆け巡った。……何だか、とても嫌な予感がする。
     父も先程よりは少し丁寧に熨斗をはがし箱を開けると、中には可愛らしいサイズのどら焼きが綺麗に整列している。なんだどら焼きか、庶民派な手土産を選んでくれたのかとホッとしたが……や、ちょっと待て、これは。

    「今回初めてお伺いするって話したら、ただの手土産じゃつまらないんじゃないかって話になって。そこで今回は、傑の顔で焼印を作ってもらいました! どら焼きは僕がいつも実家にいる時用意してもらうものなんですけど、少しいつもより甘さ控えめにしてもらったので、食べやすいと思います」

     にこにこと嬉しそうに笑う悟の顔には「このくらいなら大丈夫だよね?」と自信満々に書かれている。いや、五条の家に届けてるくらいだからきっとどら焼きは物凄い美味しいんだろうけどさ、たかが私の実家に遊びに来るってだけでこんなの用意する? しかも焼印もまた無駄に精巧な作りだな、私の前髪まで綺麗に再現されてる。しかも私の顔五割増しで美化されてないか? ほら、母もハルも若干引いてるし。
     固まってしまった母たちに代わり、何て返そうか悩んでいると、突然父が爆笑し始めた。
    「あっはっは! 五条くん、こんなの初めて見たよ! 傑の顔ってことは、コレ今回の為に作ったってことだよね?」
    「はい、恥ずかしながら僕だけではどんなものにするか決めかねてしまって……それを知った僕の家族が意見をくれたんです。先日ウチの実家に傑さんが来てくれたとき、家族たちとも随分打ち解けてくれたからか、張り切ってしまって」
     爆笑しながら悟の肩をバシバシ叩く父に隠れて、母とハルに「ちょっと!」と腕を引かれこそこそと質問攻めにあう。
    「悟さんってお育ちよさそうだなぁとは思ってたけど、結構ヤバい家の人なの!?」
    「お家の方も何かちょっと凄い感じなの!?」
    「だから母さんには言ったけど、京都の流しのタクシーが悟の実家知ってるくらいデカい屋敷に住んでるんだってば。お手伝いさんも、この間だけでも二十人くらいは居たんじゃないかな」
    「「にっ……!」」
     息を吸ったまま固まってしまった母と妹に「おーい」と声をかけるも返事はない。その横では早速一つどら焼きの袋を開けて父がかぶりついていた。
    「傑! この傑どら焼き美味しいぞ、お前も食え! あ、でも共食いになっちゃうか?」
     あはは、と呑気に笑う父の図太さに救われた瞬間だった。


    ◇◇◇


    「あーお腹いっぱい! ケーキも食べられて幸せ~お誕生日様様だね」
    「そりゃ良かった。私はもう当分甘いものはいらないかな」
     ガサゴソと籠に入ったお風呂セットを揺らしながら、悟と連れ立って夜道を歩く。二人のサイズじゃウチのお風呂は狭いから、と近所の銭湯を母に勧められたのだ。正直腹も膨れていたし、今から外に出るのは面倒だったが、話を聞いた悟の目がキラキラと輝いているのを見て重い腰を上げることにしたのだ。
     ひゅうと頬を撫でる風が冷たく上着の襟に顔をうずめる。こりゃ帰りも早く帰らないと湯冷めするな。隣では銭湯にはしゃぐ悟が籠を振り回しながら楽しそうに歩いていた。悟、寒くないの君は。
    「あー傑のパパとママにも喜んでもらえてよかったなぁ。準備してきた甲斐があった~」
    「いや、私の誕生日に私の両親にプレゼント用意するってどう考えてもやり過ぎだろう!」
     
