チュートリアル:リプレイノベル●オープニング
アメリカ某所、日中――。
からりと晴れた海岸沿いの空き地に、この地を拠点とする民間保安企業『アルテミシア・セキュリティ社』のガンドッグ達が並んでいる。
日本にも支部を新設したその会社は、まだ中小規模ながらも日々業績を伸ばしている新進気鋭の民間軍事会社である。
さて、ガンドッグ達がここにいるのは他でもない――合同訓練の為だ。
●訓練1:フィジカルトレーニング
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ターゲットレンジシステムによる訓練。
目標:アスレチックコースをクリアせよ!
カウントアップ形式。
リミット1
▼レンジ5:懸垂降下
10mの高さから、ロープを伝って蹴りつつ降下する。
使用スキル<運動> 修正値+20%
TRSは<状況把握>の成功率が高い者から行う。
サクラ→76%
ジェラード→43%
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一同が立っているのは、約10mほどの乾いた崖の上だ。今からここを懸垂降下する。ロープや器具等は既に用意されており、「各々やりやすい方法で降下せよ」と上官――軍装の老婦人だ、軍歴はここにいるガンドッグ達の平均年齢より長い――が凛と声を張った。
「よっしゃ訓練や~」
各隊員が降下の為に器具を着けたりロープを巻いたりしている中――準備運動を終えた花園サクラが、うきうきとした様子で一歩前へ。身に着けているのは降下用の皮手袋だけだ。
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花園 サクラ:1d100<=98+20 (1D100<=118) > 95 > 成功(達成値14+<運動>スキルレベル3=17)
TRSシートの「マーカー進行表」を参照、達成値が17なので、ターゲッティングトラックの「スタート」から3マス進む。
サクラは判定に成功したので、続けて判定を行える。
連続2回目の判定なので、判定に-10%の修正がかかる。
花園 サクラ : 1d100<=98+20-10 (1D100<=108) > 61 > 成功(達成値7+<運動>スキルレベル3=10)
達成値10。トラックを2マス進み、サクラはレンジ5をクリア。
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「ヒャッホーーーゥ」
ファストロープ降下。器具やロープの摩擦を利用せず、手足の力だけで降下する手段である。もちろん一瞬でもミスすれば10mの高さから落下……だというのに、サクラの降下速度は命知らずもいいところだった。
「あいつマジか……」
降下の為の準備中だったジェラード・ベリーは、メディックとして――もしも効果に失敗したら治療するのはこちらなのも相まって――サクラの降下に若干引いていた。
「ボスー! 次はー?」
軽々と着地したサクラが、皮手袋を脱ぎ捨てつつ崖上の上官に振り返る。
「向こうのフラッグまで全力疾走だ」
上官が顎で示すのは、砂浜の向こう側……100m先に立てられた赤い旗だ。
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▼レンジ4:砂浜ダッシュ
砂浜で100mを全力疾走。
使用スキル<運動>or<局地行動> 修正値+20%
3回目の判定となるので、サクラは-20%修正。
花園 サクラ : 1d100<=98+20-20 (1D100<=98) > 38 > 成功(達成値11+<運動>スキルレベル3=14)
成功、3マス進む。そのまま更に-30%補正で判定続行。
花園 サクラ : 1d100<=98+20-30 (1D100<=88) > 14 > 成功(達成値5+<運動>スキルレベル3=8)
成功、2マス進む。サクラはレンジ4クリア。
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「つかまえてごら~~ん」
キャッキャウフフとおどけた様子で、しかし他の追随を許さぬ速度でサクラは波打ち際を駆ける。足元が走りにくい砂浜だとは思えないほどの速力だ。
「はいゴ~ル」
余裕を持った一番乗りである。大阪某所のあの名物看板のポーズである。後方では、幾人かが懸垂降下を始めている様子がちらほら見えた。
さて次は。サクラの前には、2.5mほどの障害物が幾つか設置された、アスレチックコースがあった。これを走破せよ、ということだ。
「おもろそうなアミューズメントやんけ」
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▼レンジ3:障害物走
コースの数か所に設置された、2.5mの障害物にジャンプで飛びつき、よじ登って越える。
使用スキル<運動> 修正値±0%
5回目の判定となるので、サクラは-40%修正。
花園 サクラ : 1d100<=98-40 (1D100<=58) > 27 > 成功(達成値9+<運動>スキルレベル3=12)
成功、3マス進む。そのまま更に-50%補正で判定続行。
花園 サクラ : 1d100<=98-50 (1D100<=48) > 40 > クリティカル(達成値20+<運動>スキルレベル3=23)
クリティカル成功したので、ターゲッティングトラックのマーカーをそのまま下にずらす。(レンジ2の3マス目へ)
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児戯だ。
少なくともサクラにとってはあまりにも容易かった。
生まれ育ったスラムで、少年兵として駆け抜けた戦場で、生き延びる為に磨き抜かれた身体能力と運動センスは、障害物を障害物として機能させなかった。
「よっこらせ……っと」
軽々と飛び乗った最後の2.5mから、ひょいと飛び降りる。チェックポイントにはドローンが浮遊しており――「ハナゾノ、次はスピードスイムだ」と上官の声で告げた。
「着衣のまま、50m沖まで行って戻ってこい」
「ういーっす」
大人への敬意がゼロの敬語で、サクラは海へと駆け、飛び込む。
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▼レンジ2:スピード・スイム(100m)
着衣のまま50m沖まで往復して戻ってくる。
使用スキル<運動> 修正値-10%
7回目の判定となるので、サクラは-60%修正。
