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    conny_cromwell

    @conny_cromwell

    ネロ晶︎︎ ♀置き場

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    conny_cromwell

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    深く考えずに書き始めたネロ晶ちゃんの小説。
    不定期更新、全10話の予定だけどプロットも何も無いので終わるかどうかも謎です。

    ##ネロ晶

    1. ただいま、おかえりついにこの日が来てしまった。厄災の到来。
    本当に酷かった。前の仲間たちが半分持っていかれたのも分からなくはない。しかしここでくたばる訳には行かないのだ。

    皆ボロボロながらも何とか生きている。最後の一撃だと言わんばかりに、オズが賢者さんの手を引いて振りかざした光。雷鳴と共に荒れ狂う空。雨と雪が混ざりながら月に向かい渦を描き舞い上がっていく様を俺たちは血の海に横たわりながら薄れゆく意識の中で眺めていた。

    「……」
    「ネロ、気が付いたかい?」
    「フィガロ……あんた身体は……っ」
    「若い魔法使い達のおかげでなんとか持ちこたえたみたいでね。皮肉なもので簡単には逝かせて貰えなさそうだ」

    フィガロの背中を最後に目前で見た時、ああもう駄目かもと正直思った。あんなにも複雑な思いを互いに抱えたまま、俺たちはこんな風に静かに消えた方がいいのだと二人で笑った瞬間だった。だからあんな形で守られて、自分だけ生きてるなんて烏滸がましいにも程があるのだ。そういう意味で、フィガロが生きていてくれたのは本当に心底ホッとした。
    悪夢より酷い現実の厄災の傷跡は、きっとこれから先に嫌という程見せつけられる事となる。

    「……他の魔法使い達も皆無事だよ」
    今回は運が良かったのか、皆が強かったのか分からないけれど、とフィガロは付け加える。何にせよ誰ひとり失う事もなく厄災を追い返したのは、この上ない功績ではないだろうか。
    「それもこれも皆、賢者のおかげかもね」
    「……っ、そうだ。賢者さん、は」
    「……」
    フィガロは静かに首を横に振った。それはもう、ここには居ないという事で。
    「……そう、だよな。厄災を追い返したから賢者さんの役目は……」
    「オズが最後まで見届けていたよ」
    「……そっか」
    オズの手を引いて空を見上げていた賢者さんの顔は、とても美しかったと思い出す。
    皆が傷つくのを誰よりも何よりも悲しむ人だった。一人ひとりに心から寄り添っていこうと心を砕くひと。こんな俺にも、友達だと言ってくれた、大事な人だとも伝えてくれた、かけがえの無い存在。

    この手で彼女を守れなかった事が、頭では分かっていたはずなのに心が追いつかない。弱い魔法使いは自分の身を護るだけで精一杯だ。皆で協力してオズの元へ彼女を送り込む事しか出来なかった。
    ああ、せめて最後に何か言葉を交わせれば良かったのに。賢者さんの大好物はなんだっけかな。最後に作ってやりたかったな。

    まだそこに居ない事が信じられないせいか、今にも部屋のドアを開けて名前を呼んで走りよってくるんじゃないかとさえ思ってしまう。それほどに自分の中で大きな存在になっていたのだと改めて自覚する。
    最後に手すら握ってやれない、顔すら見てやれなかった後悔が静かに押し寄せる。瞼を閉じ全てを忘れて、深淵に閉じこもってしまいたかった。
    「……しばらくはゆっくり休めばいい」
    フィガロは静かにそう言って、部屋から立ち去った。しんと静まり返った部屋にひとり。慣れているはずなのに、慣れない空間に居るようだ。
    「……情けねえ」
    ぽつりとこぼした独り言は誰にも届かない。その事が少しだけ安心もするし、虚しくもなった。

    きっと、時間が経てばそれも落ち着くだろう。これまでの経験がそう思わせてくれる。過去は忘れて、時折懐かしみながら新しい日々を過ごすのだと。


    ***


    どのくらい寝ていたのだろうか。窓から見えるのは沈みかけた太陽の名残を残した空の色だ。どうやら丸一日寝こけていたらしい。皆の食事はどうなっているのだろうか、とベッドから立ち上がろうとして軽い目眩に襲われる。
    「ネロ、大丈夫か」
    様子を見に来たのか、たまたま通りかかったのか分からないが、倒れかける体を支える手の温もりに安堵のため息を零す。
    「……先生」
    「君は重傷者だから無理をするな」
    「重傷?」
    「……自分の体なのに分かっていないのか」
    ファウストは呆れたように溜息をつく。あの状況じゃ無理もないかと丁寧に説明してくれた。

