小さくない破裂音と共に、此方に走り跳んで来ていた長身の男が受け身も取らないまま崩れ落ちた。即座にその身体を支え起こしたい衝動をどうにか押さえ付け、襲撃者に向けてブラスターを撃つ。
動かなくなった襲撃者を別の隊員達が拘束しにかかったのを視界に入れるや否や、血を滴らせながら地に伏せている彼の身体に触れ声をかけた。
「理人!!」
目を閉ざして痛みに耐えていた理人は、ナハトの呼び掛けでゆっくりと瞼を開けようとする。
「あかつきさん、おけがは、ありませんか…?」
瞼が開き切るよりも先に、浅い呼吸を繰り返しながら理人はそう尋ねて来た。何故、と思うが問うことはしない。ここでそう問うてしまえば激情のまま言葉を発して止まらなくなるだろうことが分かっていた。
「ああ、擦り傷ひとつない」
「よかっ、た」
安心したのか微笑みを浮かべた理人の身体から力が抜け、一度開かれた瞼がまた落ちてくる。
「理人!!」
「すみま、せん」
もう貴方についていけないみたいだ。吐息のような声で、理人が口にする。
駄目だ。逝くな。
理人の鍛え上げられてはいるが些か細い身体を掻き抱きながらナハトは強く願う。漸くやって来た医療班の隊員達が立ち尽くしているのを背中に感じながら、理人を抱える腕に力を入れた。だが、もう腕の中の理人が再び瞼を開けることはない。
何度経験しても、理人を失う悲しみに慣れることは無かった。
繰り返した分だけ増える悲しみを抱えて、ナハトは理人が死なないで済む方法を必死になって探した。
バディを組むことを回避することは出来なかったが、冷たく突き放すこともした。物理的に離れることもした。だが、理人は必ずナハトを庇って死ぬ。
万が一ナハトが襲われるようなことがあっても守ることはしなくて良いと何度言い含めても、『その時』になれば必ず理人は暁を庇う。
ならばと繰り返した経験から襲撃者を早めに突き止め確保しても、別の原因で理人は死んだ。ナハトが自ら命を絶とうとすればその前に。
ナハトがどう足掻いても理人の死は避けられなかった。まるで何者かに嘲笑われているようだと思う。
もう何度繰り返したのか数えることも止めた頃、成り行きで父の研究を受け継ぐことになった。今までは断っていたが、その時はなし崩し的に受けることになったのだったと思う。理人を救うことに思考が占められていたので押し切られたのだろう。
だが、その影響なのか『その時』がやって来ても理人は死ななかった。父は死に、ナハト自身も深い傷を負ったが、理人は生きていた。傷一つ負うことなく。
これがキーだったのだ、と医務室で処置を受けながらナハトは確信した。父の研究――計画自体は酷くバカバカしいものだと思う。人間を管理し作り上げる理想郷など、本当の理想郷であるはずがない。
だが、自分がそれを受け継ぐことで理人が死なずに済むのならば。例え自分の命と引き換えなのだとしても十分過ぎる結果だとナハトは思う。
理人なら、この計画も壊してくれるだろう。確信に近い思いがある。理人はナハトのことを高潔な人間だと言ってくれるが、理人の方こそ高潔な人間だとナハトは思う。
もう共に在れない自分の代わりに、新しいバディを用意しよう。若くて、自分の意思をしっかりと持ち、はっきりと意見を言えるような人間が良い。理人が迷った時に彼を叱咤し、支えになれるような。
「賢い選択をしてくれよ、理人」
どうか、彼が歩む先の未来が明るいものであるように。それだけを願いながら、ナハトは独り計画を組み立てていった。