久し振りに会った古論はどこか憔悴しているようだった。普段の溌剌さが身を潜め、どことなく顔色も悪いように見える。極め付けは、雨彦への反応だった。
「お疲れさん」
いつものように溢れんばかりの笑顔を向けて来るだろうという雨彦の予想とは異なり、古論は一瞬不安に強張った表情を雨彦に向けた。
すぐにそれを誤魔化すように笑みを浮かべ、「お疲れ様です」と声を上げたが、普段とは明らかに違う古論の様子に雨彦は違和感を抱かずにはいられなかった。
単独の仕事でしばらく地方へ撮影に出ていた雨彦と入れ替わる形で、古論はドラマの撮影の為雨彦が向かったのとは別の地方へロケに行っていた。
ひと月ぶりに顔を合わせたのだから怯えられるようなことをした覚えなど何もない。だが明らかに古論の反応はおかしかった。
「折角久々に会ったんだ、一緒に食事でも――」
「…すみません、今日は都合が悪くて」
話を聞く為に食事に誘うが、あえなく断られてしまう。
食事の誘いを断られたこと自体は何ら不自然ではないのだが、申し訳なさそうに視線を逸らす古論の様子に雨彦はまたも違和感を覚える。元々あまり共に出かけたりなどするユニットではないし、都合が悪いからと食事の誘いを断ることも少なくない。雨彦自身古論のして来た提案を断ったことは一度や二度ではきかないし、古論の方だって雨彦や北村の提案を断ったことは何度もある。それが雨彦達にとっての日常で、断る方も断られた方もサラリとした反応なのが常なのだ。しかし今日の古論からはそれが感じられない。まるで罪悪感を感じているかのようだ。
何かあるのかと気になった雨彦だったが、無理強いしてまで聞き出すつもりはない。古論を見ても特に汚れらしいものはついていないように思えたので、とりあえずこの場は引き下がることにした。
「そいつは残念だ。まぁ気が変わったらいつでも言ってくれ」
「……はい。では失礼しますね」
小さく頭を下げた古論はそのまま足早に立ち去ってしまう。予定の為に気が急いているというよりも、この場から逃げ出すような足取りだった。
やはり様子がおかしい。雨彦は眉根を寄せながらその後ろ姿を見送った。
このタイミングで多少強引にでも話を聞き出さなかったことを後に後悔することになると、この時の雨彦は知る由もない。