ドラルクと付き合った翌日、俺は図書館へ訪れていた。
ロナ戦の資料はなるべく買って手元に置いておきたいが、絶版となってしまった本があるし、気になる本も試し読みが出来るから、時々利用している。
吸血鬼に関連する書籍が置いてあるコーナーに行き、資料としていつも利用している本を手に取る。そして興味を惹くものが無いか探す。
1冊の本のタイトルが目に留まる。
「吸血鬼の花よめ」。
花よめ。花嫁。吸血鬼の、花嫁。
文字を認識すると共に、昨日の夕方、ドラルクに言われた言葉を思い出す。
『前向きに私と同じ血族になる気はないかい?』
『私の幸せな花嫁として一族に迎え入れるが』
自他共に認める享楽主義者のあいつのことだ。きっと本気で言っていない。いわゆるダメ元で言ってみたというやつだ。
それに、男の俺が花嫁ってなんだ。……まあ、俺がオレンジの飴をドラ公に渡したことが原因だとは思ってるけど。
付き合った以上、ドラルクの気持ちを疑うつもりは全くないが、付き合った直後にプロポーズはどうかと思う。本気で言っていないのは分かっているけど!
シンヨコに限らず、吸血鬼と結婚する人間がいる。生まれるダンピールがいる。吸血鬼になったダンピールがいる。人間がいる。
きっと知らないだけで、吸血鬼退治人だった人の中に、吸血鬼と結婚した人もいるだろう。
歴史は繰り返させる。良い歴史を繰り返し、悪い歴史を繰り返さないために、歴史を学ぶ。
だから「吸血鬼の花よめ」というブルガリアの昔話を集めた本をいま手に取っているのは、吸血鬼と人間が対立していた歴史を繰り返さないためだ。
決して、昔話の吸血鬼の花嫁はどんな様子だったんだとか、そういう個人的な興味なんかで手に取っていない。本当だ。
ドラルクと付き合って、正直浮かれている。ただの同居人だったはずなのに。
だからドキドキするな。これから歴史を学ぶんだから。
心の中で何度も言いながら該当ページを開き、本を読み始める。
☪︎*。꙳
読み終えたのに、しばらく本を閉じることが出来なかった。
吸血鬼を恐れ、怖がっていた時代。
実際、ヨーロッパを中心に吸血鬼に襲われたという記録も残っている。
だからこそ、だからこそだ。
俺はよく考えて決めないといけない。
人間のまま生を終えるか、吸血鬼に転化するか。吸血鬼になるとすると、退治人を引退してからか、現役中になるか。よく考えないと。
……でも俺は既に心に決めているんだけどな。あいつに言うのはまだ先だけど。
本を閉じて元の場所へと戻すと、貸出手続きのために受付へ向かった。