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    カナト

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    カナト

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    r 広く取られた窓から射し込む光はとても眩しい。
     薄暗い故郷とは全く違う、目を細めたくなるほどの眩さにも、流石にこの一年で慣れた。
     照明がなくとも手元が見やすいのはいいことだ。
     日常生活で魔法を使うことに慣れているのを誤魔化すのにも丁度いい。つまるところ、使わなくてもいい状況、というヤツだ。
     のどかで平和で虫唾が走る程。
     こんなに平和ボケしたイージーモードな世界だというのに、歴代の大魔王は誰も未だ侵攻を成功せしめていないのは何故なのか。
     皮肉に思いながら、手元のメモをぐしゃりと潰した。
     そのまま青い炎に包まれて、灰も残さず消え去ってしまう。
     視線をくれてやることもなく、持参していたゴシップ誌を広げた。
     良くも悪くも閉ざされた世界だ。外界からの情報は入りづらい。
     本来ならば、情報収集はキチンとした出処のものを精査するものだが、天邪鬼な性格からついゴシップ誌を取り寄せてしまう。
     今回の見出しは『盟友が闇堕ち!?』だった。
     なかなか突拍子もない見出しだったが、魔族と思しき者との交流が確認されただとか、異形の姿になったところを目撃されているだとか、そんなこと起こるのか? といった事柄が書き連ねてある。
     盟友をこよなく信頼する勇者姫の話では盟友は現在行方不明であり、その行方を捜しているとのことだが、派遣された兵士が一人だけであり捜す気がないだとか。
     果ては盟友殺害説まで触れている。大丈夫かこれ、勇者姫の逆鱗に触れて発禁処分にされないか。
     しかしながら、この場に出てきている単語には引っかかるものもあり、なかなか侮って見ることはできない。
     発想は飛躍しているが、あながち間違いでもないことも多い。事実は小説よりも奇なり、だ。
     ガラリと音がしたのも、人の近づく気配に気づかなかったのも、きっと全て紙面に釘付けだったからだ。そうに違いない。
    「リソルくんまぁたサボってるの〜?」
    「……センパイにだけは言われたくないんだけど?」
     平静を装って雑誌から顔を上げれば、なんだか疲れた様子の男子生徒の姿があった。
     学園の至る所が封印されていた昨年度と違い、今年度はキチンと授業がある。
     現在は授業中の時間帯だった。
    「いーのいーの。自由登校認められてるし」
     くぁと大口をあけて欠伸をしながら、何故かこちらのソファにごろりと寝転がる。
    「ちょっと! オレを枕にするとか千年は早いんだけど!」
     何故か膝の上に頭を乗せられ抗議の声をあげれば、眠そうに上下のまぶたがくっつきかけた顔を向けられた。実に情けなくブサイクだ。
     これでも伝説の転校生とやらで、願いの精霊が変化した姿、伝説級の破壊神を討伐した人物であるが、現在はその片鱗も見えやしない。
    「向こうが空いてるでしょ!」
    「向こうは陽があたるじゃん。こっちだと背もたれが影になるし」
     うだうだと駄々を捏ねて、ぎゅうと胴体にしがみつかれる。ああもう鬱陶しいな。
    「ハァ〜、移動するから退いてくれる?」
     仕方なく一人掛けのソファへ移ろうとするも、頑として動こうとしないのだから仕様もない。
     そこから揺すったりなんだりするも反応はなく、聞こえてきたのは規則正しい寝息だった。寝付きがいいな。
     深いため息をついて、仕方なく枕になってやる。
     ゼクレスの大貴族の膝枕なんて贅沢、身に余る光栄だと思うがいい。まあ、そうだって知らないんだろうけど。
     興味本位でくたびれた寝顔を覗き込む。
     目の下にはどす黒いクマが刻まれていて、頬もコケていた。
     学園に入った時点で制服に着替えたハズだから制服は綺麗だ。しかしからだにはまだ落としきれていない泥や返り血が残っている。
     一体何処で何をしてきたのやら。
     またひとつため息をついて、膝に乗せられた頭の上に手を置いた。
     らしくない感情に支配されて頭を撫でる。陽があたってぽかぽかと温かいが、それでも寝ていれば冷えるものだ。
     動くことは出来ないので、適当に掛布を魔法で手繰り寄せてかけてやる。全く、世話が焼けるリーダーだ。
     自然と口角が上がるのを感じながら、再び視線を紙面へと戻す。手は知らない間に動いていた。
     なんだか、こうしているのが当たり前だったような……まあいいか。
     絶対に他の人物なら許さなかったこと請け合いなことだけは確かだ。
     次のチャイムが鳴ればきっと目を覚ますだろう。それまでの、泡沫の平和な時間。
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