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    conny_cromwell

    @conny_cromwell

    ネロ晶︎︎ ♀置き場
    BOOTHにて既刊取り扱い中です↓
    https://conny.booth.pm/items/3406262

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    conny_cromwell

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    晶︎︎ ♀受けWebオンリーに展示する予定だったお話です。遅くなってすみません!
    右手が使えなくなったネロと賢者のお話です。
    短編仕様で書いているのでここだけでも読めますが、気が向いたらこれまでのお話も読んで貰えたら嬉しいです。仄暗く湿度高めだけど両思い設定です。何でも楽しめる方向け。

    ##ネロ晶♀

    5. ようこそ俺の世界へ 大いなる厄災の影響か、はたまた怪我の後遺症か。右手の感覚が無くなったのは事実だ。腹に穴が空いた事を思えばこの程度で済んだのならまだマシなのかもしれない。

    「皆に話しましょう」
    「このくらい言わなくていいよ」
    「何かあった時では遅いんです」
    「……じゃあ、まずは先生に言わせてくんね?」
     恐らく、ファウストは気付いているだろう。だけど自分の口から聞くまでは触れてこない。そういう人だ。だから今後の事を考えるなら真っ先に相談すべき相手だと思っている。

    「……それで、話と言うのは」
     賢者さんに呼ばれ入れ替わりに部屋へやってきたファウストは、眼鏡の鼻にかかる部分──ブリッジと言うらしいそれを指で押し上げながら俯きがちにこちらへ問いかけた。
    「もう分かってると思うけど、一応報告」
     右手を差し出すとファウストがため息をついた。
    「……右手か」
    「やっぱバレてたか」
    「君の魔力が不安定だとは思っていたが……」
    「結構うまく誤魔化してたつもりなんだけどな」
    「恐らく、フィガロは気付いている」
    「だろうな」
    「全く動かないのか」
    「魔法で動かすのは慣れたけど、感覚までは無理そう」
    「……ったく君って奴は」
    「これでもマシになった方なんだから」
    「賢者は知ってるのか」
     無言で頷くと、更に深いため息が聞こえた。
    「……回復の見込みは」
    「わかんね」
    「だろうな」
     見込みが無いから話したのだ。じきに治るなら隠し通すに決まっている。しかし治らないとも言わないあたり、まだ可能性を信じているとも言える。
    「……何か方法がないか調べてみるよ」
    「助かるよ、ありがとう」
    「それと」
     ファウストは俺の目をじっと見て言った。
    「賢者のフォローを頼む」
    「え、俺?」
    「あの子が心を痛めている原因は君だろう」
    「……やっぱりそうだよなあ」
    「気丈に振舞ってはいるが、あれではいつか倒れてしまう」
    「俺にできることなんてあるのかねえ」
    「君にしかできないだろう」
    「え?」
    「まさか気付いていないとでも?」
     今度はこちらがファウストの目を見る番だ。
    「……それはどういう意味だ?」
    「君と賢者の関係は、僕達とは違うものだろう?」
    「大して変わんねえと思うけど」
    「否定しないんだな」
    「降参だよ、先生には隠してもしょうがないし」
     ファウストはそこでようやく口元を緩ませ、柔らかな表情をした。
    「穏やかなひと時というのは、心身を健康にするよ」
    「どういう意味」
    「肩の力を抜いてやれって事だよ」
    「そういうのはブラッドが上手いんだよな……」
    「君も中々上手いと思うけど」
    「俺は話すの得意じゃねえし」
    「話さなくても君にできることはあるだろう?」
    「……」
     長居はここまでだ、とファウストは告げて静かに部屋を出ていった。
    「俺にできること、ねえ……」


    ***


     翌日。 任務で皆が出かけている間にブラッドリーが部屋へやってきた。
    「よぉ、相変わらず湿気てんな」
    「るせ」
    「呪い屋には言ったのか」
    「……任務に支障があるからな」
    「それだけか?」
    「他に何があるんだよ」
     問いかけにムッとしたのか、不意に俺の右手を掴み袖を捲りあげた。
    「おーおー、器用に隠しやがって」
    「別にいいだろ」
    「良くねえ」
    「貰った命とチャンスは大事にしやがれ」
    「……してるよ」
     ブラッドリーは鼻で笑って乱暴に手を離した。
    「自覚ねえのか」
    「何が」
    「……」
     いよいよムッとしたらしく顔つきが変わる。
    「俺はそんな事のためにてめえに魔力を与えたんじゃねえ」
    「知らねえよ、何だよ」
    「本当に分かってねえのか?」
    「何が」
    「てめえの頭でもう少し考えろ」
     この馬鹿野郎、と額を指で強めに弾かれる。ってえな、と反応したが当の本人は既に部屋から居なくなっていた。
    「……」
     ため息をついて自分の右手を眺める。早く晶に会いたい、それだけが頭に浮かんだ。


