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    雨野(あまの)

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    雨野(あまの)

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    一応、一二三誕生日おめでとう作品です。付き合ってないひふ幻。クイズ大会してます。あえて遅刻しました。あえてです。本当です。

    #ひふ幻
    hifugen

    答えをどうぞ!「夢野センセ、これ何?」
    「おや、テレビで観たことないですか?ここのボタンを押すと……」
     彼はそう言ってテーブルの上のピンポンブザーを一回だけ押した。ピンポーンと軽快な音が鳴ると赤い丸が描かれたプレートが勢いよく立ち上がる。
    「越後製菓!」
    「この遊びしたくて買ったん?」
    「そんな訳ないじゃないですか。それだったら本物そっくりの餅の形したやつ買いますよ」
    「あっそ」
     犬猿の仲だった一二三と幻太郎の距離が近付いたのはここ半年のこと。シンジュクの街で真っ青な顔をした夢野幻太郎に遭遇したことがきっかけだった。敵と言えども具合の悪そうな人を放っておけるほど一二三は冷酷ではない。彼も本当に調子が悪かったのだろう「具合悪そうだけどどうかしたのかい?」と聞いた一二三に対して「貧血だと思います……」と素直に答えた。それならば、と一二三と独歩の暮らすマンションへと招き入れ、介抱ついでに手料理も振る舞った。
     幻太郎は一二三の作った料理をそれはもう美味しそうに平らげた。こちらが感想を聞かずとも〝美味しい〟と顔が物語っていた。そのくせ「まあまあな腕前ですね」などとのたまうものだから思わず笑いが込み上げたのを覚えている。同時に笑う一二三を見て不思議そうに首を傾げる幻太郎が不覚にも可愛いと感じたのも。作り手冥利に尽きる、というものであれから幻太郎が美味しそうに食べる姿が見たくて足繁く彼の家へと上がり込んでは手料理を振る舞っている。幻太郎も美味しい手料理が食べられるとあれば一二三を無下にすることも出来ないようでこの状況をわりかた容易に受け入れた。
     半年間、彼と接して分かったことがある。案外話が合うこと、笑うと可愛いところ、そしてたまに突拍子もない奇行に走ることだ。そのため今回もテーブルに置かれたピンポンブザーを見ても、慣れというものは恐ろしいもので、またいつもの奇行か、と思ったのが最初の感想である。そして〝またいつもの奇行〟と思うほどに彼との距離が近付いたのは半年前じゃ考えられなかったことだ。それが少しだけ一二三の心に温度を与える。この感情に名前を付けるとしたら何になるのだろう。それを随分と前から探しているのだが、答えは一向に見つからない。

    「これを使ってクイズをしましょう。小生が問題を出すので分かったらこのピンポンブザーを押して下さい」
    「何?これも新作のネタ出しになんの?」
     まあまあ、と宥めるように幻太郎がピンポンブザーを押し付ける。というか回答者は俺しかいないんならこれ必要なくないか?とも思うが言ったところで〝こういうのは雰囲気が大事なんですよ!〟などと御託を並べられることだろうから黙っておいた。余計なことは口に出さない。今まで彼と接する中で学んだ経験則である。もし現在の俺から過去の俺に助言するとすればこの一言だろう。さすれば彼との初対面はもっと良い思い出になったかもしれない、と彼の書生服を眺めながら小さく笑った。