花園 サクラ : 1d100<=98-60-10 泳ぐぞっ (1D100<=28) > 55 > 失敗
失敗になるので、サクラのリミット1でのTRS手番は終了。
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走って火照った身体に冷たい海水がちょうどいい、が……
「……他の連中なにしてんねん?」
おっそいなあ。つまんね。ので、訓練中だというのに泳ぐのと止めて海水に浮きつつ、サクラは後方を振り返る。わらわらと走ったり跳んだりしている大人達が見える。
「お~~~~い! ジェリ~! おいてくぞ~!」
止まっているのはちょっとした休憩と、いわゆる『舐めプ』だ。遠巻き、ようやっと降下を始めそうな赤毛の同僚へ声を張る。
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ジェラードがレンジ5から挑戦する。
ジェラード・ベリー : 1d100<=40+20 (1D100<=60) > 97 > 失敗
失敗してしまったので、マーカーはそのまま動かない。
ジェラードのリミット1での手番終了。
全員が行動済になったので、リミット1が終了。
カウントアップ式なので、リミット2になり、判定挑戦が再開する。
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「ちょっと目ぇ離してる間にあんなところまで行ってやがる……バケモンかよ……」
舐めプしてんじゃねえと思いつつ、ジェラードは降下をしようと――して――
「うおッ」
サクラがデケー声で呼びまくるせいで少し集中力が乱れたかもしれない、一瞬落ちかけたので慌ててロープを握りなおした。
「お医者さ~ん お医者さ…… お医者さん⁉」
ジェラードが一瞬落ちかけたので、流石のサクラもちょっとギョッとした。
「大丈夫かアイツ……」
なんて独り言ちつつ、サクラは息も整ったのでスピードスイムを再開する。
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リミット2、サクラの手番。
リミットがリセットされたので、連続判定による修正値はなくなる。
サクラから行動。
レンジ2、スピードスイム。現在いるターゲッティングトラックは3マス目。
花園 サクラ : 1d100<=98-10 (1D100<=88) > 11 > 成功(達成値2+<運動>スキルレベル3=5)
成功、1マス進む。
レンジ2クリア。続けてレンジ1の判定へ。
▼レンジ1:土嚢運び
20kgの土嚢を担いで100mを全力疾走。
使用スキル<運動>or<強靭> 修正値-10%
2回目の判定なので-10%補正。
花園 サクラ:1d100<=98-10-10 (1D100<=78) > 47 > 成功(達成値11+<運動>スキルレベル3=14)
成功、3マス進む。
花園 サクラ:1d100<=98-20-10 (1D100<=68) > 69 > 失敗
失敗、レンジ1の3マス目でストップ。
サクラのリミット2の手番終了。
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休憩したこともあって、サクラは難なくコースを泳ぎ切り、ざぶざぶと砂浜に戻ってくる。服が濡れて重くなっているが、特に気にならない範囲だ。
「は~しょっぱ」
潮水で濡れた顔を拭い、置かれた土嚢へのんびり歩み寄りつつ……見やるのは、ジェラードの方向である。
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ジェラードの行動。
レンジ5、懸垂降下。現在いるターゲッティングトラックはスタートマス。
ジェラード・ベリー:1d100<=40+20 (1D100<=60) > 83 > 失敗
全員行動終了、リミット2終了、判定修正をリセットしてリミット3へ。
リミット3、サクラの手番。
レンジ1、土嚢運び。現在いるターゲッティングトラックは3マス目。
サクラは援護を宣言。がんばれがんばれって根性論で殴りつけるので<精神力>で判定。
花園 サクラ:1d100<=76 > 59 > 成功(達成値14+<精神力>スキルレベル1=15)
成功したので、ジェラードの成功率+20%。
なお、援護したのでマーカーは進められないし、ここで手番終了。
ジェラードの行動。
レンジ5、懸垂降下。現在いるターゲッティングトラックはスタートマス。
ジェラード・ベリー:1d100<=40+20+20 (1D100<=80) > 48 > 成功(達成値12+<運動>スキルレベル0=12)
ジェラード・ベリー:1d100<=40+20+20-10 (1D100<=70) > 46 > 成功(達成値10+<運動>スキルレベル0=10)
3マス進む+2マス進む、レンジ5をクリア。
続けてレンジ4、砂浜ダッシュに挑戦。
1d100<=40+20+20-20 (1D100<=60) > 29 > 成功(達成値11+<運動>スキルレベル0=11)
1d100<=40+20+20-30 (1D100<=50) > 36 > 成功(達成値9+<運動>スキルレベル0=9)
1d100<=40+20+20-40 (1D100<=40) > 51 > 失敗
2マス進む+2マス進む。
レンジ4の3マス目でストップ。
リミット3終了。
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サクラは自分が走破したルートを思い出す。降下でつまずいてるアイツが、あのルートをクリアできるんだろうか……そんな気遣いから、ジェラードを応援してあげることにした。
「お~~~~い! 何してんねん先生ぇ! それじゃ助かる患者も助からへんぞ~~~~‼ そんなもんなぁ! シャーッてやったらシューッや! いけるいける! パパのサイフから金取るよかラクチンやて!」
やいのやいのヤジを飛ばす。少年の声に、ジェラードは眉根を寄せた。
「うるせえなガキ……おい、なんて⁉」
擬音多くてわかんねえよとツッコみつつ……どうにか、しゅたり、地面に着地する。やっと降りれたような心地だ。周りを見るとほぼ最下位だった。畜生め。
「ええぞええぞ~~~~根性見せろ~~~~」
器具やロープをカチャカチャ外しているジェラードへ、運ぶハズの土嚢の上に座ったサクラが激励を飛ばし続けている。待ってくれているのか、休憩しているだけなのか、訓練に飽きてきたのか。