     悟のやりすぎな手土産には、実はまだ続きがあったのだ。ケーキを食べ終えた頃「車の鍵貸して」と悟が手を出した。泊り支度に必要なのかもと鍵を貸して数分後、悟が紙袋を抱えて戻った。
    「何持ってきたの? それ」
    「ん? 実はね、コレ。文子さんと直樹さんに、プレゼント」
     そういうと、悟は手にしていた紙袋を両親に手渡した。
    「えっと、これは何のプレゼントなのかしら」
    「あぁ、それは〝傑を生んでくれてありがとうございます〟のプレゼントです。ちょっとしたものなのですが……良ければ……」
    「は?」
     何だそれは。産んでもらった本人ですら、そんなのこれまで上げたことがないぞ。ほら、母はやっぱり困惑してるじゃないか。そんな母とは対照的に、なんだろうとワクワクした顔で父が箱を開ける。
    「あ! これ、ネームプレート?」
    「はい、ゴルフがお好きと傑さんに聞いたので、もしよければと思って」
     父には、ゴルフバッグに下げる用のネームプレートを渡したようだった。お洒落だねー! と喜ぶ父が手にしている箱は、たぶん桐箱なんじゃないだろうか……。父の様子を見て母も自分のプレゼントを開ける。そこには綺麗なガラスペンとインクのセットが入っていた。
    「傑さんから、書き物がお好きだと伺って。それなら飾っておいても綺麗かなと思いまして……」
    「……あ、ありがとう! すごく素敵な贈り物だわ、悟さん私達にまで気を遣ってくれて嬉しいわ」
     悟の子犬のような伺う顔に負けた母は、少しだけ顔を引きつらせながら悟のプレゼントを喜んでいた。細工の細やかなガラスペンは、確かに飾っているだけでもその価値を発揮しそうなほど美しかった。母も嬉しくない筈はないのだが、能天気な父と違いその価値を何となく察してしまうのだろう。指紋を付けぬようそっと箱にしまっていた。

    「今度からはさ、ウチの家族に何か用意するときは私も一緒に考えさせてよ、その方が好みとかも伝えやすいしさ」
     まぁ今回の贈り物は二人とも喜んでたと思うけどね、そうフォローを入れながらも、今後は私に相談してくれ、と暗に匂わせる。……どこまで伝わったかは甚だ疑問だが、両親、特に母の心労を減らすためにもなるべく事前に目を通したかった。

     暫くして小さい頃よく足を運んだ銭湯に到着した。滝乃湯と書かれた木製の看板に大きな煙突が懐かしい。暖簾をくぐり中に入ると、見知った顔が私達を出迎えた。
    「あれ、傑くん? 久しぶりだねぇ大きくなって~」
    「はい、ご無沙汰してます」
     挨拶を交わして浴場に向かう。中は遅い時間帯ということもあり人はまばらだった。素早く身支度を済ませ悟とともに湯気の立つ浴室に入った。
    「傑、シャンプーかしてー。わ、これリンスインじゃん」
    「これで十分だよ」
    「そんな髪長いのによくこれで大丈夫だと思うよね」
     簡単に身体を流してから湯船に入る。家のお風呂とは違った熱めのお湯に手足を投げ出して浸かると自然と声が出てしまう。私たちがお湯に浸かるころには、浴室は貸し切り状態になっていた。
    「あ゙ぁ゙~生き返る~」
    「本当だね、これは……来た甲斐があるな」
     暫く無言で湯に浸かる。水滴の垂れる音や湯沸かしの音、かすかに聞こえる脱衣所の声を聞きながら何度目かの深呼吸をした。身体の緊張とともに心もほぐれて来たのか「さっきは急にあんなこと言ってごめん」と口にした。
    「さっきって、夕飯の時のやつ?」
     悟も私も湯船のふちに頭を預けたまま、真っすぐ前を向きながら言葉を交わす。
    「そう、今回の帰省で家族に言おうと思ってはいたんだけどさ。なんか、行き当たりばったりだったというか、カッコつかなくて」
    「……傑ママ、カッコよかったねぇ」
    「うん、私より全然カッコよかったね」
     ぴちゃん、と水滴の落ちる音が響く。少しして、静かに悟が口を開いた。
    「きっとさ、僕は傑が居なくなっても、生きれちゃうと思うんだよね。だって呪術界最強だし、可愛い生徒もいるし。……でもさ、傑がいなくなったらさ、傑の居た場所は、きっとずっと空いてると思うよ。だーれも入らせないし、だーれも近づけない。僕はずっと一生死ぬまで、傑の形をしたその空白を大事に大事に抱えてると思う」
    「……悟」
     悟の声は淡々としていて、それが恐らく事実なんだろうと思った。誇張でも脅しでも、演技でもなく、純然たる事実なのだろうと思わせる声だった。
    「でも、そんな僕、傑は嫌でしょ? 大好きな僕がさ、そんな思いしてるの可哀そうで見てられないでしょ? だから、傑は死ぬ気で僕と一緒に幸せになんなきゃ駄目だからね」
    「……うん、分かった。もしまた私が、そのことを忘れてそうだったら、ぶん殴ってでも思い出させてくれる?」
     きっと私は頑固で、自分を軽んじそうになるだろうから。そう言うと悟は「ボッコボコにしてでも思い出させるからな」とにかっと笑った。