    賢者を無事にオズの所へ、ただそれだけに夢中だった。ブラッドが強化魔法をかけると言った事はうっすら覚えている。相変わらず人遣いが荒いなと笑った事も。そのためにフィガロが俺たちを庇うように厄災の魔物を前に立ちはだかっていたはずだ。
    アイツの加護を受け取り、賢者さんを箒に乗せてオズの所へ飛んだ。オズが手を伸ばし賢者さんを引き寄せたのを見届けた瞬間、背中に激痛が走った。腹に穴が空いて血飛沫が視界を染める。誰からの何の攻撃かも分かりゃしないが、これは確実に死んだなと意識のどこかで思ったんだ。生温い血の海に体を沈めて、彼女とオズが厄災へ立ち向かうのを見ながら、これで死ねるなら本望だと意識を手放した。

    「……あの後、取り乱した賢者をオズが諭して先に厄災を追い返した。その後すぐに賢者は君の元へと駆けつけた」
    「……賢者、さんが」
    「僕も遠くから見ていただけだから……詳しくは分からない。けれども賢者はその姿が消えてしまうまで、最後まで君の側にいた。君の手を握って」
    思わず右手の平を見る。残念ながら覚えていないのだけど、きっとこっちの手だと思う。まだ痺れが残って思うように動かない手だけど、彼女が最後まで握っていてくれていたのだと思うと心做しか温かく感じる。
    「……そっか」
    「ネロ、君は」
    「先生、俺は大丈夫だから」
    「ネロ」
    「大丈夫だよ」
    「……そうか」
    とにかく今はまだ休めとファウストも言う。フィガロに昨日も言われたなと苦笑いして静かに頷いた。再びベッドへ戻れば、体の重みは少しマシになった気がした。
    「……先生は大丈夫?」
    「君に比べたらみんな軽傷さ」
    「はは、そっか……なら、良かったよ」
    この痛みも傷も、賢者さんを守るために使いきれたなら良かった。無事に元の世界へと戻って、幸せになってくれたらそれでいい。そう思えばこちらの胸の痛みなど、時が経てば取るに足らないモノになるだろう。なるといいなと切に願う。


