粧飾ウォロが指定の場所に到着すると、間もなくシマボシが駆け足でやって来る。
「シマボシさん、お疲れ様です」
「待たせて済まない」
「ジブンも今着いたところですよ」
今日は珍しく二人の退勤時間が近かったため、家に近いシマボシの職場の最寄り駅で待合せをする事にしたのだ。
「少し寄り道してもいいか?もうすぐ化粧品が無くなるんだ」
「もちろん」
二人は、駅に隣接するデパートへ入った。華やかな化粧品が並ぶコスメカウンターに、ウォロは興味津々である。
「デパートのコスメカウンターって、初めて来ました」
「男性は、なかなか来る機会がないからな…。嫌ではないか?」
「ウチは化粧品も取り扱ってますし、非常に興味をそそられますね!」
「そうか」
退屈させてしまうだろうか、というシマボシの心配は杞憂のようだ。
「いらっしゃいませ」
馴染みのコスメカウンターに到着すると、美容部員が丁寧にお辞儀する。
シマボシは彼女に軽く会釈すると、ウォロを見上げた。
「ジブン、この辺を見ていてもいいですか?」
「構わない。行ってくる」
「ありがとうございます。いってらっしゃい」
彼女と別れたウォロは、陳列されているアイテムを興味深そうに端からじっくりと眺めた。
「これがファンデーション…ふむ。アイシャドウ、チーク…色々とあるんですねぇ」
「よかったら、お試しになりますか?」
「え、いいんですか⁉」
別の美容部員に声をかけられ、ウォロは嬉しそうに尋ねる。
シマボシが化粧しているのを見て好奇心を刺激されていた男は、自分がメイクをする機会をこっそり窺っていたのだ。
「はい。弊社では、メンズ用のコスメも取り扱っておりまして…」
「ぜひお願いします!」
「では、あちらの席にどうぞ」
初めて憧れのデパコスを買いに来た少女のような輝く笑顔で、彼は美容部員についていくのだった。
「シマボシさーん!」
ご機嫌な彼の声に顔を上げたシマボシは、目を丸くする。
そこには、普段の五割増で美しくなったウォロの顔があった。
「えへへ、お姉さんにメイクして頂きました」
ファンデーションで肌を整え、ハイライトとシャドウを少し足し、グロスでほんのり唇にツヤを出しただけなのに、匂い立つような男の色気と凛々しさが溢れている。
元々いい素材である彼のメイクを担当したと思われる美容部員は、達成感に満ち溢れた表情をしていた。
「どうです?惚れ直しちゃいました?」
「……っ」
シマボシは顔を逸らし、口元を片手で覆う。
「シマボシさん?」
「ふ、普段以上に…見目が良くて……め、目のやり場に…困る…」
顔を真っ赤にして声を震わせる彼女につられ、ウォロも顔が熱くなるのを感じた。
「そ、そこまでイイ反応されると…照れますね…」
「……」
その場にいた美容部員達は『今日は、ものすごくイイ仕事をしたな…』と、仕事への手応えと充実感を感じるのであった。