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    エフェクト練習する侠太郎

    #さざれゆき又鬼奇譚

    青天の霹靂とか。 ●

     表向きカヴァーとしては、侠太郎は猟師として活動することにした。それにあたって、かつての愛銃は怨敵との決戦で崩れ落ちてしまったので、時代に見合ったライフルを用いる。
     関西人で、やけに若くて、しかし銃の腕がやたらめったら良くて、山と猟に関する知識も随一で――少々目立つ要素が強めだが、侠太郎は持ち前の愛嬌で地元の猟師コミュニティに問題なく馴染めていた。

    「八代くんは学生なのかい? 大学生?」
     これは物凄くよく聞かれる質問で。だが、侠太郎にとっては必勝パターンであった。
    「いえ、お恥ずかしながら小卒ですわぁ! ガキん頃に事故で大怪我してもうてえ……ちょっと学校どころやのうなったんですわ」
     家族も死んでしまい身寄りがないこと、後遺症でずっと苦労してきたこと、名医に出会って後遺症が治ったので、一念発起して関西の田舎から上京して、ずっと憧れだった父の稼業である猟師に……といった旨を感情たっぷりにドラマティックに語れば、大体の『年上』達は目頭を熱くして「大変だったんだなぁ」「そうかそうかぁ」「えらいなぁ、一緒に頑張ろうなぁ」と侠太郎の肩を叩いてくれた。特別かわいがってくれた。
     ――別に、嘘ではない。怪物や異能のことを伏せているだけだ。超常現象のことは赤裸々には語れない。『名医』についても、医学の心得がある彼は侠太郎からすれば名医だった。侠太郎は嘘は嫌いだが、『馬鹿正直』が時には良くないことを招くことは知っていた。
    「ところで――八代くん、苦労してないか? 住む場所とか……」
     今の話からすると、ボロい安アパートにでも住んでいるんじゃないかと推測される。ので、侠太郎はいつもこう答えている。
    「恩人の先生ぇがいはるんですわ! そん人んとこでお世話なってます!」

     ――さて、今日も『恩人の先生ぇ』のお家に帰宅する。
     車を停めて(免許を取ったのだ!)、ガンケースに収めた猟銃を担いで――帽子のひさしを少しもたげ顔を上げれば、古めかしい邸宅が見える。かつて旧華族の別荘だったものが持ち主の没落と共に払い下げられ、買い取った医師が病院にして……そこから『なんやかんや』あって、今は侠太郎達の住処となっている。
     今となっては懐かしい。初めてここに案内された時――当初は――あんまり世話になりすぎるのもなと遠慮して、彼の家の居候になるのは自分の住む家を見つける間だけ、と思っていたのだが。いざこの邸宅に連れてこられたら、そらもう、こう言ってしまったものだ。
    「……俺ここに住むぅう〜〜〜〜」
     だって、ええやん、夢の大豪邸やん。憧れやん。住みたいやん。ブルジョワやん。
     とまあそんなこんなで、追い出されることなく現在進行系でここでの暮らしが続いている。
     腕時計を見た。公衆電話で「帰る」と告げた予定時刻ピッタリだった。居候である以上、帰宅する時はいつも必ず連絡を入れていた。
    「ただーいまー! 帰ったでぇ〜!」
     瀟洒なドアを開ける。声を弾ませる。「ああ」、と姿や出迎えはないが声は聞こえた。音を『見る』に、机で何か書き仕事でもしているようだ。
     そのまま侠太郎は荷物を片付け、シャワーを浴びて、ラフなシャツ姿に着替えて。夕飯にはまだ少し早いが、少しお腹が空いていた。
    「伊緒兵衛〜おなかすいた~ なあなあオヤツにしょうや、自分もぼちぼち休憩しはったら?」
     ので、彼が作業をしていた部屋に顔を出して呼びかける。執務机に落とされていた青い瞳が、ふっと前を向いた。背景の大窓に、その髪が黄金色の輪郭線に透けて煌めいている。
    「そうですね。何が食べたいですか?」
    「……」
    「侠太郎さん?」
    「自分ほんま綺麗ぇな色してはるねぇ」
    「……質問の答えは?」
    「なんか甘いのん、海外の」
    「ドーナツでも?」
    「うん! ドーナツ好きぃ♡」
    「飲み物は」
    「う〜ん……なんしよ……あの……珈琲にあいすくりん浮かべてたやつ!」
     手近なカウチソファに腰を下ろす、傍のローテーブルに『ご注文の品』が魔法のように現れる。アーモンドスライスがまぶされたシンプルなドーナツと、バニラアイスが浮かんだ濃いめの熱い珈琲。
    「おおきにのう〜! ほないただきまーす」

     そうしてのんびりまったりオヤツを食べながら、侠太郎は今日のことを話して。(伊緒兵衛は「へえ」とか「そうですか」とか相槌を打っていた)
     食べ終わったら、「ちょっとお外で遊んでくるわ」と庭に出た。