とまあ、そんなガキにいちいち相手をしている場合ではない。上官の冷ややかな目が「さっさと走れ」とジェラードの背中を機銃掃射のように突き刺しまくっている。さて砂浜ダッシュだ――黙々と駆ける。そしてそんな彼を、サクラの手拍子が囃すのだ。
「あんよがじょーず! あんよがじょーず! 足骨折した患者よりは速いんとちゃう?」
「……だんだん腹立ってきたな…… はあッ、くそがよ……っ」
ゴールが見えてきたところで、ジェラードは一旦止まって膝に手を突き、息を整える。
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リミット4。
サクラは引き続き援護。<状況把握>でナビゲートを行う。
花園 サクラ : 1d100<=76 > 63 > 成功(達成値9+<状況把握>スキルレベル1=10)
成功、ジェラードは+20%修正を得る。
そしてサクラの手番は終了、ジェラードの手番へ。
ジェラードはレンジ4の3マス目にいる。
ジェラード・ベリー : 1d100<=40+20+20 (1D100<=80) > 24 > 成功(達成値6+<運動>スキルレベル0=6)
1マス進み、レンジ4クリア。
続けてレンジ3、障害物走へ。
ジェラード・ベリー : 1d100<=40+20-10 (1D100<=50) > 91 > 失敗
レンジ3のスタートマスでストップ。
リミット4終了。
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「っだあ! やっと半分前!」
ゴールフラッグを走り抜けたジェラードの前には、障害物コースが立ちはだかる。
ヘルメットの下、白い肌を赤くして、汗を流しつつ、もうここでゴールしてえ~と胸に抱いた。
「おーいジェリ~!」
速い者がスピードスイムの後半に差しかかっている最中、サクラはまだのんびり土嚢に座っている。いいのかよ怒られるぞと思いつつ、ジェラードは少年の方へちらと意識を向けた。
「いいか? 俺の通ったオススメルートは――」
通りやすいルートを教えてくれている。一生懸命な身振り手振りは、サクラがジェラードを陥れるつもりがないことを示していた。バカにしているのでもなく、本気で応援してくれているのだ。
そんなことしてねえでとっととゴールしろや――とは、息が上がっているので返さないまま、ジェラードはアスレチックコースを駆け始める。どうにか障害物の上に立つと、暇そうなサクラの声がまた。
「おいおいおい~~~一緒にゴールしようや~~~はよせんと俺の汗も冷えるて~」
(マジでアイツうるせえな‼)
ずっと喋ってんじゃねえか。
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リミット5。
サクラは引き続き援護。<状況把握>でナビゲートを行う。
花園 サクラ : 1d100<=76 ふたたび状況把握援護 リミット4 (1D100<=76) > 98 > 失敗
失敗したのでジェラードは補正を得られない。
そしてサクラの手番は終了、ジェラードの手番へ。
ジェラードはレンジ3のスタートマスにいる。
ジェラード・ベリー : 1d100<=40 > 85 > 失敗
位置変わらず。
リミット5終了。
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「はあ……なんかもう、ワ~~~でブワ~~~~や……」
ナビゲートに飽きてきてしまったらしい。サクラの指示がかなり適当になった。しかも適当に言いすぎて日本語になっているので、アメリカ人であるジェラードには通じない。
「ぜえ……ハァ……誰も頼んでねえよ……何言ってっかわかんねぇし……」
ジェラードは障害物の上でぜえはあしている……上官の手の中、ストップウォッチの時間が次々と進んでいく……。
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リミット6。
サクラがレンジ1の判定を行う。
花園 サクラ : 1d100<=98-10 (1D100<=88) > 73 > 成功(達成値10+<運動>スキルレベル3=13)
3マス進む。
レンジ1をクリアしたので、TRSクリア。
ここでTRS終了。
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「汗冷えてきたし、ぼちぼちいくかあ……」
よっこいせっ、とサクラは立ち上がった。ゴールは目の前だ。振り返れば、2番手が土嚢を担いだところが見えたことだろう。
「ほな……」
てくてく、歩いてゴールである。サクラがゴールしてほどなく、次々と他のガンドッグ達もゴールラインを走り抜けては、砂浜に大の字に転がったり、膝に手を突いたりしていた――。
それからややあって。
ぴぴーっ。
上官がホイッスルを鳴らし、訓練終了が告げられる。
「訓練終了だ。総員整列!」
コース途中だった者も強制招集である。数人の未クリア者の中にはジェラードもいた。
「ご苦労」、と上官は全力疾走で整列した部下達を一言労った。次いでタイムを発表する――一番はサクラだった。途中でのんびりさえしなければ、アルテミシア・セキュリティ社の歴代タイムの記録を更新していたことだろう。
18歳の少年が、歴戦のガンドッグ達を差し置いて優秀な成績を収めたことに、大人達は少なからず感心したようだ。当のサクラ本人は――「フフン」と得意げにしている。
「おいハナゾノ、おまえ真面目にやらんか」
教官役が、そんな少年に喝を入れんと歩み寄る。だがしかし。少年は全く反省をしていないどころか、ふざけてバッと走って逃げだしたのだ。教官役の大人をからかって笑いながら、捕まえてみろと言わんばかり、――このコースを優秀なタイムで走破しておいての、余りある余剰体力で。
……一方のジェラードは。
「未走破の者は、追加訓練だ」
「……イエス、サー……」
上官にそう告げられ、しこたま檄を飛ばされながら、追加訓練となったのであった。
●訓練1:実戦型トレーニング
次の訓練は、住宅と最新鋭VRゴーグルを用いた、実戦風の交戦訓練だ。
訓練は二人一組で行われる。ジェラードが組むのはサクラだった。
「インテリ兄さん、次は頼むでほんま」
訓練場所へ軽快に向かいつつ、サクラは通り過ぎ様にジェラードの肩をポンと叩いた。
「走るよか銃撃つ方が楽やもんな! ほないこか」
「うるせ~~~……」
休憩する暇もない。汗を拭いつつ、ジェラードはサクラの背を追った。
