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    Laugh_armor_mao

    @Laugh_armor_mao

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    Laugh_armor_mao

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    双子👟🦊の救いの無い話し
    友情出演 👹🦁

    不穏な表現があるのでパス掛けます。
    パスワード 18超えてますか?(yes/no)

    ルレベェの幸福「その痣どうしたの?」

     この街に住んでる以上、多少の傷は日常茶飯事だ。特に孤児院上がりの奴なんて、よっぽど頭が良くて院の推薦を受けられる一部の才能がある人間以外、肉体労働しか金を稼ぐ術は無い。

    「最近雇って貰った倉庫の整理、俺おっちょこちょいだから、転んで色んなトコにぶつけンの。その時のだと思うよ」

     アチコチ痛てぇ。と身体をさすりながら、心配そうに此方を見遣るタンザナイトの瞳に向かって笑いかけた。
     シュウ。俺の、片割れ。ずっと二人で生きてきた。俺とは違って、頭が良くて、ちょっと前からきちんとした就職先を凱旋して貰った。自慢の、兄。

    「無理をしないで。ミスタ」

     薄いドーンピンクのボサボサした前髪の間から覗く、アクアマリンの瞳の優しい弟は、少し頑張り過ぎてしまう。これからも二人で生きる為にも、僕が支えなければ。
     今日も満足にお湯も出ないアパルトマントの上階で、美しい双生児は抱き合って僅かな眠りに付いた。

    「酷い親戚も居たもんだよなぁ。兄の嫁の弟なんて、他人だろ?」

     日雇いの僅かな小銭で、明日のパンを買って帰る道すがら、ヤニで真っ黄色の歯を見せてニヤニヤ笑いながら、ソイツは俺に話し掛けて来た。
     身の丈に合わないスーツを着て、汚い話し方。ヤバイ。只の破落戸じゃない。このまま住処に帰る訳には行かないから、大人しく着いて行くしか無かった。

     識字率の低いこの国では、書類を代筆する仕事はとても割が良い。インクの香りが満ちたこの空間は落ち着いて居て、大きな窓からの採光は、埃をキラキラと光らせている。

    「シュウ君はとても覚えが良いね」

     ギッギッと椅子の軋む音と、不鮮明に掠れた声、ヌメリを持った水音。苦悶の表情を浮かべ、細められたタンザナイトの瞳は、ただ光を吸込むだけの虚ろな硝子玉と成っていた。
     スーツのズボンを膝まで下げて、無様に腰を振る男が醜い声を上げ、ブルりと震えると、やっと解放された足が床に付いた。
     院長から紹介されたこの事務所の就労条件。本来はミスタもメールボーイとしてどうか。と云う薄汚い打診をなんとか断り、今日もアミン化合物の臭いが撒き散らされた室内で小さなデスクに向かい、僅かに与えられた書類を整理した。

    「良く見りゃ綺麗な顔してやがる」

     最近空き家だった筈の建物は、噂が宛に成らない事を示している。壁紙も満足に貼られていない、漆喰が処々剥げて煉瓦が露出している部屋には、上等な黒い牛革のソファと、分厚い一枚板の机が置かれ、不穏当に浮いていた。
     入口に程近い場所には、後手に縛られた中年が安い椅子に縛られている。その首は有り得ない方向に向いていて、近付いて確かめるまでも無く、神の元に召されている事が伺えた。
     ミスタを誘導して来た男が、中年の前髪を無造作に掴んでぐい。と自分に向けて捻る。コイツを知っているか?の問に首を振って否定した。
     父親の顔も知らず、12の時に母親が死んでから一番近い孤児院に叩き込まれて、親族と言う者と面会した事など無かったから。

    「お嬢ちゃん、仕事をしないかい?あぁ、返事は1つしかないけどな」

     机の向こうの男が話し始めた言葉は、ミスタの脳に澱のようにこびり付いた。
     建物の二階には、矢張り不自然に真新しい豪奢なベッドが一つ、中央に置かれている。その違和感に眉を顰め立ち止まると、ソコは客用だ。と誰かが聞きたくもない戯言で鼓膜を叩いた。

