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    nkmr_9aza

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    #ビストロナカマル
    お題箱より「バックからの寝バック」「寝バックで快感に怯えて体が逃げる莇くんと逃げられないように体重かけて押さえ込む九門くん」
    完結!

    一生きみのためにカレーを作りたい◇◆──────────

     自分の腰の高さまであるキャリーケースを転がし、莇はようやく帰宅した。寮に、ではない。かつて住んでいた団員寮のある天鵞絨駅から三駅下って、乗り換えてさらに一駅。そこから十五分ほど歩いたところにあるアパートに、だ。
     二人ぐらしをしよう、と決めたのが一年半前。たくさん話し合って、半年かけて金を貯めて、寮からあまり離れていないこの小さなアパートに住み始めたのは、一年とすこし前のことだった。
     二階までしかないこの建物に、エレベーターなんて大層なものはない。莇はキャリーケースを抱え上げ、乳酸の溜まり切った脚に鞭打って、階段を上がった。
     一緒に住み始めてから、こんなに会わなかったのは初めてだ。かつて莇は、どちらかといえば一人でいることを好むほうだった。しかし彼と懇ろになってから、たった一日でも顔を見られないと、寂しくて、心配で、胸がざわざわとするようになった。
     やっと、やっと帰ってきた。莇は息を切らしながらチャイムを押す。鍵は持っているけれど、自分では開けない。少し待っていると奥からドタドタと足音が近づいてきて──
    「おかえりっ、莇!」
     尻尾を振った大きな犬が、否、莇の恋人が、ドアを開けて文字通り飛びついてきた。
    「おわっ! …はは、ただいま。わりーな、急に今日帰るとか言って」
    「ううん、すっげー、すっげー嬉しい! オレもう限界だったもん、寂しすぎて!」
     本当は、今日の二十二時に出る夜行バスに乗って、明日の朝にこちらへ戻ってくる予定だった。しかし、昨日たまたま、新幹線の自由席のチケットを取ることができたのだ。無駄に金を使うことにはなるが、莇はそれでも早く帰れる手段を選んだ。「限界」だったのは莇も同じだった。
    「新幹線、座れなかった」
    「そっか、ゴールデンウィークだもんね。お疲れ様。マッサージとかする?」
    「あとで脚だけ頼みたいかも」
    「まかせて! あとねあとね、ちょっと来て!」
     九門は莇が苦労して転がしてきたキャリーケースをひょい、と持ち上げて部屋に運び込んだ。莇は靴を脱いで、後に続く。
    「キッチン! の鍋! 見て!」
     九門がキャリーケースを置きながら言うので、莇はキッチンへ向かった。コンロの上に置かれた鍋の中から、独特のいい香りがした。
    「え、これ…」
    「カレー! 作ってみたんだ」
     蓋を開けると、湯気とともに赤茶色のなめらかなルウが現れた。少しだけ野菜が大きい気がするけれど、それ以外に見た目でおかしな部分はひとつもない。
    「マジ? …すげーじゃん」
    「えへへ。莇が今日帰ってくるってLIMEくれたから、オレダッシュで仕事終わらせて、買い物行ったんだ! そんで、綴さんにレシピ聞いて、その通りに作った!」
    「監督じゃねーんだ、そこ」
    「いや、カントクのカレーも美味しいけど、さすがにスパイスからは難易度高いから……」
    「なるほどな。お前は食ったのか」
     聞いた瞬間に、隣からぐう、と間抜けな音がした。
    「待ってた…一緒に食べたくて。あ、でもお風呂沸いてるけど、先入る?」
     莇は吹き出した。九門の太くきりっとした眉毛がハの字になっていたからだ。
    「ぷっ、その音聞いてお預けするほど鬼じゃねーよ。俺も腹減ったし、先に食べたい」

     市販のルウを使い、具は玉ねぎとにんじんとじゃがいもと肉だけ。ごく普通の、ありふれた、日本の食卓のカレーだ。しかし莇には、九門がこれをひとりで最後まで作れたことが感慨深く、疲れが溜まっているのもあって、皿に盛られたカレーライスを見てうっかり涙ぐみそうになった。
    「よーし、じゃあ、莇! 改めて、お疲れ様!」
    「ありがと。九門も、お疲れ」
     乾杯、とグラスを合わせると、氷が揺れた。一口飲んで、息を吐く。酒ではなくミネラルウォーターが、疲れきった身体にはちょうどいい。
     白飯とカレーの境目にスプーンを差し込んで掬い、口に運ぶ。ふと顔を上げると、九門がスプーンを持ったまま莇を見つめていた。莇は九門の視線にむず痒さを感じながらも、そのまま口にスプーンの先を迎え入れた。
     予想通りの味がして、ほっこり温かい気分になる。
    「うん」
    「ど、どうかな…?」
    「美味いよ、九門」
    「よ、よかったぁ〜!」
     九門があまりに大げさにため息を吐くので、莇はまた苦笑した。
    「九門も食えよ、せっかく作ったのに冷めるだろ」
    「うん! いっただっきまーす!」
     二人で向かい合って、普通のカレーを食べて笑い合うことができただけで、莇は今日無理をしてでも早く帰って来てよかった、と思えた。