     熱い風呂に浸かり、汗と一緒にモヤモヤとした考えが吹き飛んだ身体は軽く、湯上りに悟と呑んだフルーツ牛乳はやけに美味しかった。


    ◇◇◇


     翌朝、朝食を取り仕度を済ませた私たちは道が混んでくる前にと帰路に就くことにした。
    「お世話になりました!」
    「五条くん、またいつでも遊びに来てね! 次は何か一緒にスポーツでもしよう!」
    「これに懲りずまた遊びに来てね」
     たった一晩で悟は随分両親に好かれたようだ。ここに来る途中想像していた状況にならず、悟にも私が感じたような温かさを感じてもらえていたならば、今回の滞在の目的は全て果たせたと言えるだろう。朝が弱いはずのハルも眠い目を擦りながら出迎えてくれている。
    「おにい、今度帰ってくるときも悟さん連れてきなよ」
    「えぇ……どうかな、悟忙しいから……」
     実の兄より悟に会いたいのか? 今度はハルに何か貢物を持ってきた方が良いのだろうか。歳の近い生徒たちにリサーチしなければ、そこまで考えているとハルが私の耳元でこそこそと呟いた。
    「悟さんと一緒に居る時のおにい、何だかすごい幸せそうだったからさ」
     また、おにいの話聞きたいし。そう言ってくれたハルを思わず力いっぱい抱きしめると「……くるしい」と潰れた声で拒否された。

     車に乗り込み、高専に向けて走り出す。家族は皆、角を曲がりきるまで見送ってくれていた。
     実家が見えなくなり、ようやく一息といった様子で悟がシートに沈み込む。
    「流石の悟も疲れた?」
    「当たり前じゃん~、もう、傑の家族に気に入られようと必死に猫被ってたんだから。被り過ぎて猫超えて虎被ってたね、虎!」
    「私としては一般人相手にオロオロする五条悟が見られたのは中々新鮮で楽しかったけど」
    「おっまえ、人の気も知らないで!」
     この! とハンドルを握る私にちょっかいを出してくる悟を何とか宥める。そのうち、二人とも気が抜けたのかどちらからともなく笑いが零れた。
     さっぱりと晴れ渡った空は昨日と同じはずなのに、何故だかスッと胸がすくような心地がした。



    end.






    おまけ

    「あ、そういえば八重さんから電話来たよ、昨日」
    「は? え、何で傑に電話?」
    「『悟坊ちゃんがお世話になります』って電話だった」
    「はぁ~~~!? 僕小学生じゃないんですけど、もう立派なアラサーなんですけど!」
    「だから私も『悟坊ちゃんも楽しんでおられるようです』って、ポテトサラダ作ってる動画送っといた」
    「も~何だよそれ……授業参観に来た親かよ……」
    「聡さんと幸枝さんも喜んでくれてたよ」
    「え、ねぇ、ちょっと待って? それ八重さんだけじゃなくて両親とも繋がってるってことだよね? 僕がいないチャットのグループあるよねそれ、ねぇ!」
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    おはぎ

    DONE呪宴2の展示作品です。

    以前ポイしたお宅訪問のお話のワクワク!夏油家お宅訪問~!Verです。
    いつも通り180%捏造ですが、幸せになって欲しい気持ちは本物を詰めてます。
    傑さんや、君にこれだけは言っておきたい!!

    ▼特に以下捏造が含まれます
    ・教師if
    ・夏油、五条家メンバ(両親、兄妹、ばあや、その他)
    ・五条、夏油両実家に関する事柄(所在地から全て)

    上記楽しめる方は宜しくお願いします!
    恋人宣言「ねぇ傑、スーツと袴、どっちがいいかな?」
     コンコン、と開いた扉をノックしながら悟が声をかけて来る。明日の任務に関する資料に目を通していたからか、一瞬反応が遅れる。え、なんて?
    「ごめん、上手く聞き取れなくて。なに?」
    「だから、スーツと袴、どっちがいいかなって。今度実家寄ってくるとき用意お願いしてこようと思ってるから、早めに決めとかないとね」
     今日の昼何食べるかーとか、どっちのケーキにするかーとか、悟は昔から私に小さな判断を任せてくることがよくあった。自分で決めなと何度も言っているのだが悟の変な甘え癖は今も治っていない。だが、服装を聞いてくることは珍しい。(何でも、私のセンスは信用できないらしい。あのカッコよさが分からない方が不思議だ)しかも、選択肢はばっちり正装ときた。何か家の行事に出るのだろうか。それか結婚式とか?
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    おはぎ