    「じゃあ手始めに簡単な問題から始めましょう」
    「うい〜」
    「今日は何月何日でしょう?」
     ん〜想像以上に簡単な問題だったな、と思いつつピンポンブザーに手を伸ばす。ピンポーン、パタ。赤い丸出現。
    「はい、伊弉冉さん!答えをどうぞ!」
    「6月24日」
     幻太郎は勿体ぶるように暫し溜めの時間を作るとどこからか札を取り出し「ピンポン!ピンポン!」と声に出した。札にはピンポンブザーと同じく赤い丸。というかそれは音鳴らないんだ。口で言うんだ。
    「わー、やったー」と感情のこもってない声を出すが、彼は満足そうにニコニコと笑っている。
    「どうです?簡単でしょう」
    「そうだね、簡単だね。でも手始めに、ってことはまだ問題あるんでしょ」
    「その通り!小生は優しいので簡単な問題を出しますからご心配なく」
    「は、はあ……」
    「では、問題です!」
     ででん!と効果音も口で演出した彼はそのまま問題を出題してくる。
    「4月1日は何の日でしょうか?」
    「はい!えっと……」
    「ピンポンブザー忘れてますよ!」
    「あ、メンゴメンゴ」と言いつつピンポンブザーを押す。押す意味あるか?俺は何故、謝ってるんだ?
    「4月1日は夢野センセの誕生日!」と伝えると幻太郎は瞳を瞬かせ困惑の表情を浮かべていた。
    「え、違うの?てか何その顔」
    「普通ならエイプリールフールとか答えるでしょうに。何故、小生の誕生日を真っ先に答えるんですか」
    「あーそういやそうだね。夢野センセの誕生日しか思いつかなかった。じゃあこれは不正解?」
    「……いえ、正解ですけど」
     幻太郎はどこか腑に落ちないように赤い丸の札を掲げた。正解じゃん。何なのこのクイズ。やはり執筆の参考にするのだろうか。だが、それにしては出す問題が通俗的な気もするが……いくら考えても彼のことは読めないので諦めて「次の問題は?」と先を促した。
    「……では続いての問題です。ででん!6月22日は何の日でしょうか?」
     自身の眉が不随意にぴくりと動いた。物心ついたときから馴染みのある日付けだ。彼に教えた覚えはないがどこか挑発的な顔から知っているんだろうな、と悟った。一二三はあえてそれには乗らずにピンポンブザーを押して「んーカニの日?」と答えた。彼は一切の猶予もなしにバツマークが描かれた札を掲げ「ブッブー!」と口にした。
    「何でよ。カニの日じゃん」
    「そうなんですか?小生は知りませんでした」
    「え〜出題者が知らないから不正解ってクイズとして成り立ってないじゃん!」
    「うるさいですねぇ。クイズでは出題者が神なんですよ」
     独裁的だな……と思いつつも問題の答えに考えを巡らせる。自惚れかもしれないが彼が求める答えは最初から見当がついているアレだろう。口に出せなかったのは彼が自分に興味などあるはずがないと、ある意味予防線を張っていたからだろうか。
     さあさあ答えてみなさい、と目で促す彼にふぅとため息とも深呼吸とも言えぬものを吐き出す。そこまで煽られたら答える他ない。ピンポーン、パタ。赤い丸出現。
    おそらくこれが答えだろう「俺っちの誕生日……?」と口に出せば彼は予想に反して眉を顰めた。あれ、違った?
     幻太郎は緩慢な動きでプレートを掲げる。出現したのは赤い丸。正解じゃん。せっかく当てたのにその不満げな顔は何故なのか見当がつかなかった。
     「ピンポン」と一応、口にしてはくれるが消え入りそうな声だったため、言葉とのアンバランスさに笑いそうになる。しかしここで笑うと彼の機嫌を更に損ねてしまうのは火を見るより明らかだ。唇を口内に巻き入れて意識的に笑みを封じた。
    「やったね、正解だ」
     幻太郎の気分を少しでも高揚させようと陽気に告げてみせるが逆効果だったようで眉間の皺はますます深くなるばかりだった。
    「夢野センセ、急に機嫌悪くなんじゃん〜どしたん?」たまらず口に出せば「別に」と返される。炎上した女優かよ。

     すすすと畳を鳴らして彼の横へと移動すると幻太郎は口を尖らせたまま俺の動きを目だけで追った。
    「んじゃあさ、今から俺っちが言うこと合ってたらピンポン!ってやって」
     オッケー?と尋ねると返事はないがこくりと頷かれる。ああ、良かった。
    「夢野センセは何かに怒ってんの?」
     そろりと掲げられた札にはバツの記号。小さく、本当に小さく「……不正解です」という声が聞こえた。
    「あれ〜?初っ端からはずれたか〜!じゃあ、夢野センセは俺っちに呆れた?」
     再び掲げられるバツ。「そんなことないです、むしろ……」と言ったっきり幻太郎は俯いて口をつぐんでしまう。むしろ……。何だろ。
    「ん〜。そうだな〜。夢野センセは何か悲しかったのかな?」
     違う?と付け加えると幻太郎の規則的に並んだ睫毛が一瞬だけ揺れる。おそらくこれが正解。確とした理由は見当がつかないが、俺の誕生日が関係しているのだろう。とりあえず彼を懐柔しようと口を開いた。

