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    カナト

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    カナト

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    例のあの部屋 ナジーンは見知らぬ部屋にいた。確か、大魔王城を案内していたような記憶がある。しかし、部屋に見覚えは無い。
     その隣には案内されていた大魔王の少女が佇んでいる。少女も突然のことに少し戸惑っているようだ。
     元々トラブル吸引体質なところがある少女は、不思議そうな顔をしつつもあまり焦った様子は無い。
     二人の目の前にあるのは普通の扉だ。大魔王城の扉と同じように見えるが、どこか異質な雰囲気を感じた。
     ナジーンはとりあえず扉に手をかけようとして取っ手がないことに気づいた。押しても引いてもスライドさせてもビクともしない。まるで、この扉は飾りのようだった。
     少女はその間に部屋をしげしげと眺め、飾ってあったツボの中を覗き込んだりしている。冒険者気質が旺盛そうで何よりだ。
    「どうですか?」
    「無理そうだな」
     ひと通り色々試し、扉に体当たりもしたナジーンは、からだの痛みに顔をしかめる。
    「きみこそ何かあったか?」
    「いえ、普通にくつろぐ部屋ですよね。寝室って感じで」
     少女のその言葉の通り、ふかふかのソファに巨大なベッド。調度品も大魔王城のものと変わらないので、外に出られないだけで他の部屋とさして変わらない。
     少女はのんびりとソファに腰掛けて、いつの間にか自分で茶を淹れて飲んでいる。
     ナジーンもひとつため息をついてそれに倣い、共にソファに腰を落ち着けた。すかさず少女が茶を淹れる。
     温かい飲み物にほっと一息ついた時、ナジーンの瞳にとんでもない文言が映った。
     ぎょっとするナジーンを疑問に思った少女もつられて視線を辿る。
    「……えっちなことをしないと出られない部屋……?」
     扉の上の巨大な看板にはでかでかとそう書かれていた。
     ナジーンは思いっきり頭を抱えた。犯人はユシュカかはたまたネシャロットかまたはその他心当たりが多すぎる。
     少女とナジーンはいわゆる恋仲だ。今回は大魔王城の案内と称したデートだった。
     それを知っている誰か……または複数犯がこの部屋を作成したに違いない。
     少女はその表現の通りまだ幼い姿をしていて、ナジーンが手を出すのは躊躇われる年齢だった。
     故に、二人は清く正しいお付き合いで、ほとんど保護者と子どものような間柄だ。
     はぐれないように手を繋いだり、頬や額に口付けしたり、子どもにする程度のことまでしかしていない。
     これに焦れた誰かがお節介にもはっぱをかけたに違いない。
    「えっちなこと……」
     呆然と呟く少女をなんだと思っているのか。そしてナジーンがどれだけ我慢に我慢を重ねて鉄壁の理性で待っているというのか。
    「すぐに別の方法を試そう」
     ナジーンはすっくと立ち上がり、それこそ壁を蹴りつけたり、剣で斬りかかってみたり、魔法をぶつけてみたりと破壊行動をするも、壁には傷一つつかなかった。もちろんだが扉も無傷である。
     どこに技術力を使っているのか。襟首を掴んで小一時間問いただしたい。
    「あ、あの、ナジーンさん」
     それを眺めていただけの少女が、ついには床に崩れ落ちるように頭を抱えたナジーンに声をかける。
    「私、ナジーンさんなら……」
     頬を染める少女は堪らなくナジーンを煽ってくれた。やめて欲しい、紳士的な大人でいたいのだ。それでなくとも幼女趣味疑惑を抱かれるのは勘弁して欲しかった。
     普段ならこんこんと自分をもっと大事にするように説教するところだが、結局そういうことをしなければ出られる目処はたっていない。
     軽い軽食や水周りはあるようだが、ここに何日もというのは流石にいただけない。
     少女はソファから立ち上がり、ナジーンに近づいてぎゅうと抱きつく。そしてすりと顔を擦り付けた。
     少女はよくナジーンに甘える。彼女が甘える人物は非常に少ないので、ナジーンとしてはいつも役得だと思っていた。
     少女はからだを離してナジーンを見つめ、へにゃりと微笑む。
     その表情が可愛くて、ナジーンは小さな手を取り、己の指を絡ませた。
     細くて短い指は、大きくて太いナジーンの手にあっさりと包まれる。
     すりと反対の手でまろやかな頬を撫で、ナジーンは少女の耳元に唇を寄せた。
    「煽ったのはきみだ…………覚悟はできているか?」
     低く艷めく声で告げ、熱い吐息が耳朶を撫でる。そのまま唇を寄せて、ちゅっと口付けた瞬間、ガチャリと硬質な音がした。
     弾かれたように扉を見やれば、先程までびくともしなかった扉が開いている。開いて……いる……?
     ナジーンは絡めていた指を外し、埃をはらってから扉へと大股で向かっていった。
    「?」
     頭に疑問符を浮かべている少女を後目に、ナジーンは扉に手をかけて……閉めた。ついでにガチャリと硬質な音がした。
    「!?!?」
     何が起こったのか全く理解が追いつかない少女。くるりと振り返ったナジーンは、怖いくらいに笑顔を浮かべていた。
    「え、あ、あの、ナジーン……さん……?」
     真っ青な顔をして、少女はじりじりと後退る。
     とんと背中に何かが当たり、振り返るとそれはベッドで。

     その後、ナジーンは満足するまで少女にえっちなことを教え込んだのだった。からだに。
     なお、少女によると「ナジーンさんは存在そのものがえっちなのッ! 声とかもうえっちの塊なの! それを耳元で直接言われて……き、きき、きす(超小声)までされてそんなのえっちじゃんっ!!! ナジーンさんのえっちぃい!!! わぁぁああ!!!(発狂)」だそうだ。判定はガバガバだった。
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