    DONEGGD.NYP2の展示作品です。

    以前冒頭を少しポイしていた作品をお正月仕様に少し手を入れて完成させました!
    ドキドキ!五条家お宅訪問~!なお話です。
    180%捏造ですが、幸せになって欲しい気持ちだけは本物を詰め込みました。

    ▼特に以下捏造が含まれます
    ・教師if
    ・五条家メンバ(悟両親、ばあや、その他)
    ・五条、夏油両実家に関する事柄(所在地から全て)

    上記楽しめる方は宜しくお願いします!
    猛獣使いを逃がすな「……本当に大丈夫なのか?」
    「だーいじょうぶだってば! 何緊張してんの」
    「普通緊張するだろう! 恋人の実家にご挨拶に行くんだぞ!」
     強張った身体をほぐそうと悟が私の肩を掴んでふるふると揺すった。普段なら制止するところだが、今はじっと目を閉じて身体をゆだねていた。されるがままの私を悟が大口開けて笑っているが、もはや今の私にとってはどうでもいい。この胃から喉元までせり上がってくるような緊張感を拭ってくれるものならば、藁でも猫でも悟でも、何でも縋って鷲掴みたい。現実逃避をやめて、大きく深呼吸。一気に息を吸い過ぎて咳き込んだが、緊張感が口からこぼれ出てはくれなかった。
    「はぁ……帰りたい……高専の寮で一人スウェットを着て、日がな一日だらだらしたい……」
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    おはぎ

    DONEWebイベ展示作品③
    テーマは「くるみ割り人形」 現パロ?
    彫刻と白鳥――パシンッ
     頬を打つ乾いた音がスタジオに響く。張りつめた空気に触れないよう周囲に控えたダンサーたちは固唾を飲んでその行方を見守った。
     水を打ったように静まり返る中、良く通る深い響きを持った声が鼓膜を震わせる。

    「君、その程度で本当にプリンシパルなの?」

     その台詞に周囲は息をのんだ。かの有名なサトル・ゴジョウにあそこまで言われたら並みのダンサーなら誰もが逃亡しただろう。しかし、彼は静かに立ち上がるとスッと背筋を伸ばしてその視線を受け止めた。

    「はい、私がここのプリンシパルです」

     あの鋭い視線を受け止めてもなお、一歩も引くことなく堂々と返すその背中には、静かな怒りが佇んでいた。
     日本人離れしたすらりと長い手足と儚く煌びやかなその容姿から『踊る彫刻』の異名で知られるトップダンサーがサトル・ゴジョウその人だった。今回の公演では不慮の事故による怪我で主役の座を明け渡すことになり、代役として白羽の矢がたったのが新進気鋭のダンサー、スグル・ゲトーである。黒々とした艶やかな黒髪と大きく身体を使ったダイナミックなパフォーマンスから『アジアのブラックスワン』と呼ばれる彼もまた、近年トップダンサーの仲間入りを果たした若きスターである。
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    おはぎ

    DONE呪宴2の展示作品です。

    以前ポイしたお宅訪問のお話のワクワク!夏油家お宅訪問~!Verです。
    いつも通り180%捏造ですが、幸せになって欲しい気持ちは本物を詰めてます。
    傑さんや、君にこれだけは言っておきたい!!

    ▼特に以下捏造が含まれます
    ・教師if
    ・夏油、五条家メンバ(両親、兄妹、ばあや、その他)
    ・五条、夏油両実家に関する事柄(所在地から全て)

    上記楽しめる方は宜しくお願いします!
    恋人宣言「ねぇ傑、スーツと袴、どっちがいいかな?」
     コンコン、と開いた扉をノックしながら悟が声をかけて来る。明日の任務に関する資料に目を通していたからか、一瞬反応が遅れる。え、なんて?
    「ごめん、上手く聞き取れなくて。なに?」
    「だから、スーツと袴、どっちがいいかなって。今度実家寄ってくるとき用意お願いしてこようと思ってるから、早めに決めとかないとね」
     今日の昼何食べるかーとか、どっちのケーキにするかーとか、悟は昔から私に小さな判断を任せてくることがよくあった。自分で決めなと何度も言っているのだが悟の変な甘え癖は今も治っていない。だが、服装を聞いてくることは珍しい。(何でも、私のセンスは信用できないらしい。あのカッコよさが分からない方が不思議だ)しかも、選択肢はばっちり正装ときた。何か家の行事に出るのだろうか。それか結婚式とか?
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