    「俺っちが何か悲しい思いさせたんならごめんね?」
     窺うように告げると彼は弾かれたように目線を合わせた。見開かれた瞳が一二三を射抜く。この場に似つかわしくないかもしれないが、つくづく綺麗な瞳だな、と思う。一二三は幻太郎の不透明でいて優美な瞳が好きだった。
    「……貴方、小生を悲しませたことに身に覚えがないんでしょう」
    「ん〜まあそうだけど、クイズにするぐらいだから俺っちが何か悲しませたんかなって思って」
    「……まあ、そうですけど」
    「やっぱそうじゃん〜。理由教えてくんない?ちゃんと謝りたいし」
     ふいっと視線が外れるが、お願い、と付け加えると幻太郎はぽつりと語り出した。
    「……小生の誕生日はあんなに豪勢な食事を作って盛大に祝っていただいたでしょう」
    「え、あ、うん。お祝いしたね〜」
     幻太郎の言う通り、4月の幻太郎の誕生日はリクエストに沿ってA5ランクの和牛を使い、すき焼きでお祝いをした。肉が豪華なだけですき焼き自体は作るのが困難なわけではないから、盛大に、というのはあまりに過大評価すぎると思うが黙っておこう。珍しくハイテンションで喜んでくれてたし。
    「そうです。……それなのに。それなのに、小生は貴方の誕生日に何もお祝い出来なかった」
    「え〜!別に気にしなくて良いのに〜!この歳になるとわざわざお祝いしなくても大丈夫なんだって!」
    「でもお店ではお祝いするんでしょう」
    「まあ……それは仕事だから」
    「……小生は誕生日すら教えてもらえない存在なんですか?」
    「へ?」
    「小生的には貴方と……仲良くなれていたつもりなんですけど」
     口を尖らせ、頬が若干膨らんでいる様子を見て、ついに声をあげて笑いが漏れてしまった。
    「な!今、笑うとこじゃないんですけど!」と顔を真っ赤にして憤慨している姿も笑いを助長させてしまう。
    「あーいや、メンゴメンゴ!夢野センセ見事に拗ねてんなぁって思ったら可愛くて、つい!」
    「か、わいって……というか拗ねてません!悲しんでいるんですよ!」
    「ホントに?」
    「拗ねてる、だとしたら……それじゃあまるで小生が貴方のことを……」
     幻太郎はそう言ったっきり顎に手を当てて黙り込んでしまった。それじゃあまるで?難解な問題の答えが出るのはもう少し時間がかかりそうだ。対照的に俺の方はもうほぼ答えは出ている。決定打はすぐそこだ。

