その裏側を見せておくれよ川に落ちた果実が水底から水面にゆっくりと浮き上がるように目が覚めた。こんなにも目覚めがいいのは久しぶりかもしれない。少し身じろぎをすると、すぐ真横にヴォックスの耽美な寝顔があって、自分の体はたくましい腕と胸板に包まれていた。道理でここまで気持ちが言い訳だ。
周りはまだ暗く、窓から差し込んでいるのは月明かりで今日は満月か、なんてぼんやりと考えて、
その月明かりに照らされた顔はなんとも気持ちよさそうでついつい口角が上がってしまう。
素肌が触れ合う感触が気持ち良くて、つい回された腕に指を這わせてみれば瞼が少し動いてゆっくりと月を溶かしたような目がこちらを覗く。
「起こしちゃった、ごめん、寝てていいよ」
「ん……どうしたアイク、怖い夢でも見たか?」
「なんか急に目が冴えちゃって」
眠たげな声で問いかけられて素直に答えれば、ヴォックスはゴシゴシと目を擦って欠伸で返してくれた。
「くぁ……今日は満月で、月明かりが眩しかったからかもな」
カーテンを閉め忘れていた、と苦笑いしながら言う彼の唇を塞いだ。
柔らかい感触だけ味わって軽く食むように口付ける。ゆっくりとその感触を味わってから視線を交わらせた。
「僕ね、月の裏側に、行ってみたいなと思う時がある」
「……それはなぜ?」
「こんなにも綺麗な月なんだから裏から見てもきっと綺麗なんだろうなぁって、そして、皆が見たことがないものを自分で歩いてみたい」
2人で月を眺めながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。この時間が特別なもののように感じて。
「……きっと、そうでもないさ。近くに行ったらでこぼこで、歪で、塵も舞ってたりして、汚いところかもしれないだろう?」
「それでもいいんだよ、遠くから見れば綺麗に見えて、近くで見ればありのままの姿が見れるなんて、」
きっと素敵な事だ、と口に出せばヴォックスは一瞬困ったような顔をしてから僕の額に軽くキスを落とした。
「月に行けば、俺が愛してやまないその甘くて、セクシーなアイクの声も聞こえなくなるから、行って欲しくはないな」
「……そっか」
またどちらからともなく口付けて今度は舌を絡ませる。粘膜を擦り合わせ、時折強く舌を吸い上げられれば脳の芯まで蕩けてしまいそうで、そんな行為でさえ月に見られているような気がして。
不意に唇が離れてヴォックスがベッドを降りて素早くカーテンを閉める。
「これ以上は、見せられないな」
そう言ってまたベッドに入ると同時に僕の肌に掌を這わせてまた何度も唾液を交換する。濡れた吐息と水音が静かな部屋に響いて、その音にまた体の芯が熱くなるのを感じる。このまま溶けて混ざりあって、全てを投げ出してしまいそうなのを少ない理性で繋ぎ止める。
狼男も、吸血鬼も、月の下で自分の本性が晒されるのに、
月の下では、丸裸になるしかないのに、なんで君は。
『その裏側を見せておくれよ。』