     食欲が満たされると、どっと眠気が襲ってくる。今すぐベッドに倒れ込みたい気分だけれど、それは厳禁だ。洗い物まで買って出た九門に甘えることにして、食器を預ける。
    「風呂、入ってくる…」
    「あ、ねえ莇!」
    「何?」
     呼び止められて立ち止まると、九門は空になった鍋に溜めた水を見ながら、「えーと…」ともじもじし始めた。
    「あの、さ…あの、莇、疲れてる…よね?」
    「あ? まあ…昨日とか二時間くらいしか寝てねーし、今日も立ちっぱなしだったしな」
    「だ、だよね〜…うう…」
    「何か言いたいことあんなら言えよ」
    「あのー、あのさ、怒んないでほしいんだけど、ダメだったら全然我慢するんだけど、えーっと、つまり…」
    「な、なんだよ…」
     九門は俯いている。顔が赤くなっているのを見て、莇は「どういう方向の」話をされているのかをなんとなく察した。
    「あの、あのですね…………えっ…ちが、したい、です…………」
     莇は自分の顔に勢いよく熱が集まるのを感じて、くるりと九門に背を向けた。そして、手に持ったタオルを握りしめて、消え入るような声で応えた。
    「…………準備、してくるから、ちょっと時間かかる」
    「い、いいの…?」
    「マッサージもしろよな」
    「も、もちろん!」


     
     「準備」を終えて、そのまま出るつもりだったけれど、どうしても湯舟に浸かりたくなった。待たせていることに申し訳なさを感じながら、でも九門が折角溜めてくれたし、と、莇は湯の中に脚を入れる。
     少しぬるめの四十度。あまり熱いと肌の乾燥に繋がるから、と前に言ったのを九門は覚えていたのだろう。九門は本当にいいやつだ。いいやつだが、なぜ俺のことがそんなに好きなのか、と莇は時々不思議に思う。
     出会った頃は「彼女が欲しい」と言ってはいなかったか。それがどういうわけか、今は莇がその立場に収まっている。
    「俺、男なんだよな…」
     自分の骨張った手の甲を見て、莇は独りごちる。俺はあいつよりでかい。声も低い。抱きしめたって柔らかくはない。
     莇は九門のことが好きだけれど、九門はどうして莇を抱きたいと言うのだろう。それについて考え始めると、頭が混乱してきて、瞼が重くなって、温かい湯が心地よくて、脚が重くて……………………

    「莇!! ちょ、起きて、莇⁉︎ ど、どうしよ、お願い起きて莇!」
    「…あ、寝てた……?」
     目を開けると、涙目になった九門が、服が濡れるのも構わずに莇を抱き起こして覗き込んでいた。莇は自分が湯舟に浸かったまま眠ってしまったことにようやく気づいた。
    「あー、よかったぁ…。ごめんね、オレがしたいとか言ったから…。えっちするのはいつでもできるから、今日はもう寝よう?」
    「…準備、したけど」
    「で、でも…」
    「寝落ちたのは悪かった。お前のそういう優しいとこ、好きだけど、時々煩わしいんだよ」
    「莇…………」
     九門の目を見た瞬間に、「今日は抱かれたい」と思った。こんな破廉恥なことを思うようになるなんて、高校生の頃の莇が知ったら卒倒するだろう。
    「心配かけて悪い。髪乾かしたらベッド行くから」
    「うん…………待ってる」
     普通、そういうことをする前は髪を洗わないらしい。しかし莇は、シャンプーで頭皮まで洗って、トリートメントも済ませた。汗と煙草の煙と他人の呼気で汚れた髪でなくて、同じシャンプーの香りのする髪を、九門に撫でてほしかった。

    「九門」
     九門はベッドに寝転んでスマートフォンで何やら動画を観ていた。莇の声に反応して黄色の相貌を向ける。のそり、と起き上がって、裸足のままぺたぺたと近づいてきて、ふわり、と莇を抱きしめた。
    「今日、したいこととか、されたくないこととか、ある?」
    「ん〜……」
     薄紫色の髪に頬ずりすると、先ほど使ったシャンプーの匂いがした。

