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    練習会後の議事録

    #銃犬

    訓練後、任務前 ●

    「ついてくんなよ」
    「ホテルこっちやねんもん」

     訓練が終わり、デブリーフィングも終わり。
     朝っぱらから苛め抜かれたくたくたの身体を携えて、ジェラードは帰路を行く。ありふれたアメリカの街の風景。いつもの光景。一つだけ異質なのは――隣に『新入り』の日本人のガキがいることで。
     なんとなく、訓練を通して懐かれたなという気配はするが……ここまでじゃれついてくるとは思わなかった。
    「自分、どこ出身~? 前はどこでメディックしてたん~? 戦地どゆとこ行ってた~? てか彼女おる~? どこ住み~?」
     馴れ馴れしく、さも当然の顔をして、隣のサクラが首を傾けジェリーの顔を覗き込む。好奇心に満ちた黒い瞳。転校生が来た時の学生かよと思いつつ、ジェリーは隠しもせず溜息を吐いた。
    「WDC。米軍。国内で戦う方が多い。彼女はいない。住処はこの辺」
     質問責めに簡潔なアンサー。素っ気ないんだか律儀なんだか。
    「へえ〜そうなんやぁ。あ! なあなあ、連絡先教えてや。仕事仲間なんやしええやろ?」
     言葉終わりには――サクラの手が、ジェラードのポケットから勝手にスマホを取り出しており。
    「あッ、おい!」
    「これロック解除してや」
    「このガキッ……」
     スマホを奪い返す。サクラがすでに自分のスマホを出して待機している。教えてくれるんやろ連絡先を、という目で見ている。……同僚と連絡先を交換することを敢えて拒否するメリットなどないのは事実で。ジェラードは手玉に取られている感覚に頭を掻きたい気持ちになりつつ、渋々スマホのロックを解除した。視界の端で、「へへ」と目を細く笑う少年が見えた。

    「――それで、」
     アドレス帳に登録された『Sakura Hanazono』を見下ろして、スマホを切ってポケットに仕舞いつつ、ジェラードは問う。
    「質問ばっかりしやがって、そういうおまえはどうなんだ」
     このまま放っておくと延々と個人情報をぶっこ抜かれそうなので、サクラに自らのことを話させようという魂胆だ。「ああ」とジェラード同様にスマホをしまうサクラが答える。ギャングのように肩で風を切りながら――身の上話。ナイトメアストームのせいでストリートチルドレンだったこと。海外の傭兵隊に転がり込んだこと。人生の半分近くをソルジャーとして生きてきたこと。最近は日本のハイスクールに通っていること。子供が独りで大金を稼ぐのはなかなか厳しいこと。
    「ふうん、大変だったんだな」
     人によっては、ここでサクラに同情してあれやこれやと世話を焼きたくなるのだろう。ジェラードはそう思いつつ、しかし過度に憐憫をすることも無関心を徹すでもなく、シンプルに返した。
    「せやねん、大変やってん」
     サクラの物言いや顔に悲観や卑屈もなく。ただあっけらかんと、そして無邪気に、少年は笑っていた。
    「せやから一緒にごはん食べよ? 俺、いっつもメシ一人やねんもん」
     続いた眼差しと声音には――甘えるようなニュアンスが含まれていて。ジェラードは瞬き一つ分の間の後、問いかけた。
    「……財布持ってんのか?」
    「目の間におるよ」
    「は?」
     黒い――よくよく見ると黒壇色の――瞳に映っているのは、紛れもなくジェラードである。深い彫りの奥のヘーゼル色を見つめている。
    「ガキ、まさか金持ってねえのか?」
    「持ってへんねん、出して♡」
     ニコリ、じゃれつく物言い。退く気が一切なさそうで――食い下がられたらメチャクチャ面倒臭くなる気配がして――ジェラードは天を仰いだ。
    「……クソガキめ……」

     ●

    「アメリカのバーガーデカくて最高!」
     選んだ店は安いダイナー。テーブル席で、ジェラードの正面、サクラが嬉しそ〜にデカいハンバーガーをもっふもっふ頬張っている。年齢相応……いや少し幼い印象の、心からの『嬉しい』の笑みだ。口元にケチャップもつけて、ハミ出たピクルスを咥えて引っ張り出してポリポリ食べている。
    (食べてるところだけはちゃんと普通のガキなのになあ……)
     一言喋ればクソガキなんだよなあ。バーガーを頬張りつつジェラードは物思う。脳裏をよぎるのはつい数時間前のVR訓練内での、ギャングのような荒い振る舞いをする姿で。
    「なあ、ジェリー」
     親指で拭ったケチャップを舐め取りつつ、サクラがジェラードを見る。おねだりのニュアンス――身構える男の予想通り、続く言葉は『おねだり』で。
    「明日も一緒にごはん食べよ?」
    「奢らねえからな」
    「ははは! せやろなあ」
     明日は財布持ってくるよ。サクラはそう言って笑った。
     次の日、サクラはしれっと『財布を忘れて』きた。クソガキがよ。

     ――そして、その時のジェラードはまだ知らない。
     今後、サクラが「ホテル代節約したいから家泊めてえや」と彼のマンションにやって来ることを。

    「おまえ図々しそうだからヤダ」
    「イケズ言わんとってえや、なあ〜〜〜ええやろ~? 独りぼっちで寂しいねん……まさかガキ独りほっぽりだすんかぁ~?」
    「知るかよ他の奴に泊めてもらえよ」
     そんな攻防戦の果て、結局、他の同僚らも家庭があったり遠かったりで……ジェラードはサクラを泊める羽目になるのであった。
     それは運の尽きか、はたまた。


    『了』
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