そうして――VRゴーグルを被れば、目の前にリアルなシミュレーションが広がるのである。
二人の前には、よくある構造・大きさの、二階建ての一軒家。目の前にはドアがある。
ミッションのロケーションとしては、この建物を占拠しているギャングを無力化(生死問わず)し、建物を制圧せよ、といった内容だった。
「インターホンでも鳴らすか? ……先に言うとくが俺は隠密は得意やないで」
ドアが施錠されるのを確認したサクラが小声で仲間に伝える。サクラは根っからの切り込み役、正面切ってバンバカ撃つ『ガンファイター』であることを、少年自身が一番理解している。
とはいえスカウトの端くれではある。ドアに耳を当てて、ドア付近に誰かいないか探る――
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五感で行う探索はおおむね<感知>。CoCでいう目星や聞き耳、ダブクロでいう知覚に相当する。
花園 サクラ : 1d100<=86 > 62 > 成功(達成値8+<感知>スキルレベル2=10)
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「……出迎えはなさそうやで」
少なくとも玄関前は無人のようだ。ふむ、とジェラードがドアノブに顔を寄せる。
「ロックピック持ってないんだよな……」
落ちていた鉄くずの針金を拾って、見様見真似のピッキングを試みるが、果たして……
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<手先>で鍵開けに挑戦するが、ジェラードはアイテム『ロックピック』を所持していないので、-20~-40%の補正がかかる。今回は-20%。
ジェラード・ベリー : 1d100<=75-20 (1D100<=55) > 3 > 成功(達成値3+<手先>スキルレベル0=3)
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カチャリ、と軽い音と開錠の手応え。医者として培われた手先の器用さはなかなかのものだ。
「へえ~~ ブラックジャックやのうてルパンやったん?」
その手腕にサクラが感心してそう言う、が、日本のコミック分野に詳しくないジェラードは、針金をポイと捨てつつ首を傾げた。
「だからなんだよブラックジャックって」
「知らん? テヅカオサム……日本人はみんなブラックジャックで医療を学ぶんや」
カスみてえな嘘を吐きつつ、ドアの隙間からするりと侵入したサクラは手早くクリアリングを行った。
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<状況把握>でクリアリング。<状況把握>は瞬時の状況判断に使用する。ほかにも、不意打ちに気づけるか、戦闘で先手をとれるかどうかにも使用する。
<感知>が五感の鋭さなら、<状況把握>は思考的反射神経の高さ。
詳細説明はルルブP139の右側にも記載。
花園 サクラ : 1d100<=76 > 27 > 成功(達成値9+<状況把握>スキルレベル1=10)
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――玄関は無人、居間に男が二人、ソファに座ってテレビを見ている。
サクラの後ろ手のハンドサインが、後方に続くジェラードに情報を告げる。
『スルーしていくか? 人質にしてご同行願うか?』
続けられた手話と振り返る横顔に、ジェラードも同じくハンドサインで返す。
『出るときに挟まれたら厄介だ。ご同行願おう』
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ガンドッグ達はハンドサインで意思疎通できる。詳細はルルブP139。
状況によっては仲間の行う<状況把握>判定に+20%補正。
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ジェラードのハンドサインに、サクラがニッと笑った。
次の瞬間である。玄関フロアの壁の陰より、二丁拳銃のガンドッグが電光石火のごとく飛び出して。
二人がサクラの存在に気づいたのは――H&K社の次世代軍用拳銃『P46 UCP』をそれぞれの脳天に突き付けられた時だった。
「動くな、騒ぐと殺す これがオモチャに見えるんなら抵抗してもええよ、次の瞬間には天国を見てるやろが」
いったい何が起きたのか。ギャング二人は瞬きも忘れて、ぎくしゃくと手を上げるしかない。
サクラがジェラードにアイコンタクトを送る。頷いた軍医が、彼らの武装を奪った。拳銃とサブマシンガンだ。ギャングが持っているものとして、まあ、これといって特異な部分はない型番だ。
「よ~~し ほなインタビューでもしましょうかね、おまえらどこに何人いる?」
丸腰になったギャングの眉間を銃口でつつき、サクラが尋問する。
「しょ……食堂に2人、二階に1人、食堂に居るのがリーダーだ……」
「はいありがと~」
じゃあもう用済みと言わんばかり、サクラはそいつをジェラードの方へと押し付ける。「銃撃戦になった際に肉盾として使え」の意だ。人類愛にあふれた者はそれを非道と謗るだろうが、少年には知ったこっちゃなかった。そのまま、残った一人の頭をポンポンと撫で、上げている手にリモコンを握らせた。
「ここでええこにテレビ見てなはれ」
「……、」
ジェラードはその様子を見つつ――押し付けられた『肉壁』とリモコンを握らされたギャングを、手近なカーテンを千切って拘束してから――先程の言葉に嘘がないか、ギャングの様子を注視した。
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<心理学>で、相手が嘘を吐いてないか確認。
ジェラード・ベリー : 1d100<=92 > 39 > 成功(達成値12+<心理学>スキルレベル2=15)
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「おい、この家に対してその人数は流石に少なくねえか? 台所に行った途端に囲まれる、なんてのはゴメンだぜ」
嘘ついてんなぁと思いつつの言葉に、ギャングは青い顔で俯いて何も答えない。
一方のサクラは、食堂へ続くドアに耳を寄せていた。
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花園 サクラ : 1d100<=86 > 44 > 成功(達成値8+<感知>スキルレベル2=10)