    「ねぇ、夢野センセ。それなら今からでもお祝いしてもらいたいな〜」
    「は?今からですか?……でも食事の準備やらありますので後日の方が……」
    「あーそんなんじゃなくてさ、プレゼント欲しいなって」
    「プレゼントですか……」
    「そ。手握らせてくんない?それがプレゼント」
    「は、はあ?何ですかそれ」
    「良いから良いから。あと俺っちとお喋りしてくれたら嬉しいな〜!」
     手のひらを上に向けてテーブルに置き彼の反応を待つ。幻太郎は戸惑いの表情を見せたが恐る恐る俺の手の上に自身の手を重ねた。今にも逃げ出してしまいそうな細い手を捕らえて優しく握り込む。手のひらと手のひらを合わせて指を絡めれば沸るような血が心臓から全身へと巡る感覚がした。この感覚はきっと……。彼はどう思っているだろう。彼も俺と同じ気持ちだと良いな。
    「俺っちね、夢野センセの声好きだからお喋りするのも好きなんだよね」
    「そう、ですか」
    「怒ったら超こえーけど!」
    「ひと言余計なんですよ」
     あははと声に出して笑うと彼もつられるようにして微笑んだ。やっと笑顔が見られた。それが血液の温度をますます上昇させる。
    「俺っちの誕生日どうやって知ったん?」
    「……貴方、雑誌に載っていたでしょう。昨日たまたまその雑誌を読んだんです。そしてプロフィールを見て誕生日を知りました。小生の誕生日はあんなにお祝いしてくれたからこっちも絶対祝ってやる!って意気込んでたのに……」
    「マジ?そんなこと考えてくれてたん?めっちゃ嬉しいんですけど〜!」
    「それなのに貴方は誕生日言ってくれないし、雑誌で知ったときにはもう22日は過ぎてましたし……何より誕生日がいつなのか貴方に聞かなかった自分にも腹が立って呆れました」
    「ありゃあ〜そんなに?」
    「ええ。だから腹いせにこんな物まで買ってやったんですよ」
     こんな物、と幻太郎が空いた方の手でピンポンブザーや札を指差した。そっかそっか、と相槌を打つと「何ですか。その適当な返し方は」と苦言を呈される。
    「いや、そんなに祝いたかったんだなって思ったら嬉しくてさ〜!」
    「……祝えなかったですけどね」
    「手繋いで話してくれるだけでも大満足だって〜」
    「……こんなちっぽけなもので良いんですか?」
    「俺っちはこれが良いの」
     絡めた手を解き、人差し指で彼の細い指を撫でる。一本一本、なぞるように撫で、手のひらにもくるくると円を描くように動かせば、くすぐったいのかくすくすという笑い声が耳に届く。それでも払い除けられないのは誕生日プレゼントという名の特権か。再び手のひらと手のひらを合わせ指を絡めると「んっ」と声を漏らし、俺の情欲をかき立てる彼はだいぶあざといと言えるだろう。そしておそらく無意識にやっているあたり、尚更たちが悪い。
     熱に浮かされた今なら素直な気持ちを口に出来そうだ。意を決して口を開く。

    「俺っちね、夢野センセと一緒にいるのがすっげぇ楽しいし、仲良くなれたのもすっげぇ嬉しいって感じててさ。それと同時に夢野センセが他の人と仲良くしてんの見たり聞いたりしたら、こう……胸の奥が痛くなるってか切ない気持ちになってたんだよね。んで、ずっと前からこの気持ちが何なのか探してたんだけどさ、こうやって手繋いでお喋りして答えが見つかった」
     きらきらと光る無垢な瞳を捕らえる。不透明でいて優美。掴みどころのない様子は彼の性格とも相まっており、だからこそ追いたくなる。求めたくなる。

    「俺っちね、夢野センセが好き」
     ぴくりと自身の手の中が揺れる。言うまでもなく彼が狼狽えて動いたものだ。
    「本当はホストらしくプレゼントは夢野センセが欲しいとか言ってみたいんだけどさ、誕生日特権で付き合って欲しいわけじゃないし、自分の気持ち言えただけでも満たされてるってか……〝好き〟って感情に気付かせてくれたのがプレゼント的な?」
    「あ、あの……えっと……」
     幻太郎の瞳が、俺の好きな瞳がゆらゆらと泳いでいる。彼からの好意も感じ取っていた気がしていたが、それは自惚れだったのだろうか。とにかくこんな風に困惑させたかった訳ではない。繋いだ手をゆっくりと解いて、にこりと笑いかける。本当はもっと繋いでいたかったし、名残り惜しいけどそんなことはおくびにも出さないように。
    「あー無理に答え出さなくて良いんだって〜!好きって伝えられただけで満足って言ったっしょ?本音言うなら今まで通り接して欲しいけど、夢野センセが迷惑ならもうここには来ないし」
     とりあえず今日はお暇すんね!と言って立ち上がろうと腰を浮かせる。しかしそれは彼の動きによって封じられることとなった。幻太郎は俺を立たせまいと腕にしがみついていた。
    「へ?どしたん?」
    「……あ、貴方はそうやって思いを伝えるだけ伝えて答えを聞こうとせず自己解決して……一方的すぎるんですよ!」
     彼の言葉に浮かせた腰をすとんと下ろす。彼に毒されている自覚はあるが憤りが浮かぶ顔も可愛いな、なんて思う。
    「小生だって、貴方の誕生日が祝えなくて悲しかったし、ホストクラブに来る客やチームメンバーには祝ってもらったのだろうと考えると胸の奥が……もやもやしてるんです!貴方が家に来た日は心が躍って、帰ると途端に寂しくなるんです!だからきっと小生は貴方のことが……」
    「俺っちのことが?」
    「す……」
    「す?」
     幻太郎の顔がみるみるうちに赤く染まる。これは憤りとは別の理由からだろう。何かを言いたいのだろうが、素直に言葉に出来ないようでパクパクと口を動かしている。ああ、もう本当に可愛い!たまらずもう一度彼の手を握りしめると「ひえっ」なんてらしくもない声を出すのがまた笑いを誘う。

