兄貴は笑って「楽しんでこいよ」と言った。2日前に配られた紙をぼんやりと見る。
修学旅行ルート希望表。
……何でみんな共通の場所じゃないんだろう。
例え、中学と同じ場所だったとしても、文句なんか言わないのに。
中学と高校じゃ、行くメンバーも違うのに。
親代わりとなり、俺とヒマリを育ててくれた兄貴を困らせないように、少しでも旅行費を減らした方がいいのは分かっている。でも。
1番安いコースを選んだ人はあまりいないみたいなんだよな……。俺が仲良いと思っている人たちは、みんな北海道を選んだみたいだけど。
北海道は旅行費が倍近く違う。
兄貴に言えばきっと「お前がそんなつまらんことを気にするんじゃにゃあ」と笑って言うに決まっている。だからこそ、選びにくい。修学旅行に行かないという選択肢は無いんだろうか。
「何だロナルド。まだ提出してなかったのか」
ぐるぐると考えていたせいか、半田が近くにいたことに気づかなかった。
「あ、ああ。……半田はどこを選んだんだ?」
「俺は北海道だ!お母さんに素敵なお土産を渡すために行くのだ!」
俺もこんなふうにしっかりしていれば良かったな。
「……。ロナルド。ボールペンを持っているか」
「ボールペン?あるけど」
「貸せ」
半田の考えが全く分からないが、ペンケースから黒のボールペンを取り出して渡す。
すると手元にあった修学旅行ルート希望表の「北海道ルート」に勝手に貸したボールペンで丸をつけられた。
「何するんだ、お前!」
俺が呼び止めたのにも関わらず、半田は勝手に丸をつけた紙とボールペンを持って廊下へと出て行く。
「貴様がいつまでもグチグチと悩んでいたようだったから俺が決めてやったまでだ!」
「いや、だから何でお前が勝手に決めるんだよ!」
「そんなの決まっているだろう!」
職員室に向かって歩いていた半田が、俺の問いに振り向き、しっかりと俺の目を見て応える。
「貴様がいなければ、俺の修学旅行は楽しくないからだ!なぜなら俺は将来、貴様を監督する立場だからな!」
「な、何だよそれ」
悩んでいたのが嘘のように、半田の言動で笑いが込み上げてきた。
いつも半田は俺の予想をはるかに越える行動をしてくる。こいつといたら、俺はこの先きっと退屈しないだろう。
「待てよ半田。俺も一緒に行く」
「元々は貴様のだろうが!」
気持ちが軽くなり、半田の後を追って廊下へと出た。
帰ったら兄貴に修学旅行について言おう。
全力で楽しんでくるから、お土産期待しててって。