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「3人以上はいるな……まあ問題ないよ」
一人はリーダーか? メシでも食いに来てたのか、まあ問題はない。
「……テレビ見たりくつろいでるような空間に、わざわざドア開けたらドカンなトラップもしかけるとは思えんなあ……大胆に突入してもええんちゃうかと俺は思うが?」
単独行動がよろしくないのは理解している。サクラは指揮官であるジェラードへ振り返った。ついでに、拘束されているギャングへ「ヘイ兄弟、お友達にボマーは?」と尋ねる。彼らは首を横に振った。
「流石にこんなとこにゃつけてないだろうな。開けても問題はなさそうだが……できるか? 俺たちは二人だぞ」
ジェラードが懸念げに言う。しかしサクラは何の遠慮もなしに、靴先で食堂へのドアを行儀悪くノックした。
「二人やなあ でも俺が何のためにアホほど銃を持ってると思う?」
どんどんどん。終わらないノックに、ドアの向こうで苛立たし気な足音が聞こえた。
「うるせえ! 開いてんだよテメエで開けろ!」
ギャングの怒声と共に、乱暴にドアが開けられる――男を出迎えたのは、銃を持ったサクラの凶悪な笑みである。
「ジャーーーーン! サプラ~イズ」
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戦闘になる。
●戦術チェック
ダブクロでいうセットアッププロセス。
①戦術判定
本来なら、どちらが先手か<戦術>の対決で決めるのだが、今回は不意打ち状態なのでスキップ。
PC達から先に行動可能。
②イニシアチブ確認
エネミーサイドが、サクラの奇襲に反応できるか<状況把握>。
ギャングA : 1d100<=30 状況把握 > 69 > 失敗
ギャングB : 1d100<=34 状況把握 > 13 > 成功(達成値4+SL)
ギャングC : 1d100<=30 状況把握 > 58 > 失敗
<状況把握>に成功したギャングBだけがこのラウンドで行動可能。ただしイニシアチブ(行動順)は一番最後。
失敗したギャングは、回避行動含めていかなる行動もできない。
●行動チェック
サクラから行動。
花園 サクラ : 【ガンアクション-活劇】行動チェック/対象:自身/持続:瞬間/通常の「行動」に加えて、1回だけ「射撃」を行える。1回の「行動チェック」に1回しか使用できない。
①移動宣言
室内に入らないと全員を狙えないので、目の前の相手を<運動>ですり抜けられるか判定。
対し、ドア前のギャングAは<運動>で通せん坊を試みる。
花園 サクラ : 1d100<=98 > 37 > 成功(達成値10+SL3=13)
ギャングA : 1d100<=3 > 45 > 失敗
すり抜け成功、サクラは『慎重移動』で部屋の真ん中へ。
②行動宣言
「射撃」を宣言。
右手の拳銃で、先程の<状況把握>に成功したギャングBを狙う。
銃を両手で扱うのではなく、片手で持って撃つ場合、-20%の補正がかかる。
更に、利き手でない方の手で撃つ場合、更に-20%の補正がかかる。
詳細はルルブP147記載。
だがしかし……
花園 サクラ : 【逆腕訓練-オフハンドトレーニング】-/自身/常時/逆手によるマイナス修正を受けない。
サクラはこのアーツを持っているので、「利き手でない方の手で撃つ場合、更に-20%の補正がかかる」を無視できる。
これでサクラの射撃補正は-20%だけ、だが
花園 サクラ : 【シュアショット-正確な射撃】ロール前/対象:自身/持続:1ラウンド/<狙撃>以外の<射撃系>成功率+20%。
これの宣言によって、補正は±0%になる。
サクラの使用武器『H&K P46 UCP』の射撃モードは『セミ』。1ラウンドに3回射撃できる。
花園 サクラ : 1d100<=98 一射目 > 72 > 成功(達成値9+SL3)
花園 サクラ : 1d100<=98 二射目 > 64 > 成功(達成値10+SL3)
花園 サクラ : 1d100<=98 三射目 > 21 > 成功(達成値3+SL3)
弾薬消費。
system : [ 花園サクラ ] 右H&K P46 UCP : 20 → 17
命中したら、貫通判定。
サクラの使用武器『H&K P46 UCP』の貫通力は「+3」。
ここに、達成値を足した数字が最終的な貫通力になる。
同じ対象に複数回射撃した場合、一つでも貫通成功したら貫通扱いになる。
ので、一番高い達成値を確認……10+<ハンドガン>Lv3=13、ここに武器の貫通力を+3、最終的な貫通力は「16」。
ギャングBの装甲は10。10以上の数値なので、貫通成功。
ダメージ算出。
貫通に成功したので、「貫通ダメージ」でダメージ算出できる。
『H&K P46 UCP』の「貫通ダメージ」は「2d6+2」。
3発命中したので、更に「+2d6」のダメージボーナス。
花園 サクラ : 2d6+2+2d6 > 11[6,5]+2+10[6,4] > 23
ギャングBの防御値は0なので、23ダメージをそのまま食らう。
10ダメージ以上受けたので、「射撃ダメージペナルティ表」のロールを行うのだが……それを行うまでもなくギャングBの耐久力がマイナスになったので、割愛。
ギャングBがダウンする。
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ドアを開けたギャングの目の前から、サクラが消えた。
……ではない、彼の脚の間をスライディングで潜り抜けて、その背後、大きなテーブルの上へと跳び上がっていたのだ。
空中へと跳ぶサクラの迅速を、ドアを開けたギャング、そして室内の一人は追いきれない。だが、たった一人だけ、サクラの奇襲に対し狼狽しつつもホルスターへ手を伸ばしている者がいた。
――その行動を、空中のサクラは見逃していない。少年の右目、右手、将星が一直線で繋がり、終点に件のギャングを結ぶ。
立て続けの銃声、が鳴り終わると共にテーブルへ着地。その時にはもう、左手の『死』が目を見開くしかできないギャングを睨んでいて。
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サクラは左手の拳銃でギャングCを狙う。
処理は上記同様。【シュアショット】は1ラウンド継続なので、まだ有効。
花園 サクラ : 1d100<=98 > 5 > 成功(達成値5+SL3)
花園 サクラ : 1d100<=98 > 93 > 成功(達成値12+SL3)