    「っ、ぅ〜、…………ぁ、あぁ…………」
     九門のしてぇこと、好きにやってみりゃいいだろ。莇は心臓がドクドク脈打って、えも言われぬ高揚感が背筋を駆け抜けるのを感じながら、そう言った。すると九門はたった一言、「後ろからしたい」と呟いたのだった。
     莇は今、枕に顔を埋めて、伸びをする猫のように腰を上げ、自らの手で柔らかくした穴を九門に向けている。顔に熱が集まって、両目を涙の膜が覆うほどの羞恥に襲われたが、嫌だとは思わなかった。
     自分は九門に「してほしい」と言われたことをするのが好きなのかもしれない、と莇は思った。
    「んぐ、ぅ…………っ、ぅ…………」
     九門は何も言わず、ただ莇のアナルに指を挿入して、中を念入りに刺激している。指が何本入っているのかは莇にはわからないが、一本でないことは確かだった。
    「んっ、ん、んん…………」
     内腿を、丁寧に足して溢れたローションの雫が伝い落ちていく。九門が何も言わないから、声が漏れてしまって大丈夫なのか、腰が揺れてしまって大丈夫なのか、わからなくて少し不安になる。
    「んぅっ…!」
     性感帯を強く押されて、腰ががくん、としなった。性器の先が熱くて、早く触ってほしいのに、見られていると思うと恥ずかしい。もうあまり体力の残っていない両脚が震えて、体勢が崩れそうだ。
    「は、はぁ、はぁ…………っ、ぅ…………」
     あと数回押されたらやばいと思ったとき、埋まっていた指がするすると抜けていった。ほどなくして腰が掴まれて、九門の両手の体温が伝わる。
    「オレ、もうやばいかも…」
     九門の声を久し振りに聞いた気がする。いつもより掠れていて、切羽詰まっているようだった。
    「ん…」
    「ちょっとだけ激しくしちゃうかも。いいかな…?」
    「っ、好きに、すれば…っあ、」
     尻たぶを左右に広げられて、散々弄られた穴がひくひく痙攣する。九門が息を吸って、吐く音が聞こえた。ああ、くる、と思って、莇はギュッと目を瞑って待ち構える。
    「っ、ぅぐ…………ぅ…………」
     わずかに開いた穴にぬるりとした感触があって、熱くかたいものに押し広げられていく。はぁ、はぁ、と九門の息遣いが近づいてきて、腰を掴む手に力が入ったのがわかる。下生えが触れると、本当に入っているんだ、と実感して息が止まりそうになった。
    「あざみ…ぃ、はぁ…………っ、」
     九門が手探りで莇の腹に手を伸ばし、すっかり反っている性器に触れた。
    「はぅっ、ぁ、う…………」
     先端を指の腹で刺激されながら、ゆるゆると腰が動く。莇は枕カバーを握りしめて、ひたすらに耐えた。
    「んんっ、ん、…………んっ、ん…」
    「っはぁ、はぁっ、は、ぁ…………っ」
     お互いの息遣いと喘ぎだけが部屋に響いた。九門の声が鼓膜を震わすだけで、心臓がぎゅっと締め付けられるような、泣きたいような妙な気分になった。
     腰の動きは少しずつ粗雑になっていって、やがてパン、パン、と肌どうしがぶつかる音が聞こえ始めた。その音が自分たちの営みによって発生していると思うと破廉恥すぎて気を失いそうだから、あまり考えないようにした。
    「んぐっ! んぅ! ん、…………っう、ん、」
     抑えようと思うのに、腰を打ち付けられると衝撃で声が出てしまう。莇は自分の喉から出るこの情けない声が苦手だった。九門の耳にはどのように聞こえているか知らないが、莇自身にとっては自分の耳を塞ぎたいくらいだった。
    「んんっ! ん! ぁ、あぅっ、ゔ! んんっ」
    「はぁ、はぁっ、ぁ、あ〜…っ、あ、ざみ、いく、イ、っく…………」
    「んぐ、ゔ…………ッ」
     一際大きく打ちつけられて、中に埋まったままの九門の性器がビクビクと痙攣する。莇は目を閉じて、口で息をしながら恋人の吐精を受け止めた。