     アルコールとティートゥリーの消毒薬臭いバスルームで冷たいタイルにキスしながら、男達の『味見』に付き合った。
     肚を内側から殴られる痛みより、喉を焼く弱アルカリ性の腐汁より、『兄を連れて来い』と言われる方が怖かった。

     悪い条件では無かった。日雇いよりもずっと良い賃金で、客が来た日はより多く。見栄えの為に表立って殴られる事も無く。毎日のパンに、グロスターチーズと、ベーコンが付いた。

     今日も二人で抱き合って、僅かな夢を観る。
     互いが相手の枷になっている事を知らぬ侭、仮初の幸せの上にルレベェで立つ。
     
     足元に、ドッグタグの付いた首輪が放られた。

    「選ぶのは君だ。boy」

     鼓膜を通って、海馬へ直接響く、甘い甘い誘惑。軟らかく鞣した艶のある黒革、強制力の無い華奢なバックル。
     アクアマリンの瞳は極限まで開いて、酸素を摂込む事を忘れた肺を無理矢理動かして荒く浅い呼吸を繰返す。
     飼い主が代わるだけだ。そう自分に言い聞かせても、心臓は痛い程強く拍を刻む。

     目の前の男は、見事な蓮のローレリーフが施された重厚な黒檀のテーブルに、ピカピカに磨かれたコードバンのポインテッドトゥシューズが添えられた長い脚を投げ出して、恐らく素晴らしい座り心地の、深い飴色のソファへ鷹揚に寄りかかって、毛足の長い豪奢な絨毯に飾られたソレを、手を伸ばしては躊躇う自分を嘲笑いながら観ている。

    「大事なご家族も保護すると誓おう」

     反射的にソレを掴んで見上げた俺の眼が映したのは、融ける寸前の金塊にピンクトルマリンを投げ込んだ様な瞳で嗤う、此の世の欲を煮詰めた際に産まれた魔性の表貌だった。

    「末期のSexworkerでもこんな路地裏には立たないぞ」

     耳触りの良いバリトンが、後ろから漂って来て、立ちンボじゃねぇと久し振りに殴られた頬を見せながら振り向いた。

    「おや。怪我をした仔猫の隠れ処だったかな?」

     四角く切り取られた空を背に、夜で組成された怜悧玲瓏の彫像が立っていた。
     宵闇の髪、月の破片を嵌込んだ瞳、月光を鞣して貼付けた白い皮膚。
     ハッと息を呑み、硬直したミスタに尚も問が掛けられる。

    「あの建物から出て来た様だが。単刀直入に聞こう。君は店子か商品か。どちらかな?」

     男は淡々と天気の話しでもする様に、渺渺たる質問だと表情で示す。だが、ミスタは直感的に、これは転機点だと。脳に血流がぎゅるんと廻るのを感じた。

     グラスと燭台で飾られた無垢板の、長いテーブルを挟んで相対するのは、夜を凝固させた美丈夫と、太陽を具現化させた快活な好青年。

    「やぁ!ヴォックス!久振りじゃ無いか。どうしたんだい?」

     パープルサファイアの瞳がキラキラと、玩具を前にした子供の様に輝く。屈託無く笑うその顔は彼の明るいハニーブロンドに良く映える。

    「久振りだねルカ。今日はちょっとした、ボランティアの提案だよ。そう、街の隅の他愛ない後片付けさ」

     ゆっくりと落ち着いたバリトンボイスが、バカラのグラスに反射して部屋に満ちる。此方も眉尻を下げて無邪気に笑うが、ルカと呼ばれた青年とは正反対の、何処か冒瀆的な悪戯を含んでいる様な色気が滲む。

