キいてるラブ・ソング◇◆──────────
至がおススメしていたVタレントの配信が面白くて、ベッドの中で観続けていたら、いつのまにか日付が変わっていた。
やべ、と小さく声に出して──思ったことの半分は口から出る性質だ──九門は画面を暗くして布団を被り、目を瞑った………瞑ったのだが、妙に目が冴えてしまって、一向に眠気がやってくる気配がない。
明日も朝起きて学校へ行かねばならない。ちゃんと眠らないと、授業中に舟を漕ぐ羽目になる。眠れオレ、眠れ…と必死で暗示をかけてみても、やはりちっとも眠くない。
開き直って目を開け、眠くなるまで天井を見つめることにした。暗順応で天井の端がどこかわかるようになった頃、中庭の方からなんだか騒がしい物音が聞こえた。
九門は最早眠ることを諦めた。三角を起こさないようにそっと梯子を降りてドアを開けると、慌てた様子の左京が電話をしながらガレージへ向かうのが見えた。誰かを叱責しているようだ。銀泉会で何かトラブルが起こったのだろうか。ほどなくして車の発信する音がして、その音は遠くへ消えていった。
ヤクザも大変だなぁ、なんて考えながら部屋に戻ろうとした九門は、あることに気づいた。
今、左京が寮を出ていったから、一〇六号室に居るのは莇だけなのである。
シンデレラタイムの始まりをとうに過ぎ、莇はもう眠りについているはずだ。九門が訪問したところで、二人で遊ぶことはできない。しかしそれで構わなかった。
莇の寝顔を見たい、と思った。見たことがないわけではない。しかし、九門の隣で眠るときにはどことなくまだ気を張っていて、「格好いい」莇の雰囲気が残ったままの寝顔なのだ。今、一〇六号室に忍び込めば普段は九門に見せない自然体の寝顔を拝めるのではなかろうか。
もしかしたら怒られるかもしれない、と思いつつ、九門は歩を進めるのをやめられなかった。他の団員たちの部屋の前をそっと通りすぎて、階段を降りた。
一〇六号室の前まで来て、九門はようやく我に返った。自分はもしかして、よくないことをしようとしているんじゃないだろうか、と冷静な考えが急に頭をよぎった。
このドアノブをひねってみて、鍵がかかっていたら、すぐに戻ろう、と思った。
そういうときに限って、慌てて部屋を飛び出した左京は鍵を閉め忘れていた。ドアは簡単に開いて、月明かりが部屋の中ほどまでを照らした。
何度も入ったことのある部屋だけれど、電気の点いた部屋に入るのとは全く違うように感じられた。片方のベッドだけが膨らんでいて、そこに莇が居るとわかる。
「お、お邪魔しまーす…」
声をかけてみたが、応答はなかった。つまり、莇は眠っている。
九門は逸る心臓を落ち着かせながら、そっと部屋に上がり、ロフトベッドの脚元まで近づく。梯子に脚をかけるとミシ、と軋むような音がして、その度に足を止めて身を縮こまらせた。しかし莇が気づく気配はなく、いとも簡単に一番上まで上がることができてしまった。
莇は壁の方を向いて目を閉じていた。眠っているようだが、息遣いが少しおかしかった。
「………っふ、…んっ………ん……」
無声音に混じって、時折鼻に抜けるような小さな声が聞こえた。よく見ると、身体にかけた布団が少し動いている。
莇は眠っているのではなかった。布団で見えないがおそらく、ほぼ確定で、目を閉じて自慰に耽っているのだ。耳には白いワイヤレスイヤホンが挿さっていて、九門の声が聞こえなかったのはそのせいのようだ。
九門は激しく動揺した。あの莇がオナニーをするなんて。だって莇はいつだって気高く純潔で、いやらしいことを考えるなんて少しでも耐えられないような少年なのだ。少なくとも九門の印象ではそうだった。
