不意に途切れていた意識が浮上する。
温い粘着性の液体に浸されているような思考は満足に動かず、四肢の感覚も鈍い。
「――――」
自分は何をしていたのだったろうか。胸の奥に漠然とした焦燥感が燻っているが、それも上手く形にならない。
「死んでいるのか?」
酷く虚ろな意識では言葉の意味など理解出来なかったが、それでもその聞き慣れた声音はクリスの意識を一気に現実へと引き戻した。
『っ、罠か!』
『アメヒコさん、クリスさん、無事ー?』
『3人の機体損傷度は平均で6割』
『それだとクリスさんが』
『死ぬ気じゃないだろうな』
『これ以上に可能性のある策はないと思います』
『ディープはこの中で最も損傷が少なく耐久性が高い』
『必ず3人で生きて帰ろう』
響く砲声、続く衝撃、止まない警告音、ノイズ混じりの仲間の声、それをかき消す砲声、衝撃、砲声、衝撃、衝撃、衝撃、暗転。
意識を失う直前まで自分達が置かれていた状況を思い出すと共に、生死の狭間をぼんやりと揺蕩っていた身体の感覚が戻って来る。
鉛のように重たい瞼をどうにか押し上げたつもりだったが、見慣れたコクピットどころかコンソールの光も何も見えては来ない。瞼を開けているのかすら分からない闇の中で、非常用電源すら落ちてしまったのかと思う。
「っ――、ぅ」
全身を襲う激痛に耐えながらどうにか身体を起こそうと身じろぎをすると、すぐさま冷静な声が飛んで来た。
「無理に動くな。此方から引き出すから大人しくしていろ」
自分を引き戻した声はこの声だ、と今度はしっかりと認識する。そして、その声の主が他ならぬアメヒコであること、こうして声がするということはアメヒコは生きているのだと理解した。
「アメヒコ、よか、った、無事、で…」
思わず零れた声は、自分でも驚くほど掠れてしまっていた。だが、アメヒコの無事に安堵したせいか、或いは絶え間無く続く酷い痛みに耐えられなくなったのか、そのことを気にする暇もなく一度はハッキリとしたはずの意識が闇に溶けるように薄れ始めた。
意識を失うべきではない、どうにか覚醒し続けていなければならないと思うが、掌から水が零れて行くように、クリスの意志とは裏腹にどんどん思考能力が落ちていく。
「おい――」
その声を最後に、クリスの意識は途絶えた。
***
「アメ……、よ…、った、……、で…」
不鮮明な言葉を残して目の前の人間は意識を失った。変わらず生体反応はあるので死んではいないようだが、傷を負っているようなのでこのまま放置しておけば遠からず死ぬだろう。
レジスタンスとして人間と対立しているアンドロイドとしてはこのまま見捨てた方が良いだろう。だが、いつの間にかテリトリー内の瓦礫に埋もれる形で存在していた巨大な機械について、説明出来そうなのは意識を失っている目の前の男しか居ない。
だから助けるのだ、とアレックスは判断していた。この男が意識を失う前に見せた表情が必要以上にメモリーへ焼き付いている件に関しては認識しようとしないまま。