花園 サクラ : 1d100<=98 > 87 > 成功(達成値15+SL3)
system : [ 花園サクラ ] 左H&K P46 UCP : 20 → 17
最大貫通力は、達成値15+<ハンドガン>スキルレベル3+武器貫通力3=21。
貫通成功、ダメージ算出。
花園 サクラ : 2d6+2+2d6 > 11[6,5]+2+5[4,1] > 18
防御0なので、そのまま18ダメージ。
10ダメ以上なので、相手側に射撃ダメージペナルティ発生。
射撃ダメージペナルティ表は、攻撃したキャラクターがロールする。
花園 サクラ : sdpt 射撃ダメージペナルティー表[15] > [ショック]-10%
[ショック]→次に行う成功判定に、指定されたマイナス修正。
system : [ ギャングC ] HP : 22 → 4
アーツ【ガンアクション】によって、サクラは追加で「射撃」が行える。
再び、右手の拳銃で攻撃を行う。
1射目は手負いのギャングCへ、2~3射目はギャングAへ。
この際、一度の射撃で複数の目標を狙うため、二人目の目標を狙うの射撃には-10%の補正がかかる。
花園 サクラ : 1d100<=98 1発目:ギャングC > 7 > 成功(達成値7+SL)
花園 サクラ : 1d100<=98-10 2発目:ギャングA (1D100<=88) > 16 > 成功(達成値7+SL)
花園 サクラ : 1d100<=88 3発目:ギャングA (1D100<=88) > 13 > 成功(達成値4+SL)
system : [ 花園サクラ ] 右H&K P46 UCP : 17 → 14
ギャングCへのダメージ算出。
貫通成功、1発命中なので、複数回命中のダメージボーナスはない。
花園 サクラ : 2d6+2 > 7[4,3]+2 > 9
ギャングCがダウンする。
続けてギャングAへのダメージ算出。
貫通成功、2発命中なので、ダメージ+1d6。
花園 サクラ : 2d6+2+1d6 > 11[5,6]+2+3[3] > 16
花園 サクラ : 射撃ダメージペナルティー表[14] > [ショック]-20%
更に左手の拳銃による射撃。
残ったギャングAを狙う。
花園 サクラ : 1d100<=98 > 18 > 成功(達成値9+SL)
花園 サクラ : 1d100<=98 > 74 > 成功(達成値11+SL)
花園 サクラ : 1d100<=98 > 77 > 成功(達成値14+SL)
system : [ 花園サクラ ] 左H&K P46 UCP : 17 → 14
花園 サクラ : 2d6+2+2d6 > 10[4,6]+2+11[5,6] > 23
射撃ペナ表をするまでもなく死。
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壮絶な乱射、立て続けの銃声。弾丸は残酷なほど精確に、人体の傷ついてはならない場所を食い破る。
助けを呼ぶ間も、命乞いをする間も、銃を抜く間すらもなく――食堂の照明が明々と、倒れた三つの死体と、その静寂を照らしていた。
「一人で行ったな」「流石に死んだだろ」、居間の『人質』らがほくそ笑む。だが……
「……ボスにしちゃあ貧相な装備やなあ おい オ~~~~イオイオイオイおまえ~~~~嘘吐いたんか?」
サクラは普通に戻ってきた。それも無傷で。時間で言うと1分も満たない『瞬く間』に。
「なっ……」
「嘘だろ⁉」
驚愕するギャング――それにズカズカ歩み寄ると、サクラはなんの躊躇もなしに、拳銃の銃床で一人の小指を殴りつけた。
「次裏切ったら殺すからな 身の振り方よう考えな。俺は別に条例だのなんだのどうでもええねん、人道とか神様とか興味ないねん、目撃者が死ねば完全犯罪やからな」
怯えるギャングに凄むサクラを見て……傍らのジェラードは「ガラ悪ィなぁ」と肩を竦めた。
(……とはいえ……囲まれた上で無傷、瞬殺か……)
いかにこれが現実で起きたことではない『仮想空間上の訓練』とはいえ。内心、ジェラードは驚かされていた。
「で? 本当のこと話してもらおか」
一方でサクラが人質へそう言った、直後のことだ……
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他の場所にいたギャングが、戦闘の物音に気付いたかどうかの判定。
GM : 1d100<=45 感知 > 53 > 失敗
GM : 1d100<=30 感知 > 22 > 成功(達成値4+SL)
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ドタドタと、慌ただしい足音が二階から聞こえてくる。それから、廊下と階段の向こうからもだ。
「どっちがおまえらのボスや?」
サクラが睨むと、「 上です、上にいました!」と人質は嘆願するように早口で言った。サクラは舌打ちをしてからソイツの股座を蹴り上げて無力化させると、二階にいるらしいリーダーに逃げられぬよう階段へ駆ける。
「いくぞジェリー!」
「おう」
――かくして。
ガンドッグ達が階段を登り切ったところ、二階の廊下にて、彼らはギャングのボスとその配下一人と遭遇する。
「食堂のパーティーならもう終わったよ、みんな寝とるよ 床で冷たくスヤスヤとなあ~」
行く手を阻むように立ちふさがりつつ、剣呑な目のサクラがギャング達を睨む。
「投降するかここで死ぬか選ぶか?」
その言葉に――配下の方は「ボス、やめときましょうよ」と及び腰だが、当のリーダーは「馬鹿野郎、まだやれんだろうが」とショットガンを構えている。
殺していい敵だ。そう認識した途端、サクラは歯列を剥くように口角をつるのだ。
「ハハハ! ほな仲良くあの世に送ったるわブタ共がよ」
「馬鹿、逆効果だっての。脅してどうする」
と、今にも引き金を引かんとしたサクラを制したのはジェラードだった。
「あ~~?」
盛り上がったところに水を差されて、いかにも不快ですといった顔でサクラがジェラードを見やる。
「言うこと聞かないのは叩けば言うこと聞くんだよ 人間も動物も一緒やろ」
「……お前……」
スラム育ちと聞いているが、その生々しい片鱗を垣間見た気がして……ジェラードの眼差しに幾らかの憐みがにじんだ。それにサクラが目元をぴくりとさせる。
「なんやその目は? 俺なんか間違ってます~?」
「……いや、今はいい。まあ代われ」
「チッ」
わざとらしく頬を膨らませ、サクラは口を噤んだ。
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<交渉術>で投降を呼びかける。