少しだけ開いた口で細かく息をして、眉は悩ましげに寄せられ、額に汗を浮かべながら自身を慰める姿は九門の中の莇のイメージとかけ離れている。それなのに目を離すことができないほどに淫靡で魅力的だった。
見なかったことにするのが正解で、今すぐ梯子を下りて自分の部屋に戻るべきだ。九門はそう思ったが、その場から動くことができなかった。
どうしても気になった。イヤホンから流れる音は一体何なのか。莇が何を「オカズ」にしているのか。
九門は衝動に耐えきれず、未だ自慰に夢中になっている莇の、紅く染まった耳に手を伸ばした。
◇
莇がそれを初めに聴いたのは、同室の左京が不在にしている夜だった。部屋を暗くして目を閉じてもなかなか眠れず、何か音楽でも聴こうとスマートフォンの画面を点けて、データの存在を思い出したのだ。
それは映像ではなく音声で、ウェブサイトで購入したものではなく、莇自身が録音したデータだ。保存されているのは一つだけではなく、短いもので二十分程度、長ければ制限いっぱいまである。
録音をしたことさえも、莇にとっては大胆な行動だった。何よりそこに入っている声の主に了承を取っていない。だからこそ莇の宝物だった。本人には絶対に言えないけれど、それを聴けば心が満たされて、眠れるのではないかと考えた。
ところが、イヤホンを耳に挿し、再生マークをタップし、音質の低いデータが莇の鼓膜を震わせた途端、狙いとは反対に心臓が高鳴って、下腹部の内側のほうから砂糖水を煮詰めたような甘ったるい熱が湧き出した。
脳を侵食するどろどろとした感覚は、だめだ、だめだと自分を律しようとしてもいうことを聞かず、莇の右手を身体の中心へ導いた。
そこから先は────思い出すと莇は己の浅ましさに卒倒しそうになる。今日限りでこんなことは二度としない、と決心した、はずだった。
背徳感に伴う高揚感を覚えてしまった若い身体は、時に莇の固く決めたはずの意志をバターのように溶かしてしまう。
辛うじて同室者が不在にしているときだけと決めていたから、今のところ誰にも知られずに済んでいる。しかし、「左京がいないとき、たまに」だったのが、徐々に頻度が上がって、最近では部屋に一人で寝るときにはほぼ毎度のことになってしまった。
理想の自己像とあまりにかけ離れた行為をやめられないことは、莇の密かな悩みとなっていた。こんなはしたなくてダサくて破廉恥なことは早くやめなければならないと思うのに、どうしてもぐずぐず煮える欲求を抑えることができなかった。
吐き出して、ティッシュペーパーで手に付着した粘液を拭うときなどは、必ず自己嫌悪に苛まれて胸がズキズキ痛むこともあった。
「なんだ、こんな時間に……はぁ? それはまずいだろう! チッ、今から行く、勝手に進めんな!」
その日、莇は深い眠りについていたところを起こされてしまった。銀泉会から左京へ緊急の連絡が入ったのだ。
「……んだよ、やべーの?」
「ああ、起こして悪い。ちょっと行ってくる。明日中に戻れそうになければ連絡する」
「俺は?」
「気にする必要はない。坊は寝てろ」
「…おう。事故んなよな」
左京は流れるように服を着替え、車のキーをひっ掴んで出て行った。
寝ていろ、と言われたが、一度目が覚めてしまうとまた眠りにつくのは難しい。莇は天井を見ながら舌打ちをした。
スマートフォンを見ると、時刻はとうに日付を超えていた。肌のコンディションを整えるなら、起きていてはいけない時間だ。
(クソ左京…)
画面を消して端末を放り投げ、目を閉じても、なかなか眠れなかった。そのうちに下腹部がムズムズとしてきて、結局またスマートフォンを手に取った。
イヤホンを耳に挿すとき、罪悪感と背徳感とこれから感じる快感への期待で背筋がゾクゾク震えた。新しいデータは、昨日録ったものだった。