    ***


    再び眠りに落ちて、どのくらい眠っていたのか分からない。ただ、目が覚めるとやけに気配が多い事に気が付いた。
    「ネロ!」
    「ネロが起きました!」
    「大丈夫か、ネロ」
    「……え」
    夢でも見ているのだろうか。リケやミチル、シノが交互にこちらの顔を覗き込んでいる。
    「少し下がりなさい。ネロがびっくりしているだろう」
    フィガロが後ろから声をかけつつ間を割って顔を出す。額に手を当てうんと頷く。
    「熱も少しは下がったようだね」
    「熱?」
    「酷い高熱だったよ。体の損傷が酷かったから修復の反動で出たんだろうね」
    「え……」
    全く身に覚えが無さすぎて呆気に取られていると、やれやれ大袈裟だなと後ろから野次が飛ぶ。
    「俺様が強化魔法かけてやったんだからそう簡単にくたばりはしねえよ。なあ、ネロ」
    「……ああ、そう……だった、な?」
    まだ意識が混在する中で必死に状況を整理する。どれが夢なのか現実なのか分からない。
    「ネロ、何も考えなくていい。ただ……」
    「?」
    ファウストがフィガロの横に立って言い淀む。何があったのかと続きを促すように待つと、我慢できないシノが割って入った。
    「ネロ、聞け。新しい賢者が来る」
    「……ああ、そうか」
    厄災を追い返して、役目を終えた賢者は帰って。また次の厄災に備えて新しい賢者がやってくる。そういう事だ。
    「……顔合わせは少し後にしようか。まずは回復が先だよ」
    「……そうして貰えると助かる」
    もう少し回復して上手く取り繕えるようになったら、と考えて。取り繕わないとならない程の穴が自分の中に空いていることに気付いてしまった。情けないなと呟いたが、皆は別の意味に捉えたようだ。
    「ネロは情けなくなんかないですよ」
    「ああ、胸を張っていいぜ」
    「……はは、ありがとう」
    ほら、賢者様を迎えに行くよとフィガロが若い魔法使い達を連れて部屋を出ていく。ファウストはまた後で来るよとその後に続いて出ていった。残っているのは──
    「くだらねえ事考えてんじゃねえよ」
    「……何も考えてねえよ」
    「死んじまえばそれで終わりだが、生きてんだろ」
    それは一体誰に向けて放った言葉なのか。いつも死にかけてた野郎に言われるのも何だか妙な気分だ。
    「……分かってるよ」
    目の前で死なれるよりよっぽどいい。そういう事だ。よく見りゃブラッドもまだボロボロで、厄災の影響が色濃く残っている。
    「ブラッド、アンタが生きてて良かったよ」
    「……何だよ気持ち悪いな」
    「うるせ」
    ふ、と二人で笑ったその時。バタバタとこちらへ走ってくる足音が聞こえる。
    「ネロ!」
    先程部屋を出ていったばかりのシノだ。何があったのかと二人で注目すれば、後ろから賑やかな話し声が近付いてくる。
    「ネロ、落ち着いて聞け。新しい賢者だ」
    「……? ああ、だから顔合わせはもう少し治ってから」
    「だめだ、今すぐ会え」
    「は?」
    「一体どういう事だよ」
    俺の代わりにブラッドがシノに尋ねる。シノはもどかしそうに口をパクパクと動かした後、廊下へと出ていった。状況がよく分からないままに、再びシノが戻ってくる。
    「ネロ、驚くなよ」
    「……?」
    扉の開かれた部屋の入口に注目する。そろそろと影が動き、こちらを覗き込むように顔を出した。
    「あの、すみません……新しい、賢者……ですって言っていいのでしょうかこの場合」
    「!」
    一体、何がどうなっているのか分からない。けれどもシノは『新しい賢者』だと言った。本人もそのような発言をしている。
    「え……え?」
    「おい、そんなことってあるのかよ」
    「えっと、私も何だかよく分からないんですけど……何故かここに来てしまいました」
    後ろから様子を見守るように、他の魔法使い達もやって来ている。体がまだ言うことを聞かなくて良かった。動き回れる身だったらとうに我を忘れて彼女を抱きしめていたと思う。
    そんなふうにぼんやりと考えている矢先。ふわりと鼻先をいい香りが掠めた。
    「ネロ、無事で良かったです……」
    気がつくとベッドに横たわる体を賢者に抱きしめられていた。なんだよこれ格好つかねえな、とどこかでボヤく自分がいる。
    震えた声で絞り出すようにそう呟いた彼女の言葉を聞いて、思わず視界が緩む。
    「賢者、さん」
    「はい」
    「あんたが……無事で良かった、よ」
    「ネロ……!」
    ずっとネロの事が気になっていました、心配していたんですよ、絶対戻らなきゃって思っていたらエレベーターがあったので乗ったらここに来れました、と早口でまくし立てながら俺の胸元に顔を擦り付ける。危ない事するなよ、と力の抜けた声で返事をするけど賢者さんには聞こえて居ないようだ。震える手で彼女の頭を撫でる。ああ、本当に賢者さんはここにいるんだと冷えきった心がほんのり温まる気がした。
    「賢者さん」
    「……はい」
    「おかえり」
    「……ただいま、です」
    ムルが賢者の帰宅を祝ってパーティをしようと紙吹雪をそこら中にばら撒く。ここは俺の部屋だから勘弁してくれと思うが今日ばかりは仕方がない。簡単な祝いを食堂でぜひ、とアーサーが皆に声をかけて誘導する。
    「ほら、賢者さん。俺はもう大丈夫だから」
    「……取り乱してしまってすみません」
    「いや、嬉しいよ。ありがとう」
    顔を真っ赤にして慌てる彼女の温もりをもう少しだけ離したくないなと思いつつ。自分だけの晶では無いのだと言い聞かせて皆の元へと促す。
    「元気になったら、またよろしくな」
    「はい!こちらこそよろしくお願いしますね、ネロ」
    ネロはゆっくり休んでくださいね、と言葉を残して賢者さんは部屋を出ていった。ヒューと冷やかしの口笛を吹くブラッドはニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている。
    「生きてて良かったな」
    「……ああ、そうだな」
    死んでもいいと何度諦めた事か。殺してくれと頼んだ事もある。それでもこうして出会えた奇跡に感謝して、互いに生きていることを喜べる瞬間があるのだ。そう思わせてくれた存在に感謝して、ネロはようやく、ゆっくりと目を閉じた。
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    conny_cromwell

    MAIKING深く考えずに書き始めたネロ晶ちゃんの小説。
    不定期更新、全10話の予定だけどプロットも何も無いので終わるかどうかも謎です。
    1. ただいま、おかえりついにこの日が来てしまった。厄災の到来。
    本当に酷かった。前の仲間たちが半分持っていかれたのも分からなくはない。しかしここでくたばる訳には行かないのだ。

    皆ボロボロながらも何とか生きている。最後の一撃だと言わんばかりに、オズが賢者さんの手を引いて振りかざした光。雷鳴と共に荒れ狂う空。雨と雪が混ざりながら月に向かい渦を描き舞い上がっていく様を俺たちは血の海に横たわりながら薄れゆく意識の中で眺めていた。

    「……」
    「ネロ、気が付いたかい?」
    「フィガロ……あんた身体は……っ」
    「若い魔法使い達のおかげでなんとか持ちこたえたみたいでね。皮肉なもので簡単には逝かせて貰えなさそうだ」

    フィガロの背中を最後に目前で見た時、ああもう駄目かもと正直思った。あんなにも複雑な思いを互いに抱えたまま、俺たちはこんな風に静かに消えた方がいいのだと二人で笑った瞬間だった。だからあんな形で守られて、自分だけ生きてるなんて烏滸がましいにも程があるのだ。そういう意味で、フィガロが生きていてくれたのは本当に心底ホッとした。
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