ジェラード・ベリー : 1d100<=82 > 16 > 成功(達成値7+SL1=8)
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「このガキが言った通り、下にいる人間はほとんど制圧した。お前らも死にたくねぇだろ。この馬鹿はすでに殺る気満々だが、別に魂を積極的に獲りてぇわけじゃあねえ」
一触即発の空気の中、ジェラードの声が凛と響く。
「大人しく投降すれば、命と身の安全の保障はする。武器を投げろ」
口調こそ荒っぽいが、彼の言葉は――少なくとも配下の心には届いたようだ。怯え震える配下が武器を投げ、頭の後ろで手を組み膝を突く。
(ガキだのバカだのコイツ~~~~ ちゅうか制圧やのうて『殺害』でエエやろビビらしたれや)
サクラはそうは思うも、言葉だけで相手の一人を無力化してみせたジェラードの手腕には感嘆を覚える。
「……ペンは剣より強しってか? チッ……」
とは、いえ。ジェラードの言動が正しい=自分の行動が間違っている、と突き付けられたような気がして、そこはちょっと気に食わない。
「まあ ええわ」
この鬱憤は暴力で晴らすしかあるまいよ。サクラは一人になったリーダーを見据える。
「マトが分散しなくなってラッキ~~~~! ね、右手のP46ちゃん! 左手のP46ちゃん! ピー!(裏声)」
そんな小芝居を挟みつつも。
「おいネゴシエーター! その弁舌で下のやつも教化したれや! ……コイツは俺の獲物や 愉しもうやあ!」
下の階にまだいるのだろう相手は任せて――サクラは目の前の相手に銃口を向けるのだ。
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戦闘となる。
●戦術チェック
互いのチームのリーダーが<戦術>で対決、勝利した側から行動。
リーダー : 1d100<=58 (1D100<=58) > 10 > クリティカル(達成値20+SL)
ジェラード・ベリー : 1d100<=77 (1D100<=77) > 22 > 成功(達成値4+SL)
クリティカルしたので、エネミーから行動。
ジェラードはアーツ宣言。
ジェラード・ベリー : 【カバーフォーメーション-防御陣形】戦術チェック/効果参照/1ラウンド/チームのメンバーに対する攻撃の命中率に-10%
リーダーの手番。
慎重移動の後、ショットガンでサクラを攻撃。
花園 サクラ : 【バレットバレエ-血と硝煙のダンス】いつでも/対象:自身/持続:1ラウンド/自身を対象とする攻撃の命中率に「<運動>or<状況把握>の成功率/10(端数切捨て)*5」%のマイナス修正を得る「45%」。更に「回避行動」に同じ%のプラス修正を得る。<運動>or<状況把握>にマイナス修正が入る防具を着用している場合は使用できない。
これと【カバーフォーメーション】で、補正は-55%。
リーダー : 1d100<=65-55 (1D100<=10) > 63 > 失敗
リーダー : 1d100<=65-55 (1D100<=10) > 31 > 失敗
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「死にやがれぇッ!」
よほど気が立っていたらしい。あるいは窮地に追い詰められたがゆえか、先に引き金に指を乗せたのはギャングのリーダーだった。
(相手はショットガン、近いほど散弾範囲は狭い――)
目まぐるしい刹那の中、ジェラードは瞬時に思考し、銃口の先にいるサクラへ声を張った。
「退くな進め!」
簡潔に。こいつの身体能力ならできるはずだと判断して。
直後だ。バムッ、と破裂音に似た音と共に無数の散弾が放たれる。室内における散弾の面攻撃は、回避なんて絶望的な代物だが――
サクラは跳んだ。廊下の壁へ、そして更にそこを蹴り、指示通り『前』へ、人間離れした回避をしてみせる。
そも、銃弾は『回避』などできない代物である。超高速の――それも散弾を――しかし、少年はかわしてみせたのだ。銃口を見て弾道を予測して、その予測を実現する身体能力を以て。
「おい! 無事か?」
ショットガンの銃声と抉られる壁の衝撃に、思わず身を屈めたジェラードはサクラへ呼びかける。少年は階段の細い手すりに着地していた。
「見たら分かるやろ無傷や」
簡易にそう言って、そのまま下の、新手のギャングを睥睨する。
「おまえも死ぬか? あ~~~~?」
その挑発に乗せられて、新手のギャングがサブマシンガンを向けるのだ。
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ギャングD : 1d100<=46-55 (1D100<=-9) > 66 > 失敗
ギャングD : 1d100<=46-55 (1D100<=-9) > 29 > 失敗
ギャングD : 1d100<=46-55 (1D100<=-9) > 90 > 失敗
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ぱらららららら。
乾いた銃声と共に、サクラの立つ階段の手すりが抉り削られていく。木片が飛び散る。
サクラはそんなランウェイを無傷のまま駆け――反撃に出るのだ。
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サクラの手番。
ジェラード・ベリー : 【サムズアップ-激励】いつでも/単体(他人)/瞬間/使用済みクラスアーツを再使用できるようにする
花園 サクラ : 【ガンアクション-活劇】行動チェック/対象:自身/持続:瞬間/通常の「行動」に加えて、1回だけ「射撃」を行える。1回の「行動チェック」に1回しか使用できない。
【シュアショット】は使用済みなので、-20%補正のまま、目の前のリーダーへ右手の拳銃で攻撃。
花園 サクラ : 1d100<=98-20 (1D100<=78) > 86 > 失敗
花園 サクラ : 1d100<=98-20 (1D100<=78) > 6 > 成功(達成値6+SL)
花園 サクラ : 1d100<=98-20 (1D100<=78) > 58 > 成功(達成値13+SL)
system : [ 花園サクラ ] 右H&K P46 UCP : 14 → 11
貫通成功
花園 サクラ : 2d6+2+1d6 > 10[5,5]+2+2[2] > 14
花園 サクラ :射撃ダメージペナルティー表[12] > [追加D]1D6/[軽傷]-20%