音が聞こえ始めて、莇は右の手を己の身体に這わせて、Tシャツをたくし上げ、スウェットのゴムの内側に差し入れた。
目を閉じて、下着越しに形をなぞる。それは緩やかに反応を示し始めていた。爪の先でかり、かり、と引っ掻くと、腰から全身へと甘い快感が駆け抜ける。莇は吐息を漏らした。
「……っふ、」
下着の中に手を入れて、固くなったものを包む。両脚をもぞもぞとさせながら、莇は拙い動きで自身を慰めた。
「っ、…ぁ、んっ……ふ、ぅぅ、ぁ………っ」
耳から流れ込んでくる音声が莇の脳を支配して、声の主に触られることを勝手に想像してしまう。そんなありえない妄想に悦んで、精通から間もない莇の性器は血液を集めて硬度を増していく。
「はぁ、あ、ふ、んっ、ん……あぅ」
腰をくねらせ、腿を震わせて、莇は必死に快感を追いかける。口は半開きになって、声が漏れる。再生音量のせいで、莇は自分が喘ぎ声を発していることに気づいていなかった。
「はぁっ、ぁ…っ、ぁ、う…」
スウェットと下着のゴムを掴んで、ぐい、と下げた。今日はなんだか刺激が足りない。それだけ自慰をくり返してしまったのだという絶望感を快感で上塗りし、布団の下で露わになった性器をさすった。
「ぁ…んんっ、ぁ…ぁ…っ」
頭に熱が集まってぞくぞくとする。呼吸が短く浅くなる。イヤホンから聞こえる声が、あざみ、と名前を呼んだ。
「っく、くもん…っ」
応えるように彼の名を口にすると、電流が流れるように快感が走って、臍の下が脈打った。
「ぁ、ああっ……は、ぁ……んんっ…」
行為に夢中になるあまり、ギシギシと音を立てて莇のベッドへ誰かが上って来る気配に気づくことができなかった。
「ぁ、あ、あ、くもん、ん、ん、ぁ…」
あともう少しで快感の頂点に届く、というとき。
右耳のイヤホンが取り払われた。
「なに、聞ーてんの」
代わりに右耳に囁かれたのは、左耳から聞こえているのと同じ声だった。息のかかる感覚と体温まで流れ込んで、ありえない状況に莇はパニックになった。
「っえ⁉︎ 」
「目、開けちゃダメだよ。あ…」
魔法でもかけられたかのように身体が動かない。振り返って確認することもできなくて、ただ焦りで汗が吹き出す。左耳からは止まることなく音声が流れている。
「なぁこれ、昨日カラオケに行ったときの…録音?」
◇
昨日初めて歌った、流行りのラブソング。莇に気持ちがほんの少しでも伝わったら、なんて淡い期待を抱いてこっそり練習した曲だ。「サブスクで上位だっから聴いてみたらメロディーとか結構良くて」なんて言い訳を添えて、さらりと歌い上げたかのように演出までして。
そのときの録音が今、九門の右耳に流れている。同時に、莇の左耳にも。
夢かと思った。夢に違いないと思った。
莇が自慰をしているというだけでも信じられないのに、真っ赤な耳にイヤホンを挿して聴いていたのが、九門の歌声だったのだ。
こんな、九門にとって都合のいいことがあるわけがない。しかし、それは目の前で起きている紛れもない現実だ。そしておそらくは莇の中で秘められ、誰かに知られる予定ではなかったのに、明らかになってしまった。
数秒前の九門による衝動的な行動のせいで。
「え…っ、な、九門…?」
莇は動揺して、壁のほうを向いたまま震えた声を出す。
『次、莇歌う?』
『いや、次も九門歌えよ』
『えーっ、またオレ⁉︎ そろそろ莇の歌聴きたいんだけど!』
イヤホンから流れてくる音声と、目の前の莇が発する戸惑った声が混ざって、九門の脳をかき回した。
『へぇ、これサビは知ってっけどちゃんと聴いたことないかも』
『いい曲だよ! これもラブソングなんだけどさ』