    「ヴォックスの領域に踏込んだマヌケが家の者だと?」
    「hah、確かめて見ると良いな」

     天井から見えない壁が墜ちた様に威圧感が頭を押し潰す。お互い笑顔の侭、眼の奥に仄暗い焔を揺らし、絡め合う。
     不意に、突き飛ばされた様にヴォックスの傍らに侍っていた女の身体が傾いだ。

    「あぁ、可哀相に。余り苛めないでくれないか?」

     瞬間、さら。と黒い髪が靡き、音も立てず移動した腕が腰を抱き、そっと立たせながらプロポーズでもする様に微笑んで見詰める。女はセクシーな目元の黒子を乗せた頬を上気させ、蕩けた顔で頷いた。

    「□□ストリートの○だ。随分羽振りが良さそうだったよ」

     右腕に女を絡ませて、くるりと踵を返し肩越しにひらひらと手を振って扉に向かうヴォックスに、テーブルに片肘を付いて拗ねた様にルカが問い掛けた。

    「ヴォックスの玩具はすぐ分かる?」
    「確保済だ。存分にどうぞ?」

     今度はちゃんと遊びに来てね。と背中に投げた挨拶に、近い内に。と、男をも魅了する様な、屈託の無い笑顔を向けて去った。

    「あー。あんなトコになんかあったっけ?」

     ルカがふにゃりとした笑顔で周りに問いかけると、部屋に色彩が戻る。
     つい。と一人の部下が前に出て、若い頭領に苦言を呈した。
    『女衒風情の戯言に耳を貸すのは如何なものか』
     
    「そうか!皆聞いた?コイツ、ヴォックスを知らないって!俺のと・も・だ・ちを!」

     フライディングディスクに飛付く大型犬の様に軽くタップを踏むと、一息に男の眼前にドカリと着地する。

    「ナイショのお遊戯は愉しかった?」

     ヴォックスに先を越されちゃったナァ。と嘲笑うその顔は、飽きた玩具に対するソレで。男は引き擦られながら俺達にアてられてすぐ立てる人間なんているわけ無いじゃん。と言う声を聞いた。

     見返りの無い施し程怖いものは無い。

     未だ二十歳には幾許か届かない人生で、嫌と言う程味わって来のだ。自分自身で払える対価が、その身一つしか無い事も充分に。
     無味乾燥の部屋で行われていた、湿度の高い悍しい行為は、ある日突然終わりを迎えた。
     その日のオーナーは、何時もの様に欲の熱を持ってシュウの前に立った。
     違ったのは、眼。情慾に血走った黄色い白目に、焦点の合わない瞳孔。頻りに羨ましい。とブツブツ呟いていた。

     新しい職場はとある団体のコミュニケーションセンターの窓口だった。様々な人の依頼で書類を作る、前職と同じで違う、血の通った仕事。与えられた平穏の大きさに比例して増殖した不安は簡単に、シュウの爪先から頭頂まで遍く総てを蝕んで、緩慢に狂わせていく。
     月に数度、救い主のドアを叩く程度には。

     何もかもが順調だ。チョーカーを付ける事以外、ヴォックスは何も強制しなかった。ミスタの目端が効く事が買われ、ちょっとした調査やお手紙を届ける仕事は、今までと較べようも無い。太陽の下をスキップしながら過ごせる充実した毎日。シュウの職場も替わった。前の所はオーナーの、シュウや自分を見る目が大嫌いだったから、とても嬉しかった。
     初めて与えられる庇護に、思慕の念すら懐き、その首輪の意味を知る事も忘れ。此方も狂っていた。

     灯りを燈す前の、夕陽が部屋のコントラストを濃くした部屋で、闇を纏った金色の月の双眸が優しく細まっている。

     美しい双子が舞う、哀しいバレエコンサァトの特等席に座り、その美しい指先で夜想曲を弾く。
     本日の公演はどちらが主役か。

    今宵も開演を告げるノックの音が響く。
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