花園 サクラ : 1d6 > 1
リーダーに15点ダメージ。
[軽傷]→成功判定に、指定されたマイナス修正。
続けて左手の拳銃でリーダー狙い。
花園 サクラ : 1d100<=98-20 ボスへ (1D100<=78) > 64 > 成功(達成値10+SL)
花園 サクラ : 1d100<=98-20 (1D100<=78) > 53 > 成功(達成値8+SL)
花園 サクラ : 1d100<=98-20 (1D100<=78) > 82 > 失敗
system : [ 花園サクラ ] 左H&K P46 UCP : 14 → 11
花園 サクラ : 2D6+2+1D6 > 7[3,4]+2+3[3] > 12
花園 サクラ : 射撃ダメージペナルティー表[8] > [追加D]2D6/[軽傷]-20%/[朦朧判定]8
花園 サクラ : 2d6 > 6[5,1] > 6
リーダーに18点ダメージ。
リーダーがダウン。
【ガンアクション】で引き続きサクラの手番。
移動は射撃前、中、後の任意タイミングでOKなので、慎重移動でギャングDの前へ。
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「弾っちゅうんはなぁ こう当てるんやッ!」
向ける二つの銃口が、立て続けに火を吐く。狙われ続ける激動の中、2発は逸れるが、4発。人体を貫いたそれは、敵対者から無慈悲に命の熱を奪う。
リーダーが真後ろへ倒れ行くのを尻目に、サクラはひらりと――下の階へ飛び降りる。新手のギャングの眼前に、「Howdy!」と笑って現れる。
「そいつで仕舞だ。やれ!」
その背にジェラードが鼓舞の言葉を飛ばす。「そいつで仕舞」と言ったが、実際のところは推定だ。だが――「今はそう言った方がコイツの士気は高まるだろう」、コマンダーは目の前の兵士をこれまでの言動からそう判断したのだ。
かくしてジェラードの見込み通り、それはサクラの戦意をよりよく煽り立てる。
「オーケー、ははは――死にな!」
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花園 サクラ : 1d100<=98-20 (1D100<=78) > 22 > 成功(達成値4+SL)
花園 サクラ : 1d100<=98-20 (1D100<=78) > 73 > 成功(達成値10+SL)
花園 サクラ : 1d100<=98-20 (1D100<=78) > 59 > 成功(達成値14+SL)
system : [ 花園サクラ ] 右H&K P46 UCP : 11 → 8
花園 サクラ : 2d6+2+2d6 > 5[1,4]+2+9[4,5] > 16
花園 サクラ : 射撃ダメージペナルティー表[6] > [追加D]2D6/[軽傷]-20%/[朦朧判定]11
花園 サクラ : 2d6 > 6[3,3] > 6
ギャングDに22ダメージ。
ギャングDはダウン。
敵が全滅したので戦闘終了。
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眼前、突きつける右手の拳銃。
ヒュ、とギャングの喉がひきつった、次の瞬間だ。
ぱんぱんぱん、至近距離の発砲がギャングを撃ち抜き……崩れ落ちるそいつは、そのままズルズルと、階段から落ちて行った。
「よう先生、おまえの分の獲物も食うてもうたわ すまんすまん」
床まで血を曳いて落ちて行った標的を見下ろし、サクラが悪気も皆無に笑う。
「獲物……いや、いい。気にしてねえ」
サブマシンガンを下ろし、ジェラードは小さく息を吐いた。
サクラも顔を上げ、辺りを見回す。
「さて と 流石に全滅させたかな?」
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<感知>を行う
花園 サクラ : 1d100<=86 > 95 > 失敗
ジェラード・ベリー : 1d100<=43 > 76 > 失敗
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「……」
サクラは耳を澄ませた、が、銃撃戦の直後で鼓膜がキンとしている。顔をしかめて、耳をトントンと叩いた。
その様子に、ジェラードがサクラの方を見る。
「どうした」
「ん パーティが楽しすぎただけ」
「……お、おお。そうか……どこか変なら言えよ。お前がいないと誰か残ってたとき困るからな」
「平気や、かすり傷もないやろ?」
「……ねぇな」
「ふふん!」
得意気に顎をもたげるサクラ。「 得意げにしてらぁ、ガキだな……」とジェラードは心の中で呟いた。
「さてと」
サクラが窓をちらと見る。逃げていくギャングの生き残りの背中が見えた。今回のミッションはあくまでもこの建物の制圧なので、奴を追いかけて背中を撃つまではしなくてよさそうだ。
「制圧完了……やな」
「そうだな。お前一人でもどうにかなったんじゃねえか?」
出番のなかったサブマシンガンを携えたまま、ジェラードが冗談っぽく肩を竦めてみせる。
「……――」
振り返るサクラは――視線の流れの中、降参してうずくまっているままのギャングを一瞥し――ジェラードの榛色の目を見た。思い返すのは彼の戦闘中の指示や、敵を投降させた時のこと。
――降参した奴も戦闘に参加してたら、もうちょっと戦いが長引いてたかも。
――ジェラードの指示がなければ、ここまで早く倒せなかったかも。手傷を負ってたかも。
――ていうかそもそも、最初のドア開けないといけない時点で……自分一人なら窓ぶっ壊すしかなくて、そうすれば居間にいた連中を戦わず無力化もできなかったワケで……。
なので。
「……さあ? どうかな」
ふ、と笑って。サクラはゆっくりと階段を降り始めた。
「ン?」
思ってたのと違う反応に、ジェラードは片眉を上げた。てっきり――「せやろがい! まあ、せーぜー俺に感謝するんやな」だの、得意げにドヤドヤ胸を張るかと思いきや。
(……まあいいか)
傾げた首を元に戻し、ジェラードも仲間に続く。そうして隣り合ったら、サクラの目がジェラードへ向いた。
「まあ感謝はしとるよ、これからもよろしく」
「お? おう……よろしく」
とは、いえ。
(次の訓練とか実戦は、違う奴と組みてえな……)
腕は確かだ、認めよう。だがサクラの異様な攻撃性、訓練中とはいえナメた態度……彼と仕事をすれば気苦労するのは目に見えていた……。
かくしてガンドッグ達は玄関から出ると、VRゴーグルを取って訓練を終了したのであった。
『了』