ぐちゃぐちゃになりそうな思考で、九門は必死に莇との仲に問題が起こらない方法を考えた。
「莇…これって、夢だよね…」
「ゆ、ゆめ…?」
「そうだよ…夢……夢だよ莇……」
『ラ…ブソング、よく聴くのかお前』
『オレはジャンル問わず好きだなーって思った曲は覚える派!』
イントロのギリギリまで喋って、歌詞が出始めたら歌う。二人で行くカラオケは、いつもこんな感じだ。イヤホンからは、また九門の歌声が流れ始める。
目の前の莇は状況を理解しきれないのか、フリーズしたままだ。真剣な眼差しでモニターに映る歌詞を追っていた、昨日のカラオケボックスでの姿を思い出し、照らし合わせる。
「夢だよ。夢だからさぁ…言ってもいい?」
イヤホンを外した莇の右耳に口を近づけて、
「え…え…?」
「莇、オレ、莇のこと…………」
『好きなんだ』
鼓膜を震わせた言葉が、いま自分の口から出た言葉なのか、録音された歌声が紡いだ歌詞なのか、九門自身にもわからなかった。
目覚めたら、自分のベッドの上だった。
枕元に置いたスマートフォンを見ると、起きる時間まではまだ十五分ほどあった。
九門は寝転がって天井を見つめたまま、昨夜の出来事を思い返した。あの瞬間の記憶はあるけれど、二〇三号室に戻ってきたことや、ロフトベッドに上がったことは全く思い出せない。
なにより、一部だけ鮮明に脳裏に焼き付いた記憶があまりに強烈すぎて、どうにも現実とは思えなかった。
(夢……だったのかな)
「お、おはよう、莇」
「…はよ」
洗面所で莇に会った。朝の挨拶をしながらも目は半分しか開いておらず、鏡の前で大きな欠伸をしていた。
就寝時刻は誰よりも早かったはずなのに、随分と眠たそうだ。やはり夜中のことは、夢ではなかったのだろうか。
九門にはそれを確かめる勇気はなかった。もし、万が一現実だとしたら、莇が見られたくないであろう姿を見てしまったことになる。それに、夜中に勝手に莇の部屋に入ってしまったことは、明らかに望ましくない行為だ。
昨日のことはずっと黙っておこう、と決めた。九門は冷水を顔にぶつけて自分を戒めた。
「寝癖やべーぞ」
顔をタオルで拭いているとき、後頭部をふわりと触られた。朝のスキンケアを終えた莇が、手櫛で九門の髪を梳かしている。
「あー、これ濡らさないとダメだな。メシ食ったら直してやっから」
「あ、あ、莇……」
莇は昨日、この手で──────
「なにどもってんだよ。さっきパン焼けたって監督が言ってた。早く行こうぜ」
九門はタオルを握りしめて、洗面所を出る莇の後ろ姿を見つめた。
◇
「もっとよく見せて〜」
「ふ……っ、…ん、…っ」
首に熱い吐息がかかる。腰のあたりには先ほどからかたいものが当たっている。それが何かわからないほど、莇はもう子供ではない。
後ろから抱きしめて、両脚を引っ掛けて、九門は今、莇を全身で拘束している。もちろん莇がその気になればこんな拘束などすぐに解けるのだが、そうする気はなかった。
九門は莇の肩に顎を乗せ、莇の手の動きをじっと見つめている。その刺さるような視線を感じながら、血液を集めて膨れ上がり上を向いた性器を、莇は自らの手で慰める。自分だって興奮しているくせに、九門は一切手を貸そうとしない。
莇が九門と共に寮を出て、一緒に暮らし始めたとき、二人はまだ「友達」だった。社会に出たばかりで収入の少ない若者がルームシェアという選択肢を取るのはよくあることだ。
一緒に暮らし始めて一年が過ぎたある日、九門が真剣な顔で「告白」してきた。莇はそれに頷いて、表面上は何も変わらぬまま、二人の関係が変化した。
少しずつ、少しずつ触れ合いを覚えていって、ときどきお互いに身体を触って高め合うようになった。莇はその度に、押し殺していたはずの想いがまさか叶うなんて…と信じられない気分になった。
