掃除の話 その日は夢見が悪かった。エオルゼアであったかつてのいざこざ、そしてイシュガルドで起きた事などを引っ括めたような夢で、跳ね起きるようにヴィエラは目を覚ました。周囲を見回し見慣れない室内に一瞬困惑するも、すぐにフォルタン邸の客室だと気付き脱力する。ぼふりと倒れ込んだベッドの上で深く溜息を吐いた。
翌朝、荷物の中から目当ての装備を見つけ、満足気に頷き彼女は朝食に向かった。食事中、本日の動きについて尋ねてきたフォルタン伯爵にイシュガルドの情勢を踏まえ今日は大人しくしている旨を伝える。
「ゆっくり休んでくれるといい」
此処の皆の事は気にしなくて良い、と微笑んだフォルタン伯爵に礼を述べる。ゆったりとした食事と時間を堪能した後、部屋に戻った彼女はアーマリーチェストを覗いていた。
「確かここにあった気が……」
あった!と目的の品を引っ張り出す。手の中のメイド服を身に付け、フォルタン邸のメイド服と大した差異がないことを確認し、大きく頷いた彼女は部屋を後にした。
オルシュファンが帰宅した時、何故か館がいつもより綺麗に見えた。首を傾げながら廊下を進んでいくと、甲斐甲斐しく花瓶を磨いているメイドがいた。声をかけると、特徴的な耳を揺らして彼女が振り返る。
「お前は、」
まさかの盟友の姿に目を瞬かせた彼に、彼女は悪戯っぽく笑った。
「したくてしてるの」
言い訳のように彼女が言うには、嫌な事があったりとかすると掃除が捗るのだそうだ。嫌な事、と深刻な表情で繰り返した彼に、慌てたように彼女は手を振る。
「あ、ここじゃなくって、私の問題」
嫌な夢見ちゃって、それを消したくて、つい。いつもの癖なのだと苦笑したが、それを尋ねた時点でその根源が頭をよぎるのは避けられないだろう。察したオルシュファンが険しい表情を浮かべると、彼女は困ったように笑った。
「でもほら、こんな綺麗にできちゃった!」
メイドさん達にはゆっくりしてって言われたけどと続ける彼女の腕を引き、彼がそっと彼女を抱き締める。不思議そうに彼の名を呼んだ彼女に、あぁ、いや、と彼が呟く。
「うん、その格好も新鮮で非常にイイ」
だから今度は温かい紅茶でも淹れてもらえないだろうか、と囁いた彼が柔らかく微笑み、彼女の頭を撫でた。
「お気に入りの店で人気のジンジャークッキーが丁度残っていてな。一緒に食べたくて」
嫌な事は良い事で上書きしてやろう。用意したこのクッキーが残っていたのもこのためだったのだ、と力強く拳を握った彼に、彼女が恭しく礼をする。
「承りました、旦那様」
再度目を瞬かせた彼が、些かそれは破壊力が強い、と顔を覆い、彼女は楽しそうに笑った。