    「ん…はぁ…………ッ」
     引き抜かれるときの性器がまだ芯を持っていた。これで終わりではないのだろう、と莇は思って、脚を震わせながら、九門がコンドームを付け替えるのを待った。
    「っ、ごめ、まだ全然足んないや…………」
    「ん…」
    「脚、つらい?」
    「…っちょっと、しんどい、かも…………」
     ベッドに膝を立てている体勢は、疲労の溜まった身体には負担が大きかった。しかし、こうしていないと今日の九門を満足させてやれないから、莇はもう少し頑張るつもりだった。
    「でも、平気、だから……」
     すると九門は莇の腰を支え、疲労で痙攣する太腿に触れた。
    「痛めちゃうといけないから。うつ伏せになれる?」
     九門に脚を押されて、ずるずると膝を後ろに滑らせる。ぺたんと脚を寝かせた途端、莇の太ももは重りをつけたように一切ベッドから離れなくなってしまった。今日はもう自力で身体を起こせないだろう。
    「九門、これ」
    「このまましたい…だめ?」
    「え、このまま…?」
     投げ出した両脚には力が入らない。再び尻に手を当てられて、広げられた穴に、九門の先端が、触れる。
    「っ、ぐぅ…! ぁ、ぁ、あぅ…………」
     ずぶり、ずぶり、と入ってくる。心なしか先ほどより大きい気がする。九門は莇に跨り、そのまま覆いかぶさっているようだった。
    「莇…っ、大丈夫…?」
    「ぁ、ああ…待っ、変な、声、出る…ぅ………」
    「声…? 出してよ、声、出して…っ、ゔ」
    「っ…………んで、ぁ、」
     体重をかけられて、欲の塊が莇の身体を貫いた。
    「…………あぁ…………ぁ…………っ」
    「えろいから」
    「んぐぁっ」
     奥に突き刺さったまま、先端を擦り付けるように腰を動かされると、莇は強い快感に驚いて背を反らした。
    「ん、がっ、ぁ、ゔ、無理、無理、ぃっ」
     かろうじて動く膝下でバタバタとベッドを叩いても止める気配はなくて、莇は涙目になりながらシーツを掴み、せめて当たる場所をずらそうと身じろぎした。
    「やだ、やだよ莇…………」
     すると九門は莇の手に自分の手を重ねて握り込んだ。
    「なに、九門…、やばいって、無理…っぐぇ!」
     腕の力まで封じられて、そのまま腰と背中にますます体重をかけられ、今度こそ身動きが取れなくなった。低反発のマットレスが深く沈む。背丈こそ莇の方が高いけれど、体重は変わらないか、むしろ九門の方が筋肉量がある分重いかもしれない。莇は「潰される」と本気で思った。
    「莇、莇、は、はぁ、あ…っ、あざ、み…………」
     九門は荒い息遣いを隠そうともしない。莇、莇、とうわ言のように名前を呼び、密着したまま腰を揺らす。
    「、、っは、だっ、そこは、あ、ゔ、んっ」
     莇は目を白黒させて、いつもよりいくらか乱雑な責めに耐えた──莇としては耐えているつもりだが、正確にはされるがままになっていた。九門の身体が乗っていない頭や首や脚を、刺激があるたびに反らしたり跳ねさせたりしたが、それは意図した動きではない。もはや上から押さえつけられていないと、自分の肢体の不随意な運動のせいでバラバラになりそうだった。
     激しい振動にベッドはギシギシと音を立てた。自分のの身体とベッドの間に押し潰された性器が、液体をこぼしてはシーツを汚している。莇は涙の滲む目元を枕に押し付けて拭い、髪を乱れさせたまま必死に口で息をした。
    「あ、、莇っ、あざみ…」
    「ぁがっ、あ、はぁ、は、ああ、ゔ、うう」
     開きっぱなしの口の端から唾液が漏れ出す。髪が邪魔だが、ひどい顔をしているだろうから、むしろ結んでいなくてよかった、と蕩けた頭で考えた。結合部の刺激はいっそう激しくなって、抑えることを諦めた莇の喘ぎはほとんど泣き声のようだ。
    「、ざみ、…っ、あ、ふ…っ」
     重なった手を強く握られて、もうすぐ九門が"いく"のだとわかった。九門は限界が近いとき、莇の身体のどこかをぎゅっと握る癖がある。その一方で莇自身は自分が達しているのかいないのか、今も絶頂の最中なのか、何もかもわからなくなった。ただ九門が莇の名前を呼ぶたびに腰の奥がぐつぐつ沸騰して、なぜだか切ない気持ちになった。
    「あざみ、い、好き、莇、は、ぁっ…」
    「っあ…………!」
     九門の熱い吐息が首に触れて、莇は肩を震わせた。噛まれる、と思ったときには既に、硬い歯が食い込む感覚があった。
    「っふ、ふー、ふ、う、う〜っ…」
    「っぐぇ、、か、は……………………」
     纏わりつく髪ごと噛まれたせいで、頸の髪が引っ張られる。奥の性感帯を九門の欲の切っ先が強く擦り付けられて、莇は見開いた両目からぼろぼろ涙を流した。
    「あ、ーーーーーー…あ…あぁ〜〜〜………」
     中に突き刺さった太くて熱い塊がどくどく脈打つ。莇の腰はそれに合わせて細かく痙攣した。