    「じゃあ言えないなら俺っちが言ってあげんね。夢野センセは俺っちのことが好き。これは正解?不正解?」
     ふと幻太郎の強張った体から力が抜ける気配がした。これならば答えやすいだろうという予想通りに彼は「……正解です」と呟いた。
    「わ!やった!」そう言って幻太郎に抱き付くと「ぐえっ」なんて再びらしくない声を出すもんだから、声をあげて笑った。
    「貴方ねぇ!いきなりすぎるんですよ!」
    「いやぁメンゴメンゴ!夢野センセと両思いって分かったら嬉しくなってさ!」
    「……良いんでしょうか。お互い、つい先程恋心を自覚して、すぐに交際するなんて」
    「良いんじゃね?片思い期間ゼロでラッキーじゃん」
    「驚くほどポジティブですね……」
    「でもそんな俺っちも?す?」
    「す……好き……です」
     ぎゅうっと背中に彼の腕が回る。幻太郎の香りや温度がより近いものとなり、触れ合うことを許されたんだな、と改めて実感する。随分と前から自身の心を温めていた正体は彼への愛情だったのだ。
    「俺っちも好き。……あー!めっちゃチューしてぇ!」
    「貴方ねぇ……煩悩垂れ流しすぎなんですよ」
    「これでもチューすんの我慢してんだって〜!したいって言うぐらい許してよ〜!」
    「おや、随分と理性的だこと。あ!ではこうしましょう。来年の誕生日プレゼントがキスってことで!」
    「えー!俺っち、一年も我慢しなきゃいけないわけ〜!?」
     不満を口にすると幻太郎は愉しげにけらけらと笑いをこぼした。くそ〜!揶揄いやがって〜!
     口を尖らせるとふと彼の腕の力が緩んだ気がした。
    「なんてね。嘘ですよ」
     赤く染まる頬と近付く唇に今度は一二三の方がけらけらと笑った。



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    雨野(あまの)

    DONEひふ幻ドロライお題「逃避行」
    幻太郎と幻太郎に片思い中の一二三がとりとめのない話をする物語。甘くないです。暗めですがハッピーエンドだと思います。
    一二三が情けないので解釈違いが許せない方は自衛お願いします。
    また、実在する建物を参照にさせていただいていますが、細かい部分は異なるかと思います。あくまで創作内でのことであるとご了承いただければ幸いです。
    いつもリアクションありがとうございます!
    歌いながら回遊しよう「逃避行しませんか?」
     寝転がり雑誌を読む一二三にそう話しかけてきた人物はこの家の主である夢野幻太郎。いつの間にか書斎から出てきたらしい。音もなく現れる姿はさすがMCネームが〝Phantom〟なだけあるな、と妙なところで感心した。
     たっぷりと時間をかけた後で一二三は「……夢野センセ、締め切りは〜?」と問いかけた。小説家である彼のスケジュールなんて把握済みではあるが〝あえて〟質問してみる。
    「そうですねぇ、締め切りの変更の連絡もないのでこのままいけば明日の今頃、という感じですかね」
     飄々と述べられた言葉にため息ひとつ。ちらりと時計を見る。午後9時。明日の今頃、ということは夢野幻太郎に残された時間は24時間というわけだ。
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