さらに一年が過ぎた頃から、九門の「癖」がわかってきた。この場合は「性癖」というのが正確だろうか。九門はとにかく莇に自慰をさせたがるのだ。
最初は「お伺い」を立てるように、自分でしてるところを見せてほしい、と言われた。そんな恥ずかしいことできるか、と断ったが、何度も何度も懇願されて、根負けしてしまった。
莇にも「あの日」の記憶はある。ただ、彼の中では「夢」であった、ということで片を付けていた。もしそうでないなら、と想像しただけで羞恥でのたうち回りそうになるからだ。
しかしながら、こうも自慰を見せろと言われると、もしかしてあれは現実だったのでは、と頭をよぎる。
「ぁ………あぁ………ふ……」
「イきそう?」
「ん……………………っ」
かつて誰にも言えない莇の中だけの秘密だったはずの行為を今、九門本人に見守られながらしている。背中に感じる体温がそれをどうしても意識させてくる。
もっと強く、速く手を動かせば達することができる。しかし九門に見られているせいで、どうにも躊躇してしまって、結果的に自分で自分を苦しめてしまう。
いっそ九門が触ってくれたなら、と思う。今莇の脚を閉じないように抑えているその手で、好き勝手にさすり上げてくれたなら、全部九門のせいにして、気持ちよくなれるのに。
「莇」
「っ……」
耳元で囁かれると、頭がぼうっとして、心臓がどきどきして、どうしていいのかわからなくなる。背骨が抜けてしまったみたいに力が入らなくて、九門の肩に頭を預けた。
「いい匂いする…」
「あ、あぁ…………っ」
九門の鼻が肩に触れて、すん、と軽く吸われる。そのわずかな、刺激とまでもいかない感覚だけで莇の内腿は震える。九門はいっそう腕の力を強くして、莇を抱きしめた。
「莇」
はしたないことをさせているくせに、愛おしそうに名前を呼んでくる。そして犬猫を撫でるような手つきで莇の腿を撫でるのだ。
「っ、う………」
「もう出そう…?」
「んん………」
「くちゅくちゅいってるね、もうちょっとかな…あー、触りたい」
じゃあ触ってくれ、とはまだ言えない。その代わりに空いている片手を後ろに回して、九門の頬に触れた。
「なーに」
「っは…ぁ……」
「わかった、ちゅーしたいんでしょ」
「ん……」
振り向くと九門が唇を合わせてきた。至近距離にある顔をまともに見られなくて、莇は目を瞑った。キスの途中で少しだけ隙間を開けると、温かくて湿っていて厚みのある、九門の身体の一部が侵入してきて、意志を持った動きで莇の口内を蹂躙する。
「んふ、ん…っ、んぅ…」
上顎をなぞられると腰がぞくぞくして、握ったままの性器に血液が集まるのを感じた。
「んっ、ふ、ん、ん、ん…」
莇は観念して、自らの手の動きを速めた。羞恥よりも早く出してしまいたいという気持ちが強くなって、もう止められなかった。
九門と身体を繋げたことはまだない。キスだけでこんなにも「破廉恥」なことで頭がいっぱいになってしまうなら、もし足の間に彼を迎え入れたらどうなってしまうのだろう。
想像したらまだ開かれていない後ろの窄まりまで熱を帯びてきた気がした。腰をゆらゆらと揺らしながら、自分を慰める。もっと繋がりたい。背中に当たっているもので掻き回してほしい。
閉じた瞼の端から涙が一筋こぼれた。
「ん、んんっ、んふ、ん、ん……っ‼︎」
下腹部をビクンと震わせて、莇の欲の塊は、粘度の高い液体を吐き出した。
「っは、はぁ、は、は、は…」
ようやく解放された口で息をしていると、九門がまた腕の力を強めて抱きしめた。
「莇、かわいーね…オナニーのしかた、全然変わってない」
耳元で囁かれて、莇は肩を震わせた。
──────────◆◇おわり