    「…はぁ、は、…はぁ…………っ」
     ずるりと性器を抜かれ、背中から九門の重さが無くなった。莇はうつ伏せのまま脱力して、口で息をした。
    「あざみ、こっちむーいて…」
     人形のように無抵抗になった身体を九門に転がされ、横向きになった。涙と鼻水と唾液でめちゃくちゃになった顔を見られたくなくて顔を逸らしたが、九門は顔にかかる髪を指先で避けただけで、躊躇いなくキスをしてきた。
    「っ、へへ…ちょっとカレーの匂いするね」
    「っマジ…?歯、磨いたんだけど」
    「あ、いや、オレの作ったものが、莇の中で消化されてんだね…なんかそれって、すっごくいいかも…って」
    「はぁ? 何言ってんだお前、もう口つけんな…っ」
     莇が口を押さえようとする前に、九門がふたたび莇の唇にかぶり付いた。
    「ん…………んっ…………」
     九門は片手で莇の身体をまさぐり、芯を残したままくたりと横たわる性器に触れた。莇は「やめろ」の意味で九門の腕を掴んだが、その手は九門の反対の手に絡め取られてしまった。
     利き手で強く扱かれて、莇は繋がれた手を握りしめながら感じ入った。
    「〜、ん、んんっ、〜〜!ん〜っ…」
     身体を前に屈めて、九門のあたたかい手のひらの中で莇は体液を放出した。白く濁ったそれはぴゅ、ぴゅ、と弧を描いて飛び出し、シーツに落ちた。
    「っは、はぁ、も、無理……バカヤロー」
     莇はもうほとんど力の入らない腕で、九門をぺちんと叩いた。
    「ごめん…やりすぎました……」
    「重かった……」
    「ご、ごめん」
    「なんで今日あんな…」
    「怒んないで聞いてほしいんだけど…夢を見てさ」
     九門は上体を起こし、タオルで莇の顔を拭いた。莇は肌をパイル地でごしごし擦られることに抗議したかったが、それよりも心地よさが勝ってしまって、結局黙っていた。
    「莇から電話が来てね。やっぱりもう帰らない、別れようって言われちゃう夢」
    「なんだよそれ…」
    「起きてからしばらく、夢だったってわかってるのに悲しくて…ご飯とか今までずっと莇に任せちゃってたから、もしかしたら正夢になっちゃうかもって思ったら不安になってさ…」
    「で、カレー作ったってわけか。お前って本当極端だよな…美味かったからいいけど…」
    「そう…それで、莇がちゃんと帰ってきて、カレーも美味いって言ってくれて、えっちもしていいって言ってくれて、そんでいい匂いするし…で、安心したら止まんなかった…」
     莇はハァ、とため息をついて、九門の膝を触った。
    「今日みたいなのは,疲れてるときにやんのはしんどい」
    「うっ…やっぱり気持ちよくなかったよな……莇イけてなかったし…」
     太い眉毛がハの字になって、わかりやすく落ち込んでいる。莇は九門のこの顔に弱い。慰めるように太腿を撫でてやったら、九門は「莇ぃ〜」と甘えた声を出して、莇の肩にキスをしてきた。
    「いや……良かったし、イっ…てた……と思う……潰されてて出せなかっただけで…って、何言ってんだ俺」
    「ほんと…? あの、オレは正直今日みたいなやつ、めちゃくちゃ気持ちよくて……」
    「疲れてないとき、たまになら。くっついてすんのは、その、悪くねぇ」
    「莇……」
     九門はシーツの濡れたところにタオルを敷いて、その上に寝転がった。莇の頬を撫でて、まるで世界で一番幸福であるような顔をした。
    「オレ、莇と結婚したいなぁ。どうしたらいいかな? 明日から法律変わんないかな」
    「バカ言ってら」
    「本気なんだけど…」
    「シーツ明日洗わねーと…あとお前、マッサージしろよな」
    「もちろんするよ、でもちょっと、もうちょっとギュッてしたい」
     裸のまま、寝転がったまま、汗ばんだままで抱き合った。九門の身体から同じシャンプーの匂いと、カレーの匂いが少しだけした。

    ──────────◆◇ おわり

     
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