【そして訪れない春を知る】 それを響かせたのがシェラであったのならば、まだ耐えられたのだ。
* * *
『猫』を飼い始めたという噂は知っていた。
この場合の『猫』は四足の獣ではなく、二本の脚で立っている。言葉を解す。知能がある。知性がある。浮いた腕で杖すら握る――つまるところは人間で、けれど家名に歴史がない。その一点を理由に彼ら彼女らは旧家の社会において数段劣る存在として見なされる。
さもありなん。血に培ってきた神秘を宿さぬことが明白なのだ。自らの血を次の世代へと、それも出来る限り強化したかたちで繋ぐ――旧家の魔法使いに課せられた至上命題に能う『価値』を有していない。
だから『飼い犬』で『飼い猫』だった。ソレには愛玩する以外の用途がない。まともな魔法使いの侮蔑と嘲弄。それだけで十分だ、愛させてくれる以上の価値などない。狂った魔法使いの執着と愛着。……十と少しを数えた程度の少年であるアンドリューズでさえ時折伝え聞く程度の愁嘆場。
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