青灰の瞳 抵抗するように肩を何度も押されたため仕方なく彼女の口を開放すると、シマボシは呼吸を整えようと息を大きく吸いこむ。
「な、何でこんなところで」
いつも彼女を抱く時は、夜の室内でのみだった。そのため、いきなり建物の影に引き込まれるという状況に、彼女は少し混乱しているようだ。
「ちょっと嫌なことがありまして。慰めてください」
碌な理由など思い浮かばなかったから、適当に誤魔化しつつウォロはまた唇を重ねようとする。しかし、それを防ぐようにシマボシがウォロの口を素早く掌で塞いだ。
「っ、やめろ! こんな場所で誰かに見られたら……」
ウォロはシマボシの手首を掴み、口に当てられた手のひらを下ろした。
「本当ですね。昼から、しかも外で隊長さんがこんなことしてるって知られたら大変です」
だから静かにするように、と忠告の意を込めて彼女の唇に指を押し当てる。
「でもそっちだっていつもと違う状況に興奮してますよね?」
「そ、そんなことはな……」
「嘘ばっかり。いつもより反応いいですよ」
耳殻をぺろりと舐めるとシマボシは声と快感を堪えるように目をぎゅっと瞑った。
「目を開けてください」
逃げるように顔を背けるその顎を掴んで、前を向かせた。
太陽から身を隠す日陰、建物と建物の間の薄暗い光の下で恐る恐る開いた彼女の目は、うっすらと灰色を帯びている。
光の加減であることはわかってはいた。それでも彼女の虹彩が自身の薄墨色の瞳の色に、文字通り己の色に、まるで染まってしまったかのような錯覚さえ覚える。
ウォロは青灰色の瞳から目を離さない。
「アナタの目は本当に綺麗な色をしてますよね」
覗き込んだ目の中では普段の凛々しい青がすっかり影を潜めてしまっていた。
様々な感情で一杯になった彼女の目を覗き込む瞬間を、ウォロは一等気に入っている。