愚問愚答Q:恋人が浮気をしていたら、貴方はどうしますか?
就寝するには少し早く、何かを片付けるには少し遅い。ベッドサイドに腰掛け、微妙な時間を持て余したヴォックスの元に、軽快な足音と共に豪快にドアが開け放たれて、しゅたり。と青年が現れた。
「ハァイDaddy!寝る前のひと時、ナニしてた?」
悪戯っ子の様にクルクルと表情を変えるアクアマリンの瞳を輝かせながら、発する言葉はdirty jokeだ。
「おぉミスタ!お前が居るのにそんな無駄な事などしないさ。その減らず口を存分に使ってヤるぞ♡」
黒髪に真紅の焔の輝きを乗せた、彫像の様な顔の美しい唇から零れる言葉も、酷い物だ。
ミスタと呼ばれた青年は気にする風もなく、ヴォックスの隣に腰掛けた。
「ねぇねぇ、今回のEN全体企画のメッセージ読んだ?」
タブレットの画面をヴォックスに見えるように差し出す。
画面に表示された文面を読み上げると、どうやら幾つかの質問に答え、それをテーマにディスカッションするというものらしい。
スクロールしていくと、冒頭の質問に行き当たる。
「因みにヴォックス、先週末の外出の内容は?」
「kindredとの交流の後処理に、■■でhetaeraと過ごしたな」
「え?紹介無いと入れない高級娼館ジャン。今度俺も連れてってよ」
ヴォックスの余りにも随分な答えに対し向けられた表情は、羨望と期待のワクワクしたもの。
「ミスタは半月前位に夕食の招待を受けていなかったか?」
「うん。依頼の完了報告にディナーをご馳走になったよ。随分着飾ったデザートが付いてた」
「そりゃぁ豪華だな」
テヘペロ。と口ずさみながらウィンクを飛ばす恋人を鼻で笑って頬を軽く突く。
「先ずは何が浮気なのか、認識合わせが必要な気がするな」
「「・・・・・・」」
お互い暫く無言で見つめ合って、弾かれた様に笑い転げる。どうやらワンメイクは浮気に入らないらしい。そう。恋人なのだ。二人は。ゲラゲラと腹を抱えて笑い続けているミスタへ、ヴォックスは徐ろに覆い被さり、バードキスを幾つか落とした。
「明日の配信が早くなければこのまま続けるところなんだがね」
「程々って言葉知ってる?」
「パートナーの要求には、最大限誠意を持って応える主義でね」
ミスタの足を放り投げて、ベッドの傍らに押しやると、自分もベッドに上がってベッドクッションを背もたれに座り、再度タブレットを手に取った。
話題の提供者は飽きたようで、クッションを幾つか抱えると、白く鋭い犬歯を覗かせて、大きな欠伸をひとつ。
「腹をナイフで刺すのは何回かしたっけ?」
「3回かな。4回目は私の包丁を持ち出すから、それは止めたな。」
「『刃毀れしたらどうするんだ!お気に入りなんだぞ!』だっけ。まぁ、確かにその包丁で切られたトマトとか食べたく無いかな」
本日の寝床は此処に決めた。とばかりにグリグリと頭の位置を調整しながらん?と気付いたミスタが問う。
「俺さ、ヴォックスに嫉妬されたの、アイクん時しかないね?」
「其れ以外に焦った事は無いからな」
自力で帰って来る飼い犬の散歩に口を出す気は無いかな。という言葉を飲み込んで、含みを持った回答にジト目に成っているミスタの牡丹鼠色の髪をワシャワシャと撫でて、口の端で笑って見せた。
「帰って来るなら良いんだよ」
「細切れにして迄、引き留める価値無い?」
「待てる様になったと言え。若かったんだ」
「俺がホントにフラフラしちゃったらどうすんの?」
「コミュニティ毎消し去ってお前は監禁だな」
「それは駄目だろ」
ホンの少し混じった本音に気付かないフリをして、頭を押さえたまま、首に軽く歯を立てて、甘え下手な男の顔を立ててやる。
「煽るならお望み通り抱き潰しても良いが、そう度々、喉風邪でごまかせるのかミスタ?」
「其処は上手く手加減してよ」
「中々魅力的でな。ついつい可愛がり過ぎるんだ」
満足したのは、会話か相手の表情か。ミスタはくふ。と喉で笑った後、クッションを抱え込んで丸くなった。
ヴォックスは部屋の灯りを落とし、ほわりとした間接照明に切り替えると、自分も眼を閉じた。
無意識に安心を求めて触れてくるミスタの身体を抱き寄せて、とろとろと眠りに落ちるのだ。
ENのメンバーに人外が多い為、二人の回答は特筆する物では無かったが、ミスタは実行済と配信内で話した事により、界隈が湧いたのは別の話。