お題:指切りをする降風「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます!」
遠くから聞こえた明るい子供の声に、風見はスマートフォンをいじるふりをしながら、視線を送る。
まだ小学校に上がったばかりだろうか。小柄な子供が小指を絡めていた。
「嘘の罰が針千本って厳しくないですかね」
風見がスマートフォンを見たまま、ぽつりと呟くと、背後から声が返った。
「あれは元々、遊女が客と約束を交わした時のものとされている。『愛しているのはあなただけ』と小指を切り落として送ったそうだ」
「小指……」
ひく、と口元をひきつらせ、思わず額を押さえた。
美しい女が白くしなやかな指に自ら包丁を振り下ろす姿を想像して身震いする。
と。
「実際は、作り物の小指が多かったらしいがな。要するに、営業用だ」
背中越しに、降谷が薄く笑う気配があった。
「なるほど。相変わらず、何でも知っていますね」
感心して風見がそう言ったのには答えず、降谷は手をだらりと下げた。
「風見。手を出せ」
「え? ……は、はいっ」
何か渡すものでもあったか、と風見は慌てて背中合わせで座る降谷に手を差し出す。
と。
ぎゅ、と小指を掴まれた。
「………えっ?」
意外な反応に、風見は眼鏡の奥で目を丸くする。
思わず振り向きかけたのをこらえ、前を向いたまま戸惑う風見に、降谷は言った。
「明日からしばらく潜る」
「……はい」
「嘘だらけの僕には、指切りはできないが……必ず、帰ってくるよ」
降谷がそう言って、風見の小指を包むようにして握るから。
「はい。お帰りを、お待ちしています」
彼の誓いを信じて、従順な犬のように返した。