     ――あのさざれ雪の決戦の日から。
     たくさんのことが変わった。
     視力が戻り、目に異能が宿り、愛銃が無くなり、右手には釘と砂鉄ではなくワイヤー仕込みの義指が取り付けられている。ワイヤーを磁力操作で動かすことで、細かい作業はできないが物を掴むぐらいには動かせる。
     そして、伊緒兵衛から「力を使いすぎるな」と言い聞かされたことで、異能にも変化が生まれた。自分の体と侵蝕に負荷をかけすぎる身を削るほど攻撃的なものから、火力は落ちるが安定的な異能になった。
    「ふー……」
     切り株の上に空き缶を置いて、離れて、目を閉じて、呼吸を一つ。
     風が吹く。取り巻くように。狂おしい音を奏でる。その音が、侠太郎の鼓動を強く激しく脈打たせる。かくして見開く瞳は鮮血の色。そこに灯り輝く光は列を成し、狩人オリオンの座を成した。
     手袋を外して――左の指先を空き缶へピッと向ける。細胞が発する生体電気を指先に集めるイメージ、コントロール。バチバチと火花が漏れ、まとう電気に髪も逆立つ。
     そして、放った。落雷のような、爆発音のような、大気を震わせる音。視界を染める稲光。放たれた一条の稲妻は――空き缶どころか土台の切り株まで木端にしていた。
    「いっ……つつつ」
     侠太郎は顔をしかめて左手を振る。火力は申し分ないが、まだ出力の調整が上手くいかず、左手の指がビリビリと痺れていた。これでは二発三発と撃てない、よろしくない。
    (もうちょっと……出力を絞って……左手やのうて右手にするかぁ? もともと利き手やったし……俺の利き目も右目やし……)
     今度は右手で。真っすぐ伸ばした己の腕を、かつて使い続けた村田銃に重ねる――そこに異能を込めたように、雷という弾丸を装填するイメージを込めて――一点集中、一点集中、と何度も心で繰り返し――……

     ●

     急に聞こえた雷鳴に、嵐でも来たかと窓を見るが、空はどこまでも快晴で。
     青天の霹靂とはまさにだな、と伊緒兵衛は内心で独り言ちた。雷の理由ならもう知っている、侠太郎だ。
     彼はここ最近、暇さえあれば異能の特訓をしている。「銃は使わないのか」と尋ねたら、「これからの時代で銃を持ち運ぶんは難儀やからのう」と侠太郎は言っていた。

     雷鳴は、しばらくゴロゴロと鳴り続けて――
     ほどなくのことであった。

    「ぎゃあッ」

     悲鳴。侠太郎の。流石に伊緒兵衛はギョッとする。弾かれたように立ち上がって窓を開けて身を乗り出していた。
    「おい! どうした侠太郎」
     呼びかければ――タハハーと苦笑いを浮かべた侠太郎が現れる。その両腕は、内から爆ぜたような裂傷だらけになっていた。ついでにシャツも裂けたのか上半身裸になっていた。
    「アハハ見て見てやらかした〜! ごめんやけど治してえ〜! うはははは」
    「笑ってる場合か……!」
     曰く、出力を絞る練習が上手くいかないので、気晴らしに逆に出力を絞らない方向でやってみたら――迸る稲妻に耐えきれず、腕が裂けたという。
    「……力を使いすぎるな、と」
    「分かっとるよお〜〜せやからどの辺から使いすぎになるんか確かめてたんよ〜〜ッあ゙づぁだだだ」
     庭の原っぱの上に座っている。伊緒兵衛の手がテキパキと治療をしていく――消毒液が沁みて侠太郎は呻いたが、自業自得だと言わんばかりの目で見られるので、「次から気ぃつけるもん」と口を尖らせた。
     消毒された傷には、予めストックされていた『人魚の血』が薄めて塗布される。大きな手が傷に重ねられた――聖書における聖人が成した奇跡のように、傷はたちまち癒やされる。
    「……自壊するぐらいなら、素直に銃を使えばどうだ?」
     治療の為の道具を片付けつつ、伊緒兵衛は溜息のように言った。別に目立つライフルでなくとも、小さな拳銃ぐらいならコッソリ携帯もできるだろうに。
    「いついかなる時でも戦えるようにしときたいんじゃ。このさき何があるか分からへん、いつでもおまえを護れるようにしときたいんじゃ」
    「……。よく言うよ」
    「よう言うやろ? なぜなら俺の名は――」
    「八代侠太郎。もう知ってる。知ってます」
     言葉を被せて立ち上がる。踵を返す。……侠太郎が肩を回しながらついてくる。
    「いや〜しかし毎度おおきになぁ伊緒兵衛、おかげさまでどこも痛ないわ! お礼に肩揉みでもしたろか」
    「……結構です」
    「なんや。なあ今日の晩ごはんなに?」
    「何がお望みで?」
    「満漢全席中華フルコース」
    「分かりました」


    『了』
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    DOODLE十三 暗殺お仕事
    初夏に呪われている ●

     初夏。
     日傘を差して、公園の片隅のベンチに座っている。真昼間の公園の賑やかさを遠巻きに眺めている。
     天使の外套を纏った今の十三は、他者からは子供を見守る母親の一人に見えているだろう。だが差している日傘は本物だ。日焼けしてしまうだろう、と天使が持たせてくれたのだ。ユニセックスなデザインは、変装をしていない姿でも別におかしくはなかった。だから、この日傘を今日はずっと差している。初夏とはいえ日射しは夏の気配を孕みはじめていた。

     子供達の幸せそうな笑顔。なんの気兼ねもなく笑ってはしゃいて大声を上げて走り回っている。きっと、殴られたことも蹴られたこともないんだろう。人格を否定されたことも、何日もマトモな餌を与えられなかったことも、目の前できょうだいが残虐に殺処分されたことも、変な薬を使われて体中が痛くなったことも、自分が吐いたゲロを枕に眠ったことも、……人を殺したことも。何もかも、ないんだろう。あんなに親に愛されて。祝福されて、望まれて、両親の愛のあるセックスの結果から生まれてきて。そして当たり前のように、普通の幸せの中で、普通に幸せに生きていくんだろう。世界の全ては自分の味方だと思いながら、自分を当然のように愛していきながら。
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