    ***


     数日後の夜、任務を終えた賢者さんが部屋を尋ねてきた。
    「おかえり」
    「ただいまです」
     遠慮がちにこちらの様子を伺うものだから、両手を広げてみたら伝わったようだ。猫のようにぽすりと腕の中へ飛び込んできた。
    「怪我してないか」
    「大丈夫ですよ」
    「今回も大変だったんだろ」
    「そうですね、でも皆さんが沢山頑張ってくれたので」
    「そっか、無事に終わって良かったな」
     取り留めのない土産話を聞きながらコーヒーを入れ、用意した菓子を二人で食べる。久しぶりの穏やかな時間だ。
    「ネロはどうですか」
    「体力は戻ってきた気がするよ」
    「右手の方は?」
    「相変わらずって所かも」
    「早く良くなるといいですね」
     彼女は思っている事が顔に出るから分かりやすい。だけど勘が鋭い事も知っている。きっと、この薄っぺらい会話の裏なんてお見通しなんだろうなと思っている。
    「……晶」
    「はい」
    「俺さ、六百年生きてるから……色々とあんたの知らない所いっぱいあるけど、怖くないの?」
    「……怖くない、と言えば嘘になります」
    「だよなあ」
    「でも、ネロを信じてますから」
    「……」
    「少なくとも今、私の目の前にいるネロは信用に値すると信じています」
     賢者として、晶という一個人として。
    そう告げた彼女の目はとても綺麗で真っ直ぐで。俺の全てを見透かしているようだった。
    「俺はこの先、あんたを裏切る事になるかもしれない」
    「例えそういう結果になったとして、それがその時のネロが最善策だと思って取った行動なら、それは尊重すべき事柄なのだと思いたいです」
    「それがあんたを傷つける事になったとしても?」
    「……信じていれば傷つかずに済むんじゃないでしょうか」
     ある程度は賢者と魔法使いとして親交を深め、互いに好意を持っているとはいえ、こんな過去や素性の知らない俺の事をそこまで信用する根拠は何なのだろうか。
    「あんた、本当に真っ直ぐだな」
    「臆病なだけですよ。怖いから、そうしたいだけです」
     怖いから、信じる。
     信じること以上の恐怖などあるだろうか。裏切られるかもしれない相手を信じるのはとても難しい。ましてや裏切ると宣言しているような奴に向かっては特にそうだろう。
    「……ほんと、そういう所だよ」
    「?」
     そんなにも真っ直ぐだから。
     何とかしたくなるんだ。
    「……晶」
    「はい」
    「この先、何があっても……俺はあんたを守るし離さないから」
    「……私も同じ気持ちですよ」
    「ありがとう」
     こんな俺にそこまで寄り添ってくれて。守ってくれて。この世界に戻ってきてくれて、俺をこの世界に呼び戻してくれて。俺のために泣いてくれて、笑ってくれて。いつも真っ直ぐな心を伝えてくれて。感謝の気持ちをあげればキリがない。だから──
    「俺に関わると苦労するぜ?」
    「既に承知です」
     冗談めかしつつ二人で笑って手を取りあう。そのまま立ち上がり晶を抱きしめた。
    「……今夜、このまま時間ある?」
     耳元で囁いたこの質問の意味が伝わるだろうか。
    「……はい」
    「いい?」
     小さく頷いた彼女の頬を両手で包み上を向かせる。
    「晶」
    「……はい」
    「ようこそ、俺の世界へ」
     返事を待たずに口付ける。嫌がらないことを確認した俺はそのまま彼女の唇を深く貪った。
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    Replies from the creator

    conny_cromwell

    MAIKING深く考えずに書き始めたネロ晶ちゃんの小説。
    不定期更新、全10話の予定だけどプロットも何も無いので終わるかどうかも謎です。
    1. ただいま、おかえりついにこの日が来てしまった。厄災の到来。
    本当に酷かった。前の仲間たちが半分持っていかれたのも分からなくはない。しかしここでくたばる訳には行かないのだ。

    皆ボロボロながらも何とか生きている。最後の一撃だと言わんばかりに、オズが賢者さんの手を引いて振りかざした光。雷鳴と共に荒れ狂う空。雨と雪が混ざりながら月に向かい渦を描き舞い上がっていく様を俺たちは血の海に横たわりながら薄れゆく意識の中で眺めていた。

    「……」
    「ネロ、気が付いたかい?」
    「フィガロ……あんた身体は……っ」
    「若い魔法使い達のおかげでなんとか持ちこたえたみたいでね。皮肉なもので簡単には逝かせて貰えなさそうだ」

    フィガロの背中を最後に目前で見た時、ああもう駄目かもと正直思った。あんなにも複雑な思いを互いに抱えたまま、俺たちはこんな風に静かに消えた方がいいのだと二人で笑った瞬間だった。だからあんな形で守られて、自分だけ生きてるなんて烏滸がましいにも程があるのだ。そういう意味で、フィガロが生きていてくれたのは本当に心底ホッとした。
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