受けて、継ぐもの仕事を終えて帰宅したウォロは、玄関に置いてあった大きな段ボール箱の荷札を見ると顔をほころばせた。
「ただいま帰りました!」
「おかえり」
リビングの扉を開けて帰宅を告げると、台所から声だけが聞こえる。先に帰宅していたシマボシは料理中だったらしい。
ウォロが顔を出すと、彼女はタオルで手を拭いて駆け寄ってきた。
「すまない、洗い物をしていて」
「気にしないで下さい」
そう言ってシマボシの身体をぎゅっと抱き締めると、シマボシも腕をウォロの背中に回して応えてくれる。
「今日のご飯はなんですか?」
「肉じゃがにしたのだが……」
「やった!」
手先が器用なウォロは和洋中その他何でも美味しく作れるのだが、いわゆる家庭料理の部類はシマボシの味が大好きだ。
初めて彼女の肉じゃがを食べた時は、感動のあまり一週間連続でリクエストして呆れられたものである。
「キミは本当に肉じゃがが好きだな」
「シマボシさんの肉じゃが、美味しいんですもん」
言いながらウォロはシマボシの頭に鼻をこすりつけ、額や頬に口づけした。
『会えなかった間のシマボシさん成分を補給してるんです』という理由で行われるこのスキンシップ、最初のうちは恥ずかしくて抵抗していたシマボシだが、現在ではこの程度であれば彼の気が済むまで好きにさせている。
慣れもあるが、抵抗するとウォロの劣情が煽られるらしく、閨事に持ち込まれる可能性が非常に高くなるからだ。
「もうすぐ出来るから、着替えてくるといい。あと、玄関に」
「ジブン宛の荷物ですよね、確認しました。あとでぜひ一緒に見て下さい」
何か含みをもたせた声のトーンに、シマボシは少しだけ警戒する。
「……何が入ってるんだ?」
「んふふふ、お楽しみです」
「開けますよー」
夕飯を済ませた後。
ウォロがカッターナイフで丁寧にガムテープに切り目を入れて箱を開けると、辺りに草の匂いが充満する。
「……!」
その独特な匂いに、シマボシは目を見開いた。
「分かりました?」
「それは、もちろん…」
覚えている。かつてのヒスイの大地で、よく世話になった薬草達だ。
「この独特な生薬の香りは、そうそう忘れられないだろう」
「ですよね」
ウォロは乾燥させ袋詰された薬草を一つ取り出すと、少しだけ顔をしかめる。
それは強烈な異臭を放つが、ごく少量で劇的に身体を温める効果がある薬草だった。
「昔はその辺にいーっぱい生えてて採り放題だったんですけどね。今じゃ貴重品ですよ」
ウォロは段ボールいっぱいに詰められた薬草達を慣れた手付きで分別し、てきぱきとビニル袋に収納していく。
「キミは、この臭いがあまり好きでは無かったと記憶しているが…どうして」
わざわざ、入手困難な薬草を大量に──おそらく一冬分の量──購入したのか、シマボシには分からなかった。
「最初はね。でもだんだん慣れてくるとクセになるんですよ。それに」
ウォロは一冊のファイルを差し出してきたので、シマボシはそれを受け取って開く。
「アナタがいない間。一つでも、アナタがいた事を確かめたくて。何年もやってたら習慣になっちゃいました」
「これ…」
ヒスイの地にいた頃。
己の寿命を感じたシマボシは、これから永い時を歩き続ける伴侶を心配してあれこれ書き残したのだ。
身体を温める薬湯の材料と処方、保存食の作り方など多岐にわたる。
「全部、丁寧に保管してますよ。端はちょっとボロボロですけど」
自分が再び生を得るまでの、気の遠くなるような長い間。彼がどんな思いで待ち続けていたのかシマボシが知る事は出来ないけれども。
「……ウォロ」
昔と変わらない、大きくて広いウォロの背中にシマボシはこつりと額を当てた。
「久しぶりに、シマボシさんの薬湯……一緒に浸かりたいです」
「……許可、する」
彼女は小さく呟くと、彼の身体を後ろから抱き締める。
その手に己の手を重ねたウォロは、幻ではないその温もりに胸がじわりと温められるのを感じた。